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8話①
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――9月。夏休みが終わり、2学期が始まった。
学校ではレアキャラ扱いだった瓜生も、休み明けから比較的スムーズに登校できているみたいだ。
それを知っているのは俺が毎日「今日来てる?」ってスマホで聞いているからで。
俺のおかげで登校する気になっている、なんてことだったらいいなと思うけど、それはさすがに希望的観測というものだろう。
ともかく瓜生が来てるので、俺はアザの男を捜すため、なるべくあいつのそばにいるようにしている。
具体的には帰り一緒に学校を出る、ってことくらいだが。
気だるい6時間目の授業中。
三階にある教室の窓から下を見ると、外のプールで授業を受けている瓜生が見えた。
(……お)
プールサイドで体を動かす数十人の中から、よく見つけたなと自分でも驚く。
帽子のせいで髪型はわからないから、ほっそりしたシルエットと長い手足くらいしか手がかりはないのに。
長期入院後、不登校気味だった瓜生がプールの授業を受けるって、それなりに勇気が必要だったんじゃないかと思う。
今どんな気持ちでいるんだろう?
準備運動をする姿を遠目に見ながら考える。
すると英語の教科書を音読する先生の声は、自然と遠のいていってしまった。
騒ぎが起きたのは、そのあと放課後に差しかかった時だった。
「知ってる? 3組で盗難騒ぎだって!」
教室に駆け込んできた他のクラスの女子がウワサする。
3組といえば瓜生のクラスだ。帰り支度をしていた俺は耳をそばだてた。
そういえばホームルーム中から校内の空気がおかしかった。教室の外がザワザワしていて……。
ザワついてたのは3組だったのか。
「えっ、盗難…!? 何がなくなったの?」
「水着だって! キモいよね」
女子たちの会話が聞こえてくる。
つまり女の水着を盗んだヘンタイがいるっていうことか。
何かの間違いであってほしいと願う。こういうのは女子も男子も、みんな嫌な思いしかしないから。
「3組みんな、持ち物検査されてた……」
話していた他クラスの女子が続けた。
「それで、見つかったのか!?」
近くの席にいたフジノが、興味津々の顔で話に加わる。
人懐っこいフジノはこういうことにもすぐ首を突っ込む男だ。
「それが見つかってないみたい」
「だったら犯人は他のクラスか教師か~!? あっ、おいらは違うぞ!?」
「ははは、お前だろ!」
「違うって~!」
「やだ、キモーい!」
「これだから男子は……」
周囲のやつらも好き勝手にしゃべり始めた。
ところが、あとから入ってきた他クラスの男子が教える。
「盗まれたの、男の水着だぞ!? 3組の美少年クン!」
教室が一瞬静まり、そして前以上にうるさくなった。
「3組の美少年って……」
俺は思わず立ち上がる。
俺の知る範囲では、あいつ以外に美少年なんて言われそうなやつはいなかった。
「瓜生じゃね?」
フジノが振り向いて俺に言う。
さっきの男子が「そうそう!」と首を縦に振った。
「マジか……」
困り顔をしている瓜生が浮かぶ。せっかく登校できるようになってきたのに、こんな事件に巻き込まれるなんて気の毒だ。
いや、瓜生ならブチ切れてるかも?
「俺、瓜生のところに行ってくる!」
教室を駆け出そうとすると――。
「あれ? 盗んだの杉乃湯だったり?」
フジノがとんでもないことを言いだした。
みんなが一斉に俺を見る。
「は? なんで俺なんだよ!」
心外過ぎる。俺は瓜生の味方だぞ?
「わりぃ。でもお前、瓜生のことやたら気にしてたじゃん」
そうなの? と女子から声が上がった。
「あのなあ……。だからって、さすがに水着盗むなんてナイだろ……」
「あ。だったら今、目の前に瓜生の脱ぎたてほやほやの水着があったら?」
「えっ…………」
想像してしまって、思わず口ごもってしまった。
でも待ってくれ。俺が興味あるのは中身であって、下着や水着では断じてない!
と、そんなこと言いだしたら余計に話がややこしくなりそうだから言えないが。
「あやしーなー!」
フジノがからかうように言う。
「そういえばこの前のゲイビも、男優が瓜生に似てるって言ったら杉乃湯怒ってたよな~」
オオモリとアラヤが同時にうなずいた。
「ゲイビって何のこと?」
女子たちが騒ぎだす。
フジノめ、これ以上話をややこしくするな……。
そんな俺の祈りもむなしく、空気の読めないフジノが笑って続ける。
「早く返して謝った方がいいぞ?」
「だから俺じゃないってば!」
周囲からどっと笑いが起こった。
わかってる、フジノは冗談で言っている。
でもこの状況じゃ、俺が周りのやつらに疑いの目で見られることは確実で……。
その後俺は生徒指導室に呼び出され、事情聴取を受けることになった――。
学校ではレアキャラ扱いだった瓜生も、休み明けから比較的スムーズに登校できているみたいだ。
それを知っているのは俺が毎日「今日来てる?」ってスマホで聞いているからで。
俺のおかげで登校する気になっている、なんてことだったらいいなと思うけど、それはさすがに希望的観測というものだろう。
ともかく瓜生が来てるので、俺はアザの男を捜すため、なるべくあいつのそばにいるようにしている。
具体的には帰り一緒に学校を出る、ってことくらいだが。
気だるい6時間目の授業中。
三階にある教室の窓から下を見ると、外のプールで授業を受けている瓜生が見えた。
(……お)
プールサイドで体を動かす数十人の中から、よく見つけたなと自分でも驚く。
帽子のせいで髪型はわからないから、ほっそりしたシルエットと長い手足くらいしか手がかりはないのに。
長期入院後、不登校気味だった瓜生がプールの授業を受けるって、それなりに勇気が必要だったんじゃないかと思う。
今どんな気持ちでいるんだろう?
準備運動をする姿を遠目に見ながら考える。
すると英語の教科書を音読する先生の声は、自然と遠のいていってしまった。
騒ぎが起きたのは、そのあと放課後に差しかかった時だった。
「知ってる? 3組で盗難騒ぎだって!」
教室に駆け込んできた他のクラスの女子がウワサする。
3組といえば瓜生のクラスだ。帰り支度をしていた俺は耳をそばだてた。
そういえばホームルーム中から校内の空気がおかしかった。教室の外がザワザワしていて……。
ザワついてたのは3組だったのか。
「えっ、盗難…!? 何がなくなったの?」
「水着だって! キモいよね」
女子たちの会話が聞こえてくる。
つまり女の水着を盗んだヘンタイがいるっていうことか。
何かの間違いであってほしいと願う。こういうのは女子も男子も、みんな嫌な思いしかしないから。
「3組みんな、持ち物検査されてた……」
話していた他クラスの女子が続けた。
「それで、見つかったのか!?」
近くの席にいたフジノが、興味津々の顔で話に加わる。
人懐っこいフジノはこういうことにもすぐ首を突っ込む男だ。
「それが見つかってないみたい」
「だったら犯人は他のクラスか教師か~!? あっ、おいらは違うぞ!?」
「ははは、お前だろ!」
「違うって~!」
「やだ、キモーい!」
「これだから男子は……」
周囲のやつらも好き勝手にしゃべり始めた。
ところが、あとから入ってきた他クラスの男子が教える。
「盗まれたの、男の水着だぞ!? 3組の美少年クン!」
教室が一瞬静まり、そして前以上にうるさくなった。
「3組の美少年って……」
俺は思わず立ち上がる。
俺の知る範囲では、あいつ以外に美少年なんて言われそうなやつはいなかった。
「瓜生じゃね?」
フジノが振り向いて俺に言う。
さっきの男子が「そうそう!」と首を縦に振った。
「マジか……」
困り顔をしている瓜生が浮かぶ。せっかく登校できるようになってきたのに、こんな事件に巻き込まれるなんて気の毒だ。
いや、瓜生ならブチ切れてるかも?
「俺、瓜生のところに行ってくる!」
教室を駆け出そうとすると――。
「あれ? 盗んだの杉乃湯だったり?」
フジノがとんでもないことを言いだした。
みんなが一斉に俺を見る。
「は? なんで俺なんだよ!」
心外過ぎる。俺は瓜生の味方だぞ?
「わりぃ。でもお前、瓜生のことやたら気にしてたじゃん」
そうなの? と女子から声が上がった。
「あのなあ……。だからって、さすがに水着盗むなんてナイだろ……」
「あ。だったら今、目の前に瓜生の脱ぎたてほやほやの水着があったら?」
「えっ…………」
想像してしまって、思わず口ごもってしまった。
でも待ってくれ。俺が興味あるのは中身であって、下着や水着では断じてない!
と、そんなこと言いだしたら余計に話がややこしくなりそうだから言えないが。
「あやしーなー!」
フジノがからかうように言う。
「そういえばこの前のゲイビも、男優が瓜生に似てるって言ったら杉乃湯怒ってたよな~」
オオモリとアラヤが同時にうなずいた。
「ゲイビって何のこと?」
女子たちが騒ぎだす。
フジノめ、これ以上話をややこしくするな……。
そんな俺の祈りもむなしく、空気の読めないフジノが笑って続ける。
「早く返して謝った方がいいぞ?」
「だから俺じゃないってば!」
周囲からどっと笑いが起こった。
わかってる、フジノは冗談で言っている。
でもこの状況じゃ、俺が周りのやつらに疑いの目で見られることは確実で……。
その後俺は生徒指導室に呼び出され、事情聴取を受けることになった――。
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