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夏休み
その少女の名は
しおりを挟む「だい、じょぶ?カイト、君・・・」
レナはカイトを膝枕をしてそう囁き掛ける。
その言葉を聞いたカイトはボーッとしながら「ああ」と力無く答える。
「悪りぃ、レナ。やっぱ強えわ、師匠・・・んしょっと!」
「あっ・・・」
カイトが勢い良く頭を上げると、レナが寂しそうに呟く。
「ん?何か言ったか、レナ?」
「あ・・・ううん、何でも、ない。それより・・・カイト君、少し、雰囲気変わった、かな?」
「うん?そうか?」
「うん。言葉遣いとか・・・色々。なんとなく、堂々としてる、感じ?さっきも、アヤト先輩相手に、敬語じゃなくなって、た」
「そうだっ、たか?だとしたらマズいかな?」
「どう、だろ?先輩はそういうの、気にしないんじゃないかな、と思う・・・」
「・・・まぁ、そっか」
カイトは頭をポリポリと掻きながら剣を拾い、アヤトがいる方へ振り向こうとする。
「そろそろ修行に戻るか。あんまのんびりしてると師匠に怒られーー」
「カーイトーくーーん!!」
「ぐはっ!?」
白く長い髪をなびかせた少女が叫びながら、カイトの横からダイブして抱き付いて来た。
「い、一体何が・・・ぬぐっ!?」
飛んで来たものを確認しようとするカイトの頬に少女が自分の頬をグリグリと押し付けていた。
「クフフフッ、不思議な感じね。こういうのを甘えてるっていうのかしら?なんだかずっとこうしていたいような、良い気持ちになってくるわ・・・」
「あの・・・なんですか?」
「ん~?」
「いや、「ん~」じゃなくて・・・俺すぐに戻らないといけないんですけど・・・」
「大丈夫大丈夫、あの子からは許可貰ったから。少しだけ貴方を貸してほしいって」
「はぁ・・・?それじゃあ何の用で?」
少女はグリグリしていた頬を離し、カイトの顔を正面から見つめた。
「名前を付けてほしい!」
それだけ言って少女は「クフフ」と短く笑い、ニコニコとしながらカイトをジッと見つめた続けた。
「名前・・・ですか」
「えぇ、名前。私の息子が名前を付けられたって聞いた時からずっと羨ましかったの。それに、今までは誰とも接しなかったから気にしなかったけど、貴方たちにずっと「白い少女」なんて呼ばれるのも、よそよそしくて嫌なの。だから私に名前を与えてほしいの」
「なら師匠に付けてもらえばいいんじゃ・・・」
「名前って大切なもの、そう言ったのは貴方たち人間よ?・・・本で読んだだけの知識だけど。そんなに大切なものなら、好きな人から貰いたいじゃない?」
少女はカイトの頬を撫でながら「ね?」と呟き、小さく微笑む。
カイトは息を飲み、その仕草に思わずドキッとする。
「なんで俺なんかにそこまでこだわるんですか・・・」
「今言った。好きだから。ただの一目惚れ。弱い人間な貴方が私を庇ってくれたから。人は見た目より中身っていう人もいるけと、性格なんて二の次。今はただ貴方を愛してしまったから。だから私はそんな貴方から名前がほしいのよ」
怒涛の告白。
それを近くで見ていたレナはカイトより顔を真っ赤にしてしまっている。
「まぁ・・・名前はいいですけど、俺が貴女の事を好きになる事なんてないと思いますよ?自分を殺しかけた相手になんて・・・」
「嘘。貴方、今顔真っ赤よ?そこの女の子より赤くないけどね・・・」
少女が見つめる先をカイトも見ると、レナが「へ?」と惚けながらカイトたちを見ていた。
近くにレナがいる事を思い出したカイトは更に頬を紅潮させる。
「それよりも、名前。そろそろ付けてくれないかしら?あまり時間を取らせちゃうとまたアヤト君に怒られちゃうから」
そう言ってカイトの後ろから腕を回して抱き付き、耳元で囁く少女。
「分かりました!分かりましたから離れてください!!」
「わーい、楽しみ♪」
少女は幼い子供のように笑いつつ、がっちりと掴んで離さない。
(まさか自分を殺そうとした人に名前を付ける事になるなんて・・・。でも名前なんてなんて付ければいいんだ?師匠だったらすぐにパッと思い浮かぶんだろうけど・・・)
カイトがチラッと少女を見ると、キラキラと目を輝かせてカイトを見つめていた。
(どうしよう、適当なのでいいかな?・・・あぁでも、そんな雑に決めて由来を聞かれたらプチッと殺られそう・・・。何か・・・何かヒントになるものは・・・!!?)
カイトは少女の姿を全体を視野に収め捉える。
(この女の子の特徴と言ったら「白」。髪や着ているものも白く、肌の色でさえ死人のようにほとんど白い。ならシロ?いや、犬の名前みたいで安直過ぎる。・・・そういえば、よく見るとこの人の目、凄く赤い・・・)
積もった雪の中に降る血のようで、それはまるでーー
「血の雪・・・」
「チユキ?・・・へぇ、可愛い名前じゃない♪」
「へ?」
ボソリと、カイト自身も自覚していない呟きが漏れてしまっていた。
しかも「の」の声が聞き取られなかったようで、ちゆきが名前と思われたようだった。
しかし、予期しない呟きは良い方に転び、少女に気に入られたようだった。
(なんか聞かれた上に勘違いされたみたいだけど・・・でも喜んでるようだし、結果オーライ?)
カイトはホッと息を漏らし、立ち上がる。
「それじゃ、今度こそ戻ろうか」
カイトがそう言うと、ポーッとしていたレナもハッと正気に戻り、慌てて立ち上がる。
すると未だにカイトの首にぶら下がっているチユキが小さく笑う。
「クフフ、それじゃ、忘れ物よ」
「え?忘れ物なんてーー」
チユキの姿を確認しようと振り向くカイトの頬に、しっとりと濡れた感触が当てられ、「チュッ」という音を鳴らせる。
「なっ!?」
「こういうのを「お守り」って言うんでしょ?男の人も喜ぶし、一石二鳥だってあったわ。どう?嬉しいかしら?クフフフフ・・・」
チユキは唇に指を当てて恍惚とした笑みを浮かべ、その場から去って行った。
その後ろ姿を目で追い、しばらく沈黙しているとレナが頬を赤くしてカイトの隣に並んだ。
「す、凄い人、だね・・・あんな人前で、堂々と・・・。カイト君はやっぱり、ああいうの、嬉しかったり、する?」
レナに問い掛けられてから少し間が空き、カイトは「グッ」と唸り俯く。
「正直・・・複雑だ・・・」
「・・・うん」
カイトの心中を察したレナは小さく頷き、お互いしばらく無言になった。
ーーーー
その頃、アヤトはミーナたちの修行から一転し、ノクトとの一騎打ちをしていた。
「ーーフッ!」
剣を横に一閃するノクト。
アヤトがそれを籠手で受け止めると、反対の地面が割れ崩れる。
一撃、一撃、一撃、一撃。
少年の体である筈のノクトから見合わない一撃がアヤトに次々と放たれる。
その猛撃をアヤトは全て受けていた。
「強いな・・・それに早い。フェイントも入れて相手に攻撃を読みづらくしてる。・・・色々経験を積んだみたいだな」
「ええ、何度も、何度も、魔王とか邪神とか、そういうのを相手にして来ましたから!」
ノクトの数回転で遠心力を付けた一撃。
それに同等の力を当て、相殺する。
「それだけじゃなく、この力の元となったもの。仲間への信頼と希望、それを失った憎しみと絶望。それが伝わってくる」
アヤトに指摘されたノクトは振っていた剣を止め、腕をだらんと下ろす。
「・・・凄いな、兄さんは。なんでも分かっちゃうんだね。うん、僕の力は「ステータス」だけじゃない。出会いと別れで覚醒した力、多くの犠牲を代償に手に入れた僕の・・・呪いの力です」
「呪い?」
アヤトが意味が分からなさそうに首を傾げる。
「だってそうでしょう?これは元々、本来いつでも出せる力の筈なのに使えなかった力。それが仲間の死を引き金にようやく使えるようになったんです・・・。漫画の世界だと仲間の瀕死に主人公が覚醒するなんてよくある話で、その度に読んでる僕たちはそれがワクワクする展開みたい感じますが・・・やっぱりああいうのは本人にならないと分からないですね。「冗談じゃない」って・・・!」
ノクトの剣を握る力が増し、バキリと音を立てて剣の柄がバラバラに砕けた。
「・・・すいません、壊れてしまいました」
「気にしなくていいよ、ただの安い量産品だから。それと、あまり辛い過去なら話さなくていいからな?本当に耐えきれなくなって、誰かに支えてほしいって時に話してくれ」
「・・・ありがとう、兄さん。代わりに、っていうのも変かもしれないけど、もう少し本気で行っていいかな?」
「ああ、勿論だ。ちょっと待ってろ、代わりの武器をーー」
「ううん、必要ない。僕の武器を使うから」
ノクトはそう言ってアヤトを止め、空中で人差し指を動かす。
すると何もないノクトの頭上から少し派手な鞘をした剣が現れ、ノクトの手にポスンと落ちる。
「それがお前の「武器」か?随分仰々しいな」
「まぁ・・・このデザインは色々ありまして・・・」
頭を掻きながら「えへへ」と恥ずかしそうに笑うノクト。
「でも、そうです。別の世界で手にした勇者だけが使える剣で、これを使えば本領発揮です!」
そしてノクトは鞘から刀身を抜き、半身に構える。
すると軽い竜巻のような風がノクトの周りから発せられる。
その様子は先程までのノクトとは一変し、鋭い眼力でアヤトを睨む。
「みたいだな。それじゃ・・・って、あ」
何かを思い出すように明後日の方向を見るアヤト。
その方向にはカイトが剣を持って走って来ていた。
「・・・ま、今は修行の最中だしな。ノクト、手合わせはまた今度でいいか?」
「・・・フフッ、それもそうですね。そろそろみんなに「師匠」を返してあげないと怒られちゃいますね」
そう言うとノクトからピリピリとした雰囲気消え、いつもののんびりとしたノクトに戻り、一礼してその場から去って行った。
「・・・いやぁ、確かに今のは「男」だったな」
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