最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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武人祭

言わせねえよ

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 「ただいま帰りました、父様、母様」
 「俺も一応言っておくか。ただいま」

 空間魔術の裂け目を通り、ワークラフト家に戻ってきた。
 母親はミランダに泣きながら抱き着き、父親の方は俺に握手を求めてくる。

 「ありがとう、君がいなかったらどうなっていたことか……」
 「まぁ、今回は運が良かったな。ノワールがいてくれたおかげで時間の短縮もできたし」

 本当、優秀過ぎてあいつには感謝の言葉しか出てこねえな。
 すると、今度はフィアが抱き着いてきた。

 「娘たちを助け出してくれてありがとう……!」
 「いや、娘『たち』て……ミランダは助けてないから。あと旦那の前で抱き着かないでくれ、殴られて殴り返しまったらどうしてくれる?」

 そう言ってリンドールを見るが、あまり気にした様子もなく笑っていた。おい、コレお前の奥さん。

 「そこは敢えて受けないんだね……」

 アルニアが苦笑いを浮かべて、ツッコミを入れてくる。
 ドレスはボロボロではだけたまま、髪は乱れて少し泥が付いている状態だ。

 「着替えて来なかったのか?」
 「それは……心配だったから」

 本当に心配したように、笑みを浮かべるアルニア。
 襲われて一番気苦労が多かったのはアルニア自身なのにな……まぁ、実際にミランダが苦戦してたりしたから、その心配は間違いじゃなかったわけだがな。

 「そうだ、ミランダ。ちょっと腕を見せてみろ」
 「あ、ああ……」

 ミランダの折れた腕のことを思い出し、抱き着いたままのフィアに離れてもらい、折れた方の腕を差し出してもらう。

 「「っ!」」
 「ミラちゃん、腕が……!?」

 俺とミランダ以外が絶句する。
 あまり目にすることがないであろう痛々しい傷を前に、アルニアが顔を青くし、目眩を起こしてよろめくフィアをリンドールが支える。
 それらを横目に俺は回復魔術をかけ、ミランダの腕はみるみると治っていく。

 「これは……回復魔術!?」

 リンドールは驚き、その腕に支えられていたフィアも次第に落ち着きを取り戻していった。
 そして十秒も経たないうちに、ミランダの腕は完全に元に戻る。

 「ありがとう、アヤト殿」

 どうもと返事をする前に、リンドールが俺の腕を掴んでくる。
 フィアはもう一人で立てるようになり、腕が治ったミランダの元へと駆け付けていた。

 「どういうことだ、アヤト殿……今のは回復魔術では!?」
 「いや、そうだけど……だって円卓会議の時にも説明しただろ?空間魔術は六属性以上を合わせて使うもんだって」

 そう言うとリンドールは掴んでいた俺の腕を離し、頭を抑える。

 「そうだ、そうだった……だがしかし今のは……?回復魔術というにはあまりにも自然過ぎる。『治した』というよりも『無かったことにした』という方がしっくりくるほどの治癒速度だ……」

 何やら一人でブツブツと呟き続けるリンドール。
 説明を求めようと、眉をひそめてミランダの方を見た。

 「あー、本来回復魔術の治癒は、酷い怪我であればあるほど時間がかかるんだ。たった今アヤト殿は十秒もかからずに苦もなく治して見せたが、腕一本の骨折でも三十分以上かかる。アヤト殿が私を決勝でボロボロにした時は、何時間も休まずに魔術をかけ続けたと聞いているしな」
 「そうなのか。ついでに言うと無くなった腕や足も生やせるぞ」

 ちょっと自慢になるが、もしそれで治したいって奴がいるのなら、そのよしみで助けてやろうと思う。
 と、そこにリンドールが俺の肩を掴んできた。

 「アヤト殿、ぜひ国宝登録を――」
 「断る」
 「なぜ!?」

 俺の即答にリンドールが理解ができないといった表情で、ほぼゼロ距離まで近付いてきた。
 その顔にで当てて離しつつ答える。

 「俺は偶然や仕方なくで目立つだけならまだしも、自分から目立ちに行く性分じゃねえんだよ。治したい奴がいるなら言えば治してやるから……俺を大々的に目立たそうとするのはやめてくれ」

 魔王になった時は、みんな敵意しか向けてこなかったからいいけど、感謝や尊敬を向けられるのはむず痒い。

 「そうか……」

 少し残念そうに肩を落とすリンドール。俺を祭り上げようとして何が嬉しいのか疑問なんだが……
 するとフィアが涙を拭きつつ、笑みを浮かべてこっちを向く。

 「でしたらアヤトさん、早速そのお力をお借りしてもよろしいでしょうか?」
 「本当に早速だな……」

 フィアの提案にリンドールが頷き、俺は元々行く予定だったワークラフトの屋敷に案内されることとなった。

 「じゃあ、あたしはこれで失礼しようかしら……そういえばここってどこなの?」

 俺たちの話が一段落すると、そう言って首を傾げるオカマ。ああ、そういやこいつも元の場所に返してこないとな……っていうか、こいつ誰だ?

 「ここは僕の家だよ、ラドライさん」
 「え、アルニアちゃんのお家ってことは……ワークラフト家の!?貴族様の敷地内ってことなの!?」

 その筋肉の盛り上がった巨体に似合わず、オロオロと戸惑うラドライと呼ばれたオカマ。包帯などをしているところから、一応手当はされたらしい。、
 リンドールたちもまた、今ようやく気付いたという風にラドライの方を困惑気味な表情で見る。

 「えっと……さっきも思ったのだけれど、この個性的な方は?」

 「個性的」とソフトな言い方でフィアがそう聞きながらこっちを方を見てくるが、俺は首を横に振る。

 「さっきも言ったが、俺よりも先にアルニアを助けようとしてくれた一人だ。どういう関係は知らんが……こっちを先に感謝した方がいい」

 まぁ、着いたのは俺の方が先だが、アルニアを餌に他の奴らをおびき寄せようとしたのだから、本来俺がお礼を言われるのは筋違いというやつなのである。

 「やだ~、おだてないでよ、惚れちゃうじゃない~!」

 その巨体を柔軟にクネクネさせながら、頬を赤らめるラドライ。
 全員が若干引いていると、ラドライは俺の顔を見て何かを思い出したように「あら?」と呟く。

 「そういえばあなた……さっきアヤトって名乗ったかしら?それに他の人からもそう呼ばれてた気が……」
 「あ、ああ、たしかに俺がアヤトだけど……」

 戸惑い気味に俺が答えると、ラドライは「ふ~ん……」と興味深そうに細目で品定めをするように見てくる。

 「なるほど、あなたがアルニアちゃんの言ってた……」

 アルニアが俺のことを?
 気になって本人の方に視線を向けると、アルニアがあからさまに何か言ったであろう真っ赤にした顔を、プルプルと震わせながら逸らしていた。
 何を言ったか問いただしたいところだが、相変わらず俺をガン見するラドライの圧に負けて何も言うことができない。つまりオカマやべぇ。

 「……少し乱暴で野性的だけど、たしかにイイ男のようね、あなたは」
 「お?お、おう……?」

 なぜか褒められてしまう始末。
 なんで俺オカマに品定めされてるの?食われちゃうの?そうなったら俺はこいつを魔物だと思ってぶっ飛ばしちゃうけど……

 「だけど『アヤト』って言ったら、やっぱりあのSSランク冒険者のアヤトよねぇ?さっきもそう言ってたし……」

 小指を加え、眉をひそめるラドライ。
 何なの、本当に。俺が最高位の冒険者だと、なんか都合悪いことあるの?
 それとも俺がそこにいることが気に食わないとか?……やめよ、自分で考えてて虚しくなってきた。
 ネガティブな理由じゃないことを祈って、いい加減話を進めようと促す。

 「何か言いたいことがあるなら言ってくれよ」

 俺がそう言うと、ラドライは体をくねらせる。

 「あたしと――」
 「一度生まれ変わって女になりつつアルニア以上のいい女になってから出直してこい」
 「ん早いっ!?」

 なんとなく告白してきそうな空気を察し、先読みして断るのである。
 しかも思わず言ってしまった内容がアルニアを口説くような形になってしまい本人が顔を赤くしてしまうが、否定はしない。
 しかしラドライは特に気にした様子もなく笑みを浮かべていた。

 「んもぉ~、酷い断り方!でもそれだけハッキリしてると逆に清々しいわね……ま、いいわ。アルニアちゃん、たしかに相手が悪いかもしれないけれど、知り合っているなら勝ち目はあるわ、諦めちゃダメよ!」

 ラドライはアルニアにらガッツポーズをし、何やら助言らしき言葉を投げかける。
 ……なんかこの流れ……いや、まさかな。
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