最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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夏休み

勉強会

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 「ギルド登録、ですか・・・?」


 さっきの話をカイトとレナの二人にすると、カイトはあまり乗り気ではなさそうに唸り、レナはオドオドとして慌てふためいていた。


 「何か問題、というか不満でもあるのか?」

 「そうですね・・・不満というか不安というか、一応問題はありますが・・・」

 「えっと、ですね、ギルドの登録って、試験があります、よね?」


 レナは落ち着かなそうに指をイジりながら言った。


 「ああ、あるな。魔物の素材集めと筆記問題の二つが」

 「それ、なんですけど、私たちが、挑戦する、には、まだ早いんじゃ、ないかって・・・」

 「早い?登録なんて早めに済ませておいた方がいいんじゃないか?」

 「で、でも・・・その試験内容、まだ私たちには、難しい、と思います」


 試験内容が難しいって・・・。


 「魔物ならお前たちの実力ならすぐ倒せるだろ?しかもそこら辺にいる雑魚でもいいし。心配なんてしなくていいんだぞ?」

 「あああの、そっちじゃ、なくて、筆記問題、の方、です・・・」

 「ん?」


 レナの言葉に頭が一瞬活動停止し、しばらく沈黙。

 ・・・ん?


 「筆記問題って、あの筆記問題だぞ?」

 「は、はい・・・」

 「一+一とかの足し算掛け算だけだぞ?」

 「はい・・・」

 「文章問題でさえないんだぞ?」

 「は・・・ぃ・・・」


 何度も確認するように問い詰めると、肩をすぼめて軽く涙目になってしまった。

 そうか、失念していた。
 俺やユウキ、ノクトのように元の世界では足し算掛け算は当たり前だが、ここではそれが難しい問題になっているという事に。
 だとしたら少し面倒だが、「ソレ」しか方法はないな。

 何かを言いたげに俺を見ていたカイトだが、それより先に俺が言わせてもらう。


 「・・・勉強だ」

 俺が何を言ったのか理解できなかったのか、四人は「え?」と同時に呟いた。

 「ギルドに行くのは中止!勉強会を開くぞ!!」


 ーーーー


 居間にある食器や邪魔になりそうなものを机から片付け、それぞれの教材を並べる。
 ミーナ、メア、カイト、レナの四人をその机に座らせた。


 「まぁ、ミーナは実際冒険者になってるから試験は通ったという意味で大丈夫だろうけど、ついでに参加してくれ」

 「・・・むぅ」


 不満そうに呟くミーナ。
 しかし逃げずに大人しくちょこんと座っているのは良い事だ。


 「とりあえず、コレをやってくれ」


 カイトたちの目の前に一枚の用紙を置く。


 「コレって・・・」

 「冒険者登録する際に出される計算問題だ」

 「マジですか!?」


 カイトは大袈裟なリアクションをして問題用紙をまじまじと見つめ、レナとミーナは「おー・・・」と薄いリアクションで見つめる。


 「・・・ホントだ。試験にそっくり」

 「まぁ、数字が違うだけで大体同じ問題だよ。適当に書いただけだ。足し算十、引き算十、掛け算十五、割り算十五の計五十問」

 「あのー・・・その掛け算とかはまだやってないんですがー・・・」

 「まぁ、とりあえずやってみるだけやってみろよ。カイトとレナは最初の二十問だけでもいいから」

 「わ、分かり、ました・・・」


 ~ 一時間後 ~


 試験の時と同じ時間経過し、それぞれ各用紙を集めて採点してみるとーー

 カイト 十ニ問
 レナ  二十五問
 ミーナ 四十八問
 メア  三問

 と、以上の通りとなったのだが・・・


 「メアちゃん、O☆BA☆KA!」

 「うぐっ・・・!」

 「三問て・・・カイトたちより上級生なのに三問て!採点しててびっくりしたぞ!?最初の足し算三問合ってただけでそれ以外×なんだから!」

 「いやな、アヤト?これにはちょっとした事情が・・・」

 「・・・まさか引きこもってる間、本当に引きこもってるだけだったとか?」

 「・・・一応家庭教師みたいなのは来てくれたんだが・・・」

 「来てくれたんだが?」

 「俺ってアヤトたちに会った時あったじゃん?あんな感じで睨んだら、思いっ切り頭を下げて泣きながら帰って行って・・・他にも来た奴らも似たような事になって・・・」

 「教えてもらえる奴がいなかったと・・・自分で勉強はしなかったのか?」

 「たまに色んな本が詰め込まれた部屋があったから、そこで適当には読んでたけど、こういう計算の本は全くだな・・・」

 「・・・なるほどね」


 メアの現状に大きく溜息を吐く。
 そしてもう一度他の奴の採点結果の点数に目を向ける。


 「・・・カイトは半分より少し多め、なだけで、点数的には高くない。レナは・・・意外と掛け算を何問かクリアしてあるな・・・予習でもしたか?」

 「あ、は、はい!えっと・・・少し、先が気になって、お姉ちゃんに、教えてもらった、事がある、んです・・・」

 「なるほどなー、偉いな、レナは」

 「ふぇ!?あ、ありがとう、ございます・・・」

 「ミーナはケアレスミス程度か。まぁ、ここんとこは頑張れだな」


 ミーナは「ん」と短く返事をして頷く。


 「そういえば師匠は試験は何点で合格したんですか?」

 「アヤトは満点」


 俺が答えるより先にミーナが自慢気に答える。
 その答えに三人が「おー!」とパラパラと拍手が俺に送られる。

 やめろ恥ずかしい。

 「師匠って頭良かったんですね!」

 「なんだろうな、向こうの世界ではこの問題は「この程度」で済むから、ここで持ち上げられてもこそばゆい感じしかしないんだが・・・というか恥ずかしい」

 「ハハッ、ホントだ、アヤト耳まで赤くなってる!」


 メアがイタズラに俺を指差して笑う。

 俺もお前の点数を爆笑してやろうか・・・。


 「とにかく、だ。レナは基本的な事を教えれておけばいいとして、問題はカイトとメアという事か。ミーナ、レナの方を頼んでいいか?」

 「ラジャ」


 ピッと軽く敬礼して席から立ち上がり、レナの横に行く。
 そして俺も、適当に座っていたカイトとメアを並ばせ、その真ん中に立つ。


 「アヤトー、本当に勉強すんのかぁ?」

 「怠そうにするなよ、メアも冒険者になりたいんだろ?ならさっきの問題くらい解いてもらわないとな。っていうか・・・正直、流石にここまでバカでいてほしくない」

 「「酷い(ぇ)!?」」


 酷いのはお前らの頭だ。
 まさか登録以前にこの問題にぶつかるとは思ってもみなかったぞ・・・。
 もしこれを理解させるのに一時間どころか一日、二日・・・もしかしたら夏休み全部使わないといけないなんて事になってりしたら・・・いや、そんな事・・・ないよな?

 一抹の不安を覚えながらカイトたちに勉強を教える事となった。


 ーーーー


 それから三時間経過。
 ちょくちょく休憩を挟みながらも教え続けた結果、普通に理解してくれた。
 流石にそこまで理解力が乏しいわけじゃなく、ちゃんと教えれば解ってくれるようで助かった。
 そしてさっきの小テストを、内容を変えてもう一度手渡して、同じく一時間後に採点。
 結果は上々、全員四十問以上の正解を叩き出した。ちなみにミーナは五十問全て正解した。


 「良かったよ、三時間で理解してくれて・・・」

 「いえ、先生が教えてくれるより分かり易かったですから・・・いっそ先生なんて目指してみたらどうですか?」

 「嫌だよ、先生なんて。柄じゃないし、あんまり多人数を相手にしたくない。今お前らを教えてて身に染みた」

 「本当に酷え言い草だな・・・それじゃあ、もう勉強は教えてくれねえのか?」

 「いや?ただ先生になるのはお断りってだけで、お前たちになら教えるさ。・・・とはいえ、冒険者登録に必要な知識は十分備わったと思うし、他を教えるとしてももう残りは少ないんだが」

 「・・・そっか」

 「・・・まぁ、商人になりたいとか言い出すんなら、もう少し付き合ってもいいけどな?」


 そんな冗談を言ってイタズラに笑う。


 「分かってて言ってるだろ、アヤト・・・」

 「ですね。俺たちがそんなの目指すわけないって知ってて言ってますよ、アレ」

 「いや、それ以前に、お前らに似合わないし」

 「師匠ホントさっきから酷いですよね!?」
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