最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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武人祭

休憩

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 まる一日が経過した。
 ゾンビもどきの数は減ったようで減らないようで、感覚すらおぼろげになってきていた。
 僕たちの体力と魔力はどんどんと減っていき、限界に近い状態となっていた。
 馬車はいつの間にか破壊されており、徒歩で近くの村に行かなくてはならず、ゾンビもどきを迎撃しつつも後退するしかなかった。
 最初はそれぞれで攻撃していたのだが、ジリ貧になると六人が全員で対処するのではなく、自然と交代しながらの攻撃となっていた。
 ただ一つ救いなのは、ナルシャとコノハ君がほぼ休まずに戦い続けてくれていたことだ。なので実質四人のローテーションとなっていたのだ。
 脳筋っぽいナルシャはなんとなくわかるが、まさかコノハ君までもがそんな体力を備えているとは驚いた。
 だって彼はレオンのような体力に自信のある亜人ではなく人間であるはずなのに・・・・・・。
 二人の戦いぶりを見て、レオンとリゲイドが少し自信を無くしかけていたのが可哀想に思えた。

 「ナルシャさん、そっちに数体向かいました!」
 「任せろ! オッラアァァァッ!」

 コノハ君の掛け声に応えたナルシャが力任せに拳を振り回し、一体のゾンビもどきの頭を吹き飛ばして、後続にいた他の奴らが吹き飛ぶ。なんて馬鹿力なんだ・・・・・・。
 そしてコノハ君も、自分の方に飛ばされたゾンビもどきを手に持っている小太刀で切り刻む。
 その芸術のようなあまりにも綺麗な太刀さばきに、つい魅入ってしまいそうになる。
 これで戦ったことがない? 絶対嘘だ。
 冒険者ならSランク、見方によってはSSランクと言っても信じられるだろう。
 そして彼の雰囲気が最初とまるで違っていた。
 鋭い眼光で殺気を纏い、ゾンビもどきを次々と倒していってしまう。

 「なんだ、まともに戦えてるじゃねえか! 何が『戦ったことがない』だよ!」

 レオンが楽しそうに笑いながらゾンビもどきを吹き飛ばす。
 それからも魔王や僕は魔術で、亜人の彼ら二人とナルシャは凄まじい肉体的アドバンテージで、そしてコノハ君はそれらを上回るような驚異的な速さで立ち回る。
 そして食べることも寝ることも許されないこの状態を続けた結果、僕が最後の一体を倒しーー

 「お・・・・・・」
 「「終わったぁぁぁっ!」」

 僕たちは雨が降り始めた曇った空に向かって叫んだ。
 そして叫び終わると同時に、ぬかるんだ地面に全員が倒れ、レオンとナルシャが笑い始める。

 「ガッハハハハハハハハハッ!」
 「アッハハハハハハハハハッ! 今回の戦いは楽しかったぞ! 凄ぇ強ぇ奴とは戦えなかったけど、こんな数相手に休まずってのも面白ぇな!」
 「同じく! まさか他種族と共闘した上に、同族を交えた億の軍勢を相手にする日が来ようとは思いもしなんだぞ! 戦争よりも戦争をしていた気分だ!」

 戦闘狂二人の会話に僕とペルディアの眉間にシワが寄る。ここまで一緒にいて思ったけれど、本当にこの人とは気が合うようだ。

 「あー・・・・・・終わったんですねー・・・・・・」

 そしてコノハ君はのんびりモードに戻っている。うん、こっちの方が喋り方とかも合ってるな。
 それからしばらく僕たちの魔力と体力が戻るまでそのまま寝てることとなり、数時間後に近くにある村へとやっと着いた。
 まぁ、村と言っても「元」村で、戦争が起こる際に住人は全ていなくなってしまっているので、今はただの廃村だ。
 しかし水や食べ物は少しだけ残っているので、腹ごしらえをして泥で汚れた体を綺麗にした。
 なんだかんだやっているうちに、日はすでに沈んでかなり暗くなり、雨は止んでいた。
 
 「夜になったか・・・・・・あまり下手に動かない方がいいな。今日はここを借りて雨風を凌ぐか」
 「一応、形だけでも家はあるしね。馬もない今、とりあえずここで休むしかないね」

 ペルディアの呟きにそう答える。
 休むしかないというか、そろそろ休まないとぶっ倒れそうなのである。
 とりあえず男女に分かれるために、二つの小さめな建物を風と水の魔術で綺麗にして寝床を整える。
 それから腐ってない食べ物を探してみんなと雑談をしながら食事を取り、それぞれ就寝する。
 だけれど、僕はなぜかすぐには眠ることができず、外で夜空を見上げていた。

 「疲れてるのに寝れないなんてあるんだなー・・・・・・」

 なんて独り言を呟きながら、手頃な箱を椅子代わりにして座る。
 しばらく足をプラプラさせながらボーッとしていると、横に誰かが立つ。
 見ると黒い装束を身にまとった男の子だった。

 「隣、いいですか?」

 コノハ君だ。
 隣と言っても、僕が座っているのは長椅子じゃなく人一人しか座れないような箱だ。
 譲る気はないので、地面なりなんなり勝手に座ればいいんじゃないかと思い、適当に「どうぞ」と答えた。

 「眠れないんですか?」
 「なぜかね。丸一日戦い続けてクタクタなはずなのに、横になっても目が冴える・・・・・・多分、あの悪魔の言ってたことが頭から離れないからだと思う」
 「悪魔さんの言ってたこと・・・・・・?」

 コノハ君が首を傾げる。って、まだあいつのことを「さん」付けするのか・・・・・・。
 しかしそれは置いといて、悪魔の言っていたことを思い出す。

 「『六属性以上の適性を持つ者』『空間魔術』・・・・・・あの悪魔の使っているところを見る限り、あれは転移ができる魔術のようだった。罠として仕掛けて一定の範囲にランダムで飛ばすものは知ってるけど、あれが任意に使用できるものだとしたら・・・・・・」
 「・・・・・・プッ」

 僕の様子がおかしかったのか、コノハ君が吹き出す。
 あ、もしかして口に出てた? っていうか、もしかしてこんな幼女が考え込むなんて似合わない、なんて失礼なことを思ってるんじゃないだろうな、こいつ?
 何はともあれ、とりあえず今は別の話題にしておくか。
 僕は一旦考え出すと止まらなくなる癖があるから、このままだと朝を迎えてしまいそうだ。
 あの悪魔が口にした内容は帰ってから研究するとしよう。
 コホンと咳払いしてコノハ君の方に向き直る。

 「このままだと眠れそうにないから、何か眠くなるような話をしてくれないか?」
 「目が覚めるような話じゃなく眠くなる話、ですか・・・・・・では、眠くなるかはわかりませんが、退屈な話を一つだけ」

 そう言ってコノハ君は深呼吸をし、退屈な話をするというにはあまりにも悲しそうな表情をして語り出した。
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