元アラサー転生令嬢と拗らせた貴公子たち

せいめ

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ヒロインがやって来た

落ち込む私

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 卒業試験に合格した私は、ルーベンス先生に、今までの感謝を伝えた。近いうちに先生とも、お別れがくるのかもという寂しさを感じて、涙が溢れてしまった私。涙を拭いていると、その姿を生徒会副会長に見られてしまった。

 いくら泣いていたからって、こんな空き教室で訳を聞かれていたら、誰かに見られて変な勘違いをされてしまうかも。さっさとこの場を去らないと。よし!得意の?上目遣いで、誤魔化そう。

「あの、イーサン様。実は…その。」

 あれっ?初めてまともに名前を呼んだからか、恥ずかしいのかしら。顔が少し赤くなったような。ふふっ!このまま誤魔化してやるわ。

「…あっ。ああ、話してくれたら嬉しい。」

 優しいから、心配してくれたのね。

「先程、職員室で卒業試験に合格したことを聞いてきたのです。嬉しかったのですが、みんなとお別れはまだしたくないと思ったら、なんだか寂しくなってしまいまして。思わず涙が出てきてしまいました。イーサン様が心配してくださったのに、こんな話で申し訳ありません。」

「ふっ。そうだったのか!私は何かつらい事でもあったのかと勘違いしてしまったようだな。こんな所に連れて来てしまって悪かった。」

「いえ。イーサン様はお優しい方であることを知れて、嬉しかったですわ。」

「しかし、1年生で卒業試験に合格するなんて、君は凄い令嬢だな。おめでとう。」

「ありがとうございます。これは、先生方や友人達のおかげなのです。あっ!友人達にまだ報告してないので、そろそろ戻らせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「ああ。勿論だ。マリーベル嬢、この先、もし何かつらい事があった時は、何でも話してくれたら嬉しい。」

「はい。頼りになる先輩がいてくれて、幸せですわ。それでは失礼致します。」

 そう言って、さっと空き教室を出る私。誰にも見られてないよね。こんな現場を見られて、また変な噂でも立ったら、フィル兄様や義兄が恐ろしいからね。今考えてみると、2人が怒ると怖いのは、ヤンデレの要素があるから?ゾッとしながら、周りをキョロキョロしながら早歩きで、腹黒達の待つ教室に戻る私であった。
 この事がきっかけなのか、生徒会長だけでなく、副会長のイーサン様まで、顔を合わせると気さくに声を掛けてくれるようになる。あまり、関わりたくないのに。でも、普通に話すだけならいい人なんだよね。

 腹黒達は、私が卒業試験に合格した事を報告すると、すごい喜んでくれた。せっかくだから私も受けようかな…と、レジーナやユーリアなど、腹黒数人が言い出す。ミッシェルに合わせて年度末に卒業試験を受ける為に、動こうかと話していた。

 そして、フィル兄様との関係だが、あんな話を聞いてしまったら、警戒してしまう自分がいる。相変わらず優しい人だけど、いつヤンデレが出るのか怖くて仕方がないのだ。ちなみに、義兄も怖くなってしまった。だって死にたくないし、監禁もイヤ、暴力もイヤなの。
 そんな私は精神的に参ってしまい、体調不良で臥せってしまう日が多くなって来た。多分、前世で言う鬱だと思う。それに伴って、スペンサー家に泊まりに行くことも出来なくなった。体調不良だから、家でゆっくり過ごす事が多くなり、あの腹黒達から真面目に心配されてしまう。アンジュ様は学園で会うと、涙を流していた。どうやら、私はかなり体調が悪く見えるようだ。
 夜会や茶会は、体調が良い日で、フィル兄様がエスコート出来る日にだけ参加するようにした。フィル兄様や義兄の過保護が更に酷くなり、それが余計に私の精神状態を悪くしたのであった。しかも悪役令嬢は、離れた所から、こっちをじっと見ている気がする。恐怖以外の何でもない。私、殺されるの?

 体調が悪く、ベッドで過ごす日は、ドレスや下着にポケットをつける作業をしている。いつでも逃げられるように、逃走資金のお金や魔石を入れておく為だ。ついでに魔石で、自分用のネックレスとブレスレット、アンクレットをいくつか作った。おば様の御用達の宝石店のオーナーや職人さんとは、すっかり仲良くなり、すぐに加工してもって来てくれた。この魔石のアクセサリーには、治癒魔法と保護魔法の力をこれでもかと込めておく。いざと言う時に、自分を守ってくれるように普段から身に付けておくようにした。沢山あるので、メイドのアリーと、スペンサー家でお世話になった、メイド長とフィーネにも、メッセージカードと一緒に届けてもらった。もう会えないかも知れないから、感謝の気持ちを伝えておこう。

 そして、フィル兄様が休日に私に会いに来てくれる。この人はヤンデレ疑惑と、元遊び人という過去がなければ、最高の恋人だと思う。とにかく、休日など、時間がある時は必ず会いに来てくれるのだ。

「マリー、今日の具合はどう?天気がいいから、庭に花でも見に行かない?」

「そうですわね。太陽の光を浴びたら元気が出ると思うので、行きましょうか。」

「じゃあ、私が連れて行くよ。」

 フィル兄様は、私をお姫様抱っこしてくれる。体調が悪そうだから、抱っこで連れて行ってくれるようだ。

「マリー。……こんなに軽くなってしまったなんて。」

 フィル兄様が悲痛な表情を見せる。最近、食欲が落ちてしまい、少し痩せてしまったようなのだ。

「フィル兄様、そのうち元気になりますから、大丈夫ですわ。」

 庭にあるガゼボのベンチに2人で座る。フィル兄様は私の腰を抱いて、体を支えてくれる。優しい人なんだよね。

「マリー。実は来週から1ヶ月くらい、騎士団で遠征に行く事になったんだ。正直、マリーと離れたくないし、体も心配だから行きたくはないのだけど、1ヶ月なんてすぐだから、待っていて欲しい。マリーに手紙を書くからね。いい子にしているんだよ。」

 …ああ、ついに来たのね。やはり、アンジュ様の言っていたことは、本当だったようだ。

「マリー?泣いているの?私の方が泣きたいくらいなんだから、マリーは泣かないで。」

 多分、フィル兄様は、私が寂しくて泣いていると思っている。しかし、こんな時でも腹黒でごめんなさい。私は死にたくなくて泣いているの。

「フィル兄様、気を付けて行って来てください。いつ出発なのですか?見送りには、行っても大丈夫でしょうか?」

「見送りに来てくれるの?嬉しい。でも、体調が悪いような時は、無理しないでいいからね。」

 多分、フィル兄様と会うのはその日が最後になるのだろう。ヤンデレだか元遊び人だか知らないが、表面的には私を大切にしてくれた、イケメン従兄妹だ。ちゃんとお別れと感謝の気持ちを伝えに、当日は見送りに行こうか。


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