駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……

猫缶@睦月

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3.帝政エリクシア偵察録

25.西領

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 北都から真っ直ぐ西を目指した僕は、そのままエリクシア西部を横断して、比較的大きな町『キルキヤ』の手前で休憩します。上空からみた『キルキヤ』はごく普通の大きめな都市で、天空に向って聳え立つような教会など、高層建築も見受けられます。
 西部属領は、一昨年前にエリクシアに征服された領土です。『キルキヤ』は元々のエリクシア領ですが、西部属領に隣接している為に多くの難民が流入しているようです。
 街壁の周りに堀や川などがありますが、周囲には他の領と異なり難民らしき姿も多く見え、門に居る衛士も難民を街中に入れようとはしません。街の北西に、ささやかではありますが石造りの廃墟に近い場所に住んでいるのは奴隷階級なのでしょうけど、難民は彼らよりも粗末な服を身に付け、やせているように感じます。

「さすがにこれだけ警戒されていると、町へ入っての食料の調達は難しいですね」

 今は食料は、エリーゼさん達に頂いた物がありますが、安全に購入できる町を探さないといけませんね。 
 まずは、今日の宿泊場所を決めないといけません。宿泊できそうな安全な場所を探します。あちこちに難民らしき人の反応があり、魔物や魔獣から身を守れる安全な場所が少ないのです。
 もう1つの問題が、街の人々や街道を行く人達の胸に揺れる菱形に十字の紋章です。難民達の胸にも粗末な木で自作されたような不恰好な紋章も見えます。
 しかも、ルキウス教会がかなり幅を利かせているようですね。難民ですら手製の印すら作るくらいですから、異教徒・異端狩りは過酷だと思われます。だとすれば、密告なども考えられますので、難民達からも離れないとなりません。食料を持っているとわかれば、襲撃されないとはいえませんしね。
 上空からみて湖に浮かぶ小さな無人島が見つかりましたので、そこにFC1を駐機させます。

「北領とはだいぶ違うようだね」

 僕はアレキに話しかけながら機体から降りると、大きく伸びをして身体を伸ばしました。傍らではアレキも同じように身体を伸ばしています。
 周囲を見渡して、火を使っても岸から見えないことを確認すると、夕食にしましょう。アレキにも猫餌をあげますが、これからは少し量を減らさないといけませんね。機体の中ばかりで運動量が落ちています。まぁ、これはアレキばかりではありませんが……
 アレキのお腹のお肉をムニっとつまみます。むぅ、まだまだたっぷりと付いてますね。

「お主だって、最近は増量してるのじゃないのか? わき腹にお肉が付いてきておるぞ」

 なっ、なんて事を言うんですか。そんな事はありませんよ!! とはいえ、運動不足なのは自覚していますので、朝連だけじゃなく夕方も練習しないといけませんね。
 いつも通りの野営の準備に魔法の展開を忘れずにっと。僕はふと気になって、かなりの広範囲で狼などの野獣や魔獣・魔物の探知をして見ます。結果をみると狼を含む肉食の野生動物は、周囲に殆ど居ませんが、その分ネズミなどの小動物が増えていますね。大型の肉食獣である狼や鷹なども減り、天敵が減少しているが影響しているのでしょう。魔獣や魔物はそこそこ居るようですね。安全な街壁の中に居る人は未だ良いのですが、中に入れない難民は夜は眠る事ができるのでしょうか……

 翌日も目が覚めると西を目指して飛行を続け、本格的にエリクシア西部属領『ボントヤス』と呼ばれる地域に入りました。
 街道から外れている所為でしょうか、遺棄されたように見える小さな村が多いように見えます。上空から周囲に人気ひとけが無い事を確認して、村の1つに近づいた処、何か蠢く物があることに気づきます。

「ん? 何か動いたよね。アレキなんだと思う?」

 僕の声に、アレキは風防にぺたりと顔をつけ下を見ていましたが、興味なさげに言いました。

「ふむ、あれはアンデットの一種じゃろ。グールじゃな。」

「うえ~、気持ち悪そう」

 顔をしかめた僕を見て、アレキも言います。

「人間の美意識は分からんが、我々をかわいいなどというのならば、あれは気持ち悪かろうの」

 以前イリスさんと話した事もありましたよね。確かにアンデットの姿をみると、こんなの使役したくないですね。

 「あれ? 今昼間なのに、アンデットって活動できるんでしたっけ?」

 僕の疑問に、アレキが答えてくれました。アレキ曰く、あのグールは元は人間らしいですね。食べ物がなく死体を食べて生きていた人の脳が、細菌などにやられて、怪物化したものだそうです。未だ死んでないから昼間でも動けるし、夜になればゾンビやスケルトンも現われるだろうとのこと。
 いやいやいやいや、気持ち悪いもののオンパレードじゃないですか。勘弁して下さいよ。ネズミが群がって黒だかりになっているモノもあります。あんなの刀で斬ったら手入れが大変そうですよ。

 うぅ、見てるだけで精神的ダメージが蓄積されていきそうです。辺境だからこうなんですかね。
 そのまま小さな街道伝いに飛行すると、小さな町が見えてきました。町の住人の探査結果は赤ばかり……僕の敵ということですか。町の半分はもう魔物の手に落ちていますね。地上はグールで埋め尽くされています。
 この町は地下に下水道もあるようですが、そこにはやせ細った小さな身体のゴブリンの姿が見えますね。中にはお腹だけ膨れた日本で言う餓鬼に近いものもいるようです。
 町の人間はゴブリンやグール相手に戦っているのかというと、決してそうではありません。封鎖され畑も手入れしない状態では、食料はそこを付いているのでしょう。グールが死肉をあさるのと同じ状況が、生きている人々の中でも行われています。
 既に人間もグールも変わらなくなっています。西領の辺境は既に魔物に落ちたと見ていい様ですね。

 大きな街は、未だ人の手の側にあるようですが、街だけあっても駄目なんですよね。街は消費地であって、生産地ではありません。特に生きるのに必要な食糧に関しては。
 街を支える農村があってこそ、初めて街として機能するのです。現在はざっと見て、街を支える農村は半数以下になっていて、農村部も働き手である男手が失われているのが大半です。
 短期間で戦争が終了し、最前線だった地方に大多数の兵が集中している為、後背の所領が魔物に蹂躙されて居る状況なのに、教会のアレキサンドリアへの聖戦を認めている、国王の思考回路が僕には全くわかりません。

 そのまま飛行を続けると、丘の上に立派な建物が見える町の上空で、僕はある事に気づきました。丘の上の建物はどうやら教会のようですね。建物の作りが、以前見たササクの教会に似ています。
 ということは、これがルキウス教の教会なのでしょうね。そして、教会の前には多くの人々が列をなしています。アレキサンドリアとの聖戦に参加する人々なのでしょうか?
 しかし人々の中には武装していない人々も見られます。敬虔な信者なのでしょうか? 上空から観察していると、並んでいる信者の方々は、教会の神父?神官?の方に、袋に入った何かを渡しています。袋の中身は、おそらく金貨なのでしょうね。それを衝立の後ろで中身を確認して、それに合わせて菱形に十字の紋章の印が渡されますが、どうやら金額によって十字の交差部についている石の色が異なるようです。
 そういえば教会までの道にも、この町の周囲にも、ルキウス教の印が随所に設置してあります。町から教会への道は、5mおきに印が道の左右に設置してあり、グールはその近くによって来ません。

「ルキウス教の印は、グール避けの効能でもあるのでしょうか?」

 僕の言葉に、僕の太ももの上に居場所を変えていたアレキが、身体を延ばして風防から外を見て言います。

「違うようじゃな。印ではなく、あの色の付いた石、魔石に魔法が込められておるようじゃの。そして石の色によって有効範囲が異なるようじゃ」

「えっ、そうなの? 魔石ってそんなに簡単に手に入るものじゃないけど、それがあればグール避けになるなら、僕も欲しいかもしれない。」

 僕の言葉に、アレキが止めておけと答えます。僕が理由を聞くと、自分であの印を解析してみろといいます。

「《状態表示Open Status》目標、赤い石の印」

 僕の呪文で、視界の中ではありませんが、情報が表示されます。感覚的には目で見えている範囲の上、黒く感じる部分に文字情報で表示されている感じです。
 幾つか魔法効果が付いていますね。

・グール避け :効果 特定のグールが装備者を避けるようになる。有効範囲5m
・位階の証明 :効果 ルキウス教の下位の階層の印を持つものからの敵対心などを防ぐ。
        対象 黄以下
・偽りの浄化 :効果 特定のアンデット系のを攻撃した場合、浄化に見せかけてアンデットを転移させることが出来る
・甘美な拘束 :効果 装備者に安心感を与える(呪縛)、装備を解除したときの不安の増加

「えっ? アンデットやグールへの効果についている特定ってなに? それに最後のって呪いじゃない?!」

 僕は思わず声をあげました。

「そうじゃろうの。特定のグールなりアンデットは奴らを解析すれば判るが?」

 アレキの言葉に僕はブンブンと顔を振ります。アンデットのステータスなんて見たくないって、気持ち悪そうだし。それに人間だったときのステータスとか残ってたらやりきれないでしょ。
 僕の様子を見てアレキが溜め息を着きながら言いますが、猫の溜め息って、現実的でないシュールだね。

「ようは自作自演じゃろ。恐らく異端として囲った魔法使いに、教会の印に反応するグールやアンデットを作らせたのじゃろ。印をつけた騎士や冒険者は、印の効果で簡単にアンデット共を容易く倒せる。倒されたアンデッドは別な場所に現われる。これによって、アンデットは無限に沸くように見えるしの。印の効果も、攻撃の度に薄れていく事になるから、また喜捨をしなければいけなくなる。教会の権威付けと、喜捨の恒常化がこれで出来る事になるな。
 そして印を着けている事によって得られる安心は、麻薬の様に一定の効果を持つ印を離す事ができなくなる。

 この界隈に存在している殆どのアンデット系は、そういった『作られし者』じゃから効果は高いがの。残念ながら、普通のゴブリンやオーガ、オークには効果はないが、『作られし者』共はゴブリンや他の魔物を狩るように作られておる。夜間にはそこかしこで『作られし者』と天然のモンスターとが争っているのじゃろうの」

「じゃあ、町や道にあるあの印も?」

 僕の言葉にアレキは肯きます。

「同じようなものじゃが、実際に聖属性の効果もあるから、魔物もよってはこれんじゃろ。但し、徐々に魔力が減っていくから、喜捨による更新が必要じゃろう」

 このアンデット系の氾濫は、ルキウス教による自作自演マッチポンプなんですか! あざとい、あざとすぎるよ、ルキウス教!!

「あの教会に並んでいた人達のうち、武器を持った人たちがアレキサンドリアとの戦いに行く人達なのかな?」

 僕の疑問に、アレキがさぁなと答えます。確かに、元々傭兵や騎士、戦士であれば戦いの場で立身出世を考えるのでしょうが、平民や農民だった人が自衛で武器を握ってる場合は違うでしょうね。

「じゃが、何度もこの地でアンデッド共を倒しておれば、変な自信をつけて戦に赴くものもおるじゃろうの」

 アレキ言葉に僕も納得します。印の効果とはいえ、何度も敵を倒していれば自信はつきますし、ルキウス神への信仰心も上がるでしょう。
 そうなれば、やがて教会の勧めに従って戦に赴く人も増えるかも知れませんね。

 街道を見ると、徒歩で集団を組んで東に向う武装した人達が、上空からも見受けられるようになりました。彼らは途中途中でアンデッドを倒し、賞金を貰いながら東へと向うのでしょう。一部の領主の館からも、貴族当人かその後継者である嫡子や、武勲を上げて他家への入り婿などを狙う次男や三男が、騎兵や輜重隊と一緒に東へ向う姿も日々多くなっていったのです。
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