白い結婚にさよならを。死に戻った私はすべてを手に入れる。

美杉日和。(旧美杉。)

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025 深夜の来訪者

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 屋敷へと戻ったその日の夜分遅く。

 時計はすでにてっぺんを超えている頃、部屋の明かりを落とそうとしていたところに、部屋をノックする音が聞こえてくる。

 普段この部屋をノックしてくる人間など、ミーアたちしかいない。

 しかし彼女たちはさきほど自分たちの部屋に下がったばかりで、戻って来るとは思えない。

 誰かしら。寝たフリをするわけにもいかないし困ったわねね。

 ダミアンが来るとは考えられないけど、でも一回目の時よりは彼との距離感は近いような気がする。

 私がオドオドしていないせいもあるのか、少しずつちょっかいをかけてくるようになったのだ。

 私たちはお金での関係とはいえ、一応は夫婦である。

 もしそんな関係を迫られたりしたら……なんて、愛人にしか興味がないあの人に限ってそれないと思うけど。

 私は息を飲んだあと、扉の向こうの主に向かって声をかけた。

「……どうぞ」

 私は若干体に力を入れながら、ベッドの縁から立ち上がる。
 そして何があってもいいように身構えて。

「遅くにごめんなさいね、奥様?」
「あなたは……」

 部屋の前に立っていたのは、薄いドレスを身に纏った夫の愛人だった。

 赤く形の良い唇に、やや赤みがかったピンクの大きな瞳。
 真っ直ぐに手入れされたバイオレットの髪が、キラキラと輝いている。

 豊満な胸と、くびれた腰。
 同性の私から見ても、彼女が美しいのは分かる。

「確か、アンヌ様でよろしかったですか?」
「それはあの方が呼ぶ名よ。アタシはマリアンヌ。これでもモルタ子爵家ししゃくけ令嬢なのよ」
「子爵家令嬢……。それは失礼いたしました」

 私がさも当たり前のように頭を下げると、マリアンヌは心底嫌そうな表情を向けた。

 嫌味なつもりはなかったんだけど、貴族式に言うと、こういうのも嫌味になるのかしら。

 でもこれはどういう展開なのかしら。
 前回では一度だって愛人様の顔を見たことも、会話したこともなかったっていうのに。

 なんでマリアンヌはわざわざ私の部屋に尋ねてきたの?

 全然分からないわ。
 何かが変わったってことなのかしら。

「まったく……貴女も貴女の父親も最悪ね。嫌いだわ」

 マリアンヌはやや動揺する私を気にすることなく、うんざりした顔で吐き捨てた。

 感情をあらわにする辺り、彼女もあまり貴族っぽくはない気がする。
 でも嫌いという言葉は、私にも言えることなのよ。

 一回目の人生ではあなたに熱を上げたダミアンのせいで、捨て置かれて金貨一枚すら出してもらえずに死んだのだから。

 ただ夫を愛してなどいないし、興味すらないから嫌うまでもいかないのが現実ね。

 マリアンヌは大きくため息をついたかと思うと、ずかずかと私の部屋に入ってくる。
 そして勧められたワケでもないのに、そのままソファーへと腰かけた。

「今日はここへなにをなさりにいらしたのですか? まさか私と父を重ねて嫌味を言いに来たわけではないですよね」

 嫌味を言うだけだったら、わざわざこんな人目をさけて深夜になんて来なくたっていいはず。

 だって彼女はあの人の最愛なのだから。

「……アタシのモノになるはずだったのに」

 ややうつむきながら、マリアンヌはぽつりともらした。
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