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夏休み
今日の予定
しおりを挟むとりあえず、さっきの話で決めた通りノワールにガーランドだけをガーストへ送り届けさせた。
ついでに下手に死んでもらっても目覚めが悪いため、ノワールには当分ガーランドを監視してもらう事にしてある。
ちなみにユウキとイリアも先にノワールに送ってもらったところだ。
ユウキとはせっかく会ったのに別れるというのは残念なところではあるが、事情が事情なだけにしょうがない。
お姫様を一人で返すわけにはいかないし。
「あの子が人の言葉を素直に聞く姿を見れるなんて、新鮮というか斬新というか・・・本当に外に出て良かったわ。クフフ」
玄関でノワールを見送った俺の横にチユキがフラフラとやって来た。
昨日カイトとコイツが話でいたのは名前の事だったようで、チユキと名付けたと聞かされた。
チユキ・・・偶然かどうかは知らないけど、雪のような髪と血のような瞳から取ったんだろうか?
だとしたら中々エグいセンスになるな、カイトも。
とはいえ、女らしいと言えばらしい名前なので、余計な事は言わないでおく。
「さて、と」
簡単な時間を確認するために上を向くと、丁度太陽が真上を少し過ぎた辺りにある。
一時過ぎた頃頃か。
・・・ふーむ。
いざ夏休みに入ったは良いけど、何もやることが思い付かない。
いや、正確にはあるっちゃあるけど・・・王都に行くのは少し先延ばしにしよう。
俺が悩んでいると、チユキがニヤニヤしながら顔を覗き込んで来た。
「どうしたの?そんな学生が「いざ休みに入ったは良いけど、何もやる事が思い付かない」みたいな顔して」
「一言一句当てて来んなよ。何、俺の顔って何か語ってんの?背中や拳だけじゃなく顔でも語れる時代が来たのか?」
「・・・クフフ」
俺の言葉を聞いたチユキは意外にも、特に含みがあるわけでもない純粋な笑いを浮かべていた。
「・・・なんだよ」
「いいえ、意外だと思っただけよ。貴方が私と普通に口を聞いてくれるなんて、って」
「・・・ま、ギスギスしてるとストレスでどうにかなりそうだからな。そんなの俺の性に合わないし、繊細な俺はすぐに病気になっちまうよ。だからお前が堂々と何かしない限り気にしない事にした」
「へぇ・・・クフフ、「繊細」、ね・・・。でももし、それでもまた私が何かしたら?」
「言っただろ?カイトたちに何かあったら、お前を粉微塵にして収納庫に入れてやるって。今度はもう許さん」
「そう、クフフ・・・」
「ついでにカイトたちに・・・いや、カイトだけでもいいか。アイツに何かあったら全部お前のせいだから」
「あら、酷い」
チユキはそう言って「クフフ」と笑う。
「でもそれってつまりーー」
俺が何を言いたいか察したチユキはニヤリと笑い、言葉を続ける。
「カイト君を守ってあげてって事でしょ?」
「本当にカイトの事が好きならな。俺たちんとこに来るってんなら、それくらいはしてくれ」
「ええ、そうね。・・・クフ、クフフ・・・クフフフフフッ!」
「何んで急に気味の悪い笑い方するんだよ・・・」
「ちょっとね・・・私もあの子、ノワールも、今までずっと「奪う」事をして来たけど、まさか「守る」ものができるなんて思いもしなかった。守るくらいならいっそ壊してしまった方が楽、なんて考えだったし。でもカイト君はそうはいかないのものね~♪」
そう言ってチユキは鼻歌混じりにカイトがいるであろう部屋の中に入って行き、中から「のわ~!?」という愉快な悲鳴が聞こえて来た。
「・・・はぁ、やれやれ。面倒事は嫌いだった筈なのに、自らから爆弾を抱える事になろうとは・・・」
・・・こんなところで「何事もなければいいんだけど」なんて発言はしてやらねえぞ?そんな面倒事が自動的に運ばれて来そうなフラグを立ててやるものか。
当分は絶対平和を満喫してやる。
ーーーー
再びさてというかなんというか。
とりあえずという名目でギルドに行く事にした。
という事で簡単な身支度を整えている最中、玄関の外でアルニアがやって来てジト目で頬を膨らませて怒り、ミランダを連れて行こうとしていた。
「そんなに抜け駆けが好きな方だったっけ?姉さん」
そう言ったアルニアは私服姿で腕を組んで佇んでいた。
夏休みだから当たり前なんだろうけど、私服姿のアルニアとミランダが喧嘩しているところを見てると、やっぱり姉妹なんだなという気持ちになった。
「あ、いや・・・そんな抜け駆けなど・・・」
「「友人と親睦を深めに行く」なんて言って四日五日も帰って来ないし、もしかしたらなんて思ってアヤト君の家に来てみればエプロンなんて着てお皿洗ってるし・・・何で通い妻じみた事してるのかって事」
「通い妻」という言葉を聞いて照れ臭そうに頬を紅潮させ、頬を掻くミランダ。
その反省の色が見えない様子にアルニアは少しムッとしていた。
「そんな・・・大袈裟だろう?それに嘘はついてないぞ。さっきまでルビアと飲みに行って・・・」
「それはそれで問題があるけどね」
キッパリと答えたアルニアにミランダが「うぅっ・・・」と気まずそうに唸る。
その光景は姉妹の立ち位置が逆なんじゃないかと思わせる和やかなものだった。
すると遠目で見ていた俺を見つけたアルニアがパッと表情を笑顔に変えてこっちに来た。
「や。姉さんが迷惑を掛けたね」
「ホントだよ、全く。半分は俺に責任があるかもしれないが、元々自重しない性格だったらしいしな・・・」
「アハハ・・・変わっても変わらないところはあるって事だね」
「まぁ、いいや。そこまで迷惑ってわけでもないし、今回はイリーナが招待したようなもんだし」
「・・・イリーナさん?イリーナさんもいるのかい?っていうか招待って・・・」
意外そうというか、驚いた表情で俺を見るアルニア。
すると玄関からイリーナがチラリと見え、俺たちに向かって一礼して去って行った。
「えっと、前はいなかったよね?」
「ああ、最近な。毎回宿屋を取ってるって言ってたから、それならいっそこの屋敷の空いてる部屋を貸してやろうかって提案したんだよ。それにーー」
「アヤトアヤト!」
トテトテとヘンテコなぬいぐるみを抱えたランカが屈託のないキラキラとした笑顔で走って来た。
「物は相談なのですが、私に割り当てられたあの部屋は好きにして良いのですか!?」
「・・・あんま迷惑にならないものなら。騒音とか爆発しそうな物とか置くなよ」
「ええ勿論!それはこの「直視の魔眼」に懸けて誓いましょう!」
そう言ってランカは眼帯の前に横Vサインを付け、「ヤッフー!」と両手拳を天に突き上げながら叫び、恐らく割り当てられたであろう自室に入って行った。
大丈夫、だよな?
危険はないとは思うが、なんでこんな不安になるんだ・・・。
と思っていると、今度はペルディアがやって来た。
「ああ、アヤト。・・・とその友人か?そういえばここは学園の敷地内と言っていたな。いや、それよりもフィーナを見なかったか?」
「いんや?またアイツとじゃれ合ってるんじゃねえの?ほらあの・・・暇だからってついて来た奴」
「ナルシャの事か?・・・そうか。フフッ、意外と仲が良いのかもしれないな」
それだけ言って去って行くペルディア。
「・・・今の二人は魔族・・・だよね?あの人たちも?」
「ああ、中に入ればまだまだいるぞ?今や大家族だ」
俺の冗談めいた言葉にアルニアは「そうだね」と小さく笑って返してくる。
「なら、僕や姉さんもその家族に加えてもらおうかな?」
「お、おい、アルニア・・・それはーー」
「ああまぁ、それは構わないけど・・・」
意外な返答だったのか、二人が「えっ?」と声を漏らす。
「この屋敷ホントデカいから部屋なら腐る程余ってる。押入れみたいに物が詰め込まれた部屋も片付けて数えるならもっとあると思うぞ?」
「へ、へぇー・・・そうなんだ・・・。ちなみにアヤト君は、その・・・女の子を住まわせる事に抵抗はないの?」
「え?あぁ、寮だと思えば特には」
「そ、そうなんだ・・・」
「そりゃまぁ、男女一人ずつならそういう考えも出てくるかもしれんけど、これだけ数がいると兄弟姉妹って感じになってくるからな・・・」
「そういうものかな・・・?」
「そういうもんだ。・・・というか、そういう事にしておけ」
俺は別に女に興味がないホモ野郎じゃない。だからそういう理由が妥当だろう。
「ところで君はこれからどこか行こうとしてたのかい?」
「ああ、ギルドに行こうとしてたところだ」
「あ、そうだったんだ?ごめんね、引き止めちゃって」
「いや、別にいいさ。・・・今回は付いて来るって言わないんだな?」
「まぁね・・・元々帰りの遅い姉さんを母さんたちが心配してたからは僕が迎えに来ただけだし、同行するのはまた今度にするよ。それじゃあ姉さん、行こっか?」
「ああ、そうだな。ではこれで失礼させてもらうよ」
ミランダは名残惜しそうにそう言いながらアルニアと共に帰って行った。
と、いうわけで。
俺ももう一度中に入ってミーナや他の奴に声を掛ける。
「ミーナ、これからギルドに行こうと思うけど、一緒に行くか?」
「ん、行く」
「ラピィたちはどうするよ?」
近くで雑談をしていたラピィ、アーク、セレスに声を掛ける。
「あー、私はいいやー」
「俺もー。今日はこの屋敷でゆっくりさせてもらうぜー」
ラピィとアークが見事に寛いで、というかダラけていた。
その姿はまるで兄妹のようだった。
近くに座って本を開いていたセレスは視線を俺に向け、ニッコリと微笑む。
「二人がそう言うなら私も残りますぅ」
「そっか」
それだけ言ってミーナの身支度が整うのを待っていると、メアが少し寂しそうな表情で近寄って来た。
「ギルドに行くのか?」
「ああ、一応収入源でもあるし」
「そうか・・・」
「なんだ、寂しいのか?」
「・・・うん」
意外にも素直に答えてくれた。
しおらしくて女の子らしくはあるが、メアらしくない。
・・・いや、悪口じゃないぞ?
この状態のメアに適当に留守番をしててくれと言うわけにもいかず、どうしようかと迷っていると身支度を整えたミーナが丁度やって来た。
「・・・どうしたの?」
「んー、いや、ちょっとな・・・。ギルドの登録するのに年齢制限とかはあるのか?」
「・・・?一応無いけど、強いて言えば十六歳以下は保護者必須」
「保護者ねぇ・・・それって俺かミーナでも良いって事か?」
保護者ってんなら成人を過ぎた俺たちなら大丈夫な筈だ。
そしてその問いにミーナはコクリと頷く。
「でもその場合、本人が依頼を受ける時、保護者は同伴しなきゃいけない。そして本人の失敗は保護者の責任、ペナルティは同じ重さが二人両方に行く事になる」
「なるほど。んじゃ、どうせなら三人の登録に行くか」
「「・・・え?」」
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