元アラサー転生令嬢と拗らせた貴公子たち

せいめ

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ヒロインがやって来た

立ち直る私と鋭い人

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 フィル兄様が遠征に出発する当日になった。実はあの後、色々と考えて少し元気になった私。

 あの公爵令嬢は暗殺はしないと言っていた。しかも、フィル兄様が遠征で王都にいない時に、拉致されて他国に連れて行かれそうになると言っていた。ならば、大人しく他国に連れて行ってもらおうかと考えたのだ。ちょっとした国外逃亡だ。
 フィル兄様や、義兄は私が逃げたと知ったら、本気で怒りそうで恐ろしいけど、拐われたとなったら、怒られないよね?しかも、最近の私はアンジュ様が泣くくらい、体調不良で痩せてしまった。拐われた後に体調が悪くて、死んだと考えられてもおかしくないよね。そしたら、探すのも諦めてくれそうだし。
 近隣の国の言語や文化はルーベンス先生のおかげで、分かっているし、魔法も使えるし。他国に入国して、隙を見て、上手く逃げて冒険者にでもなろうかな。ギルドに偽名で登録もしているし、お金も預けてあるしね。フィル兄様や義兄、他の攻略対象者とは関わらずに済むしね。よし!第二の人生を他国でやり直すか。そう考えたら、元気になってきた私。

 フィル兄様とは、今日の見送りで最後だから、可愛くしてもらおう。アリーに、ヘアメイクをお願いすると、涙ぐんでいた。最近は、体調不良で全くおしゃれしてなかったからね。心配かけたのね。
 そういえば、お父様は最近は早く帰って来てくれたし、お母様も私を心配してか、あまり外出しなくなった。皆んなに申し訳なかったわね。

 アリーは、完璧に仕上げてくれた。さすが私のメイドだわね。これなら、見送りに行っても、他の令嬢達から浮かないよね?あまりに、具合が悪そうだと変に目立ちそうだしね。
 しかし、悩みの解決の糸口が見えたら、こんなに元気になるなんて。やはり、病は気からって本当なのね。

 アリーの付き添いで、近衛騎士団の正門に向かう。そこには、近衛騎士の家族や恋人らしき令嬢、また近衛騎士のファンらしい令嬢が沢山いた。あれっ?騎士団関係者だからか、シールド公爵様や王都騎士団長もいるわね。げっ!向こうにいるのは、悪役令嬢?夜会で、公開失恋させられたのに、わざわざ見送りに来るなんて。よっぽどフィル兄様が好きなのね。はぁ。何だかつらいわね。

 出発前に、遠征に参加する近衛騎士達が見送りに来た人の所に挨拶に来る。抱きしめ合う恋人達や、自分の子供を抱きしめる近衛騎士達。自分の好きな近衛騎士に、ハンカチを渡す令嬢もいる。周りの様子を見ていると、私を呼ぶ声が聞こえる。

「マリー。来てくれたんだね。」

 私を見つけ、優しく微笑むフィル兄様がいた。この微笑みを見るのも、今日が最後かもしれないのね。
 フィル兄様は、私を抱きしめ額にキスをする。

「マリー、愛しているよ。すぐに戻るから、待っていてね。」

 あのフィル兄様が、令嬢に愛を囁き抱きしめるなんて、かなり珍しい姿なのだろう。みんなが驚いて、私たちを見ているのが分かる。恐らく、悪役令嬢も見ているだろうね。しかし、フィル兄様は全く気にしないで、私を抱きしめたままでいる。ちょっと恥ずかしいのですが。

「マリー、ずっとこうして抱きしめていたいよ。本当は行きたくないんだ。手紙書くからね。マリーも返事を書いてね。体も無理しないで、大切にして。マリーに何かあったら、私は生きていけないからね。」

 多分、このセリフの前半はアンジュ様が言っていた『溺愛とヤンデレの狭間で』の溺愛の部分だろう。
 そして後半のセリフは、何かあれば私も死ぬからなっていうヤンデレの脅し?
 ヤンデレがなければ、素直にフィル兄様と恋がしたかったかもね。

「泣いてるの?すぐに帰るから、泣かないで。泣き虫で困っちゃうな、マリーは。」

 フィル兄様は、優しく私の頭を撫でる。

「フィル兄様、心配かけてごめんなさい。気をつけて行って来て下さいね。それと、これをお守りとして持って行って下さい。」

 この前作った、魔石のブレスレットを渡す。

「ありがとう。私の宝物がまた一つ増えたね。」

 嬉しそうに笑うフィル兄様。

「フィル兄様、今までありがとうございました。遠征先でも体に気をつけて、頑張ってくださいね。フィル兄様のこと、ずっと忘れませんから。」

「マリー、永遠のお別れじゃないんだから。」

 最後に私の額や頭、頬などに沢山キスして、ギュッと抱きしめた後、フィル兄様は遠征先に出発して行ったのだった。
 これで終わりなのね。ふぅー。ため息が出てくる。どれ帰ろうかと思ったところで、名前を呼ばれる。

「フォーレス侯爵令嬢、ご機嫌よう。」

 この声は!

「シナー公爵令嬢、ご機嫌よう。」

 丁寧にカーテシーをする私。一応、公爵令嬢で身分は高い方だからね。しかし、フィル兄様がいなくなった途端に絡んで来たわね。アンジュ様が話していた通りだわ。

「貴女は、本当にスペンサー卿に愛されているのね。あの方が、あんな風に微笑んでいる顔を初めて見たわ。私にはいくら望んでも、笑顔なんて一度も見せてくれなかったのに。」

 怖すぎて、涙もでないのですが。ビビって何も言えない私。

「貴女はスペンサー卿以外にも、沢山好意を寄せてくれる方がいるじゃないの。スペンサー卿じゃなくてもいいでしょう?他の方も、身分が高くて麗しい方々ばかりだし。」

 いや、スペンサー卿に強引に外堀を埋められてしまっただけなんですが、と言いたいが言えない私。
 私の後ろでは、アリーが殺気立ってきている。

「何も言わないの?何とか言いなさいよ!」

 怖すぎ!このお方は、悪役令嬢の殿堂入りができるわ。

「…私は殺されるのでしょうか?」

 やばい!うっかり、本気で聞きたいことを口にしてしまったわ。

「えっ?貴女は何を言っているの?私が言いたいのは、貴女みたいに沢山の人に愛されていたら、普通なら幸せなはずなのに、どうして貴女は不幸そうにしているのかってことよ!スペンサー卿や義理のお兄様に、何か脅されているの?何であんなにビクビクしているのよ?具合が悪かったのも、何か関係あるのかしら。夜会や茶会も、スペンサー卿が一緒じゃないと参加していなかったようだし。」

 うそー!ビクビクしているのがバレていたの?夜会で私をじっと見ていたから?この人は鋭い人?口調がキツいけど、心配してくれているとか?もういいや!開き直ろう。

「私のこの気持ちは、誰にも理解出来ないと思いますわ。」

「ますます分からないわ。そんな不幸そうにするくらいなら、さっさと他の殿方の所に行けばいいじゃないの!貴女を見ていると、イラついてしょうがないわ。」

 出来るなら、すでにやっているわ!でも下手な事は言えないし。フィル兄様の恐ろしさをこの悪役令嬢は知らないのね。

「シナー公爵令嬢、もう止めろ!」
 
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