駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……

猫缶@睦月

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4.アレキサンドライトの輝き

19.フォレスト・フォートの街

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  エリクシア帝暦704年、アレキサンドリア都市歴158年の3月、僕達アレキサンドライトの6人は、帝政エリクシア北部属領シャバリア・メタッセ地方の街『フォレスト・フォート』に居ました。

 『フォレスト・フォート』の街は、西にピャ・ジョキと呼ばれる深い渓谷と同名の川を隔てて、つり橋で対岸の西部属領の森林地帯とつながる領境の街です。
 この街は、西部属領制圧戦の最中は、セロ・アスル国の逆侵攻部隊との防衛戦の要となり、西部属領制圧後も、森林地帯に潜む抵抗組織『ヴァリアント・ゲレーロ』との小競り合いも多かった為、北部属領の他の街とは雰囲気が異なっていますね。

「やはり大国というだけあって、同じ国でも気候も植生も違いますね。春とはいえ、まだまだこの地は肌寒く感じます」

 3月のやや冷たさを含む風に、濡れ烏色の黒髪をなびかせながらユイが呟いています。アレキサンドリアはここよりも南方にありますから、上層街でも春めいた気候になっていましたもんね。さすがに平地とはいえ、北国は冷えています。

「やはり、外套を着ていたとはいえ、子供が多いのは判ってしまいますわね。わたくし達が活動する上である程度目立ってしまうのは仕方ありませんわね」

 部屋の窓から、通りを見下ろしていたイリスさんが、街の喧騒を見ながら呟きます。通りの所々で興味深そうにこちらを見上げる人々の姿は、隣に立っている僕にも良く見えています。

「ええ、大剣を背負ったエマさんは、外套ではなくフードを被っていただけでしたから、子供連れの女性剣士一行だと、噂が立っているようですね。あまり不穏な会話は無く、興味本位の噂が多いようですけど」

 隣の窓から差し出されたユイの右手人差し指には、雀に似た緑色の羽を持つ『風在鬼』が止っており、小首を傾げるような可愛い仕草をしていますが、見た目とは違い既に周囲の人々の噂話などの情報を取得する有能な式ですからね。
 街に着いた僕達が、ハンターギルドで情報収集をした後で、待ち合わせのこの宿に入るまでは、人々の視線が痛かったですからね。部屋に着くなりユイの飛ばした『風在鬼』が、周囲の人々の話す情報を集めてきて、ユイに報告済みのようです。

「しかた無いですわね。死領と化した西部属領への再入植の為の先遣部隊が、クラウディウス公爵家より使わされるのは大々的に公表されておりますもの。
 エリーゼさんの話でも、入植者として参加したいっていう平民の希望者が殺到しているって話でしょう?
 その他にも、入植者や兵が入る前に、見捨てられた街や村から貴重品を奪おうなんて考えている不埒な人達もいるでしょうからね」

「はぁ、『黒死病』にかかるかも知れないという恐怖ですら、目先の金銭や貴重品の魅力には逆らえないんですかね……」

 100%黒死病になるわけでもないからといっても、賭けの対象が自分自身の命では、僕ならごめんですけどね。そんな僕の考えが顔に出ていたのか、イリスさんが僕をみて笑います。

「親からの相続が期待できない次男以下の男子には、貴族であろうと平民であろうと冒険者になるか小作農と呼ばれる奴隷になるかの選択しかないですもの。
 貴族の子女なら、他家との婚姻にかけることもできるけど、才も容姿も平凡ではその目はないですものね。
 同じ命がけなら、一度の勝負で一攫千金とは言わないけど、地主や領主になれるチャンスは逃したくないでしょうね。欲を出せば掛け金としての命が没収されるのは、平民も貴族も同じですし」

 アイオライトの一般の国では、親の財産や権利を告ぐ事が出来るのは長男だけなんですよね。男子がいない場合には、長女がその権利を継ぐことが出来る国もありますが、一般的には少ないようです。
 長男よりも自分のほうが才があると思う、次男以下の子女によるお家騒動的な事柄は、貴族家ではありふれているようですし、平民でも富裕な家になれば、子供同士での争いも有るようです。
 争いを嫌って家を出てハンター(冒険者)になる長子が、それなりに存在するのもその辺に理由があるようです。いやな考えを頭を振って思考から追い出しながら、僕はイリスさんに質問します。

「仕方ないですね。それで、クラウディウス公爵家からは誰がこちらにやって来るんです? まさか、エリーゼさんと言う訳にはいかないでしょう?」

 かなり露骨な話題転換ですが、イリスさんは特に何も言わずに答えてくれます。

「どうやらフローラ嬢が、こちらにお見えになるようですわね。エリーゼ嬢はとりあえず『ウナ・コリナ』までの街道が整備された後に、お見えになるようよ」

 イリスさんの話しにでた『ウナ・コリナ』は、西部属領併合前は、『セロ・アスル』という国の首都でした。そして、今回の依頼のゴール地点でもあります。当初の僕達の作業分担は、最初の街までだったのですが、20km程度では短すぎると、何故かイリスさんやユイ、ユーリアちゃんからあがり、結局元の首都、旧領都までとなったのです。

 『セロ・アスル』は平原地帯一体を治める、豊かな農業国でした。しかし、この街『フォレスト・フォート』から侵入した西征軍第3軍の電撃作戦により首都が陥落してしまい、王家は絶えてしまった国です。
 確か、抵抗組織『ヴァリアント・ゲレーロ』が拠点にしている街の領主には、当時の王妹が嫁いでいたと記録されていますね。

「では、フローラ嬢がお見えになったら、明日の出発時刻を確認すればよいのですね?」

 ユイが無難に話を纏めます。ユーリアちゃんは部屋の中で妖精さんとアレキとで戯れていますね。エルフ族のユーリアちゃんは街中で目立つのはまずいので、丁度良いでしょう。

「ん。手順は変わらないけど、明日からはアレキとユーリアちゃんにユイのターンですからね。僕達は今回はお仕事なしかなぁ。あっ、ユイが疲れたら言ってね。無理して寝込むと困るし」

 今回、街道の両脇の草地の焼却とペパーミントの繁殖制限に地中に設ける仕切りは、ユイの『炎在鬼』と『地在鬼』を2体ずつ使います。計4体の式を制御するので、ユイの負担はいつもより増える事になります。

 アレキには、先頭でネズミ避けをお願いして、ユーリアちゃんには植えたペパーミントの成長を促す、エルフの固有魔法をお願いしています。こちらは歌に魔力をのせるだけですので、消耗は殆ど無いということです。

 僕は周辺警戒で、エマとジェシーが護衛、イリスさんが回復役での移動となりますが、今回はフローラ嬢の他に、護衛の兵士と拠点防衛の為の兵士も付き従いますし、実際の作業の確認も含めて、一部の聖職者や魔法使いも同行します。
 彼らだけで同じ事を行ってもらう為に、式や魔歌の使用も見せなければいけないので、僕達だけでちゃっちゃと進むわけにもいきません。最初の街『ラモ・デ・シダーデ』は、『フォレスト・フォート』から20kmの距離となりますが、街道の安全を確保する為の拠点として整備する必要があります。

 フローラ嬢は、道中で政治判断が必要になった場合、クラウディウス公爵家との代理として判断していただく予定です。難しい問題の場合は、その場で決済できずに持ち越しとなるのは仕方ないでしょうね。

「でも、今日はどうしようか。折角ここまで来たけど、変に注目浴びそうで、街の中を歩く事ができそうもないね」

 辺に出歩いて、問題を起こすのも考えものなんですよね。

「そうですわね。今は移民の希望者や、どさくさ紛れにあちらに渡りたい人達ばかりが多いから、おとなしくしてましょう。お勧めがあれば、フローラ嬢にきいて一緒に出かければよいでしょう」

 そう決まると、僕達はそれぞれ情報収集に努めます。といっても、僕とユイがメインですけどね。今回はクラウディウス公爵家のある『トラキヤ』を経由していないので、それなりに移動時間もかかっています。フローラ嬢がこちらにくるまでに、少し休んでおく事にしておきましょう。
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