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夏休み
魔力の暴走 9/14修正
しおりを挟む「ウグッ・・・アアァァァ!!?」
「これは・・・!?」
アヤトが寝ている部屋にシトたちが入って行くと、ノワールがその光景に絶句する。
アヤトが苦しみもがいているベッドの周りに精霊王たちが床に倒れ込んでいた。
原因は魔力を見る事ができる者だけが理解していた。
「魔力が形を成して渦巻いている・・・魔力の暴走・・・?」
「せーかい。しかも魔力の量が量なだけにマズい状況になってる」
「兄・・・様・・・」
目に涙を溜め、今にも泣き出しそうにしてるウルとルウ。
ノクトもワナワナと肩を震わせていた。
「えっと・・・それって今、体が怠くなってる事と関係ありますか?」
「カイトもか?なんだか、この部屋に入った瞬間気分がすこぶる悪くなった気がするんだよ・・・」
言葉の通り顔色の良くないカイトとアーク。
その二人の言葉にシトは頷く。
「うん、まあね。連れて来ておいてアレだけど、すぐにここから離れた方がいいと思うよ?」
「どれ、儂が手を貸そう」
「ペルディアちゃんとランカちゃんも、あまりその目で見ない方がいい」
シトの言葉に肩をピクリと跳ねさせるペルディア。
そちらの二人も顔に大量の汗を流していた。
「一体・・・アヤトの身に何が起きているんだ?」
「さっきも言ったけど、魔力が暴走してるんだよ。アヤト君自身の魔力が宿主を喰い殺そうとしてるんだ」
「魔力が宿主を・・・!?」
「アヤト君はこの世界に来てまだ一ヶ月も経っていないというのに、元の世界と同じように色々と無茶をして来たようだからね・・・。竜の憑依、悪魔との契約、精霊王全員との盟約、魔王の継承・・・ホント、常人だったらもう狂ってるレベルだよ。現にアヤト君じゃなく、アヤト君の魔力が狂い始めてるみたいだ」
いつも通りの気楽な言い方をして冗談混じりに笑うシト。
「・・・魔力に喰われると、どうなる?」
「死、もしくは自我の崩壊と存在の変異」
ペルディアの疑問にノワールが答えた。
「自我の崩壊と・・・存在の変、異・・・?」
どういう意味かと問おうとすると、先にノワールが口を開く。
「人間も亜人も魔族も関係なく、魔力に喰われた者は魔物と化す」
「魔物に!?」
「正確には魔物ではないがな。だが魔に喰われた成れの果てを見れば、魔物と言っても差し支えないだろう」
「そん、な・・・どうにか、ならないのですか・・・?」
弱々しい声を放ったのは、床を這いずるココアだった。
苦しみながらもノワールに懇願するように足を掴む。
「手はある。それはそこの神も知っているだろう」
ノワールがシトを一瞥すると、「まあね」と返事を返した。
「だけどこのレベルだとかなりの重労働だけど、大丈夫かい?」
「愚問だな。我が主人を救うためなら、端からこの身を捧げるつもりでいる。精霊ども、今は先に主人から離れ回復し、万全の状態を保っていろ」
「畏まりました・・・」
ノワールが空間を裂き、精霊王たちをその中へと放り込む。
「あの・・・僕も!!」
慌ててノクトが名乗りあげるが、ノワールはソレを冷ややかな目で見る。
「・・・貴様には他者を捕縛する術を持っているのか?」
「え、いえ・・・」
「なら出番はない。大人しくしていろ。・・・さて、神。残された時間はどのくらいだ?」
「半刻もないね」
「ならさっさと準備に取り掛かるぞ」
ノワールはそう言って早足でアヤトの近くに歩いて行った。
「・・・彼、相当焦ってるね。口調が素に戻ってる」
「やれやれ、アイツにそこまで入れ込む理由が分からないな・・・」
着物の女が溜息を吐いて頭を横に振ると、シトが軽く笑う。
「そうかい?僕はあそこまで必死じゃないけど、死んでほしくないっていうのには同意だよ。彼がいれば百年は退屈をせずに済みそうだからね」
「つまりその百年間私たちに安寧はないって事ですかねえ!?」
ランカが勢い良く振り向きツッコむ。
するとノワールの近くの空間に大きな亀裂ができる。
「お、意外と早かったね?」
「無駄口を叩いてる暇はない、さっさと行け。ウル、ルウ、お前たちもだ」
脅すようにシトを睨むノワール。
シトは「はいはい」とおざなりな返事をして中にピョンっと入り、ウルたちも涙を拭って入る。
続けて帰って来た作務衣の男と着物の女も当たり前のように中に入って行く。
ノワールもアヤトを背負い中に入ろうとする直前、ペルディアたちの方へ振り向く。
「貴様らはどうする?」
「私・・・たちは・・・」
「行きましょう!」
「!?」
躊躇なく前に出て答えるランカ。
「先に言っておくが命の保証はないぞ」
「数日とはいえ衣食住を不自由なく与えてくださいましたから、これはその恩返しの一つです!」
「・・・たかがそれだけの理由で恐怖の色も見せずにいられるとは、流石曲がりなりにも初代魔王という事か。いいだろう、付いて来い」
「言われずとも!」
ノワールに続いてランカも意気揚々と亀裂の中に入る。
(初代魔王・・・あの即位してたった数年でいなくなり、中でも最弱の恥晒しと呼ばれた魔王・・・それがランカだと?だがランカは最弱などとは・・・いや、今はそれよりもアヤトの事を優先的に考えるとしよう)
ペルディアは煩悩を振り払うように頭を横に振り、覚悟を決めて亀裂の中に入った。
ーーーー
亀裂の中へ入ると、そこには緑豊かな場所が広がっていた。
「ここは・・・どこだ?随分のどかな風景が広がっているが」
「アヤト様が創造した世界だ。ここには私たち以外には理性ある生物は存在していない。いくら壊れても問題のない、条件の揃った場所だ」
「アヤトが創造した・・・?それは一体ーー」
ペルディアが疑問を投げ掛けようとすると、背負われていたアヤトが反応する。
「ッ!?」
するとノワールが即座にアヤトを掴み、空中へ投げた。
その場にいたほとんどが「自分の主人になんて事を」とツッコミそうになったが、次の瞬間にはその余裕は消えていた。
「く・・・クッフフフフフ、流石ですね主人・・・持っていかれましたか・・・」
「なっ!?」
驚愕しているペルディアの視線の先には片腕を失い膝を突いたノワールの姿と、代わりにその腕を持っているアヤトの姿があった。
「あの一瞬で・・・?いや、それよりも何故アヤトはノワールを攻撃しているんだ!?」
「ペルディア・・・あの方を・・・いつものアヤト様と考えない方がいい。あの方は今やーー」
アヤトが籠手を着けている方の腕がピキピキと音を立て侵食し異形の形へと変え、目は虚ろとなり、凄まじい咆哮を空へ打ち上げた。
その体の半分は既に人ではなくなっている。
「ーー理性無き化け物だ。・・・来るぞ!」
「オオォォォォォォッ!!!」
アヤトは地面を強く蹴り、シトに向かって一直線に突き進んで行った。
「やれやれ、君は本当に僕の事が嫌いなのかな?あっ、もしかして逆に好きだから僕のとこに来てくれたのかな?いやー、照れちゃうな~♪」
普段と変わらない口調で話し掛けるシトの眼前にアヤトが突き出した腕が迫る。
しかし、それはシトを貫く事はなく、直前で停止する。
地面や何もない空中から金色の鎖が放たれ、アヤトの体を雁字搦めに縛り、動けなくしていた。
「「神の楔」。僕たち神様でも一度捕らわれると抜け出す事が困難な捕縛用の鎖だよ。普通はただの人間には使っちゃいけない代物なんだけど・・・」
「ヴゥゥゥゥ・・・」
唸りながら虚ろな目でシトを睨むアヤト。
その変異している体の侵食が更に進む。
完全に変異し切ったアヤトの姿は、まるで小さな竜のようだった。
すると風船を膨らませるように、段々と体が膨張していく。
「君だけの特別なんだからね?」
シトがニッと笑うと鎖の数が更に増え、巨大化するアヤトの体に巻き付いていく。
するとどこからともなく黒いものも混じり、同じようにアヤトに巻き付く。
「この程度で足しになれば良いのだが・・・」
「十分だよ、ウルちゃんとルウちゃんも、もしこういう魔術が使えるならやってもらえないかな?今は少しでも猫の手が欲しいところなんだ」
「かしこまりましたの!」
「です!」
そう言ってウルが魔術を発動、アヤトの足を氷漬けにして地面から蔦を生やして巻き付ける。
ルウも主旨を理解したのか、動けないアヤトの頭上に飛び地面へと埋まるくらいに全力でぶん殴った。
地面に埋まると同時に上半身が拘束器具のような土の塊に縛り付けられる。
「・・・贅沢を言えば捕縛だけに留めておきたいところだが、そんな悠長な事を言っている余裕はなさそうですね・・・」
「・・・ッガアァァァァッ!!!」
アヤトの動きが突然活発になり、巻き付いているものらを引き千切ろうとする。
ノワールやウルが放っているものがブチブチと音を立てながら引き千切られ、シトの鎖もビシリと音を立てヒビが入る。
「さぁ、アヤト君、そうやって暴れてるだけでも魔力がどんどん無くなるだろう?君の魔力が尽きるのが先か、僕たちが尽きるのが先か・・・勝負と洒落込もうじゃないか!」
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