異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴

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第45話 修学旅行5

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 その夜、俺は麗華と一緒に静かな海辺を歩いていた。
 夜風が肌を撫でて、波の音がまるで心地よいBGMみたいに響いている。


 月明かりに照らされた砂浜は、昼間の賑やかさとはまるで別物。静かなこの時間が、なんだか特別に感じた。


 俺と麗華がこうして二人きりで夜の海を歩くなんて……。俺の心臓はいつもより少し早く鼓動を刻んでいた。

 
 無言で、でもどこか心が通じ合うような感覚で、俺たちは手を繋いで歩き続ける。


 波打ち際を歩きながら、俺はふと麗華の横顔を盗み見た。月明かりに照らされた彼女の表情は柔らかくて、でもどこか儚げで。
 その姿を見た瞬間、俺の中で何かが弾けた。

 

「――俺さ、実は、ずっと麗華のこと好きだったんだ」



 言葉が口をついて出た。


 一瞬、麗華の足が止まる。俺の方を振り向いた彼女の瞳が驚きに揺れているのがわかった。


 
「……え?」



 彼女が呟くように返す声に、俺の心臓はさらにドキドキと音を立てた。もう引き返せない、そう思った俺は、少しだけ息を整えて続けた。



「高校一年生の時から、ずっとだ。」



 そう言った瞬間、俺の頭の中には自然とあの日の記憶が蘇ってきた。高校一年の春――俺にとって最悪のタイミングだった。


 あの頃の俺は、正直言ってボロボロだった。サッカー界の神童として中学時代は無敵だと思ってたのに、怪我で全てを失った。足を引きずるように歩くたびに、俺の誇りだったサッカーの記憶が足元で崩れていくような気がした。


 自信喪失ってレベルじゃない。俺の人生そのものが空っぽになった感じだった。そんな俺は髪の毛を放置してモジャモジャ頭になり、どう見てもただの暗い奴。入学式でも、俺は人目を避けるように教室の隅の席に座っていた。


 そのときだった。


 
「……伊集院麗華って誰だ?すげぇ美人じゃねぇか!」



 ざわつくクラスの声に俺もなんとなく顔を上げた。そして目に入ったのは、扉を開けて教室に入ってきたひとりの女子――。


 
 麗華だった。



 ストレートな黒髪が揺れるたびに、まるで輝いて見えた。冷たくも上品な表情、クラスメイトに対して堂々とした佇まい……俺は一瞬で心を奪われた。


 
「すげぇ……本物の高嶺の花ってやつだな……。」



 その頃の俺にとって、麗華は手を伸ばすどころか近づくことすらできない存在だった。俺は自分がどうしようもないクズに見えたし、こんな暗いモジャモジャ野郎に、あの凛とした麗華が目を向けるわけがないと信じ込んでいた。

 
 でも、あのときの俺にとって麗華は――俺が諦めかけていた「強さ」を象徴していたんだ。
 


「お前さ、あの頃からずっと堂々としてただろ?」



 俺は当時の気持ちを振り返りながら、少し照れたように言った。

 

「サッカーも人生も捨てて、俺なんか何も持ってなかった。でもお前は違った。あのときのお前は……ただ見てるだけで、俺にとって憧れだったんだ。」



 麗華は俺の言葉にじっと耳を傾けていた。彼女の表情は変わらないけど、その瞳は俺の話を真剣に受け止めているのがわかる。

 

「俺はずっと思ってたんだ。『あいつみたいに強くなりたい』ってさ。…………お前の前で自分を変えたいと思った。いや、変えなきゃいけないって思ったんだよ。」


 
 俺は波の音を聞きながら、少し微笑んで言葉を紡ぎ出した。


 
「麗華、お前は覚えてないかもしれないけど、高校一年の春に……お前がすげぇカッコいいことをしてたんだよ。」



 麗華は俺の言葉に少し首を傾げた。

 

「カッコいいこと?……私が?」

「ああ、覚えてないかもしれないけどな。でも俺には鮮明に残ってる。」



 俺は目を細めながら、あの瞬間を思い返した。

 あれは入学して間もない頃、昼休みのことだった。


 教室では、クラスの地味な男子をからかうグループが笑いながら騒いでいた。やりすぎだろって感じだったけど、周りのクラスメイトたちは見て見ぬふりを決め込んでた。俺もその一人だった。足を怪我してサッカーを諦めたばかりの俺には、誰かを助ける自信なんてなかった。


 ただ黙ってパンをかじりながら、遠巻きにその光景を見ているだけだった。


 そのとき――――。

 

「やめなさいよ。」



 凛とした声が教室の空気を一瞬で変えた。

 声のした方を見ると、そこには麗華が立っていた。彼女の前には、クラスの地味な男子をからかっているグループがいた。


 
「え、何?別に悪気があったわけじゃないし。」



 グループの一人が軽く言い返したが、麗華は怯むことなく彼らをじっと見据えていた。


 
「悪気がないならなおさらよ。その無神経な態度が人を傷つけるってことを、ちゃんと考えたらどう?」



 周りの空気が一瞬でピリついた。でも麗華は全く動じることなく、その場を静かに支配していた。

 

「本当に自分が正しいと思うなら、私と議論してみなさい。」



 グループの一人が口を開きかけたけど、麗華の目の力強さに圧倒されたのか、結局何も言えずにそそくさと教室を出て行った。


 教室は静まり返り、残ったクラスメイトたちは全員ポカンとしていた。でも、その中で唯一、俺は心の中で叫んでたんだ。

 

 ――「カッコよすぎだろ!」って。



 あの堂々とした態度、理不尽なものに立ち向かう強さ……俺には全くないものだった。自分が情けなくて情けなくて、でも同時に「いつかあんな風になりたい」って思った。


 それから俺は、知らず知らずのうちに麗華を目で追うようになってた。昼休み、授業中、放課後……お前がどんな表情をしているのか、どんなことを考えているのか、ずっと気になってたんだ。


 
「俺にはあのときのお前が眩しすぎてさ。自分の情けなさが嫌になるくらいに……でも、同時に救われた気持ちにもなったんだよ。」



 俺は少し照れ臭そうに笑いながら続けた。


 
「だから俺、あの瞬間からずっと思ってたんだ。『麗華みたいになりたい』って。でも、気づいたら……『麗華のそばにいたい』って思うようになってた。」



 麗華は驚いたように目を見開いて、少しだけ俯いた。彼女の耳がほんのり赤くなっているのが月明かりでわかった。


 
「……そんなこと、全然覚えてないわ。」

「だろうな。でも、俺には一生忘れられない記憶だよ。」



 俺たちはまた静かに歩き出した。波の音が穏やかに響く中、俺は胸の中で少しだけスッキリした気持ちになっていた。

 俺はふと立ち止まり、肩の力を抜くように息を吐いた。


 
「だからさ、静香さんに『麗華と結婚してみては?』って言われたとき……あの瞬間、内心すごいことになったんだぜ!」



 麗華が俺の顔をじっと見ている。少し驚いたような、でもどこか警戒した表情だ。


 
「……何が、すごかったの?」



 俺は照れくさそうに頭を掻きながら笑った。


 
「だって、あの麗華だぞ!?俺が高校に入ったときから、ずっと憧れてた麗華と結婚なんて、そんな話聞かされたら、そりゃテンションぶっ飛ぶだろ!」

「……ぶっ飛ぶ?」



 麗華が少し怪訝そうな顔をして、眉をひそめる。その反応もまた可愛くて、俺はつい笑ってしまった。


 
「いや、本当にさ。その日は寝られなかったんだよ。嬉しすぎて、どうしようって感じでさ。」

「……そんなことで寝られないなんて、単純ね。」



 麗華はため息をつきながらも、ほんの少し頬を赤らめていた。その表情が妙に新鮮で、俺の胸はドクンドクンと高鳴る。
 

 夜風がそっと吹き、波の音がリズムを刻む中、俺は軽く息を整えて口を開いた。


 
「単純でいいよ。俺はお前が好きなんだから。」



 その言葉に、麗華がわずかに目を見開いた。だけど、俺は止まらない。


 
「真面目なところとか、芯の強さとか……全部好きだよ。」



 静かな夜の浜辺に、俺の言葉だけが響いた。波音すら後押ししてくれるような気がする。俺は心臓の鼓動を感じながら、彼女の返事を待った。


 
「…………随分と素直に気持ちを伝えてくれるのね。」



 麗華の声は少し震えていた。彼女の頬がさらに赤く染まり、けれど視線をそらすことなく、まっすぐ俺を見つめていた。

 俺は少し照れくさくなって、肩をすくめながら答えた。


 
「今だからだよ。こんなロマンチックなシチュエーション、他にねぇだろ?こんなときじゃないと、俺も正直言えねぇしさ。」



 麗華は小さく笑った。微かに震える肩が、彼女もまた緊張しているのだと教えてくれる。そして、ほんの少しの間を置いて、ぽつりと言葉を紡ぐ。


 
「……馬鹿ね、飯田君。そんなこと言われたら……意識しちゃうじゃない。」



 月明かりの下、彼女の笑顔は柔らかく、そしてどこか儚げで、俺にはそれが世界で一番美しいものに見えた。


 波の音が静かに響く中、俺たちは再び歩き出した。手を繋ぐわけでもなく、ただ並んで歩く。それだけで、この瞬間が特別なものになる。


 ――これが、俺の青春の中で最も特別な夜になる気がした。


 月が波に映り、穏やかな風が俺たちの背中を押してくれる。俺はただ、彼女と一緒にいられる幸せをかみしめながら、そっと心の中で誓った。

 

「次は、もっとお前を笑顔にさせてみせるからな、麗華。」


 
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