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武人祭
気まずさ
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「お、お待たせ、アヤト君……」
「……おぉ」
結局ラドライを連れてワークラフト家の屋敷に行き、アルニアの化粧をやり直すとラドライが言い始めてアルニア自身の部屋に閉じこもること一時間。
やはりアルニアがアルニアだとは思えないビフォーアフターを遂げていた。
元の材料が良かったというのもあり、今のアルニアは間違いなく美少女の部類に入る。
これで学園に行けば間違いなく大騒ぎになるだろう。
そんなアルニアが、いつもの堂々とした様子ではなく、モジモジと不安そうにスカートの裾を掴んで、頬を赤らめながら俺の様子を窺うように上目遣いをしてくる。
……実はアルニアじゃない誰かと入れ替えてるってことはないよな?
「どうかな……似合ってる、かな?」
「ああ、ちゃんと綺麗になってるぞ」
その言葉にアルニアは顔をさらに赤くするが、期待が外れたように苦笑いを浮かべる。
すると今度は、ラドライが会話に入ってくる。
「もうっ!女の子がこれだけ綺麗になったんだから、『綺麗だ、アルニア……愛してるぜ』くらい言いなさいよ!」
凄い無茶な要求をしてくるオカマである。しかもアルニアに言わせたいセリフを無駄にイケボで言ってるのが、また腹立つ……
ラドライの言葉を聞いていたアルニアは、言葉が出せないほど慌てふためいて俺とラドライに視線を行き来させていた。
「やめてくれ。恥ずかしい以前に、こんな俺だって一応彼女持ちなんだ。あまり他の女を褒め過ぎるのはよくないってのは、俺でもわかるんだよ……って、どうした?」
俺が言いたいことを言い終える頃、突然みんな静まり返ってしまっていた。
俺が何かしたってわけでもないとは思うが、リンドールからはやってしまった感を感じる。
「あ、あら、そうなの……?それは……ごめんなさいね……」
さっきまで高いテンションで話していたラドライも、なぜか落ち着いて、というより冷めた感じになっていた。
え……何この空気?俺なんか変なこと言ったか?
何を失敗したのか、まるでお通夜のような空気になってしまっている。
その中でほぼ全員が全員、アルニアの方に視線をチラチラと向けていた。
アルニアがどうかしたのか?
見ると、表情が見えないくらいに俯いていた……が、明らかに落ち込んでいる。
ミランダは?
ミランダの方を見ると、こっちもこっちでなんとも複雑な表情をしていた。
「なんだ、お前ら……?もしかして俺に彼女がいたら都合が悪いことでもあるのか?」
俺の質問に、アルニアとミランダの肩がビクッとわかりやすく跳ねた。
なんだこいつら……まさかリア充爆発しろ系女子だったのか?
……少し残念だな。
「どうせならお前らから知り合いのお前らからも、おめでとうの一言でも貰って祝ってほしかったが……まぁ、その気がないならしょうがないよな」
「ち、ちがっ!?……うよ……」
すると突然、アルニアが反論しようと声を上げようとするが、すぐにら目を逸らして小声になってしまう。
何となく気まずい空気が流れ、全員黙り込んで沈黙してしまう。
それが一分ほど経ち体感時間が一時間くらいに感じた頃、ラドライが口を開く。
「あー、アヤト君?あたし、そろそろお店に戻らないといけないんだけど……」
話を切り出したかと思えば、逃げの一手を出てきたラドライ。この状況で言われたら帰すしかないな……
結局気まずい空気の中、ラドライだけをさっきの街の近くに帰してやることにした。
「冷静に見ると、本当に凄い魔術を使ってたのね……これじゃあ、ライバルが多いわけだわ」
空間の裂け目を見ると肩をすくめ、苦笑するラドライ。
そのラドライが意味深な笑みを浮かべて、俺の肩に手を置いてくる。
「たしかにあなたには彼女がいるかもしれないけど、だからって他の女の子を泣かせちゃダメよ?」
ラドライはそれだけ言い残し、鼻歌を歌いながら裂け目をくぐっていった。難しいことを簡単に言ってくれやがる……
だけど今の言葉、勘違いでなければそういうことだよな?
クソ、あのオカマ……最後にとんでもない置き土産していきやがった。
溜め息を吐きつつ裂け目を閉じ、相変わらず重い空気で沈黙を続けている一家を見る。
全員が全員、なんて言い出せばいいのかと悩んでいる様子で、アルニアは可愛くなった顔で涙を堪えようとしていた。
……このままだと埒が明かないな。
「リンドール、あんたはアルニアたちにあの会議でのことを説明してなかったのか?」
「あ、ああ……アルニアもアヤト殿は良い友人だとよく言っていたものだから、その気はないものだとばかり……」
リンドールが申し訳なさそうに言う。
すると、耐えていたアルニアの目から涙が溢れ出る。
「あっ、これ、これは……っ!?」
一度決壊したら止まらない。
涙は流れ続け、さらにそれを拭おうと目を擦るせいで、せっかく塗り直してもらった化粧も落ちていってしまう。
嗚咽を漏らすアルニアの頭に手を置く。
「言いたいことがあるなら、ちゃんと落ち着くまで待ってやるから」
「うん……うんっ……!」
ポロポロと涙を流しながら頷くアルニア。その頭に乗せてる手でそのまま撫でる。
しばらくして泣き止み、フィアに取ってきてもらった濡れたタオルで、アルニアは顔を拭く。
「……ごめんね、みっともないところを見せちゃって……」
「たしかに泣いた後の顔はみっともなかったな」
そう言って茶化す俺の言葉に、アルニアは頬を膨らませる。
「そこはちゃんと『そんなことないよ』って言ってくれないと!」
「……そういう典型的なお優しい言葉を言わないってわかってて、俺を選ぼうとしたんじゃないのか?」
再び話を掘り返すと、苦笑いが返ってくる。
「ハハハ、そりゃあ、バレるよね……」
まぁ、偉そうに言ってもラドライの後押しがなければ、こういう行動には出なかっただろうがな……
「……うん、今思うと、君の『相手が誰でも気にしない』って感じの性格や、何もかもをねじ伏せてしまえる強さに憧れてて、その憧れがいつからか『ずっと隣にいたい相手』として認識しまっていたんだろうな……一つ聞かせてくれるかい?君の相手は――」
「メアだ」
アルニアは一瞬固まると、再び苦笑する。
「『身近な人の誰かか?』っていう質問に、『はい』か『いいえ』で答えてくれるだけでよかったんだけどな……」
「でもどうせ気になるだろ?」
「まぁね」
アルニアはいつものニッと気丈な笑顔になる。
感情を出し切ったからか、スッキリしたようだ。
「でもある意味以外……ではあるかな?」
「メアと付き合うことがか?」
俺の問いにアルニアは頷く。
「ほら、君の周りってこう……魅力的なスタイルで積極的な人が多いからさ?ヘレナさんとか……」
それは遠回しにメアはスタイルがよくないとでも言っているようなものなのだが、アルニアは気付いているのだろうか……?
「別にスタイルで決めてるわけじゃないしな……それにメアだって十分魅力的な外見ではあるだろ?」
アルニアは「そうだったね」と言って微笑み、思いっ切り背伸びをする。
「あーあ、好きな男の子に惚気られちゃった!」
「本人の目の前、っつうか本人に言うかよ、それ……」
完全に吹っ切れた様子のアルニア。俺もつられて笑ってしまう。
これ以上、何も言う必要がないならそれでいいんだがな……
すると何の合図か、フィアがパンッと音を立てて両手を合わせる。
「それじゃあ、アルちゃんも頑張らないとね!」
「母さん?一体何を……」
その考えを察したリンドールが、頭を抱えてやれやれと頭を横に振っていた。
「アヤト君のことが好きなんでしょ?だったら奪う気で行かなきゃ!」
「母さん!?」
「母様!?」
母親の爆弾発言に、ミランダとアルニアが同時に叫ぶ。
前々から思っていたが、この異世界の女たちって肉食というか、妙に逞しいよな……
「そ、れ、に!その人ってあのお爺さんの孫娘さんなんでしょ?」
「ワンド王な……」
フィアの言葉をリンドールが訂正する。ルークさんを普通にお爺さん呼ばわり……フィアの遠慮ない言い方にミランダたちもあたふたしてるじゃねえか。
「それじゃあ、側室とかも考えてるんでしょ?」
側室……一夫多妻制時の正妻以外をそう呼ぶ。
そして少なくとも、メアとミーナを相手しているのであれば、少なからず側室が一人出るというのは決まっている。
「母様、それではアヤト殿がメア様以外にも女性との関係をもとうとしているようではないか。この人はそんな――」
「一応は考えている」
ミランダのフォローは嬉しいが、その言葉を遮って俺はそう言い出す。
その返答が意外だったらしく、ミランダが目を見開いて驚き、フィアが口を覆って「まぁ!」と一言。
アルニアが唖然とした様子で俺を見ていた。
「色々経緯は省くが、今すでにメア以外にもう一人と交際してる状態だ」
「「まさか、そんな……!?」」
ミランダとリンドールの同じセリフが被る。
お互いの顔を見て、同時に気まずそうに顔を逸らす。ここら辺はさすが親子と言いたい。
アルニアの方は、またその相手が気になるようでソワソワしていた。
「その相手って?」
「ミーナだよ」
「ああ、猫人族の彼女か……ねぇ、アヤト君ってさ……」
アルニアが顎に手を当てて唸ると、フィアと同じように爆弾発言をかましてくる。
「胸の小さい子が好きなの……?」
「おい。とうとう頭の思考回路がぶっ壊れたのか、お前は」
溜め息を零す俺に、アルニアは軽く笑う。
「もしそうなら僕にもチャンスがあると思うし、母さんの言ったことを実践してみようかな……なんて?」
そう言って上目遣いをするアルニア。
最初会った時に感じた気品がそこにはなく、遠慮のない図々しさとあざとさが目立ってしまっているアルニア。
恋は盲目なんて言うが、そんなもんじゃねえ。
もはや人格が変わってるじゃねえか……
「だったらまず言うことがあるだろ?」
「……言うこと?」
アルニアは俺の言ってる真意がわからず、首を傾げて聞き返してきた。
「そうだな……今俺たちは互いに対する気持ちをある程度知ってしまったが、だがフッたフラれたの関係じゃない……意味はわかるか?」
「え……あっ!」
最初は理解できなかったアルニアだが、その意味にすぐ気付く。
そう、アルニアは俺に告白していないし、俺は断ってもいない。
流れでそういう雰囲気になってしまっていたというだけで、した気になっていただけなのだ。
するとアルニアが恥ずかしそうにモジモジとし始める。
「えっと……じ、じゃあ、聞いてくれるかい?」
「ここでいいのか?」
周囲を確認しながら、アルニアに問う。
父も母も姉も、家族全員が見ている中で告白する気なのかと。
しかしアルニアは動じず、笑顔で頷く。
「もう今更だよ。それにこのチャンスを逃すと、また先送りにして逃げてしまいそうだからね」
アルニアがそう言うと、深呼吸をして真剣な表情になる。
「アヤト君、僕は君が好きです。僕を君の彼女にしてください」
告白の恥ずかしさで多少頬を赤らめるアルニア。
誰も何も言わず、風の音すら聞こえない沈黙がその場を支配する。
勇気を振り絞って想いを言葉にしたアルニアに、俺はいつも通りの調子で答える。
「ごめん、ちょっと無理」
「……え」
「「ええぇぇぇぇぇっ!?」」
その日、ワークラフト家から過去最大となるらしい叫び声が聞こえたのだった。
「……おぉ」
結局ラドライを連れてワークラフト家の屋敷に行き、アルニアの化粧をやり直すとラドライが言い始めてアルニア自身の部屋に閉じこもること一時間。
やはりアルニアがアルニアだとは思えないビフォーアフターを遂げていた。
元の材料が良かったというのもあり、今のアルニアは間違いなく美少女の部類に入る。
これで学園に行けば間違いなく大騒ぎになるだろう。
そんなアルニアが、いつもの堂々とした様子ではなく、モジモジと不安そうにスカートの裾を掴んで、頬を赤らめながら俺の様子を窺うように上目遣いをしてくる。
……実はアルニアじゃない誰かと入れ替えてるってことはないよな?
「どうかな……似合ってる、かな?」
「ああ、ちゃんと綺麗になってるぞ」
その言葉にアルニアは顔をさらに赤くするが、期待が外れたように苦笑いを浮かべる。
すると今度は、ラドライが会話に入ってくる。
「もうっ!女の子がこれだけ綺麗になったんだから、『綺麗だ、アルニア……愛してるぜ』くらい言いなさいよ!」
凄い無茶な要求をしてくるオカマである。しかもアルニアに言わせたいセリフを無駄にイケボで言ってるのが、また腹立つ……
ラドライの言葉を聞いていたアルニアは、言葉が出せないほど慌てふためいて俺とラドライに視線を行き来させていた。
「やめてくれ。恥ずかしい以前に、こんな俺だって一応彼女持ちなんだ。あまり他の女を褒め過ぎるのはよくないってのは、俺でもわかるんだよ……って、どうした?」
俺が言いたいことを言い終える頃、突然みんな静まり返ってしまっていた。
俺が何かしたってわけでもないとは思うが、リンドールからはやってしまった感を感じる。
「あ、あら、そうなの……?それは……ごめんなさいね……」
さっきまで高いテンションで話していたラドライも、なぜか落ち着いて、というより冷めた感じになっていた。
え……何この空気?俺なんか変なこと言ったか?
何を失敗したのか、まるでお通夜のような空気になってしまっている。
その中でほぼ全員が全員、アルニアの方に視線をチラチラと向けていた。
アルニアがどうかしたのか?
見ると、表情が見えないくらいに俯いていた……が、明らかに落ち込んでいる。
ミランダは?
ミランダの方を見ると、こっちもこっちでなんとも複雑な表情をしていた。
「なんだ、お前ら……?もしかして俺に彼女がいたら都合が悪いことでもあるのか?」
俺の質問に、アルニアとミランダの肩がビクッとわかりやすく跳ねた。
なんだこいつら……まさかリア充爆発しろ系女子だったのか?
……少し残念だな。
「どうせならお前らから知り合いのお前らからも、おめでとうの一言でも貰って祝ってほしかったが……まぁ、その気がないならしょうがないよな」
「ち、ちがっ!?……うよ……」
すると突然、アルニアが反論しようと声を上げようとするが、すぐにら目を逸らして小声になってしまう。
何となく気まずい空気が流れ、全員黙り込んで沈黙してしまう。
それが一分ほど経ち体感時間が一時間くらいに感じた頃、ラドライが口を開く。
「あー、アヤト君?あたし、そろそろお店に戻らないといけないんだけど……」
話を切り出したかと思えば、逃げの一手を出てきたラドライ。この状況で言われたら帰すしかないな……
結局気まずい空気の中、ラドライだけをさっきの街の近くに帰してやることにした。
「冷静に見ると、本当に凄い魔術を使ってたのね……これじゃあ、ライバルが多いわけだわ」
空間の裂け目を見ると肩をすくめ、苦笑するラドライ。
そのラドライが意味深な笑みを浮かべて、俺の肩に手を置いてくる。
「たしかにあなたには彼女がいるかもしれないけど、だからって他の女の子を泣かせちゃダメよ?」
ラドライはそれだけ言い残し、鼻歌を歌いながら裂け目をくぐっていった。難しいことを簡単に言ってくれやがる……
だけど今の言葉、勘違いでなければそういうことだよな?
クソ、あのオカマ……最後にとんでもない置き土産していきやがった。
溜め息を吐きつつ裂け目を閉じ、相変わらず重い空気で沈黙を続けている一家を見る。
全員が全員、なんて言い出せばいいのかと悩んでいる様子で、アルニアは可愛くなった顔で涙を堪えようとしていた。
……このままだと埒が明かないな。
「リンドール、あんたはアルニアたちにあの会議でのことを説明してなかったのか?」
「あ、ああ……アルニアもアヤト殿は良い友人だとよく言っていたものだから、その気はないものだとばかり……」
リンドールが申し訳なさそうに言う。
すると、耐えていたアルニアの目から涙が溢れ出る。
「あっ、これ、これは……っ!?」
一度決壊したら止まらない。
涙は流れ続け、さらにそれを拭おうと目を擦るせいで、せっかく塗り直してもらった化粧も落ちていってしまう。
嗚咽を漏らすアルニアの頭に手を置く。
「言いたいことがあるなら、ちゃんと落ち着くまで待ってやるから」
「うん……うんっ……!」
ポロポロと涙を流しながら頷くアルニア。その頭に乗せてる手でそのまま撫でる。
しばらくして泣き止み、フィアに取ってきてもらった濡れたタオルで、アルニアは顔を拭く。
「……ごめんね、みっともないところを見せちゃって……」
「たしかに泣いた後の顔はみっともなかったな」
そう言って茶化す俺の言葉に、アルニアは頬を膨らませる。
「そこはちゃんと『そんなことないよ』って言ってくれないと!」
「……そういう典型的なお優しい言葉を言わないってわかってて、俺を選ぼうとしたんじゃないのか?」
再び話を掘り返すと、苦笑いが返ってくる。
「ハハハ、そりゃあ、バレるよね……」
まぁ、偉そうに言ってもラドライの後押しがなければ、こういう行動には出なかっただろうがな……
「……うん、今思うと、君の『相手が誰でも気にしない』って感じの性格や、何もかもをねじ伏せてしまえる強さに憧れてて、その憧れがいつからか『ずっと隣にいたい相手』として認識しまっていたんだろうな……一つ聞かせてくれるかい?君の相手は――」
「メアだ」
アルニアは一瞬固まると、再び苦笑する。
「『身近な人の誰かか?』っていう質問に、『はい』か『いいえ』で答えてくれるだけでよかったんだけどな……」
「でもどうせ気になるだろ?」
「まぁね」
アルニアはいつものニッと気丈な笑顔になる。
感情を出し切ったからか、スッキリしたようだ。
「でもある意味以外……ではあるかな?」
「メアと付き合うことがか?」
俺の問いにアルニアは頷く。
「ほら、君の周りってこう……魅力的なスタイルで積極的な人が多いからさ?ヘレナさんとか……」
それは遠回しにメアはスタイルがよくないとでも言っているようなものなのだが、アルニアは気付いているのだろうか……?
「別にスタイルで決めてるわけじゃないしな……それにメアだって十分魅力的な外見ではあるだろ?」
アルニアは「そうだったね」と言って微笑み、思いっ切り背伸びをする。
「あーあ、好きな男の子に惚気られちゃった!」
「本人の目の前、っつうか本人に言うかよ、それ……」
完全に吹っ切れた様子のアルニア。俺もつられて笑ってしまう。
これ以上、何も言う必要がないならそれでいいんだがな……
すると何の合図か、フィアがパンッと音を立てて両手を合わせる。
「それじゃあ、アルちゃんも頑張らないとね!」
「母さん?一体何を……」
その考えを察したリンドールが、頭を抱えてやれやれと頭を横に振っていた。
「アヤト君のことが好きなんでしょ?だったら奪う気で行かなきゃ!」
「母さん!?」
「母様!?」
母親の爆弾発言に、ミランダとアルニアが同時に叫ぶ。
前々から思っていたが、この異世界の女たちって肉食というか、妙に逞しいよな……
「そ、れ、に!その人ってあのお爺さんの孫娘さんなんでしょ?」
「ワンド王な……」
フィアの言葉をリンドールが訂正する。ルークさんを普通にお爺さん呼ばわり……フィアの遠慮ない言い方にミランダたちもあたふたしてるじゃねえか。
「それじゃあ、側室とかも考えてるんでしょ?」
側室……一夫多妻制時の正妻以外をそう呼ぶ。
そして少なくとも、メアとミーナを相手しているのであれば、少なからず側室が一人出るというのは決まっている。
「母様、それではアヤト殿がメア様以外にも女性との関係をもとうとしているようではないか。この人はそんな――」
「一応は考えている」
ミランダのフォローは嬉しいが、その言葉を遮って俺はそう言い出す。
その返答が意外だったらしく、ミランダが目を見開いて驚き、フィアが口を覆って「まぁ!」と一言。
アルニアが唖然とした様子で俺を見ていた。
「色々経緯は省くが、今すでにメア以外にもう一人と交際してる状態だ」
「「まさか、そんな……!?」」
ミランダとリンドールの同じセリフが被る。
お互いの顔を見て、同時に気まずそうに顔を逸らす。ここら辺はさすが親子と言いたい。
アルニアの方は、またその相手が気になるようでソワソワしていた。
「その相手って?」
「ミーナだよ」
「ああ、猫人族の彼女か……ねぇ、アヤト君ってさ……」
アルニアが顎に手を当てて唸ると、フィアと同じように爆弾発言をかましてくる。
「胸の小さい子が好きなの……?」
「おい。とうとう頭の思考回路がぶっ壊れたのか、お前は」
溜め息を零す俺に、アルニアは軽く笑う。
「もしそうなら僕にもチャンスがあると思うし、母さんの言ったことを実践してみようかな……なんて?」
そう言って上目遣いをするアルニア。
最初会った時に感じた気品がそこにはなく、遠慮のない図々しさとあざとさが目立ってしまっているアルニア。
恋は盲目なんて言うが、そんなもんじゃねえ。
もはや人格が変わってるじゃねえか……
「だったらまず言うことがあるだろ?」
「……言うこと?」
アルニアは俺の言ってる真意がわからず、首を傾げて聞き返してきた。
「そうだな……今俺たちは互いに対する気持ちをある程度知ってしまったが、だがフッたフラれたの関係じゃない……意味はわかるか?」
「え……あっ!」
最初は理解できなかったアルニアだが、その意味にすぐ気付く。
そう、アルニアは俺に告白していないし、俺は断ってもいない。
流れでそういう雰囲気になってしまっていたというだけで、した気になっていただけなのだ。
するとアルニアが恥ずかしそうにモジモジとし始める。
「えっと……じ、じゃあ、聞いてくれるかい?」
「ここでいいのか?」
周囲を確認しながら、アルニアに問う。
父も母も姉も、家族全員が見ている中で告白する気なのかと。
しかしアルニアは動じず、笑顔で頷く。
「もう今更だよ。それにこのチャンスを逃すと、また先送りにして逃げてしまいそうだからね」
アルニアがそう言うと、深呼吸をして真剣な表情になる。
「アヤト君、僕は君が好きです。僕を君の彼女にしてください」
告白の恥ずかしさで多少頬を赤らめるアルニア。
誰も何も言わず、風の音すら聞こえない沈黙がその場を支配する。
勇気を振り絞って想いを言葉にしたアルニアに、俺はいつも通りの調子で答える。
「ごめん、ちょっと無理」
「……え」
「「ええぇぇぇぇぇっ!?」」
その日、ワークラフト家から過去最大となるらしい叫び声が聞こえたのだった。
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