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夏休み
耐久勝負 9/14修正
しおりを挟む膨張し続けるアヤトの姿は既に竜と同じになり、生えた翼は物体ではなく魔力で生成されている。
腕の本数も六本、口も耳まで裂け大きく開き、体も黒々とした強固な鱗に包まれている。
しかしそれは竜というより、ノワールの言った通り魔物に近い禍々しさを放っていた。
「グオォォォォォ!!!」
その咆哮から巨大なかまいたちが無数に放たれる。
木々は綺麗に切断され、地面を大きく抉り、ソレらがシトたち目掛けて襲っていた。
「はっはっは、やんちゃだね~。これじゃあメアちゃんの事言えないよ?」
そんな中でも相変わらず楽観的な言い方をするシト。
その隣ではノワールが苦悶の表情を浮かべて魔術を発動している。
シトたちは術を発動し始めてから既に三時間が経過していた。
「ノワール君はそろそろ限界かい?」
「フン、これくらいどうという事はない。私よりも他の者に気を遣ったらどうだ?」
それでも軽口を叩く余裕はあるとアピールするノワール。
しかしその言葉通り、近くで魔術を発動し続けているウルは既に息も絶え絶えになっており、ルウもアヤトが暴れた際に一撃を貰い伸びている。
ペルディアは傍観している事しかできず、竜たちもただ眺めているだけだった。
ランカは少し離れた場所で何やら詠唱を唱えていた。
「儂らは捕縛するような魔術は持ち合わせておらんからなぁ・・・その鎖が断ち切られた時にでも加勢しよう」
「その場合野放しにするくらいならいっそ殺してしまって構わんのだろう?」
「こんな時に変なフラグ立ててほしくないんだけど・・・まぁ、野放しにするより、何かをさせるだけで魔力をどんどん消費してくからいいんだけど・・・あー、もうそろそろ六本目壊れるかな?」
金色の鎖からピシリと不穏な音が鳴る。
「全くー、普通は一本でも壊すのは中々難しいのにー」
シトはブーと口を尖らせて不貞腐れる。
すると二人の後ろの空間が裂け、中からココアたちが出て来る。
「お待たせいたしましたわ、ノワール様!アヤト様はどこ・・・に・・・?」
ココアが目を見開き、目の前にいるアヤトだったものを見て驚愕する。
契約していたからか、もしくは直感からか、ココアはソレがアヤトだと理解した。
そしてココアの目から涙が溢れ、泣き崩れる。
「なんという・・・お姿に・・・」
「悲観するにはまだ早い。アヤト様があの姿に変わったという事は、命の危険はなくなったという事だ。あとは我々が生き残り、アヤト様を元に戻せば何も問題はない」
「そうじゃぞ、今こそ我らの踏ん張り所」
「それじゃあ、あたしたちの力合わせてアヤトをぶっ飛ばして正気に戻そー!!」
「おうッス!頑張るッス!・・・って、ぶっ飛ばすんスか?」
ココアたちが縛られているアヤトの周りを囲む。
「「■■ーー多重封印」」
精霊たちが詠唱を同時に唱えると、眩い光を放つ巨大な剣の形をしたものがアヤトの巨躯な体を貫いた。
「ウグアァァァァッ!!?」
「うわぁー、いったそ~・・・」
「ごめんなさい・・・ごめんなさい、アヤト様・・・!!」
「しっかりせいココア!!お前がしっかりしなければアヤト殿は戻ってこんぞ!」
「分かっています!!」
ヒステリックに叫びながらも決意を固め、姿の変わってしまった主人を見据えるココア。
体を固定されたアヤトは腕や脚だけをブンブンと振り回しもがく。
「助かったよ。これだけ暴れてるのに、アヤト君の魔力の底が全く見えないんだもん・・・」
「当然だ・・・主人がこの程度魔力を減らしただけで無くなる筈がないのだからな!」
「・・・ノワール君、ホント君性格変わったよね?それにこの程度って、アヤト君は既に君の最大量の五、六倍は使ってるんだよ!?」
「オオオォォォォォッ!!!」
「ッ!!来るよ」
すると突如アヤトは咆哮を上げ、口の中で何かを練り上げる。
その動作に正面にいたシトとノワールが焦り移動する。
しかし唯一、ランカが詠唱に集中したままソレに気付いていない様子だった。
「チッ、奴は捨てるか・・・?」
「ランカ!!」
声を上げたのはペルディアだった。
ランカの前に駆け寄り、アヤトとの間に瞬時に分厚い土の壁を形成する。
「アレは流石に・・・無茶だね」
そしてアヤトのソレは次の瞬間、無慈悲に放たれる。
放たれたものはただの空気だったが、正面にあった木々やペルディアの形成した土の壁を全て吹き飛ばした。
しかしギリギリペルディアたちには及ばなかった。
「ぐっ、あっ・・・!!・・・だ、が・・・なんとか凌ぎきーー」
安心したのも束の間。
いつの間にか不自然に胴体が膨らませていたアヤト。すぐに二撃目が放たれる。
先程の空気だけのものと違い、アヤトの体より巨大な丸い玉を吐き出した。
凄まじい密度に練られた魔力の塊。高速で撃ち出されたソレは既にペルディアの目前に迫っていたーー
(ここまで・・・か・・・)
ペルディアは諦めて目を瞑る。
そしてペルディアとランカがいた場所を何事もなく通過し、遥か先で爆発を起こす。
その爆風がノワールたちに届く。
「クソ、手遅れか・・・いやーー」
「だね、間に合ったみたいだ」
シトは先程ペルディアたちがいた場所ではない方向を見て呟く。
そちらに頭部が三つもある巨大な犬が姿勢を低くして立っている。
その背には誇らしく立っているランカと、ぐったりとしたペルディアが乗っていた。
「ふ・・・フハハハハハハァッ!!今こそ古の契約により、我に仇なす者の血の雨を降らせ!「血を喰らう者」!!・・・今回はちゃんと召喚出来ましたからね!」
ソレは初めてアヤトとの出会った時に召喚しようとして失敗したケロベロスだった。
「グオォォォォォ!!」
「ガアァァァァァ!!」
共鳴するように咆哮する二匹。
その二つの咆哮から生み出されるかまいたちが互いに衝突し合い、辺りに撒き散らされる。
「チッ!おいトカゲ共、貴様らも役立たずでなければ何かしろ!」
「黙れ!貴様に言われずとも・・・!」
「嫌だのう・・・あんなもの食らったら肌が荒れそうだ」
「人間の雌か貴様!!?」
「アッハッハ~、本当に余裕だね君たち?」
自分たちに向かって来るかまいたちをブレスで掻き消す竜たち。
すると再びアヤトは口を膨らませ、ランカたちに向けてさっきよりも早く放った。
ランカは慌ててケロベロスの背をペチペチと叩いて指示を出す。
「ちょっ!?早く逃げてください!さっきよりも小さいですけど速く威力も申し分ないーーびゃっ」
言葉の途中で高速で移動し始める。
あまりの速さにランカは「にぎゃぁぁぁ!?」と奇声を上げながら、ケロベロスの毛と落ちそうになってるペルディアを何とか掴んで離さなかった。
すると標的を完全に定めたアヤトは、先程と同じものをケロベロスに向かって連続で放つ。
「何でこっちばっかり狙うんですか!?何か私に恨みがあるんですか!?もしかして前に割ったお皿の事ですか?それなら謝りますからーー」
アヤトの攻撃が加速する。
「ーーごめんなさぁぁぁいぃぃぃ!!!」
涙をポロポロ零し本気で泣き始めた。
その光景にシトは。
「いいぞーもっとやれー!」
「貴方は悪魔ですか!?いえ、神の類で言うと邪神か何かですかね!?」
「えへへー♪」
「・・・邪神って神様たちの中で褒め言葉なんですか?」
頬を染めて照れるシトに一抹の不安を覚えるランカだった。
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文章を修正しました。
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