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第70話 修学旅行30
しおりを挟む修学旅行の最終日。早朝から荷物をまとめ、ホテルを出発した俺たちは、沖縄の伝統工芸を学ぶため、首里琉染(しゅりりゅうせん)へと向かった。目的は、沖縄独特の技法を使った サンゴ染め を体験することだ。
到着すると、スタッフが親切に迎えてくれ、俺たちは大きな作業場に案内された。
目の前に並んだ色とりどりの染料とサンゴの型板。クラスメイトたちは興味津々で説明を聞いている。
「これがサンゴ染めか……想像してたより、なんかカッコいいじゃん。」
俺はつい独り言を漏らしながら、サンゴの型を手に取った。
「飯田君、ちゃんと聞いてないと後で失敗するわよ?」
麗華がクスクス笑いながら注意してくる。
「おっと、俺は天才だからな!聞かなくても完璧にできるんだよ!」
俺が自信満々に答えると、麗華は小さくため息をついたが、その表情には笑みが浮かんでいた。
作業が始まると、クラスメイトたちはそれぞれのデザインを考え始めた。
「これ、めっちゃ綺麗!」「俺、これ彼女にプレゼントしよっかな~!」
女子たちは楽しそうに声を上げ、男子たちは不器用ながらも頑張っている。
俺はというと、サンゴの型を慎重に布に配置し、染料を筆で塗り始めた。
「……意外と丁寧なのね、飯田君。」
隣で作業している麗華が、少し驚いたように俺を見ている。
「へっ、こう見えても俺、ハーレム王だぞ?女の子たちを喜ばせるスキルは完璧なんだよ!」
そう言うと、麗華は笑いをこらえるように口元に手を当てた。
完成した作品を見せ合う時間になると、クラスメイトたちは互いに「すごい!」「いい感じじゃん!」と褒め合っている。俺の作品も上出来で、クラスの女子たちから「意外と器用なんだね」と感心された。
「麗華、どうだ?俺のセンス、イケてるだろ?」
俺が自慢げに作品を見せると、麗華は柔らかく微笑んで言った。
「……意外と、悪くないわね。」
その言葉に俺は内心ガッツポーズを決めつつ、麗華が作った作品を覗き込む。
その一言に、俺は内心ガッツポーズを決めた。――よし、麗華に褒められたぞ!ハーレム王としての威厳は保たれた!
「へへん、だろ?俺は何でも完璧に――」
と言いかけた瞬間、目の端に麗華が作った作品がチラリと映った。
「おい待て、なんだこれ!?」
思わず叫んでしまった俺の声に、周囲のクラスメイトたちも集まってきた。
「え、なになに?」
彼らが目にしたのは――まさに芸術作品だった。
サンゴの模様が布の上に繊細かつ大胆に描かれ、沖縄の海を思わせる鮮やかなブルーとグリーンが絶妙に配置されている。その一枚の布が、まるで生きているかのように輝いて見える。
「おい、これ本当にサンゴ染めかよ!?なんか博物館とかに飾ってありそうなんだけど!」
「すげぇ……俺のなんかただの模様だぞ。いや、模様ですらないかもしれない……」
「伊集院さん、プロの職人なんですか?」
クラスメイトたちが次々と驚きの声を上げる中、俺は自分の作品と麗華の作品を交互に見比べた。俺のやつは……まあ、それなりに頑張ったとは思うけど、隣の麗華のやつと比べると、ただの落書きじゃねぇか!
「おいおい、麗華、お前これどうやって作ったんだよ!?」
俺が動揺を隠せずに聞くと、麗華は少し恥ずかしそうに視線を逸らしながら言った。
「……ただ、説明通りにやっただけよ。」
――説明通りって、嘘だろ!?俺たち全員、同じ説明聞いたよな!?
クラスの男子たちが頭を抱える一方で、女子たちは大興奮。
「すごい!さすが伊集院さん、センスが違う!」
「これ、写真撮ってインスタに載せてもいい?」
麗華は少し困ったように微笑みながら、「どうぞ」と静かに答える。その控えめな態度すら、なんかすごく絵になってるじゃねぇか!
「おい、俺たちが一生懸命やったこの作品、誰も見向きもしねぇんだけど……」
「くっそ、何で俺らと同じ初心者のはずの伊集院さんがこんなレベルなんだよ!」
クラスメイトたちが嘆く中、俺はふと思いついて言った。
「なぁ、麗華、これ俺が作ったってことにしといてくれないか?」
「……却下よ。」
麗華の冷静な一言に、俺は深く溜め息をついた――ハーレム王の道も、まだまだ険しいぜ。
首里琉染での体験を終えた俺たちは、沖縄の伝統に触れることができた充実感を胸に、帰りの那覇空港へ向かうバスに乗り込んだ。
麗華との時間を思い出しながら、俺は窓の外を眺めた。修学旅行も、もう終わるのかと思うと少し寂しい気持ちも湧いてくる。
だが、今はそれ以上に、麗華と共に過ごせたこの時間が、俺にとって最高の思い出になることを確信していた。
――――――――――――
那覇空港に向かうバスの中で、俺たちのクラスはなんとなく静かだった。だけど、その静けさをぶち壊したのは、案の定、石井智也だ。
「帰りたくないでござる!!」
石井は、まるで小学生のように鼻水を撒き散らしながら喚き出した。おいおい、いい歳して泣くなよ。
「石井、お前マジかよ……」
俺が呆れた声で言うと、隣に座ってる女子がクスクスと笑い出した。
「石井君、ほんとに楽しかったんだね~」
「そうでござるよ!!もう一回沖縄に戻るでござる!」
石井は完全にテンションぶっ壊れていて、鼻水をティッシュで拭きながらさらに泣いている。しかも、泣きながらもなぜか真剣な顔で「沖縄に永住するでござる!」とか言い出す始末。
俺はそんな石井を見て、思わず笑ってしまった。あいつ、普段はゲーマーで引きこもり気味なのに、なんだかんだで沖縄の修学旅行をめっちゃ楽しんでたらしい。俺も正直、こんなに石井が感情を爆発させてる姿を見るのは初めてだった。
でも――そんな石井を見てると、俺も少し寂しい気持ちになった。
「……沖縄ともお別れか……」
つい、口に出してしまった俺の言葉に、バスの中の他の連中も静かに頷いている。沖縄の青い海や広い空、そして楽しかった思い出が、すでに過去のものになろうとしている。
でも、石井は違う。奴は今、この瞬間を全力で泣き、喚き、楽しんでいる。鼻水をまき散らしながらも、涙を流してまで帰りたくないって言ってるあたり、なんだかあいつが一番沖縄を満喫してたんじゃねぇかって思えてくる。
「……ったく、俺も少しはあいつを見習うべきかもな。」
そう呟いて、俺は窓の外に広がる景色を見つめた。
すると、隣に座っていた麗華が小さく微笑みながら、俺に声をかけてきた。
「飯田君も、素直に楽しんでたんじゃない?思い出、沢山できたでしょう?」
その柔らかな声に、俺はハッとして麗華の方を振り向いた。彼女の瞳はどこか穏やかで、優しさが溢れている。
「そうだな……俺も、すごく楽しかったよ。」
俺の答えに、麗華は小さく頷いた。
「じゃあ、また来ましょう。二人で――もしくは、みんなでね。」
その一言が、なんだか心にじんわりと染みた。
「さよなら、沖縄……またいつか、来るよ。」
バスの中では、まだ石井の「帰りたくないでござる!」という叫び声が響き渡っていたが、俺たちの心には、楽しかった沖縄の思い出がしっかりと残っていたのだった。
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