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第37話 恋に落ちる。
しおりを挟む【静香視点】
お茶会終了後――静かな廊下にて。
伊集院家の名誉を守り切ったお茶会が終わり、屋敷は一息つける落ち着きを取り戻していた。
私は、雷丸君と廊下を歩きながら、ふと口を開いた。
「……ありがとう、雷丸君。お茶会での名誉を守ってくれて……。」
普段あまり言葉にしない感謝を口にすると、雷丸君は予想通り、満面の笑みを浮かべた。
「勿論です!俺、静香さんの力になりたいんで!」
彼は得意げに胸を張って言い放つ。
その言葉を聞き、私はふと気になった。
これまで何度も彼が私に向けてくる「好意」の理由が、どうしても掴めなかったからだ。
私は少し足を止め、彼に問いかけた。
「……雷丸君。」
「はい!」
「なんで、そんなに私に執着するの?」
雷丸君は、キョトンとした顔をした後、急に照れるでもなく、迷うでもなく、いつもの調子で即答した。
「何度も言ってるじゃないですか!静香さんが好きだからです!」
その言葉には、ためらいも、飾り気も一切なかった。
彼の顔には、まるで子供のような真っ直ぐな笑みが浮かんでいる。
「……本当に、それだけ?」
私は思わず聞き返した。
私がどれだけ気を張り、名家の当主として多くの人間を見てきたか――彼には到底わかるまい。
それゆえに、彼の言葉の軽さを疑ってしまう。
だが、雷丸君は胸を叩きながら、さらに堂々と言い放つ。
「静香さんは、俺が見てきた誰よりも素敵な人だからです!俺、異世界帰りだから色んな人に会ったけど、静香さんみたいな人はいなかった!」
私はその言葉に、どこか戸惑いを覚えた。
本気なのだろうか?それともただの戯言なのか。
だが、彼の瞳に宿る輝きは嘘をついているようには見えない。
私は目をそらしながら、静かに言葉を返した。
「……変な人ね。」
それでも彼は、まったく意に介さず、嬉しそうに笑う。
「変でも何でもいいです!俺、静香さんにもっと頼られる男になりますから!」
その言葉に、私はつい小さく笑ってしまった。
彼の子供のような純粋さが、どうしようもなく場の空気を和ませてしまう。
しかし、そのままでは終わらなかった。
私は彼の熱意に少し困惑しながら、軽く言ってみることにした。
「ねぇ、雷丸君。貴方がそう言ってくれるのは嬉しいけど……貴方、高校生でしょう?他にもっと若くて可愛い子、いっぱいいるじゃない。そっちに目を向けて、貴方のハーレムを拡大させたら?」
軽い冗談のつもりだった。
でも、彼は真顔で即答してきた。
「いや、静香さんがいいんだよ!!」
その言葉の力強さに、思わず息を飲んだ。
そして、雷丸君は勢いよく話し始めた。
「静香さんは、綺麗だし、仕事に一生懸命だし、家族を大事にしてるし、俺が困ったときもなんだかんだで助けてくれるし……それに、誰よりもカッコいいんだ!」
次々と溢れ出てくる彼の言葉に、私は一瞬だけ言葉を失った。
「だって、静香さんって最強じゃん!そんな静香さんを俺が守りたいって思うのは、当然だろ?」
その時、私は気づいてしまった。
自分の心臓が、さっきよりも速く脈を打っていることに――。
「……あ、まずい。」
私は内心でそう呟いた。
雷丸君の犬っぽい、可愛い一面ばかり見ていたはずなのに。
いつの間にか、その真剣で男らしい一面に、心を揺さぶられている自分がいた。
胸の奥がドキドキと高鳴る。
この感覚――まさか、私がこの男に、そんな感情を抱くなんて。
「静香さん?」
彼の声で我に返る。
いつものように無邪気な笑みを浮かべる雷丸君。
私はなんとか平静を装い、そっけなく言った。
「……本当に仕方ない人ね。」
それでも、自分の声が少し震えているのを感じてしまった。
それが、私の中に生まれた感情の証拠だと気づきながら――。
――――――――――――
【麗華視点】
最近、お母さんが飯田君に妙に甘い。
それが気になり始めたのは、つい最近のこと。
お母さんの書斎に飯田君が入るようになってからだ。
最初は「飯田君なんか入れて大丈夫なの?」と思っていたけれど、あれよあれよという間に、お母さんは飯田君を普通に書斎に招き入れるようになった。
むしろ、呼びつけているくらいだ。
そして、お母さんの態度。
これがどうにも怪しい。
「静香さん、お茶淹れました!」
「ありがとう、雷丸君。」
「静香さん!肩揉みしましょうか?」
「……いいわね。お願いするわ。」
お母さんが飯田君に肩を揉ませるだなんて!
昔から誰にもそんなことをさせなかったお母さんが……!
そして、何よりも決定的だったのは、先日のお茶会のあと。
飯田君がふざけた調子で「俺、静香さんのためにもっと頑張ります!」なんて言った時、普段なら冷たくいなすはずのお母さんが、微笑みながら「期待しているわ」と言ったのだ。
「……まさか。」
私は頭の中でぐるぐると考える。
もしかして、お母さん……飯田君のことを――!?
そんなバカな。
お母さんは伊集院家の当主で、完璧な人。
恋愛なんて考えたこともない、そんな鉄壁の女性だと思っていたのに。
でも、最近のお母さんは明らかに変わっている。
飯田君と話している時だけ、なんとなく柔らかい雰囲気になる。
それに……たまに、少し顔が赤い時があるのだ。
「ま、まさか……そんな……!」
私は慌てて首を振る。
いやいや、冷静になれ、麗華。
あの飯田雷丸よ? あの異世界帰りのハーレムバカをお母さんが――?
……いや、でも……。
お母さん、最近よく笑う。
以前よりも、楽しそうに見える。
飯田君が来る前のお母さんは、仕事のことばかりで、こんなに笑うことは少なかった気がする。
もしかして――本当に、飯田君が原因?
「そんなこと、絶対にない!」
自分にそう言い聞かせながら、私は胸の奥にモヤモヤとした違和感を抱え込んでしまう。
もし、本当にお母さんが飯田君に恋をしていたら……。
「……お母さんの見る目、大丈夫なの?」
頭を抱える私。
伊集院家の未来が、少し不安になってきた。
――――――――――――――
【雷丸視点】
ある日、静香さんが俺たちを誘って食事をすることになった。
「――――――お茶会のお礼よ。」
静香さんがそう言って、俺と焔華、雪華、そして貴音を連れて高級料亭にやって来た。
テーブルには豪華な料理が並び、雰囲気も最高だ。
俺は内心大興奮だった。
だって静香さんと一緒に食事できるなんて、それだけで特別だろ!?しかも今回はお礼だってよ!
静香さんの横には麗華が座っている。
麗華は普段通り冷静だけど、なんだか今日は少し緊張しているみたいだ。
席に着いた俺たちに、静香さんが静かに口を開く。
「まず、ありがとう、雷丸君。貴方のお陰で今回のお茶会は無事に終わったわ。」
その一言が、俺の心に直撃した。
「えっ!? まじで!? 俺、静香さんに感謝されちゃうの!?」
思わず声に出しそうになったが、ここはグッとこらえた。
いやいや、俺は伊集院家の名誉を守った男だ。
ここでテンション爆上げしては王の威厳が……
……いや無理だ!心の中ではガッツポーズが止まらねぇ!
麗華は額に手を当てて、呆れたような声を出す。
「お母さん、なんでそんなことを言うの……調子に乗るに決まってるじゃない……。」
そう、その通りだ!
俺のテンションはついに臨界点を突破する!
「ははっ! 俺、静香さんに感謝されちゃったぜ! やっぱ俺って最高だな!」
麗華が溜息をつきながら呟く。
「ほら、案の定でしょ……。」
でもそんな周囲の反応なんて気にしない。
だって静香さんに「ありがとう」って言われたんだぞ!?これ、もう俺の人生でトップ5に入るくらいの幸せだろ!
静香さんは俺のテンションを見て、少しだけ苦笑している。その姿すら美しい……俺、今日死んでもいいかもしれない。
静香さんは場の空気を整えるように、少し声を落ち着けて言った。
「……まぁ、何にせよ、今日はゆっくり楽しんでいって。私が全て奢るわ。」
その一言で場のテンションはさらに爆発した!
「やったーー! 静香さん最高!!」
貴音が勢いよくガッツポーズを決める。
「お兄ちゃんがこんなに役に立つなんて……!すごい、すごいよ!」
焔華は手を叩いて大笑いする。
「くっくっく! これ、わしらの勝利の宴じゃな!」
雪華は控えめに笑いながらも、目を輝かせている。
「雷丸様、本当に素晴らしいです。おかげでこんなご馳走を……感謝します。」
みんなのテンションが最高潮の中、俺は自信満々に拳を突き上げた。
「よし!これからも俺が静香さんと伊集院家を守るぜ!今日の宴はその第一歩だ!」
その時、麗華がポツリと呟いた。
「……宴、じゃなくてただの食事なんだけど……。」
それでも俺たちの笑い声は料亭の空間に響き渡り、最高の夜となった。
――――――――――――
【静香視点】
酔った。完全に酔った。
焔華が飲ませるのだ。
「今日は呑むぞぉぉぉぉぉぉぉ!」
彼女は最初からハイテンションだったが、さらに勢いを増して酒を勧めてくる。
「わし一人じゃつまらん!静香も付き合え!」
断るのも面倒になり、少しだけと付き合ったつもりだったのに……。
気づけば、焔華のペースに巻き込まれ、杯を重ねてしまっていた。
「ふふふ……静香、いい飲みっぷりじゃのう!」
――やられた。完全にやられた。
そんな中、焔華が目をキラキラさせながらこちらを見てきた。
嫌な予感がする。
「で、静香……」
「……何?」
「わしらハーレムファミリーに入らんのか?」
一瞬、場の空気が凍りついた。
周囲の全員が驚きと困惑の表情で焔華を見つめる。
「はぁ!?」
麗華が勢いよく立ち上がり、テーブルを叩いた。
「お母さんをハーレムに誘うって……どれだけ失礼なのよ!?」
一方で、雪華は控えめに溜息をつきながら、冷静に指摘する。
「焔華さん、飲み過ぎです。もうこれ以上は控えた方が……。」
だが、酔っ払った焔華はそんな声に耳を貸さない。
彼女はニヤニヤと笑いながら、さらに畳み掛ける。
「いやいや、麗華も静香も、わしらの仲間になればええんじゃ!強いし、美しいし、なにより……楽しいじゃろ?」
「楽しいとかじゃないでしょう!!」
麗華が怒り心頭で叫ぶ。
一方で私は、酔いが回ったせいで反応が鈍い。否定する訳でもなく、肯定する訳でもなく、ただぼんやりと話を聞いていた。
不思議と、気持ちがふわふわして浮ついていた。そして、何故か楽しくなってきた。
「……ちょっと焔華、私は貴方たちの『ハーレムファミリー』なんて言葉には――」
「えぇー、もったいない!わしら最高の仲間だぞ!」
麗華と焔華の口論が続く中、私はぼんやりと考えていた。
――ハーレムファミリー。
――雷丸君との家族。
その光景を想像するだけで、胸が少しだけ温かくなる自分がいた。
そんな私を見て麗華が、苛立たしげに声を上げた。
「お母さんも黙ってないで何か言ってよ!」
私は言葉を飲み込む。正直、何をどう言えばいいのか分からなかった。
その間にも焔華がさらなる暴走を続ける。
「静香、わしらと家族になれば、宴会は毎日盛り上がるぞ!」
麗華が手を振り上げ、顔を赤くして叫ぶ。
「お母さんがそんなのに入るわけないでしょう!何言ってるのよ!焔華、酔いすぎ!」
雪華もため息交じりに続けた。
「焔華さん、さすがに酔いが過ぎています。少し冷たいお茶でも飲んで落ち着いてください。」
焔華は、明らかに意図を取り違えて陽気に答える。
「おお、それならまた呑めるようになるの!」
「……そういう意味じゃないです……。」
宴会は大騒ぎのまま続いている。
私は、そんな喧騒の中でも静かにもう一杯お酒を口にした。
その時――焔華が突然、真剣な顔で話を振ってきた。
「でも、雷丸に少しくらいは好意はあるじゃろ?」
場の空気が一瞬静まり返る。
麗華がハッキリと言い放った。
「無いわ、嫌いよ。」
私は麗華を見やり、少し驚きつつも同意するように口を開いた。
「私も別に……。」
その瞬間、雷丸君が露骨にしょんぼりし、肩を落とした。まるで雨に濡れた子犬のような顔だ。
「嫌いなのか………………。」
――ズキューン!
何かが胸に突き刺さった。
そんな顔をしないで。心が痛む。
気がつけば、私は慌てて声を上げていた。
「う、嘘!」
その場の全員が目を見開いて、私を見つめている。
私は自分でも驚きながら、続けてしまった。
「き、嫌いじゃないわ……」
そして、言葉が止まらない。
雷丸君の顔を見て、何かが弾けたように口を開いていた。
「――むしろ……」
その瞳に映る彼を見つめながら、私は自然と心の奥にあった言葉を紡いでしまった。
「…………好きよ。」
……。
……?
……!!!
私、今なんて言った!?
場が凍りついた。
「え……?」
「「「「え……………………?」」」」
そして、次の瞬間――
「「「「えええええええええええ!?」」」
雷丸君が飛び上がらんばかりの勢いで叫び、全力で喜び始めた。
「やったー!!!!!静香さんが俺のこと好きって言ったーーー!!!」
――ちょっと待って、これは誤解よ!
私は焦りながら両手を振り、必死に否定しようとした。
「ち、違うわ!!今のは間違えたの!」
私の心は完全に混乱していた。
誤解を解かなくてはならない、と思っているのに――目の前で満面の笑みを浮かべている雷丸君を見た瞬間、胸がざわついた。
……あ、可愛い。
――――ダメよ、私。そんなこと思うなんて……!
焦りながらも、どうしても彼の喜びようが目から離れない。
「ちょっとお母さん、どういう事なの!?」
麗華が椅子を引きずるように立ち上がり、私に詰め寄ってきた。
その目には、信じられないという感情がはっきりと浮かんでいる。
「何をどういう事、だなんて……。別に深い意味はないわ。ただ……酔って口が滑っただけ。」
必死に取り繕う私に対し、麗華の目がさらに鋭くなる。
「口が滑った!?“好き”なんて言葉が、簡単に滑るものなの!?お母さんらしくない!」
その言葉に、私は何も言い返せなかった。
確かに、「滑った」とか、そういうレベルではない。
でも、彼を目の前にすると……何かが違うのだ。
「おいおい静香、これはどういう事じゃ!」
焔華が大爆笑しながら、テーブルを叩いている。
彼女は完全に楽しんでいるようだ。
「ははは!一番硬派かと思った静香が、まさか雷丸を好きだと言うとは!こりゃ世紀の大事件じゃの!」
貴音と雪華はと言えば、呆然とした表情のまま固まっていた。
貴音は信じられないという顔で口を開く。
「お母様が……お兄ちゃんを……!?え、嘘だよね?」
雪華もいつもの冷静さを失い、小さく呟く。
「静香様が雷丸様に好意を……これは予想外すぎます。」
一方、当の本人である雷丸君は、笑顔をさらに輝かせ、全力で歓喜していた。
「静香さんが俺を好きだって……これ、もう夢じゃないですよね!?やった、やったー!!!」
彼はまるで宝くじに当たったかのように飛び跳ねている。
「だから違うって言ってるでしょう!今のは間違えたの!」
私は顔を真っ赤にしながら声を張り上げた。
だけど、心のどこかで「嘘」と言い切るのが苦しくなっている自分に気づいてしまう。
――私、本当にどうしたのかしら……?
――――――――――――
【雷丸視点】
ご飯が終わり、俺たちは部屋に集まっていた。焔華、雪華、そして貴音――全員、なんだか妙に神妙な顔つきで俺を囲んでいる。
「いや、なんだよその顔。怖いんだけど?」
俺がそう言うと、雪華がゆっくりと口を開いた。
「……静香さん、完全に雷丸様のことがお好きですよね。」
――ガーン!あの「好きよ」発言が頭に浮かんで、俺の顔が急激に熱くなる。やべぇ、意識しちゃう!
「…………ああ、多分…………な。」
貴音が腕を組みながら、静かに呟いた。
「静香さんって……もしかして歳下好きなのかな?」
「おい、妹よ!そんなこと言うなよ! 静香さんを変に想像しちゃうだろ!」
俺が慌てて叫ぶと、貴音は不思議そうに首を傾げる。
「だって、あの静香さんがお兄ちゃんみたいなタイプを好きになるなんて、普通に考えたらちょっと……」
「ちょっと何だよ!」
俺が食いつくと、焔華が笑いを堪えながら話に割り込んできた。
「で、結局のところ、何があったんじゃ?」
……俺は観念して、これまで静香さんにしてきたアプローチを話すことにした。庭掃除の手伝い、書斎への軽食差し入れ、SNSでの噂払拭作戦……そして、例の「好きよ」事件まで。
話している間、3人は真剣に耳を傾けていたが、俺が話し終えると同時に、揃って頷き始めた。
「……まぁ、納得じゃな。」焔華がしみじみと言う。
「確かに、雷丸様はこれまで一貫して静香様への愛情を示しておられましたから……。」雪華も続ける。
俺は驚いて目を丸くした。
「えっ、本当にそう思う?俺、そんなに一途だった?」
すると、貴音がズバッと言い放つ。
「もはやストーカーだったよ!」
「ちょっと待て、ストーカーは言い過ぎだろ!」
俺が必死に否定するも、貴音は真顔で続ける。
「お兄ちゃん、毎朝書斎の前でスタンバイしてるのとか、SNSで伊集院家をやたら宣伝してたのとか、普通に考えたら怖いよ。」
焔華は大爆笑しながら布団を叩いている。
「確かに、わしも雷丸が書斎で軽食を持っていく姿を見たときは、“完全に飼い犬じゃな”と思ったぞ!」
「いや、あれは純粋な愛情表現で――」
雪華が冷静な口調で畳みかけてきた。
「雷丸様、純粋な愛情表現と過剰な行動の境界線は紙一重です。」
3人にボコボコにされ、俺は膝を抱えてうずくまるしかなかった。でも、それでもいい。だって――
「……でも俺、静香さんが俺のこと好きだって言ったから、それでいいんだもん!」
俺がそう呟くと、貴音がため息混じりに冷たく一言。
「……重症だね。」
それを聞いていた焔華が突然、「わははは!」と豪快に笑い出し、俺の背中をバシバシ叩いてきた。
「たが、お主を見直したのも確かじゃ!あの静香を落とすとはのう!やるではないか、雷丸!」
「いってぇ!背中、折れるから!マジで!喜ぶにしても加減しろって!」
焔華はさらに大笑いしながら、俺の背中を勢いよく叩き続ける。まるで俺が木魚か何かになったような扱いだ。
雪華も、そんな焔華を横目にしながら、ため息交じりに呟いた。
「はい、それに関しては私も同意見です……あの静香さんを、ですからね……」
俺は雪華の落ち着いた言葉に少しホッとする。
「だろ!?俺、やっぱりハーレム王の名に恥じないだろ?」
でも雪華は淡々とした表情のまま、続けた。
「しかも麗華さんからではなく、先に静香さんの方を落とすとは……さすがと言うか、雷丸様らしいと言うか……」
「いや、それって褒めてる?ディスってる?」
雪華は微妙な笑みを浮かべて言う。
「……褒め半分、呆れ半分でしょうか。」
「おい、それ褒めてる割合少なくね!?もっと俺を称賛してくれよ!」
そのやり取りを聞いていた焔華がまた腹を抱えて笑い出す。
「ふははは!それでこそ雷丸じゃ!静香を先に落とすなんぞ、誰も予想せんかったわ!」
「だろ!俺、予想外の男ってよく言われるんだよ!」
「……それは計画性がないって意味じゃない?」と貴音が小声で呟いてきた。
「おい、聞こえてるぞ、妹よ!そこは黙って俺の栄光を称えろよ!」
焔華はまたも俺の背中をバシバシ叩いてくる。
「まぁまぁ!これからもその予想外っぷりで頑張るがよい!次は麗華じゃな!静香も落ちたんじゃから、麗華もそう遠くはあるまい!」
「そうだな、次は――って、焔華!それ、静香さんに聞こえたら俺、命なくすから!」
俺が慌てて制止するも、焔華は一切気にせず、笑い声を響かせる。
「ふはは!それもまた一興じゃ!」
俺のハーレム王としての未来は、どうやら笑いの渦と共に続いていくらしい。
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