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夏休み
今後の方針
しおりを挟む「さて、学生の誰もが待望した夏休みに入ったわけだが」
そう言って話を切り出す。
いつも集まる広めの部屋にメアたちにを始めとして、ガーランド隊やユウキとイリアを集めていた。
そして続け様に一言。
「お前らいつまでここにいるの?」
「「え?」」
俺の問い掛けにまさかの全員一致での驚きの声。
「いや、そこまで揃ってると俺が間違ってるのかと錯覚してしまいそうになるけど、誤魔化されねえぞ?何気に馴染もうとしてるけど、お前ら元々魔族大陸に派遣されたり、事故で飛ばされたりしたんだろ?いいのか、帰らなくて?特にユウキたち」
「なんで俺たち?」
「お忘れですか?私たちは魔族大陸に強制送還されている状態なのですよ?つまり今は誘拐されているという事でナタリアが報告して、国では大騒ぎになっている筈ですのよ?」
「・・・って言ってるあんたも、ちゃっかり茶ぁ飲んで和んでるように見えるんだけどな?」
そう言うとイリアは湯飲みに口を付けながら「うっ・・・」と呻き、ソッと机の上に置いた。
「これはっ・・・出されたのに飲まないわけにはまいりませんから・・・」
「あ、そう。良かったよ、帰るのが嫌でここに居つくのかと思ったから。帰るんならいい」
「うぅ・・・」
イリアは俺の言葉に落ち込むように項垂れる。
なんだろうね、この罪悪感は。俺は何も悪くないのに。
「そんなにイジメてやるなって。イリアもお姫様の仕事で忙しいんだから」
「うっ!」
ユウキがケラケラと笑いながらそう言うと、今度は別の場所でメアがダメージを受けていた。
なんだこの部屋は?地雷部屋か?
っていうか・・・
「他人事みたいに言ってるけどお前もだからな?ユウキ」
「ん?俺?」
「なんで俺も?」みたいな感じに首を傾げるユウキ。
「お前、イリアと一緒に飛ばされて来たんだろ?って事はユウキはソイツに召喚されてそれまで行動を共にしていたと思うわけだが・・・」
「あ、ああ、まぁ、そうなんだけど・・・」
「そ、ソイツ・・・?」
イリアは信じられないものを見るような目で俺を見ていた。
どうやらイリアに向けた俺の言葉が気に入らなかったらしい。
「あぁ、悪い。一応あんたも「王族」だったな。けど残念だが、俺は敬語ってのが苦手でね。粗相だのなんだの、そこんとこは諦めてくれ」
「・・・・・・」
「あー・・・アヤトはこういう奴だから、勘弁してやってくれ・・・」
「・・・はぁ、まぁいいでしょう。幸い、今は場を掻き乱す程騒ぐ輩が私の近くにいない事ですし。ですが、仮にも王族。せめてもう少しだけでも敬意を払う事はできませんか?」
「ふむ・・・前にルークさんに敬語使おうとして逆に気を遣われちまったし。正直めんどい」
「めんど・・・!?」
「そんな事はどうでもいいんだよ!国に帰るかどうか決めてくれ。帰るんだったら・・・ノワール、コイツらの国には行けるか?」
「勿論、造作もない事です」
余裕の笑みを浮かべて答えるノワール。
流石ノワール、楽で助かる。
「という事だ。言ってくれたら送ってくが」
「あのー・・・」
ノクトがスッと、迷い気味に手を挙げる。
「それって逆に、帰りたくない場合って、ここに残っても良いって事ですか?」
ノクトの発言にガーランドたちが驚き、ラピィが食って掛かるように身を乗り出した。
「ノクト様!?そ、それってどういう事ですか!?まさかここに残るなんて言わないですよね・・・?」
「んな事は流石にないだろう?なぁ、ノクト?」
「・・・・・・」
陽気に肩を組んでヘラヘラと笑いながら同意を求めるアークに対し、ノクトは暗い表情で沈黙していた。
「ノクト、本気か?」
ガーランドが真っ直ぐにノクトを見つめて問うと、ノクトもまたガーランドを見つめ返し、ゆっくりと頷く。
「僕はガーランドさんたちの事は信用しています。ですが、あの国の人たちは信用できません」
「「ッ!?」」
迷う事なくキッパリと言い放つノクト。
その言葉を聞いたラピィたちは驚いていたが、ガーランドは腕を組んで静かに目を閉じ、シャードは興味も無さそうにタバコをふかして落ち着いていた。
「・・・分かった」
「隊長!?」
声を上げて抗議しようとするラピィに対しガーランドは、目を細く見据えて低く重い言葉を出す。
「この任務に関わった時点でお前らも無関係ではなくなっているから話すが、恐らくこのままノクトを連れて帰れば、アイツらがノクトを殺そうとする可能性が高い」
「なっ!?」
「そんな・・・」
ラピィとアークが戦慄する中、セレスが顎に手を当て考える仕草を見せる。
「なんで・・・まさか利用価値が無くなったとか言わないよね?魔王なんて次から次へと替わるんだし・・・その度に新しい勇者を呼ぶなんて・・・」
「・・・余計な知恵を付ける前に処分する・・・?」
ラピィの疑問に答えるように呟かれたセレスの小さな言葉は部屋に木霊し、ほとんど全員がセレスを見つめた。
「あっ、いえ・・・これは何の根拠もない憶測なのですが・・・」
「いや、実際そうだろう」
ガーランドが溜息を吐いて肯定する。
「とはいえ、勇者召喚はそうそう簡単にできるものではない筈だ。そこまで非効率な事をしてまでやる事なのかは分からないが・・・いや、そもそもこれは俺の考えの範疇から出てないから、「そう」だとは確信できていないんだがな」
「・・・恐らく、ガーランド殿の言っている事はあながち間違いではないと思うぞ」
ミランダが神妙な顔付きでそう言い放つ。
「・・・ミランダは何か知っているという事か?」
「そうだな・・・そもそも勇者の召喚に必要なものはなんだと思う?」
「召喚に必要なもの・・・?それは魔力では・・・」
ガーランドの回答にミランダは首を横に振る。
「確かに魔力は必要だ。しかしそれとは別の代償がが必要になる。それは・・・人の命だ」
「・・・やはり・・・そうか」
重い溜息を吐くガーランド。
「人の・・・命・・・?ねえ、隊長・・・どういう事?本当なの、それ・・・?」
ラピィは息を乱しながら問い掛けるが、ガーランドはそれを肯定するでも否定するでもなく、話を続けた。
「ノクトを召喚する直前、多くの行方不明者が出ていた」
「行方不明者って・・・もしかして、最近になって有名な魔術師が立て続けに消えてるっていう、あの?」
「ああ。そして牢獄に入れられていた凶悪な犯罪魔術師もだ。脱獄した形跡も無ければ出所したという知らせもない。それどころか、まるで最初から牢獄になど入れられてなかったかのように経歴が消されていた」
「・・・まぁ、そこんとこの結論は容易に想像できるわな」
俺は吐き捨てるかのようにそう言って嘲笑った。
本当に権力を持ってる奴ってのは・・・。
一瞬全員の視線が俺に集まり沈黙したが、ミランダが話し始めた事により視線が戻る。
「勇者召喚とは異世界と繋げるため、禁呪の一つとされている。そしてその代償は十や二十で済まされるようなものではない」
「・・・村一つを潰すような数を生贄に捧げなくてはならない、という事か」
「・・・なぁ、ちょっと待ってくれよ」
そこでユウキが焦燥を浮かべた表情で割って入る。
「それじゃあ・・・俺を召喚したイリアも同じ事を・・・?」
「・・・そうです」
ユウキの問いに頷いて冷静に答えるイリア。
そう、イリアは自分が何を犠牲にして召喚するかを知っていてユウキを召喚したという事だ。
「そちらの国程非道な事はしておりませんが、重い罪を犯した者の命を積み上げ、ユウキ様を召喚させていただいた事は・・・真実です」
「・・・マジかよ」
眉間を摘み机に伏せるユウキ。
「・・・失望なさいましたでしょう?」
「失望、っていうより、なんというか・・・罪悪感ってやつじゃねぇか、コレ?俺の召喚が人の命を代償にしたものって・・・」
そう言って天井を見上げて「うーん・・・」と唸るユウキ。
ユウキには悪いが、そんなに気にしてるようには見えないのはコイツの今現在の態度のせいだろうか。それとも普段の行いのせいだろうか。
「そこんとこはお前が気にする事でもないだろ。他の奴らが勝手にやった事なんだから」
「で、ですわ!ユウキ様は何も悪くありません!行動を起こしたのは私たちなのですから・・・」
「あー・・・まぁ、こういうのは気持ちの問題だし、あまり気にしないようにはするケド・・・」
ユウキはそれでも納得できないという感じに頬をぽりぽりと掻く。
「まぁ、その話は置いといて。ノクトは決定するとして、他はどうする?」
「「・・・・・・」」
ラピィたちは顔を見合わせ、考えるようにしばらく黙る。
するとガーランドから意外な提案が出される。
「帰るのは俺一人でいい」
「俺一人でって・・・私たちはどうするんですか!?それにガーランド隊長は!?」
「とりあえず俺は唯一生き残りとして帰って来たという名目で王の元に報告に戻る。お前らはここで世話になるか、もしくは他の町でそれぞれ目立たずに生きていければーー」
「最初はそれでいいかもしれないが、それではそのうちすぐにバレるだろう」
シャードは咥えていたタバコを灰皿に潰し、ガーランドの言葉を遮った。
「まさかとは思うが、ガーランド隊長ともあろうお方が私たちが今までお世話になった諜報員の方々をお忘れになったわけではあるまい?」
そう言ってもう一本タバコを吸おうとするシャードにこれ以上ここで吸われても困るという事で待ったを掛けると、渋々と取り出したタバコを懐に戻した。
「・・・それもそうだな」
どうしたものかという空気の中、俺はある事を思い出す。
「・・・なぁ、その諜報員ってのは基本何人で動いてる?」
俺の突然の疑問にシャードは首を傾げる。
「なんだ急に?私は存在を知ってるというだけで、細かい詳細は知らないが・・・」
そう言いながらシャードはチラッとガーランドを見る。
「人数くらいなら・・・三人と聞き及んでいるが」
「服装は全身黒で統一されてて、胸に竜の紋章を付けてたりするか?」
「・・・何故そこまで知っている?」
目を見開いて驚いた表情を見せるガーランド。
その問いに俺は頭を掻きながら、申し訳なさそうに(面倒臭さそうにはしてないよ?)答える。
「魔城にいた時に何人か人間を見掛けたんだよ。合計すると十人くらいいたもんでね、ちょっとフレンドリーに話し掛けたらもれなく全員に無言で襲われたから、俺も・・・ね?」
「「俺も」・・・なんだ?」
「・・・ついやっちゃうんだ♪」
まるでどこかのハンバーガー店の赤いアフロをしたピエロキャラのような台詞を吐いて目を逸らす。
そして俺の様子を見て理解したユウキが苦笑いを浮かべて、「ああ、つい殺っちゃったんだな」と呟く。
「色んな奴はいたけど、その中には確かに三人組で竜の紋章付けた奴らがいたんだけど・・・」
「あー・・・つまり、今現在は我らの国と他いくつかの国の諜報員全て欠席状態という事か」
「ああ、事前に連絡はもらってある」
シャードとそんな皮肉を言い合いながらフッと笑い合った。
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