白い結婚にさよならを。死に戻った私はすべてを手に入れる。

美杉日和。(旧美杉。)

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024 胸熱く

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「正体を明かしたついでに、一つお聞きしてもいいですか?」
「あ、ああ」
「なぜ地下に生息するはずの灰色ネズミが、こんな人の多い日中の広場になんて出没するんです。あり得ないですよね、普通なら」

 そう、本当にそれはあり得ない。
 今までだって、あんなの地下でしか見たコトないもの。

 今回は騎士団が駆けつけてくれていて、しかも私があの薬玉を持っていたからどうにかなったけど。

 もしそのどちらもいなかったら、襲われていたのはこの広場にいた人たちだ。

 ああ見えてネズミはかなり狂暴なモンスターであり、爪などでひっかかれでもしたら、傷口から化膿して病気にだってなってしまう。

 子どもなんてさらわれでもしたらと考えれば、ゾッとするわ。

「地下の清掃業者が変わったせいだ」
「ブレイズ団長、いいんですか? ダントレット商会の娘になど教えてしまって」

 近くにいたスラリとした茶色い短髪のやや若い騎士が、止めにはいる。

 へぇ。
 一番先頭にいたから、そうかなとは思っていたけど騎士団長様なのね。

 態度がデカいだけあるわ。

「いや助けてもらったことにはかわりない」
「清掃業者を変えた……。ということは、出来もしない安い清掃業者を雇って、危うく市民に被害が出るところだったってことですよね? いえ、タイミングから考えたらもう他で出たあとってことでしょうか」
「……まぁ、そんなところだ」

「まったく……。うちを外すからですよ。元々、帝都の下水掃除はダントレット商会がずっと引き受けていたではないですか」
「それが値段の問題らしい」
「まぁ、法外なのは認めます。しかし地下にはあんなモンスターばかりで、人件費もかかれば、薬玉などのお金だってかなりかかるんです。だいたい、人命を値段となんて天秤にかけるべきではないですね」
「……」

 どうせ、物価高だとか言って父が値上げを提案したんでしょう。それを役所が拒否して、うちが外された。
 帝都の下水掃除を何年も独占してやってきたから、内情は他の人たちには分からない。

 だからそんなにかかるものでもないだろうって、思ったのだとは思うわ。

 だけど長くやっているというのは、利点もある。
 慣れた清掃員とそうでない清掃員では、一度に出来る掃除の範囲がまったく違うから。

 しかも公には言えないけど、父はこの帝都の地下すべての地図を把握しいる。
 
 どこがどこに繋がっているのか、どうなっているのか。
 灰色ネズミたちの巣の位置まで、ありとあらゆることを。

 まぁ、絶対にバレたら処刑されるレベルなんだけど。

 地下から城を強襲することだって出来るし、勝手に地図なんて作っていいものでもないしね。

 ただあれのおかげで、今まで人災もなく地下からネズミたちを溢れさせることもなくやってきたもの事実。

 一重に悪ともいえないところが、あの人の上手いとこなのよね。

「悪名高いダントレットの言うことなど、誰が信じるんだ」
「まぁ、そうでしょうね」

 やや若い騎士は私を睨みつけていた。
 気持ちは分かるわよ、私だってね。
 でもそういう問題でもないでしょうに。

「ですが、その悪名高いダントレットの娘になど助けられたという事実はどうするんです? 末代までの恥にでもしときます?」
「なんだと!」

 もはや売り言葉に買い言葉だな。
 恨みを買うのはいいけど、それは私個人へのものではないでしょう。

 ダントレットに助けられたのがよほどこの騎士様は嫌なのだろう。
 だけどイライラしているのはこっちも同じなのよ。

「辞めないか、ニカ。言葉が過ぎるぞ」
「……すみません、団長」
「部下が気を悪くさせてすまない。助けてもらったことには感謝している。あとで使用した道具の料金もこちらで払おう」
「……いえ」

 私も言い過ぎたって思うから、いいのに。

 確かに薬玉がなくなったのは困るけど、別にまた実家から盗んでくればいいだけだし。

「地下の清掃を決めた上の者には、ダントレット商会へ戻すように進言しておく」
「……では、もし永劫的にまかせていただけるのなら、一割ほど値引きしますとお伝えください。私も出過ぎた真似をしました。申し訳ございませんでした」

 深々と頭を下げ、私はその場を離れた。
 そしてお目当てだった串焼き屋へと向かう。

 ああ、髪出しちゃってた。
 もしかして売ってくれないかしら。

 前からそういうことはあった。
 嫌がらせではないけど、うちの名前のせいで、入店禁止のところもあるし。

「あ、あの串焼き……」

 店主に声をかけると、今まで見たコトもないような愛想のよい声が返ってくる。

「三本だったね、お嬢ちゃん」
「え、ええ」
「ほら、焼けてるよ」
「ありがとうございます、いくらですか?」
「いや、いいさ。これはお礼だ。あのままあそこでネズミたちが暴れてたら商売どころじゃなかったからな」

 気前のよい店主はそう言いながら、焼きたての串を渡してくれた。

 今ままでこんな風に誰かにお礼なんて言われたこともなかったから、どこまでも胸がいっぱいになる。

「ふふふ。こちらこそ、ありがとう」

 串焼きを手に歩き始めると、他にも広場の商人たちから声をかけられる。

 花に野菜、果物。
 その上、小さな髪飾りまで。

 私はたくさんのお土産をもらい、どこまでも幸せな一日を噛みしめながら屋敷へと帰った。
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