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第118話 ワールドカップ13
しおりを挟むその夜、部屋に戻ってベッドに寝転がっていると――
〈ピロン♪〉
スマホに通知が届いた。
画面を見ると、送り主は綾乃の弟・直人。
『飯田さん、お疲れ様です!!動画見ましたよ!!!!』
「ん?動画?」
何のことかと思って返信を送ると、すぐに直人からさらにメッセージが届く。
『PK勝負のやつです!
あのイタリア代表の守護神――石壁の巨神ガブリエーレ・ヴォルカーノ相手に、雷丸さんがぶち込んだシュート!
もうSNSでバズりまくってますよ!!』
「マジで!?」
慌ててSNSを開くと、すでに『日本代表・飯田雷丸、世界に宣戦布告!?』なんて見出しの動画が拡散されている。
俺がボールを空中に浮かせ、電光石火のシュートを叩き込む映像。
その後、動けず固まるヴォルカーノの顔までバッチリ映っている。
さらにスクロールすると――
『スペイン代表カルロス・トーレスに捕獲された日本代表ストライカー』
そんなタイトルで、トーレスに肩車されている俺の姿まで晒されているじゃねぇか!!
「ちょっ、これ完全にネタ扱いされてんじゃねぇか!!」
コメント欄には、「異世界帰りのヤベェ奴現る」「これが日本のエースwww」「愛され系ストライカー」「世界にハーレム王がバレた」と、ツッコミとイジりのオンパレード。
「……まぁ、注目されるのは悪くねぇか。」
そう呟いた直後、直人から次のメッセージが届く。
『世間では飯田さんが、5人目の“ワールドクラス”候補なんじゃないかって言われてますよ!」
「ワールドクラス?」
聞き慣れないワードに首をかしげる俺に、直人は興奮気味にこう説明した。
『世界最高のサッカープレイヤーに与えられる称号です!!』
続けて送られてきたのは、現在“ワールドクラス”と称される4人の名だ。
ブラジル代表のエース――
“太陽の王子” アントニオ・ソルダード
眩しいほどのオーラを纏い、ピッチに立つだけでスタジアムを南国の陽射しで包む男。
超人的なテクニックとスピードで、世界中のディフェンダーを翻弄するサッカー界のアイコン。
イタリア代表の守護神――
“石壁の巨神” ガブリエーレ・ヴォルカーノ
ゴール前にそびえ立つ、動く要塞。
セーブ率98%という伝説的な数字を誇り、その壁を破れる者は数えるほどしかいない。
アルゼンチン代表の司令塔――
“天才マジシャン” エンリケ・マルティネス
ボールを魔法の杖のように操り、視線ひとつで試合の流れを支配する天才。
そのプレーは魔術のように美しく、相手チームは気づけばエンリケの掌で踊らされる。
スペイン代表の破壊神――
“無敵の闘牛” カルロス・トーレス
突進力とパワーだけで相手をなぎ倒し、ゴールを奪い取る怪物ストライカー。
あの巨体でなお俊敏に動き、相手を粉砕する姿はまさに”闘牛”そのもの。
『この4人が、今のサッカー界の頂点――“ワールドクラス”なんです!』
スマホに並ぶ名と異名。
俺はそれを見ながら、ゆっくりと目を細める。
その最後に、直人はこう付け加えた。
『そこに飯田さんが加わるかもしれないって、ネットでも大騒ぎなんですよ!!』
スマホの画面を見つめながら、俺はニヤリと口角を上げる。
「面白ぇじゃねぇか……だったら、5人目の“ワールドクラス”、俺がいただくぜ。」
そう言い放った勢いそのままに、俺はもうひと言付け加える。
「あと、お前の姉ちゃんもな!!」
直人からの返信はすぐに届いた。
『それも全力で応援しますし、ワールドカップも全力で応援します!頑張ってください!!』
画面越しに、純粋なエールが伝わってくる。
「ハハッ、いい弟じゃねぇか。安心しろ、俺は姉弟仲良くまとめて面倒見てやるからよ!」
そう言って、俺はスマホをテーブルに置き、夜風に当たるためベランダへ。
月明かりがリオの街を照らしている。
この場所で、俺は必ず証明する――。
日本代表・飯田雷丸が、世界のトップに立つってことをな!
――――――――――――
スタジアムへ向かうバスの中。窓越しに見える景色は、ただの試合会場へ向かう道とは思えないほどだった。
道路沿いには世界中から集まったサポーターたちがぎっしり並び、カラフルな国旗を振り回しながら歓声を上げている。
スペイン、アルゼンチン、イタリア、そして開催国ブラジル――それぞれの国の応援歌が入り乱れ、まるで巨大フェスみたいな騒ぎだ。
「これがワールドカップかよ……すげぇな。」
俺は窓に額を押し付けながら、その熱狂を全身で感じ取る。
太陽に照らされたリオの街、道端ではフェイスペイントをした子どもたちがサッカーボールを蹴り合い、コスプレしたファンが大声で応援歌を歌ってる。
「おい見ろよ、あの全身寿司コスプレ、日本の応援団か?」
「いや、さすがに意味わかんねぇだろ。」
チームメイトたちも大騒ぎしながら車窓を覗き込んでる。
バスがスタジアムに近づくにつれて、さらに熱気は増していく。
大音量のサンバが鳴り響き、リズムに合わせて踊る現地のダンサーたち。
そこに各国サポーターの大合唱が重なり、音の洪水がバスの中まで押し寄せてくる。
そして目の前に現れるのは、世界の頂点を決める聖地――
「エスタジオ・ド・マラカナン」
その巨大なスタジアムの姿に、バスの中が一瞬静まり返る。
「……来たな。」
長谷川キャプテンの低い呟きが、張り詰めた空気に溶けていく。
バスを降り、俺たち日本代表は選手専用ゲートから中へ。
通されたのはVIP席。そこから見渡すスタジアムの光景は、まさに圧巻だった。
観客席はすでに超満員。各国のサポーターがそれぞれの国旗を掲げ、歓声と応援歌が入り混じる。赤、青、黄、緑――スタジアム全体が万国旗を散りばめた万華鏡のように輝いている。
そして、フィールド中央には巨大な円形ステージが鎮座していた。セットにはブラジルの伝統模様がカラフルに描かれ、まるでリオのカーニバルそのものだ。
その時、突如として会場の照明がスパッと全て落ちる。
歓声も一瞬止まり、暗闇に包まれたスタジアムに不思議な静寂が訪れた。
「おっ……始まるぞ……!」
村岡の声もどこか興奮で震えている。
すると次の瞬間――
〈バシュンッ!〉
何本ものレーザー光線が夜空を突き刺し、ステージをカラフルに染め上げる。
その光のショーに合わせて、スタジアム全体に重厚なビートが響き渡った。
〈ドンッ!ドンッ!ドンッ!〉
巨大スクリーンに「FIFA WORLD CUP - OPENING CEREMONY」の文字がド派手に映し出されると、歓声は一気に爆発。
叫び声、拍手、口笛――世界中の興奮が渦巻き、スタジアム全体が揺れるようだった。
そこへ、さらに追い打ちをかけるように、上空からカラフルな人影が次々と降下してくる。
「え!?空からダンサー降ってきた!!」
俺は思わず叫んだ。
パラシュートを背負ったダンサーたちが、夜空を舞いながら次々とフィールドへ舞い降りる。彼らは着地と同時にパッとパラシュートを脱ぎ捨て、リズムに合わせて一糸乱れぬサンバダンスを披露し始めた。
「ヤバい……祭りだ……!」
村岡の目が輝いている。
次々と舞い降りるダンサーたちの中には、国旗カラーを身に纏ったパフォーマーもいて、観客席のサポーターと呼応するかのように国ごとの応援歌を煽ってくる。
空から降ってくるダンサー、地上で舞うダンサー、そしてレーザーと爆音が絡み合い、まるでカオスと奇跡が融合したかのようなオープニングセレモニー。
「くぅ~~、これぞ世界の舞台って感じだな!!」
俺の叫びは、興奮に震えるスタジアムに吸い込まれていった。
空から降るダンサーたち、舞台を彩るレーザーとサンバのリズム。
その一連のショーが終わる頃には、スタジアムの熱気は完全に最高潮に達していた。
世界中から集まったサポーターたちの歓声が、まるで地鳴りのようにスタジアム全体を揺らしている。
「さぁ、いよいよだな……!」
長谷川キャプテンが、じっとフィールドを見つめながら小さく呟く。
その横顔には、緊張と覚悟、そしてほんの少しの高揚が入り混じっていた。
そしていよいよ――
ワールドカップ開幕ショーが終わり、世界の代表チームが順番に整列して入場を始める。
俺はその光景を見渡しながら、深く息を吸い込んだ。
南米の湿った空気と芝の匂いが混じり合って、鼻腔を刺激する。
観客席はぎっしり埋め尽くされ、すべての目がピッチへと向けられている。
この場所が、世界最高の舞台――ワールドカップ。
俺が、そして日本代表が伝説を刻むための場所だ。
「さぁ、日本代表、いよいよ登場です!!」
スタジアムに響き渡るアナウンサーの声。
それに呼応するように、日本サポーターの声援がスタンドの端々からわずかに響いた。
まだ少ない――だけど、俺たちを信じて応援しに来てくれている。
この声が、やがて世界を揺らす歓声になる。俺たちが証明してやる。
日本代表のユニフォームを身にまとった俺たちは、胸を張り堂々とピッチへ。
一歩一歩踏みしめるたびに、芝の感触が足裏に伝わる。この場所に立てる誇りと責任が、改めて身体に染み渡る。
すると、その俺たちを見て、一部の外国人サポーターがニヤニヤと笑いながら指を差してきた。
フランス語、イタリア語、スペイン語、様々な言葉が飛び交っているが、言ってることはだいたいわかる。
「見ろよ、アジアの小国だぜ!」
「サッカーの国じゃないだろ、日本は!」
「観光気分か?」
その言葉に、チームメイトの表情が少し強張る。
でも――俺は笑った。
舐められてる?
上等だ。
俺たちはここに観光に来たんじゃない。
優勝を獲りに来たんだ。
そして――
世界中の誰もが、日本の名を忘れられなくなるような伝説を、ここに刻んでやる。
「さぁ、行くぞ。」
俺は自分に言い聞かせるように、拳を握りしめた。
ここからが、世界への挑戦の始まりだ。
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