最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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夏休み

昇格

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 「うぅ・・・なんで私しかいない時に限ってこんな・・・」


 俺たちの前だと言うのに、涙目でブツブツと文句を呟きながら受付にちょこんと座り、何か書類にサインを書く少女。


 「まぁ、何があったか知らねえけど、気にするなよ」

 「へへっ、旦那の言う通りですぜ、お嬢さん!まだまだお若いんですから、何事も前向きに捉えなきゃならねえですぜ?」

 「誰のせいですか、誰の!?」


 軽くシメた効果で俺の事を旦那と言って下手に出る大男。
 そして落ち込んでたかと思いきや急に机をバンバンと叩いて怒り出した受付嬢。

 なんだ、もう更年期障害か?


 「せっかく楽しみにしてた受付の担当仕事初日なのに!いざ受付に立つとお客さんが誰もいなくて!急に先輩たちもギルド長も用事ができたと出掛けて行き!入れ替わるようにこの怖い人たちが入って来て好き勝手し始めて!そしたら次は要注意人物が子供たちを登録させに連れて来て!散々じゃないですか・・・!」


 不満を俺にぶち撒ける受付嬢。もう後半は涙で顔がグチャグチャになっていて、机に伏せて泣き始めた。
 なんというか、俺に比べたらと言えばそれまでだが、ここまで泣かれると不憫で同情したくなる程哀れに感じてしまう。

 っていうか、要注意人物って俺の事?俺そんな何かした?


 「もう、最近は何も良い事が起きない!付き合ってた彼には別の女がいた事が発覚して、それを問い質したら「ちょっとお前子供っぽ過ぎるんだよね」とか言って別れ話を切り出されたし!気に入ってたコップは落として割っちゃうし。お姉ちゃんが急に家に来て私を慰めに来たかと思えば彼氏自慢しに来ただけで?嫌味のように私の前でイチャイチャし出し、挙句の果てにはそれが段々エスカレートしていって夜になる頃には家主である私が追い出される形になるし・・・そういう事がしたいんだったら自分の家建てるか、宿でも借りてサルみたいに勝手にやってろってんですよ!!ついさっきなんて足の小指をぶつけるし、そこの男なんてなんて言ったと思います?「いいなぁ~、お嬢ちゃんみたいな可愛い娘はカッコ良い兄ちゃんに毎晩可愛がられてるんだろぉ?俺にもその幸せを分けてくれねえかなぁ~?」って・・・だから別れたっつってんでしょう!?なんで話を蒸し返すんですか!?そんなに私を痛ぶって楽しいんですか!?それに私はまだ処女だっ!!」

 「「・・・・・・」」


 荒れ狂うように鬱憤を吐き出す少女。
 それは先程まで今にも消えてしまいそうに弱っていた面影など見る影もなかった。


 「おい、どうすんだ、コレ。最早仕事だけじゃなく私生活の愚痴まで言い出し始めてるぞ。しかも闇が深かったり浅かったり、聞いちゃいけない事まではっちゃけてるし。とりあえずそこのお前、コイツの愚痴が終わるまで土下座しとけ」


 この少女以外担当できる奴がいないとの事だったので、受付嬢が指差した男を土下座させ、それから落ち着くまで聞くしかなかった。


 ーーーー


 「・・・グスッ」


 愚痴り始めてから一時間後、若干グズっているものの、溜まったものを全て吐き出してようやく落ち着いた受付嬢。
 しかし愚痴り始めた受付嬢は最近の話だけではなく、自分の人生のほほ全ての不幸な身の上話を語り続けた。
 結果、ここにいる荒くれ者の全てが正座して涙を流していた。中にはおいおいと号泣してる奴もいる。


 「ウゥッ・・・そ、そんな事が・・・」

 「あんたにしか分からない辛さ・・・余程苦しかったろうに・・・ズズッ!」

 「だがお嬢!もう大丈夫だ!あんたにゃ、俺たちが付いている!もうこれ以上あんたを悲しませるものから守ってやる」


 「そうだそうだ!」とアンコールするように騒ぎ出す荒くれ者たち。
 正直な感想を言うとなんだこの茶番はと言いたいが、盛り上がってるとこに水を差すのも悪いと思い、黙って眺める事にした。
 と、横で鼻をすする音が聞こえて、そっちを見るとメアも男たちと同様に涙を流していた。


 「あ、ア゛イヅもだいへんだったんだなぁ・・・」


 あぁ、ここにも感化してる奴がいたよ。
 他の奴なんて俺と同様に茶番だと感じてるみたいで苦笑いして困ってるのに。


 「いやまぁ、確かに同情すべき不幸の連続なのは分かったんだけどな?そろそろ試験の続きをしてくれねえかなと・・・思うんだが・・・」


 先に進めるよう促すとキッと睨まれる。

 いやな?それ以上君が墓穴掘らないための優しい処置なのよ?
 だからそれ以上睨まないで?俺は悪くない筈なのに罪悪感を感じちゃうから。


 「というか、気付いてるかどうか知らんけど、後ろ」

 「後ろ?後ろがなんですーー」


 少女が不機嫌気味に振り返ると、そこには前回俺の担当をしてくれたお姉さんが、ある意味少女より怒りメーターが振り切れそうな勢いで少女を仁王立ちして見下していた。
 その様子はまるで不動明王の様。


 「随分世間話好きな女の子なのねぇ、貴女・・・」

 「せ、先輩・・・」


 携帯のバイブレーションのように小刻みにガタガタと震え出す少女。


 「ギルドに変な輩が出入りしてるって小耳に挟んだから、用事を早く済ませて来てみれば・・・何故その人たちを正座させて貴女は愚痴を聞かせているのかしらねぇ?」

 「い、いつ帰ってたんですか・・・?」

 「そうねー、確か貴女が学園に在籍してた時、友人に見栄を張って彼氏がいると言ったけど、結局嘘だとバレて学食を奢る事になった辺りかしら?」


 お姉さんはそう言ってにっこりと微笑んで見せたが、目が笑っていなかった。

 ああ、大体二十分くらい前の話題だな。

 一応俺やカイトたちは気付いていたが、特に教えてやる義理もないし、急ぎの用事があるわけでもないから大人しく聞いていたわけだが。
 そして少女は裏に連れられ行かれ五分後、説教されたらしい少女はこの世の終わりのような顔をして、お姉さんはどこかスッキリして戻って来た。

 あの人、怒ると結構怖いんだな・・・。


 「さて。お見苦しいところを見せてしまいましたが、改めていらっしゃいませ、アヤト様。本日はどの様なご用件で?」


 少しぎこちなさは感じるが、ビジネススマイルを顔に張り付けて接客モードに入るお姉さん。
 前回は突然の事で取り乱していたようだが、今は既に仕事モードに切り替わっている。


 「ああ、コイツらの試験を受けに来たんだが、もう筆記試験は合格したらしい。残りは魔物の素材を取りに行くだけだとは思うんだが?」

 「そうでしたか。では少々お待ちくださいませ」


 お姉さんが立ち上がって一礼して、先程から落ち込んでいる少女の元へと行った。
 恐らく確認をしに行ったのだろう、しばらくして戻って来ると再び笑顔で一礼した。
 ただ向こうに見える少女が、さっきより落ち込んで見えるのは何故だろうとは思うが触れないでおく。


 「はい、ではカイト様、レナ様、メ、ア・・・様・・・?」


 お姉さんは首を傾げてメアをいぶかしむように見つめる。

 やっぱり名前に疑問を持たれた・・・これはバレたか?
 いや、ここは平然として何気無く質問してみよう。


 「どうしたんだ?」

 「あ、いえ・・・きっと気のせいですね」


 内心でホッとする。
 お姉さんが話の続きを話し始める。


 「では・・・アヤト様からある程度の説明を受けているとは思いますが、未成年の場合少し違ってくるので、こちらでも再度確認を兼ねて説明をさせていただきますね。まず魔物の素材を持って来るのは変わりません。ただその際に付き添いも同伴し、付き添いの方は薬草を持って来てください。それと、今が夕方というのもあるので期日は明日の日暮れとさせていただきます」

 「了解。・・・そういえば、ここって何時までやってるんだ?」

 「はい、深夜の十二時まで営業しています。ですがやはり未成年という事で、今から今日中に行って帰って来るというのはあまりオススメしなーー」

 「よっし、往復しても十分間に合う時間だ!さっさと行って来るか!!」


 何か言い掛けた女の言葉を遮って、俺は意気揚々とカイトたちを連れてギルドを後にした。
 少しゆっくり目に歩いて行った事もあり、二、三時間掛けて近くにいた蜂や変な植物のような魔物を倒し、素材と薬草をギルドに持ち帰った。
 意外と早かったらしく、まだ受付に立っていた女が驚いていたが、それはともかくカイトたちは未成年冒険者としての登録という目的を達成した。
 だがしかし、決して大きくはない問題がそこで起きた。


 「はい、確かに。ではカイト様、レナ様、メア様の三人を仮冒険者として登録させていただきます。そしてアヤト様をその責任者としての登録もーー」


 ピーーーーッ!!


 「「!?」」


 突然のモスキート音に似た耳障りな甲高い音が辺りに響く。
 あまりの突然の音でギルド内にいた全員がビクッと肩を跳ねさせる。


 「ーーっと。一体何の音だったんだ?」


 音の発信源は女が座っている受付の机からだった。しかもその女の様子は尋常じゃない程に青ざめていた。
 そして震える唇をゆっくりと開けーー


 「・・・えっと・・・え?・・・冒険者アヤト様・・・SSランクへの昇格、お、おめでとう・・・ございます・・・?」

 「「・・・へ?」」


 女は焦点の合わない目で俺を見て、呟くような声でそう言ってガラス細工のギルドカードを渡される。
 そこには確かに、測定不能と書かれたレベルの下にSSランクと書き換えられていた。


 ・・・は?
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