最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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武人祭

人任せ

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 「シクシクシクシクシク……」
 「あからさまな嘘泣きやめろよ」

 アルニアの告白に一言返した後、彼女は体育座りをして壁側を向き、膝に顔をうずめている。
 しかしご覧の通り、「シクシク」などとふざけて言っている。
 同情を誘う気もない……いや、誘わせないようわざとやっているのか。

 「だってさっきのアヤトくんの言い方、あれはさすがに傷付くよ?」

 アルニアがクスリと笑い、立ち上がって何でもないような笑みを浮かべる。

 「しょうがないだろ、無理なものは無理だ」

 俺がハッキリとそう否定すると、アルニアは肩を落とす。

 「そうだよね、もうメア様たちがいるもん――」
 「メアとミーナに相談しなきゃ、俺だけの判断じゃどうにもならないからな」

 アルニアの言葉を遮る形でそう言うと、俺たちは互いに「ん?」と顔を見合わせた。

 「メアたちがいるから……なんだよ?」
 「え……?いやだって、他に彼女がいるからアヤト君はさっき無理って答えたんじゃないの?」
 「違うけど?」

 あっけらかんと答える俺に、アルニアが頭を抱える。

 「じゃあ、もしメア様やミーナさんがOKしたら……?」
 「……晴れてお付き合い?」
 「なんで疑問形……?」

 頭を傾げて答える俺に、アルニアは眉をひそめる。

 「いや、正直誰かと付き合ってるって感覚がなくてな……メアやミーナはかなり積極的にアプローチはしてくれてるんだが」
 「それって……どういうこと?」

 アルニアが眉をひそめて首を傾げる。まぁ、そうなるよな。

 「多分、俺がちゃんとメアたちのことを好きになってないからだと思う」
 「え……待って!待って……もっとわからなくなってきたんだけど……アヤト君はメア様たちが好きなんじゃないの?」

 アルニアが手をかざして止めてくる。
 まぁ、正直に言っておくか。
 これで嫌われたとしても、嘘を吐いてまで誰かとコッソリ付き合おうなんて浮気性は俺にはないし、仕方なかったということにしておこう。

 「俺はメアたちのことは嫌いじゃない。だから告白してくれたメアやミーナの想いを受け入れたんだ。だけど恋愛的に好きかって言われるとな……」
 「君はそれでいいの?傍から見ればそれは……」

 溜め息を吐いて肩をすくめる。

 「わかってる、最低だって言いたいんだろ?実際、あーしさんにも言われたしな。二股もなぁなぁな感じで付き合ってるのも、あいつらを悲しませたくないから承諾したんだ……一応言われる覚悟はしてるさ」
 「……そうなんだ。じゃあ――」

 アルニアが俯いて呟く。
 開き直りと言われればそこまでだが……だけど俺は、俺がそう言われる程度であいつらが喜んでくれるなら、別にどう言われたって構わないと思っている。
 そしてアルニアは覚悟を決めたようら表情をした顔を上げ――

 「僕もそこに加わる……メア様たちに言って、僕もアヤト君の傍で君を愛したい!」
 「お、おう……?」

 アルニアが頬を真っ赤にしながらも、真剣な眼差しで言い出す。
 その勢いに押されて思わず引いてしまったが、アルニアの両親がしみじみとしていた。

 「あの遠慮ばかりしてたアルニアが、こんなに激しく自己主張するなんて……」
 「いつも大人びていて立派だとは思っていたが、その反面色々と我慢させてしまっていたのではと心配……アヤト君、君の事情もわかっているが、娘もこれだけ言ってるんだ。メア様に相談する時に、君も口添えしてくれないか?」

 自分たちの娘が可愛いのはわかるが、あまり無茶を言わないでほしい。

 「俺はほとんど何もできないぞ?贔屓するとアルニアのことが好きだと勘違いされかねないからな」
 「勘違いされてくれてもいいんだけどなー?」

 ふざけてそんなことを言って笑うアルニアの額に、軽いデコピンを放つ。

 「あたっ!」
 「嘘でもそんなこと言う奴にはお仕置きだ」

 アルニアはデコピンされ額を押さえつつ、それでも気にしていないかのように「えへへ」と嬉しそうに笑っていた。
 さっきまでの暗い雰囲気がなくなったのはいいが、これはこれで気持ち悪いな。
 ……あれ?まさかミランダのMっ毛が感染してないよな……?
 後ろでデコピンされたアルニアを、ミランダが羨ましそうに見ているのを見て、かなり心配になってくる。
 すると、フィアが会話に入ってくる。

 「話はまとまったかしら?」
 「まとまったというには、まだ結論がフワフワしてるがな……んで、何だ?」
 「さっき言ったでしょう?あなたの力を貸してもらいたいのよ」

 ――――

 俺たちはフィアに屋敷のある場所に案内された。

 「これは……」

 中は暗かったが、何人もの軽重傷者が、 ベッドや椅子に寝かされているのが確認できた。
 しかも……その全てが亜人である。

 「もしかしたら気付いてたかもしれないけど、ここには人間のメイドや執事は雇っていないの。理由はもちろんこの子たちなんだけど……さすがに驚いたでしょ?」
 「人間を雇わないのは、あんたの正体をバラさないためだと思っていたが、つまりこういうことだったのか?」

 フィアはうふふと笑う。

 「私自身のも間違ってないんだけどね。むしろだからこそ都合がいいと思って、この子たちを匿うことにしたのよ」
 「なるほどな……つまりこれが俺の仕事ってわけか」

 そう言ってフィアより一歩前に出ると、寝ていた怪我人たちが一斉に敵意を剥き出しにしてきた。
 一人が近くにあった瓶を投げ付けてくる。
 それをキャッチすると、次は耳の長い奴が爪で引っ掻こうと襲いかかってきた。

 「ダメッ……!」

 フィアが庇おうと前に出ようとするが、俺が手を前に出して制する。
 そのまま俺は引っ掻かれてしまう。

 「「アヤト殿!」」
 「アヤト君!」

 後ろに控えていたミランダとリンドール、アルニアが同時に叫ぶ。

 「フーッ、フーッ……!」

 耳と尻尾が狐っぽい感じのする亜人は、興奮状態で俺を睨み付けてくる。
 するとフィアが強引に俺の腕を潜り抜け、間に割って入る。

 「違うわ、この人は敵じゃないの!」
 「……えっ?」

 フィアの一言に、全員が向けていた敵意が薄らぐ。
 言うなら今だろう。

 「俺はこの人の紹介でお前らを治療しに来ただけだ、敵じゃない」

 両手を上げて戦意がないことを示す。
 すると周りにいる怪我人たちは、サッと顔が青くなる。

 「ああ……私はなんてことを……!」

 俺を引っ掻いた狐の亜人は、急に弱腰になって動揺し始める。
 よく見ると、俺を引っ掻いたのは体中に火傷の痕がある少女だった。

 「いや、しょうがねえんじゃねえか?どうせその火傷も人間にやられたんだろ?」

 そう言って、少女に引っ掻かれたところを見る。
 左腕だが、服が破れただけで傷はない。さすが俺の体。

 「どう、して……?」

 「なぜわかったのか?」と聞きたそうに、口をポカンと開けたままにする少女。

 「じゃなきゃ、俺にそんな親の仇みたいな敵意を向けてこないだろ。他の奴らも同様に」

 視線を配ると、全員視線を逸らす。
 敵意は薄らいだが、まだ警戒されている感じか……

 「まぁ、信用しろとは言わないさ。ただ、ここにいる奴らの傷はとりあえず治しておく。フィアからそうしてくれって言われてるからな」

 俺はそう言って、短く詠唱して部屋全体に回復魔術をかける。

 「――『女神の部屋』」

 すると、かなり暗かった部屋が、まるで電気でも点けたかのような明るさを発する。
 眩し過ぎず、心地良い光に包まれた。

 「この光は……?」
 「おい、お前……さっきまであった傷はどうした!?それに古傷も……!」

 驚きの声がいくつか上がる。
 それもそのはず。
 俺がこの部屋に展開している魔術は、「神々の祝福」という失った手足さえ再生できる魔術の広範囲バージョンなのだから。

 「……これでとりあえずはいいだろ?」
 「なんてこと……とりあえずどころか、みんな完治してるじゃない!まるでお伽噺みたいだわ……」

 横でリンドールも「ほう」と言葉を漏らして、二人とも感心した様子だった。
 実際、ディザイアっていうお伽噺を元に作ってるしな。

 「これだけの回復魔術を一瞬で……見たところ疲れた様子が見られないが、平気なのかい?」
 「ああ、全く。最初使う時は体から少し力が抜けるような感覚があるが、二回目以降はそういうのなくなってたし」
 「はは……魔力量が多いと言われてる我が国の回復の使い手でさえ、こんな魔術を発動したら一瞬で空になって倒れるだろうな……いや、最悪死ぬな」

 ミランダが軽く笑って流すが、リンドールは頭を痛めたように押さえていた。どうやら現実を受け入れるための許容量が超えそうらしい。

 「それだけの技能があれば、国に相当貢献できるだろうに……」

 やはり残念そうに言うリンドール。

 「国に属するってことは、回復させたくない奴もしなきゃならん立場になるだろ?金を稼ぐのも冒険者家業で十分だ」
 「逆にお金を取るようになっちゃうから、誰かを癒したくてもできない、なんて話も聞くのよね?」

 何か心当たりがあるようにフィアが首を傾げてそう言うと、リンドールが神妙な顔をして頷く。

 「回復の使い手は重宝されるだけに、満足に外を出歩けなくなる。しかし、恐らくアヤト殿であれば自由にさせてもらえるだろう……そもそも縛っておくことができないだろうしな」

 リンドールは最後の言葉を聞こえないようボソッと言うが、俺にはちゃんと聞こえている。
 たしかに、軟禁監禁されようとも俺には空間魔術があるから簡単に脱出できるし、最悪壁や天井をぶち抜いて抜け出すこともいとわない。

 「どちらにしろ、俺はお堅いところに行く気はねえよ。学園生活だって堪能したいし、この世界の色んな所にも行ってみたいしな」
 「ああ、たしか……この世界を旅行したいんだったか?」

 ……ん?なぜ知ってる?
 疑念を抱いた視線をリンドールへ向けると、苦笑いが返ってくる。

 「ワンド王とは仲良くさせてもらっていてね。よく雑談を交えるのだが、前回、君の話題になった時にそう言っていたのを思い出したんだよ」
 「あのお喋り爺さん……」

 俺は呆れて溜め息を漏らしてしまう。
 悪いとは言わないが、あまりそういうのは言い触らしてほしくないな……
 するとリンドールが「まぁまぁ」と言って、俺を落ち着けようとする。

 「もし各地を周りたいというのなら、私も協力させてもらうからあまり王を責めないでやってくれ」
 「責めるつもりなんて最初からねえよ。それに協力も必要ない。物資の調達も全部こっちでやるからよ」

 そう言うとリンドールは、少し残念そうに笑う。
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