最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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夏休み

枯渇

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 「それかさぁ、「代役」集めない?」

 「代役、でございますか?」

 「ああ。普段の魔王役はソイツに任せて、そんで大事な時だけ「本当の魔王は実はこの俺だ!」みたいな感じで登場して」

 「それも面白そうでございますね」

 「お前たちは魔王を面白さで決めるのか?」

 「確かにそうだが・・・ちゃんとした魔王が見付からない以上、王を不在にしたままにするよりその方がいいと思ってる。いざとなればアイラートとの連絡手段もあるしな?」

 「それはそうだが・・・いや、実際そうか・・・?」


 フードが唸り悩み始める。
 アイラートが「面白そう」などと言ってややこしくしてしまったが、俺の言っている事も正論だと自負している。
 まぁ、細かい仕事や責任を他に押し付けようとしているのには違いないが。


 「なんなら、残ったこの数人で戦って勝った奴を魔王代理にするか?」

 「戦って勝ったのを?随分安易に決めるのだな・・・」

 「別に正式に魔王にするんじゃなければ、多少の細かい事に目を瞑っていいだろ。まぁ、見るのは実力ーー」

 「と性格」

 「ーーか。・・・性格・・・性格かぁ・・・。確かにグランデウスとか今の奴みたいに暴走してもらっても困るし、性格も審査基準に入れるか」


 「ありがとうございます」と珍しく丁寧に頭を下げてお礼を言うアイラート。


 「ちなみにマントを着た女性の貴女は基準を満たしております」


 あ、一気にぶっこんだ。


 「え、なんで私が女だと・・・~~~~ッ!?」


 自分はフードを被っている筈だと思ったのか女は頭を確認し、被ってない事を理解すると顔を赤くして後ずさる。


 「な、ななななんで!?さっきまで被って・・・あっ!」

 「Exactlyその通り!さっきの巨人を俺が沈めた時に風圧で脱げたみたいだすまん」


 会話の中に素早く何気に謝罪を入れる。
 が、女は俺の声が届いてないらしく、どんどんと青ざめて首を横にブンブンと振り始める。


 「いや・・・いや、見ない、で、いや・・・イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤァァァァッ!?」


 瞬時に俺たちに背を向け、脱兎の如く駆け出した。


 「・・・・・・」

 「呆けてる場合でありません。せっかくの人材を逃してしまいますよ?」


 まぁ、アイラートに言われずとも追い掛けるんだが・・・。
 なんか凄い拒絶されたみたいでショックだわ。


 「もしかして素顔を見られるのが恥ずかしいとかか?そういう魔王でもいいのか?」

 「個性的でよろしいかと。それにいざとなれば脅して言う事を聞かせる分かりやすい弱点となっていいじゃありませんか」


 なんだろう、このままアイツは逃した方が良いんじゃないかと思えてきた。
 とはいえ、やっぱりアイラートの言う通りせっかくの人材を逃したくないわけで。

 数分後に縄でグルグル巻きにして捕まえて来た。


 「やめて、くれッ!顔を見られるのだけは・・・!!」

 「何をそんな嫌がってるんだ?・・・もしかしてその火傷の痕の事でか?」


 ビクッと体を震わせる。

 どうやらビンゴのようだ。
 しかも強力な地雷付きで。

 しかししまったと思った時には既に遅く。


 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!醜くてごめんなさい手足を動かしてごめんなさい目が開いててごめんなさい耳で聞いてしまってごめんなさい息をしてごめんなさい声を出してごめんなさい生きててごめんなさい生まれてきてごめんなさい・・・!」


 女はブツブツと狂ったように呟き、頬をガリガリと引っ掻いていた。
 その両腕を強めに掴んでやめさせる。


 「あ゛あ゛ぁぁあぁぁあぁ!!?」

 「落ち着け・・・っての」


 それでも暴れようとしてたので頭突きして、後ろによろめいた頭をガッチリ掴み、焦点の合っていない目を開かせ見つめる。


 「俺の目を見ろ」

 「うぐっ・・・ごめん・・・なさい・・・」

 「謝るな。今ここにいる俺は誰だ?」

 「・・・だ、誰・・・?」


 単に俺の言葉を繰り返してるのか、記憶が混濁してるのか、そんな言葉が返ってきた。
 なのでとりあえず、名前を聞いて現状を改めて伝える事にした。


 「お前は誰だ?」

 「私は・・・キリ、ア・・・キリアだ・・・」

 「そうか。俺はアヤト。魔王になったばかりだ。キリア、お前はここに来た理由は俺が魔王になって何をしようとしてるのか調べに来たんだ。そんな俺たちにそれまでの接点はない。だからその傷やお前自身の事に対しては何も言っていない。そしてこれからも言うつもりはないし、今もソレを何とも思ってない」


 俺が言い聞かせるようにそう言っていると、段々とキリアの様子が戻っていく。
 その間に頬に作った傷を治す。


 「だから生きている事を、生まれた事を後悔するな。むしろここまで生きてこれた事を誇れよ」

 「あ・・・あ゛ぁ・・・ぅあ゛ぁ・・・」


 キリアの目から大粒の涙がポロポロと流れる。


 「あーあ、なーかしたなーかしたー♪」


 そんな感動っぽい空気の中、アイラートが俺を指差して煽る。

 凄くムカつく。

 そして気付く。
 そんなに嫌ならこの火傷の痕、治してしまえばいいか。
 これが古傷だった場合治せるかは分からんが。


 「・・・ちょっとその眼帯、取るぞ」

 「あっ・・・」


 やはり見られるのは怖がって腰が引けてたが、構わず取る。
 その下には焼けていない場所はなく、目玉も潰れていた。

 さっきの言葉から察するに、その事を小さい頃に同年代だけでなく、親兄弟からも言われ続けたのだろう。
 ならもしこの傷を治す事ができれば、そのトラウマを少しでも消す事はできるのだろうか・・・。

 回復魔術を火傷の痕に当てる。
 いつもより力が入っていたせいか強く光る。
 すると十秒、二十秒といつもより長く術が発動している。
 ちゃんと治っているのか、それとも古傷だから治りが遅いのか。
 後者であってほしいと願いつつも、急な眩暈を感じた。


 「ッ!?」

 「・・・魔王様?顔色が優れないようですが・・・」

 「まだ・・・大丈夫だ・・・」

 「無理はなさらないようにして下さいませ。その魔術、見たところ凄まじい魔力を使っているようですので」


 アイラートから珍しく心配されながら、それを聞き流す。
 しかし眩暈が止まらない。むしろ魔力を使えば使う程酷くなってる気がする。

 やっぱり風邪で本調子じゃないからか?・・・いや、これはどちらかと言うと魔力が足りないという感じに近いか?
 だがいつ?俺はそんなに魔力を消費した?
 ・・・まさかあの風邪か?魔力が無くなるような特殊な風邪だったんだろうか?


 そんな事を考えていると手から出ていた光が収まり、見えていた火傷の痕も消えていた。
 ゆっくりと手を退かすとスッカリ綺麗になり、潰れていた目もパッチリと開いていた。


 「治っ、たな・・・」

 「え・・・えっ・・・!?」


 キリアは自分の顔をペタペタと触り確認する。
 どこから取り出したのか、アイラートがノートPC程の大きさの鏡をキリアに向けて見せた。
 すると治った目の横に手を当て、信じられないものを見るように目を見開き、さっきよりもぐちゃぐちゃの泣き顔になっていた。
 そんなキリアの頭を撫でようと手を伸ばそうとするとーー


 「人間、覚悟!!」


 突然、俺の後ろから魔族の男が斬り掛かって来た。
 あまりにも意識が朦朧としていたからか、直前まで気付かなかったソイツに反応し、伸ばしていた手で振り払おうとした。

 ぐしゃり。


 「「・・・えっ!?」」


 この場にいた三人が揃えて声を上げた。
 その光景に殴った俺すらも驚愕した。
 それはただ軽く殴った筈の拳で魔族の男が跡形もなく消し飛び、赤い血だけが殴った方向へ大量に飛び散っていた。

 ・・・何が起きた?力加減を間違えた・・・?
 いや、でも・・・え・・・?

 頭がくらくらとする。
 また風邪がぶり返したのかと、そう思った瞬間視界が暗転した。
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