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019 若きツバメ
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屋敷の一階一番奥、日当たりのよい部屋が代々夫人となる人の部屋だった。
だから本来は、私がここに嫁入りした時点で私の部屋になるはずだったところ。
そこに未だに、元夫人である義母が居座っているというわけだ。
「アンリエッタ様、こっちです! こっち、こっち!」
義母の部屋の隣のドアを開け、一人の侍女が私たちを手招きした。
私たちは小さくうなずくと、そのまま部屋になだれ込む。
ずっと使用していないと思われるこの部屋はややホコリ臭く、家具には白い布がかけられていた。
そして掃除をするために開けた窓から、隣の部屋の話し声がはっきりと聞こえてくる。
どうやら向こうの部屋も窓を開けているみたいね。
「ねぇ、もう帰ってしまうのぉ?」
んんん? この猫なで声は誰⁉
思わず吹き出しそうになる自分の口を必死に押さえた。
「申し訳ありません、奥様。でもまだこれから劇団の資金集めに向かわないといけなくて」
「そんなのもう少しあとでもいいじゃないのぉ。もう帰ってしまうなんて、わたし寂しいわ」
「ボクもですよ、奥様。だって奥様の隣が一番心地いいんですから」
「まぁ。うれしい」
どこの恋人たち逢引きかと思うくらいの会話が、流れ込んでくる。
しかし相手は義母と誰か、だ。
相手の声は明らかに若い。
もしかすると私よりも若いかもしれないわね。
それにさっき出てきた劇団の資金という言葉。
どうやら相手は、平民の劇団員らしい。
だだそれにしては、置いてあった馬車が豪華だったのはどういうことかしら。
「他の貴族の奥様たちは、ボクたちに無理強いばかりさせるんですよ」
「まぁ。あなたにそんなにひどいことをさせるの?」
「はい……。でも断ったら、劇団の運営から手を引くと脅されていて……」
「それはかわいそうに。貴方はこんなにも頑張っているというのに、ひどい人たちだわ」
開いた口がふさがらないとは、こういうことを言うのね。
相手の顔を見ていないから何とも言えないけど、二人の会話はどこまでも甘く感じる。
やや悲しそうに、それでいて相手のふところに入り込むような若い男の子の声は、遠くで聞いている私でさえ耳障がいい。
さすが役者といった感じね。演技が上手すぎるわ。
これはきっと簡単に落ちるのもうなずける。
「そう言ってくださるのは奥様だけです。だからボクはこうして奥様の膝枕をしてもらってる時間が一番幸せなんですよ」
「本当に貴方は可愛いわねぇ」
「ぶっ」
「だ、ダメですよ、アンリエッタ様。大きな音を立てたら、バレちゃいますよ」
「分かってる、分かってるけど」
そう小さくミーアたちに言葉を返したものの、許されるのならば大声で笑い出したい気分だった。
あんなに私に対して辛辣な姑という存在は、どこに消えてしまったというのかしら。
だいたい膝枕?
若い役者を捕まえて膝枕してるって、普通に考えてどんな状況よ。
こんなこと、あの人……ダミアンは知っているのかしら。
自分の母親が若い役者に入れあげてるだなんて。
あー、でも自分のことがあるから強く言えないのかもしれないわね。
棚に上げて、どの口が言うんだってなるし。
そう考えると、似たモノ親子ね。
やだやだ。
なんで私、こんなとこに嫁いできたのかしら。
ちょっと難があるって言ってはいたけど、これは全然ちょっとじゃないでしょうに。
だから本来は、私がここに嫁入りした時点で私の部屋になるはずだったところ。
そこに未だに、元夫人である義母が居座っているというわけだ。
「アンリエッタ様、こっちです! こっち、こっち!」
義母の部屋の隣のドアを開け、一人の侍女が私たちを手招きした。
私たちは小さくうなずくと、そのまま部屋になだれ込む。
ずっと使用していないと思われるこの部屋はややホコリ臭く、家具には白い布がかけられていた。
そして掃除をするために開けた窓から、隣の部屋の話し声がはっきりと聞こえてくる。
どうやら向こうの部屋も窓を開けているみたいね。
「ねぇ、もう帰ってしまうのぉ?」
んんん? この猫なで声は誰⁉
思わず吹き出しそうになる自分の口を必死に押さえた。
「申し訳ありません、奥様。でもまだこれから劇団の資金集めに向かわないといけなくて」
「そんなのもう少しあとでもいいじゃないのぉ。もう帰ってしまうなんて、わたし寂しいわ」
「ボクもですよ、奥様。だって奥様の隣が一番心地いいんですから」
「まぁ。うれしい」
どこの恋人たち逢引きかと思うくらいの会話が、流れ込んでくる。
しかし相手は義母と誰か、だ。
相手の声は明らかに若い。
もしかすると私よりも若いかもしれないわね。
それにさっき出てきた劇団の資金という言葉。
どうやら相手は、平民の劇団員らしい。
だだそれにしては、置いてあった馬車が豪華だったのはどういうことかしら。
「他の貴族の奥様たちは、ボクたちに無理強いばかりさせるんですよ」
「まぁ。あなたにそんなにひどいことをさせるの?」
「はい……。でも断ったら、劇団の運営から手を引くと脅されていて……」
「それはかわいそうに。貴方はこんなにも頑張っているというのに、ひどい人たちだわ」
開いた口がふさがらないとは、こういうことを言うのね。
相手の顔を見ていないから何とも言えないけど、二人の会話はどこまでも甘く感じる。
やや悲しそうに、それでいて相手のふところに入り込むような若い男の子の声は、遠くで聞いている私でさえ耳障がいい。
さすが役者といった感じね。演技が上手すぎるわ。
これはきっと簡単に落ちるのもうなずける。
「そう言ってくださるのは奥様だけです。だからボクはこうして奥様の膝枕をしてもらってる時間が一番幸せなんですよ」
「本当に貴方は可愛いわねぇ」
「ぶっ」
「だ、ダメですよ、アンリエッタ様。大きな音を立てたら、バレちゃいますよ」
「分かってる、分かってるけど」
そう小さくミーアたちに言葉を返したものの、許されるのならば大声で笑い出したい気分だった。
あんなに私に対して辛辣な姑という存在は、どこに消えてしまったというのかしら。
だいたい膝枕?
若い役者を捕まえて膝枕してるって、普通に考えてどんな状況よ。
こんなこと、あの人……ダミアンは知っているのかしら。
自分の母親が若い役者に入れあげてるだなんて。
あー、でも自分のことがあるから強く言えないのかもしれないわね。
棚に上げて、どの口が言うんだってなるし。
そう考えると、似たモノ親子ね。
やだやだ。
なんで私、こんなとこに嫁いできたのかしら。
ちょっと難があるって言ってはいたけど、これは全然ちょっとじゃないでしょうに。
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