元アラサー転生令嬢と拗らせた貴公子たち

せいめ

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南国へ国外逃亡できたよ

閑話 ガザフィー男爵令嬢 4

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 その後のダンスは最悪だった。一曲踊るだけとは聞いていたけど、私達2人だけでみんなの前で踊るなんて知らなかった。元々、得意ではなかったが、緊張して更に酷いダンスになってしまった。何度もオスカー様の足を踏んでしまったが、何も言ってくれない無表情のオスカー様が怖かった。誰から見ても、オスカー様からは愛されてない婚約者だとバレてしまっただろう。

 その後、ダンスパーティーが始まり、ゲスト達もダンスを踊る。すると、噂話をする夫人達の声が聞こえてくる。

『宰相子息とコリンズ伯爵令嬢のダンス、素敵ですわね。』

『本当ね。優雅で品があって、2人とも美しいから、主役みたいね。』

『学園では、2人でよく勉強をなさっているとか!』

『私も聞きましたわ。2人で首席争いをする程、優秀らしいわよ。』

『まあ!お似合いね。』

『媚薬を使ってまで、釣り合いのとれない殿方を陥れるような悪女とは大違いですわ。』

『ふふっ。あの悪女の話ですわね。学生時代から、友人の恋人に手を出すような方だったらしいですわよ。違うことに一生懸命で、ダンスやマナーの勉強はしてこなかったみたいですわね。さっきも、すごいダンスでしたものね。』

 …私の噂をしているの?媚薬って何?

 クスクスと私を見て冷ややかに笑う夫人達。他のグループの夫人達も私を見て、何かを喋っているような気がする。

 侯爵夫人に、ただ立ってないで、ゲストの挨拶回りをして来なさいと言われた私。挨拶に行っても、好意的に私を見てくれる人はいなかった。本当は、オスカー様と2人で行った方がいいのだろうが、オスカー様は私と一緒にいるのを嫌がり、1人で行ってしまったのだ。しかし、あのコリンズ伯爵令嬢の所には、絶対にオスカー様と一緒じゃないと行けないわ。そう思った私は、オスカー様が他のゲストと話し終えるタイミングで、オスカー様の腕に自分の腕を強引に絡めて、コリンズ伯爵令嬢の所に連れて行った。挨拶に行きましょうと言って。オスカー様は無言で表情がなくなっていた。

 そこまでして挨拶に行ったのに、コリンズ伯爵令嬢は、全く気にしていないようであった。一緒にいたベイリー公爵令息は、そんな私を馬鹿にしていた。
 何なのよ!どうしてアンタはそんなに楽しそうなのよ!私は自分が上手く行かないことに対しての怒りを、彼女にぶつけてしまった。八つ当たりだと思う。
 気づくと、近くの飲み物をコリンズ伯爵令嬢にかけてしまていた。しかし……、保護魔法で飲み物は、私に跳ね返ってかかってしまった。高度な保護魔法を、彼女は使いこなしているなんて知らなかった。

 そこからは地獄だった。オスカー様には、今にも殺されそうな目で見られ、彼女の義兄のコリンズ卿には、みんなの前で悪女とか、アバズレ呼ばわりされ…、気付くとオスカー様に控室に連れて行かれていた。

『次にリアにあんな態度をとったら、この家から追い出す。ついでに実家の男爵家も潰すからな。分かったらこの部屋から出てくるな。お前の顔を見ているだけで、私は気分が悪くなって狂いそうだ!ああ、そういえば…、お前の家族は嫌な噂を聞いたらしくて、顔色を悪くしていたぞ。コリンズ伯爵家は男爵家の取引先らしいからな。家族を不幸にしたくないなら、考えて行動することだな。』

 これ以上にないほど、冷たい表情だった。

 嫌な噂って何なのよ?噂を教えてくれたり、噂話を払拭してくれそうな友人は、私にはいないのに。

 望んだ婚約だったはずなのに、なんて不幸な婚約パーティーなんだろう。

 全てが嫌になる……。


 今更だけど、コリンズ伯爵令嬢は、本当にオスカー様を愛していたのだろうか?恋人って言っても、オスカー様だけが彼女を愛していただけの関係?
 私がいくら彼女を煽っても、全く余裕そうだし、気にもしていない。

 後日、茶会で会った時に、私に感謝しているって言ってたけど、何なの?
 私1人だけが彼女を意識して、馬鹿みたい…。
 
 しかし私には、更なる不幸がこの後に待っていたのである。

 私の知らない所で、侯爵家を陥れた悪女と噂され、実家の男爵家が沢山の取引先を失い、嘲笑われ、兄が婚約間近の恋人に捨てられていたことを知ったのは、生まれてきた赤ちゃんが、オスカー様の子供ではなかったことが発覚して、離縁された後だった。

 今更だけど、彼は本当に避妊薬を服用していたのだろう。だからお腹の赤ちゃんが、自分の子供ではないと知っていたに違いない。私が王太子殿下に余計な事を話したばかりに、後に引けないから、一応結婚という形にしたんだろう。
 ははっ!何も知らずに、子供が生まれれば彼も変わってくれるなんて、甘い期待をしていた私がバカみたい!

 オスカー様も、彼のお母様の侯爵夫人も、陣痛で苦しんでいても、産後に疲れてボロボロになっていても、全く見舞ってくれることはなかった。生まれた赤ちゃんの顔を見に来ることも、抱っこしてくれることもなく、出産後に初めて顔を合わせたのは、神殿の神官が侯爵家に来た時であった。
 赤ちゃんを抱っこして、神官がいる部屋に案内された私。私には何の説明もなく、ただ赤ちゃんとオスカー様が手を水晶にかざしている姿を見ていた。水晶が全く違う2色の光を放つ。

「…残念ですが、親子関係は認められません。」

 神官は気不味そうにそう伝えて、帰っていった。

 オスカー様も、侯爵夫人も納得していたように見えた。2人は一言も私に話しかけることもせずに、部屋を出て行ってしまった。文句一つ言う価値のない人間って事だろう。
 そこにメイド長がやってくる。

「ガザフィー男爵家にお送り致します。私物は後日お届け致しますので、このままお帰り下さい。」

 実家に到着すると、何も知らされてない両親は赤ちゃんを見て、可愛いだとか言って喜んでいた。産後に里帰りしたと思ったようだった。

「レーネ!色々と酷い噂に苦しめられて、大変かも知れないが、こんなに可愛い跡取りを産んだんだ。きっと侯爵家ではレーネを認めてくれるだろう。もう大丈夫だ!」

 父のその言葉に、今更だが心が痛んだ。しかし、その後に、御者から渡された手紙を読んだ父の顔は恐ろしかった。


 侯爵家に多額の慰謝料を請求されて、男爵家は傾きかけていた。家族にはゴミを見るような目で見られ、実家にも居場所がない私は、修道院に行くことになった。
 少しの荷物と、誰の子か分からない赤ちゃんを連れて…。

 
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