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夏休み
大乱闘
しおりを挟む「ちょっと試してみたい修行方法があるからやってみようと思う」
修行を始める直前、カイトたちにそんな提案をしてみた。
「何をするんですか?」
表情に慣れと諦めを見せながらもあっけらかんと答えるカイト。
「二つあるんだが、一つはいつもやってる組手のレベルアップ。二つ目が・・・まずはカイト、お前に試してみたい」
「死にませんよね?」
「多分肉体的には」
精神的には保障がない事を遠回しに言い、手足をプラプラとさせて軽いストレッチをする。
「まぁ、それは後々説明するとして、お前らは準備できたか?」
ラピィはダガーナイフ。
セレスは杖。
レナは弓。
フィーナは手ぶら。
ミーナは双剣。
カイト、メア、ミランダ、ガーランド、アークは片手に剣。
他は見学と。
「って、お前らガーランド組とミランダも参戦するのかよ・・・」
ミランダとガーランドは当然だと言わんばかりに頷く。
「ああ、勿論だ」
「たた見物というのもつまらんからな。ミランダが出るなら俺も参加するさ。一度手合わせもしてみたかったし、コイツらにも経験を積ませる良い機会だ」
「俺たちは嫌だって言ったのに・・・」
アークが剣を適当にブンブン振りながら文句を垂れる。
「私たちは言ってませんよぉ?」
「うん、言ってない。何気に「たち」って含めないでくれる?」
「・・・あ、そう。で、ミランダはそんな私服のままでいいのか?一応適当な防具ならあるけど」
「ああ、構わない。今回は身軽な装備で挑戦してみようと思う」
身軽って・・・それ以前にソレ、ただの綺麗な私服じゃねえか・・・。
まぁ、本人がいいならいいんだけど。
「ま、自主的にやるんだ、せいぜい後悔しないでくれよ」
するといつも通り、特に合図もなくカイトたちが斬り掛かって来る。
ーーーー
修行を始めたアヤトたちをユウキ、イリア、ランカ、ノクトが少し離れた木陰から観戦していた。
「お前らは行かなくていいのかよ?」
ユウキは少し気怠そうにランカたちに問い掛ける。
「アヤトのアレは相当キツいと聞いていますのでパスします。私、肉弾戦は全くの役立たずなので」
「僕は後で行きます。今は勝つために観察します」
「へぇ~・・・って、え?まさかアイツに勝つつもりでいるのか!?」
ユウキが驚きのあまり大声で叫んでしまい、サッと口を塞いだ。
しかしユウキが気にする事でもなかったようで、ノクトは元気に返事をして言葉を続けた。
「はい!魔城でも一回戦いましたが、兄さんとはまだ戦ってみたいんです。でもあの時も思いましたが、その強さの底が見えない。だから少しでも勝てるように兄さんの動きを観察します」
「いやー・・・いやいやいやいや!!?無理っしょ?アヤトに勝つって。あん時だって魔法だけ使ってかなり手加減してくれたのよ?・・・あ、そうか、ルール付きプラスアヤトにハンデを与えて勝負を挑むって事か?」
「いえ、真剣勝負です」
「らめぇぇぇ死んじゃうぅぅぅッ!!確かにノクトちゃんの力は凄かったけど、アヤト相手じゃダメだって!!」
「大丈夫。確かにあの人の動きは速いですが、どんな人にだって予備動作に癖がある筈。そこを見極めればーー」
ーードォンッ!!
大きな地響きと共にノクトたちの横を何かが転がっていった。
それは一つだけではなく、二つ、三つと飛んで来たりしていった。
そしてノクトたちの座っている近くの木に飛んで来たものがぶつかり、地面に落ちる。
見ると、それはぐったりとしたメアだった。
「姉様!?」
イリアはそんなメアに駆け寄り、安否の確認をする。
「だ、大丈夫だ、イリア。結構痛かったけど問題ない」
「そういう問題じゃありませんわ!!」
叱るように怒鳴り、イリアはアヤトをキッと睨む。
「貴方、アヤトさんと言いましたわね?何を考えてますの?」
イリアの顔は、今にも襲い掛かって来そうな形相だった。
「貴方たちが今どんな関係なのかはともかく、相手は女性ですのよ?とても紳士とは言えない所業ですね・・・」
「紳士じゃないからな。殺し合いに性別なんて関係ない。むしろ邪魔なものだ」
「ッ!貴方たちは殺し合っているとでも?」
「今は違う。だが、俺はそういう事を予想して修行を付けてるんだ」
「・・・メア姉様が人を殺すと?」
「殺人鬼にはさせないぞ?ただ、いざって時に女だから何もできませんでした、なんて事にならないようにしてるだけだ」
「なればその「いざ」という事態にならないよう配慮するのが貴方の役目では?あれだけのお力があるのですから可能でしょうに」
「あるに越した事はないと考えてる」
「女性に武芸など・・・無粋ですわ」
「関係ない・・・」
メアが消えそうな声で呟き、よろめきながらも立ち上がった。
「姉様、もうやめてください!そもそも私たちは強くあらずとも良いのです!本来護られるのが役目・・・王族に強さなどッ!!」
イリアの言葉を聞いたメアはハッと鼻で笑う。
「お前はホントに何にも変わってねえんだな。そりゃあ確かに、俺たちは護られる立場にある。けどな、それとこれとは別だ。護られる「だけ」なんてのは俺の性に合わない。強くなれるならなりたい。特に今はそう思う」
「何故そこまでして・・・?」
「・・・さぁな、内緒だ」
メアは不敵な笑みを浮かべ、剣を構えて答える。
「いっつつ・・・それにしても、前より手加減無しで来てないか?」
「だから言っただろ、レベルアップさせるってーー」
突如、アヤトの左右からミランダとガーランドが斬り掛かった。
アヤトは二人の攻撃を体を僅かにズラして避け、両方の腹に掌底を放つ。
すると交代するようにカイトが斬り掛かり、離れたところから魔術と矢が飛んでくる。
「どうした、カイト?勢いがないじゃないか」
しかしアヤトは当たり前のように矢と魔術を避け、カイトの剣を籠手で受け止める。
「しょうがないじゃないか、さっきの一撃が重くて、ガードした手が痺れてるんですよ!」
「ああ、分かる。俺も今手が痺れて、剣を持つのがやっとだ」
イリアがメアの手元を見ると、確かにプルプルと震えていた。
「休憩しててもいいんだぞ?その場合もしかしたら、そっちに誰かが飛んで行くかもしれないが」
「ハッ、つまり休憩させる気はないって事かよ・・・」
メアは剣の持ち方を持ちやすいように変え、アヤトに斬り掛かる。
「ほら、意識が俺にしかいってないぞ?手と足がお留守番サービスだ」
アヤトは空いている片手で、メアの握っている剣をはたき落とし、足に軽い蹴りを入れられ転ばされる。
カイトもメアに意識がいっている間に剣を弾かれ、体勢を崩したところに投げられる。
「仲間を気にかけるのは結構だが、それで自分が疎かになってちゃ意味がない。まずは自分の事だけに集中しろ。それとーー」
「フッ!!」
アヤトの頭上にミランダが現れ、剣を突き立てて落下して来た。
「奇襲するのは結構だが、人間が空中で何もできない事を忘れちゃあいけないよな?」
「グッ!?」
アヤトはソレを半身で避け、横に来たミランダに靠撃を当て、吹き飛ばした。
次にすかさずガーランドが斬り上げでアヤトを背後から襲い掛かる。
しかしアヤトはそれも避け、ガーランドが繰り出す素早い連撃もひょいひょいとドッチボールのように避けていた。
そして更に吹き飛んでいったミランダもすぐに復帰し、ガーランドの反対側に回り斬り付け加勢する。
「流石高ランクの冒険者。初めてかどうかは知らんが、共闘してすぐに息を合わせるとはな」
「フッ、ミランダが俺に合わせてくれているだけさ」
「そんな事はない。ガーランド殿こそ、私の剣筋に当たらないようわざわざズラして斬ってくれているではないか?」
「仲が良いのはいいけど、今は俺を相手にしてる事、忘れんなよ」
ーーガキンッ!
「「ーーーーッ!?」」
アヤトはガーランドの剣を籠手で少しだけズラし、ミランダの剣に重ね当てる。
意表を突かれた二人は一瞬固まってしまい、両者の頭はアヤトに鷲掴みにされ、地面に容赦無く埋め込まれる。
「ハァッ!!」
「セァッ!!」
次にフィーナとカイトが近付く。
フィーナが無詠唱で鋭く尖ったものを地面から吐出させながら殴り掛かり、カイトが斬撃と蹴りを交互に繰り出す。
「意外と様になってるな。隠れて練習でもしたか?」
「そんな暇なかったでしょ。今初めて挑戦してみたんです、よっと!」
斬る、蹴る、蹴る、斬る、持ち替えて斬る。
休まる事のない怒涛の連撃を繰り出すカイト。
「挑戦はいいけど、剣をあんま適当に振り回すんじゃないわよ!あたしが入れないじゃないのよ」
「あ、すいまーー」
カイトがフィーナの方に余所見をした隙に、アヤトに顔面を裏拳で殴られて数回転しながら飛ばされてしまう。
「全く人の顔や腹をポコポコと!いくら性別を考慮しないっつっても少しは遠慮しなさいよ!」
アヤトの顔面にフィーナが蹴りを繰り出す。
アヤトはソレを防ぐでも受け流すでもなく、首で受け止めた。
瞬間、接触したアヤトの首が氷結した。
しかしアヤトは、その状態に焦る事なく不敵な笑みを浮かべていた。
「体術に魔術を組み込むか。いいじゃないか」
「その余裕・・・ホントムカつく!」
フィーナは残った片足をかかと落としする。
アヤトはソレを掴み、氷結した部分をベリベリと剥がしながら地面に打ち付け、砲丸投げのように投げられる。
「・・・あ、服ちょっと破れた。やっぱ脱いだ方がいいか?いやでもな・・・」
「いいじゃない。そんなの脱いじゃえば。私もどんな肉体をしていればそんなに強いのか気になるし、ね?」
アヤトの背後から少女の声。
慌てる素振りもなくアヤトがゆっくりと振り向くと、そこには薄地の服を着た白い少女が妖しい笑みを浮かべて大鎌を背負っていた。
「ある意味驚いたな。背後を取ったらすぐに斬り掛かって来るかと思ってたのに。敵意すらないとは」
「言ったでしょ、もう貴方たちには何もしないって。まぁでも、愛しのあの子がボロボロにされてるのを見て、少しイラッとして加勢したい気になっちゃうけどね・・・これでも我慢してるのよ?」
ジワリと、少女から敵意が滲み出てくる。
「やめろ、お前が参加すると他の奴らが何もできなくなる。これ修行なんだから、そうなっちゃったら意味なくなるだろ」
「それじゃあ、カイト君だけ借りていい?」
「まだ始めたばっかなんだ、後にしろ」
「少しでいいから!ね~ね~、ちょっとでいーから~・・・」
駄々をこねる子供のようにアヤトの体を揺する少女。
「ったく、ランカみたいな駄々こねやがって・・・少しだ。休憩ついでに貸してやる。すぐ返せよ」
アヤトは離れた地面に転がってレナに介抱されているカイトを指を差す。
そして少女は外見に見合った笑みを浮かべて言う。
「ありがと♪」
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