最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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夏休み

お祝い

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 ギルド内が騒めく中、俺はギルドカードをジッと見つめる。
 SSランク。何度見てもSSランク。紛う事なきSSランク。
 綺麗なガラスのプレートに記された文字。


 冒険者 アヤト
 レベル 測定不能
 ランク SS


 Cランクから一気に一番上のランクへ到達していた。

 何故に?

 依頼を受けていない筈なのに、何故ランクが上がったのか疑問に思っていると、ミーナに裾をちょいちょいと引っ張られる。


 「アヤト」

 「なぁ、ミーナ?なんでコレ・・・」

 「ランクの貢献ポイントは依頼中でもそうじゃなくても反映される」

 「・・・えっと、それはつまり・・・」


 ミーナは軽く頷く。


 「向こうでアヤトが戦ったモノが反映されてる」

 「あぁ、なるほど・・・」


 それじゃあ、仕方ないなぁ・・・魔族沢山ぶっ飛ばしちゃったし、竜とか悪魔と戦っちゃったもんなぁ・・・。
 アレ?これ最初Eランクから始めた意味なくないか?


 「アヤト、目立ちたがり」

 「自分から進んで目立ちに行ってるわけじゃないんだが・・・」

 「え?違ったんですか?」


 「模擬戦ではあんなに目立ってたのに?」と首を傾げるカイト。

 確かにアレは楽しくなり少し舞い上がって悪目立ちしてしまったが、故意ではないとだけ言っておく。
 もう一つ言い訳させてもらえば、イリーナさえいなければ「ああ」はならなかったろうに・・・と。


 「にしても、俺がSSランクになった事に驚かないのな?お前らは」

 「むしろアヤトがまだSSランクになってない事に驚いたぜ」


 メアの言葉に同意するように頷くカイトとレナ。
 ミーナは俺の肩にポンと手を置き、「無駄な足掻きだった」と呟く。

 おぉう。
 確かにそれもそうかもしれないけど・・・それでも足掻きたいじゃないか。
 だって人間だもの。


 「ま、それはさておき。いつまで固まってんだ、あんたは?」


 引きつった笑いを顔に張り付けて、俺たちのやり取りを眺めていた受付の女の額を人差し指で突っついた。
 するとその顔から笑みが消え、重い溜息を吐いていた。


 「一体・・・前回このギルドにやって来てからその間に何をしたんですか・・・?」

 「おろ?俺が来た事は覚えてたんだな」

 「当たり前でしょう?貴方が前回来た時にランクには合わない依頼を持って来て、「サザンド」のギルド長に聞けば分かると言われて確認して、「大丈夫、問題ない」の二言が返ってきたかと思えば、「丁重に扱うように」とギルド長直々に言われたんですよ?」


 ガラス製の割れ物注意かよ、俺は。


 「しかも、依頼を達成したからと言って証拠に魔竜の頭部を持って来る馬鹿がいますか?」

 「・・・なんかごめんなさい」


 思わず謝ってしまう。
 確かにあの時はイライラしてて、ギルドカードを渡せばいいだけの話が、魔竜の頭を受付の上に置いてしまったんだった。
 結果的に言えばそこで素材を引き取って貰って金になったのだが、代わりにこの女が気を失って勢い良く後ろに倒れてしまった事を覚えている。


 「まぁ、とは言え、貴方が優秀な冒険者な事には変わりありませんので、おめでとうございますですね。、頑張ってください!」

 「ん?あ、ああ・・・ありがとう?」


 なんとなく含みのある言い方だったが、気にしないでおく。

 すると、俺たちが話し終わるのを待っていたかのように、周囲の奴らが怒号のような歓声を上げた。


 「SS?SSランクだと!?そこまで到達した奴がまた出て来たって事かよ!?」

 「さっすが旦那だぜ!俺たちと相対した時のあの威圧感!手も足も出せないあの実力!どこかでそうじゃないかと思ってたんだよ!!」

 「そのランクになる瞬間を拝む事ができるなんて・・・神様仏様に感謝だぜ!!」


 荒くれ者や普通の冒険者からの凄まじい賞賛。

 なんで本人である俺よりお前らの方が盛り上がってるの?

 するとメアに肩をちょんちょんと突かれる。


 「アヤト」

 「ん?」

 「そろそろ減ってきたから、食べない?」


 お腹を撫でるミーナ。


 「あー・・・そうですね。そういえばお昼食べてから何も口にしてませんでしたね。・・・どうしましょう?」

 「ああ、じゃあココアに俺たちの分は要らないって連絡入れといて、俺たちはこの街でなんか食うかね」

 「おー、久しぶりの外食だー」

 「私も、久しぶり・・・」

 「俺、初めてなんだけど・・・」

 「あれ、そうだったか?」

 「ああ。アヤトが俺たちに内緒でフィーナと二人で行った事は知ってるけどな?」


 メアは頬を膨らませてプイッとそっぽを向いた。
 その嫉妬はどっちの意味なんだろうと考えながら、周りから祝辞を浴びながらギルドを出て近くの店に入る事にした。


 ーーーー


 「やっぱり、マタタビ酒がない・・・」


 席に着いて、メニューを見たミーナの最初の一言だった。


 「まぁ、魔城にあったのが奇跡だったらしいしな。っていうか、あんま率先して飲まないでくれるか?俺たちの誰かがおんぶって帰る事になるんだから・・・」

 「ん、ファイト」

 「なんでマタタビ酒が無いのに潰れる前提なんだよ・・・。今日はカイトかメアに任せるぞ?」

 「あれ?レナは?」


 メアの言葉にレナに視線が集まり、「へ?」と間抜けな声を出す。


 「レナなー・・・何故かレナだと、たとえ軽いミーナでもおんぶできずに潰れそうなイメージがあるんだよなぁ・・・日頃の行いのせいか?」

 「えぇ・・・そう、言われても、困り、ます・・・」

 「まぁ、「コレ」じゃあ、って事ですよね・・・」

 「ふぇ!?か、カイト君まで、酷いよぉ・・・」

 「そうは言うが、レナ?もう少し強気になれないか?あと猫背。話題が自分に振られる度になってて癖になってるぞ。そういうのは鍛える面でも直しててほしいんだけど。ああ、俺は食う物決めたぞ」

 「うぅ・・・善処、します。・・・私は、肉揚げと、野菜焼きで」


 肉揚げとはつまり唐揚げの事なのだが。
 相変わらず商品は知ってても名前が微妙に違う事に、未だに違和感を覚えている。
 野菜焼きもキャベツを炒めるだけのもので以下同文。


 「俺も肉揚げと米を超大盛りで!」

 「メアさん凄いですね。アレを大盛りで頼みますか・・・。じゃあ、俺は魚のタレ漬けと薄切り肉、それでご飯で」

 「カイトと同じの」

 「りょーかい。ほいじゃあ頼むぞ」


 俺も肉揚げと野菜焼き、魚のタレ漬けに決めて、少し背を反らして近くにいる店員を呼び、注文する。
 食べ物が届くまでのしばらくを何気無い雑談で潰し、物が届き全員で食べ始めると、カイトが「そういえば」と思い出したように口を開く。


 「今更なんですが、師匠って年齢はいくつなんですか?ギルドに登録できてるって事は十七以上で成人してるって事ですよね?」


 この世界の成人年齢は十七からか・・・。

 何気無い会話から情報を得つつカイトの問いに頷く。


 「本当に今更だな、ってそういやカイトたちにはまだ俺の年を言ってなかったか・・・」


 学園ではメアと同じ年齢って事で俺の年齢は十六って事になってたっけな。
 っていうか、ここって十七で成人だったのか。


 「俺は今十八だ。ちなみにミーナもな」

 「そうだったんですか・・・留年、ってわけじゃないですよね?二人の実力でそうなるわけないですし」

 「まぁな。ここじゃ下手にできないような話だから、詳しい話が聞きたきゃ家に帰ってからにしてくれ」

 「あ、また厄介事の予感・・・」

 「またってなんだ?・・・別に今回は厄介事でもなんでもねえよ。メアの事情知ってるお前らなら、「なるほど」の一言で理解できる内容だ。・・・レナ、そこの赤いの取ってくれ」

 「あ、はい」

 「げえっ!?ソレ辛いやつじゃねえか・・・そんなもん付けるのかよ?」

 「少量付けるだけなら美味いぞ?」

 「いやぁ、俺は・・・」

 「あ、本当に、美味しい・・・」


 俺が食べてるのを見て興味を持ったのか、レナもすぐに付けて食べていた。
 そしてカイトも同様の食べ方をする。


 「俺もこのピリッとしたのが好きで、ついご飯が進んじゃうんですよ」


 「おかわりしよっかな」と呟いているカイトと、その横で幸せそうに肉揚げを頬張るレナ。
 メアは理解できないと言った感じに苦虫を噛み潰したような顔をし、ミーナは魚をチマチマ突っついて食べていた。
 俺もコチュジャンのような赤いものを付けた肉揚げを口に運ぶ。

 下手なレストランで食うより美味い。けど、どうせならもう少し濃い味付けの方が好みだ。
 こういうのには、胡椒やらマヨネーズが欲しいところだな。

 などと考えながら、外側のパリッとした衣の食感と内側のふんわりとした肉の食感を楽しむ。
 家で食べるのも良いが、こういう騒がしいところで雑談しながらの外食も乙というものだと思った。


 ーーーー


 ~ アヤトたちが去った後のギルド ~


 「もうお祭り状態ですねー・・・」


 ベレー帽を被った少女が何気無しに呟く。
 アヤトたちがいなくなったギルド内では既にかなり遅い時間だというのに、少女の言葉通り冒険者たちがお祭り騒ぎをしていた。
 ギルドで頼めるお酒をあらん限りと言わんばかりに注文し、乾杯している姿がそこら中にあった。
 そんな少女の呟きに、億劫そうに小さく溜息を吐いて答える女性が隣にいた。


 「ま、気持ちは分からないでもないんだけどね。今確認されているたった数人の最高ランク冒険者がまた一人増えたんだから。しかもランクが上がる瞬間を目の前で目撃すれば、誰だって興奮するわよ」

 「先輩もちょっと嬉しそうですもんね!」

 「うっさい。余計な事言う暇があったら、早くその書類終わらせなさい」

 「うぇー!?もしかしてコレを今日中にですか!?」


 少女の目の前にはドッサリと紙の山が国語辞典二冊分の厚さに重なっていた。


 「貴女・・・初めてここの担当になれたってずっと浮れてて、私が言ってた書類今日やってなかったでしょ?」

 「うぅ~・・・」

 「・・・はぁ、まぁいいわ。私の仕事はもう終わってるし、半分やってあげるわ」

 「先輩大好き!一生付いて行きます!!」

 「調子の良い後輩ね・・・ま、ちゃっちゃと終わらせましょ!」


 そう言って女性が少女の前に置かれた書類の半分を持って行く。
 それぞれがしばらく作業をしていると、女性の方から「あれ」と疑問の声が聞こえる。


 「どうしたんですか?」

 「ちょっと・・・さっきのアヤト君たちの詳細書類が混ざっちゃってて・・・」

 「あ、ごめんなさい!また私何かしちゃいましたか?」

 「仕方ないわよ、こんなに書類があったら」


 女性は間違いのないよう一つ一つ紙に書かれている内容を確認する。


 「そういえばあの人達、背の高い男の人と亜人の子って、二人共冒険者なんだけど二人共優秀な成績で試験を突破したらしいのよね」

 「へぇ・・・亜人の子もですか?筆記試験の内容なんてどこで学んだんですかね?」

 「さぁ?でもアヤト君も試験を満点合格だったらしいし、アヤト君に教えてもらってたんじゃーーえ?」

 「へぇー、あの人満点合格だったんですか!?いやー、文武両道っているんですねぇ・・・あれ、先輩?」


 女性は一枚の紙に目を留め、硬直している。
 心配になった少女は目の前で手を振ったり、肩を揺らしたりする。


 「おーい、せーんぱーい?どーしたんでーすかー?」

 「伝説級・・・一体と・・・神話級・・・四十二た・・・い!?」


 女性はそう呟くと目をぐるりと回り白目になり、後ろに倒れる。


 「え!?先輩!?先輩ィィィ!!?」


 急いで倒れた女性に駆け寄る少女。
 その横にヒラリヒラリと、女性が持っていた書類の一つが落ちる。


 冒険者アヤト
 魔物討伐数

 下級

 中級  一体

 上級

 超級  二体

 伝説級 一体

 神話級 四十二体
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