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第69話 修学旅行29
しおりを挟む朝の清々しい空気の中、俺と麗華はホテルの部屋を出て、朝食会場に向かう。廊下を歩く足音が静かに響き、その中で麗華がふと俺の手をそっと握ってきた。
――自分から手を繋いでくれるなんて、ちょっと嬉しすぎだろ。
俺は心の中でガッツポーズを決めながら、麗華の手を少しだけ握り返す。その手は温かくて柔らかく、なんだか心がほっとする。
「忘れ物ない?」と麗華が振り返る。
「ないよ、多分!」と俺が答えると、彼女は少し呆れたように微笑む。
――この何気ないやり取りが、やけに幸せだな。
でも、ふと悪戯心が湧いてきた俺は、彼女の腰にそっと手を回してみた。
麗華は驚いた顔をして俺を見上げる。「もう、何してるのよ……!」と少し照れたように呟く。
「まぁまぁ、俺たち婚約者だろ?これくらい普通じゃね?」と俺は笑って流す。
麗華は「本当にもう……」と小さく呟きながらも、手を繋いだまま俺の横を歩いてくれる。その頬がほんのり赤いのを見て、俺は内心で勝利の笑みを浮かべた。
麗華の腰に触れた感触が、昨日の出来事を鮮明に蘇らせるけれど、ここは余裕たっぷりの俺、ダンディ雷丸として振る舞わねばならない。
「昨日の夜、よく眠れた?」と俺が何気なく尋ねる。
麗華は少し恥ずかしそうに目をそらしながら、「……まぁ、あなたが隣にいてくれたからね」と答える。
その一言が、俺の心にズシンと響いた。
「そりゃ良かった。麗華が安心して寝られるなら、俺はどこでも添い寝するぜ!」と軽く言うと、麗華は「調子に乗らないの」と言いつつも、口元に笑みを浮かべている。
手を繋いだまま、俺たちは朝食会場へ向かう。周囲の視線なんて気にしない。今の俺たちの空気は、まるで二人だけの世界みたいに穏やかで、暖かかった。
朝食会場のドアを開けた瞬間、ざわめきがピタリと止まった。視線が一斉に俺たちに集中し、その鋭さはまるでスナイパーに狙われているようだった。クラスメイトたちの顔には驚きと疑惑が色濃く浮かんでいる。
「……飯田、なんか伊集院さんと妙に距離近くね?」
クラスの男子の一人がポツリと呟く。
――そりゃそうだろうな。俺、麗華の腰に手回してるし。
俺と麗華はほぼゼロ距離で歩いていて、その関係性が見た目に分かりやすく出ている。麗華は視線を気にするそぶりを見せず、堂々としている――けど、その頬がほんのり赤いのを俺は見逃さなかった。
朝食会場の空気が、徐々にざわつき始める。
「ちょっと待って、昨日さ……飯田と伊集院さん、同じ部屋に泊まったんだよな?」
「え、マジ?じゃあ……まさか……」
「くっそ、羨ましい……!」
クラスメイトたちのざわめきが大きくなり、俺たちの周囲に視線と囁きが渦巻く中、俺は涼しい顔で軽く肩をすくめてみせた。そして、ダンディな笑みを浮かべながら言ってやる。
「おはよう、みんな。まぁ、これが大人の事情ってやつさ。」
その堂々とした妖怪態度に、クラスメイトたちは一斉に騒ぎ始めた。
男子は「羨ましい!」と叫び、女子は「何それ、どういうこと!?」とざわつく。
俺はざわつく会場を気にすることなく、麗華をエスコートしてテーブルへ向かう。
手を繋いだまま、自然な仕草で椅子を引いて彼女に席を勧めた。
「麗華、お先にどうぞ」
麗華はちらっと俺を見て、ほんのり頬を赤らめながら、クールに椅子に腰を下ろした。普段の冷静な雰囲気はそのままだが、その微かな仕草が何とも言えず可愛らしい。
「ありがと、飯田君……」
一方、クラスメイトたちは固まったまま、俺たちを信じられないものを見るような目で見つめていた。
「伊集院さんのあんな顔見た事ねぇ!」
俺はその視線と声を完全に無視し、余裕たっぷりの態度でコーヒーを一口飲む。麗華も顔をほんのり赤らめつつ、冷静を装って朝食を進めていた。
「いやぁ、昨日は色々あったんだよ。」
俺はコーヒーカップを置きながら、軽く肩をすくめる。
「こういう距離感になるのも自然な流れってやつさ。だろ、麗華?」
その言葉に麗華は一瞬驚いたように俺を見たが、すぐにため息をつき、目を伏せた。
「ほんとに調子に乗ってるわね、飯田君……でも、まあ、そうね。いろいろあったから。」
その言葉に、クラスメイトたちはもう完全にパニック。
「い、いろいろって……」
「ハーレム王本当に勝ち組かよ!?」
クラスメイトたちのざわめきが俺の耳に届くたび、心の中でにやりと笑う。だが、ここで浮かれた態度を見せるのはまだ早い。ハーレム王たるもの、常に余裕を見せるのが鉄則だ。
俺は軽く肩をすくめ、パンを一口かじる。視線は動かさず、顔にはダンディな微笑みを浮かべながら、静かに言った。
「ま、ハーレム王を目指してるからな。これも一つの結果ってやつだよ」
その余裕たっぷりの一言に、クラスメイトたちは一瞬言葉を失った後、さらにざわつき始める。
「くっそ、何なんだよその貫禄!」
「飯田、まじで別次元の存在になっちまったのか!?」
俺はそんな彼らの嘆きを背に受けながら、何も気にしない様子でコーヒーを持ち上げ、静かに一口飲んだ。カップを置くときの音すら計算されたような優雅さ――これぞハーレム王の朝の所作だ。
だが、それだけで終わる俺じゃない。さらなる余裕を見せつけるべく、軽くウィンクを飛ばしてみせた。そして――空中に指先でサインを描く。
更に調子に乗った俺は軽くウィンクをし、そして空中に「雷丸最高」と。
その動作が視界に飛び込んだ瞬間、周りのクラスメイトたちが驚愕の声を上げる。
「あいつ今……!!」
「空中で……サインを!? なんて無駄にカッコいい技だ……!!」
「これがハーレム王の余裕……!?」
ざわつく会場を背に、俺は何事もないように再びコーヒーに手を伸ばす。その一連の動きは、もはや計算されたパフォーマンスだ。
隣で静かにしていた麗華が、小さく吹き出すのが聞こえた。
「もう……ほんと馬鹿ね」
その声に、俺はちらりと麗華を見やる。彼女の顔には、微笑みが浮かんでいる。その柔らかな表情を見るだけで、俺の胸がじんわりと温かくなる。
「ま、麗華が笑ってくれれば俺の勝ちだろ?」
そう言いながら、軽く肩をすくめて笑みを返す。
これがハーレム王・ダンディ雷丸の朝だ。静かにしていても、その場の中心にいるのは間違いなく俺。麗華の笑顔とともに、一日のスタートを最高に彩る――そんな朝だった。
そんな中、親友の石井――通称オタク君――が、俺の方に恐る恐る近づいてきた。彼はやけに緊張した表情で、顔が真っ赤だ。
「い、飯田殿……」と石井が小声で声を絞り出す。
「ん?どうした、石井?」
俺はパンをかじりながら軽く聞き返した。
「昨日……その、アレ、やったのでござるか?」
「…………アレ?」
俺は一瞬固まったが、すぐに石井の真意を理解した。――こいつ、超真面目に童貞質問してきてるじゃねぇか!?
クラスメイトたちが話してる中、石井の声は微妙に聞こえないように小さい。彼なりに気を使ってるらしいが、その顔は見事に「童貞です!」と書いてあるように真っ赤だ。
「その……男女の、あの……やつでござる……」
石井がますます赤面しながら、俯いて呟く。
「是非……後学のために拙者にその……イロハを教えて欲しいでござる……」
俺はそんな石井を見て、思わずニヤリと笑った。――よし、ここはハーレム王として、優しく指導してやるか。
「なぁ、石井。そういうことはな……まず心の準備が大事なんだよ。」
俺は優しく答えながら、少し神妙な顔を作った。
「相手の気持ちを考えて、焦らないことが大切だ。」
「お、おお……!そ、そうなのでござるか!?やっぱりあれって、こう、勢いだけじゃダメなんでござるな……」
石井は真剣に頷いている。超真面目に聞いてるその様子が、逆に微笑ましい。
「そうだ、石井。勢いだけじゃなくて、まずは相手に信頼されることが大事だ。お前も、焦らずに大切にできる女の子を探すんだぞ?」
石井は目を輝かせながら、俺の言葉を真剣に吸収している。
「デュホゥ!やっぱり飯田殿、すごいでござる!ハーレム王だけじゃなくて、人生の先輩でござる!!」
――いや、まだ俺もそんな先輩ってほどじゃないけどな……でも、ここはハーレム王の威厳を見せる場だ。
「まぁな、石井。俺はまだまだ道の途中だが、お前には教えられることがあるはずだぜ。」
俺は偉そうに胸を張ってみせた。
石井は感動したように目を潤ませ、「飯田殿……カッコいいでござる!!拙者も飯田殿みたいに、ハーレム王を目指して……!」と熱く語り始める。
しかし、その時、隣にいた麗華がクスッと笑いながら口を挟んできた。
「ふふ、飯田君って、本当にいつでも調子いいわね。でも、石井君にちゃんと教えてあげるなんて、少しは見直したかも。」
「ま、俺だって親友には優しいんだよ!」
俺は鼻を高くして、ますます自信満々な態度を取った。
石井はキラキラした目で俺を見つめ続けていたが、次の瞬間、再び質問を口にした。
「で……その……アレって、どういう感じなのか、もう少し詳しく……」
――おい、こいつまだ聞くのか!?
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