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夏休み
代理雇用
しおりを挟む気付いた時には、今度は天井ではなく空を見上げていた。
少し曇った鬱になるようなジメジメした空。
「・・・気絶したのなんて久しぶりだな・・・」
ボソッと呟くと、そんな俺の顔を覗く奴らがいた。
キリアとアイラートだった。
「キリア様の膝枕の心地はどうでございましょう?」
膝枕・・・?
少しだけ視界をズラすと、俺がキリアの膝に頭を乗せているのが分かった。
「・・・フィーナやヘレナならまだしも、会ったばかりのキリアにされるのは浮気になるだろうなぁ・・・」
俺がそう呟くと何の事か分かっていないキリアとアイラートは首を傾げる。
「アヤト様の症状は魔力の枯渇によるものですね」
「やっぱりか・・・」
「あんな無茶な魔力の使い方をすれば当然ですね」
「いやーー」
「いつもなら」と続けようとしたが、それを言うと言い訳みたいになりそうだったので言わない事にした。
「ーーそうだな、アイラートの言う通りだ」
俺がそう言うとアイラートは機嫌が良さそうに微笑んだ。
「しかし、魔王様は闇だけでなく光も使えるのですね」
「一通り全部使えるぞ」
「ハハッ、それじゃあまるで神様じゃないか」
そこまでか?と思いながらも乾いた笑いで返す。
すると何故か頬を染めたキリアが寝ている俺に顔を近付けて来た。
なのでキリアのその「う」の字になった唇に指を当て止める。
「残念だが、俺にはもう彼女が二人いる。そんな簡単に唇を許して外で女を作ったとなりゃ、アイツらに嫉妬されちまうよ」
「そう、か・・・だが、これだけでも受け取ってくれないだろうか」
キリアが今一度顔を近付け、頬にキスをする。
キリアはそれがどういう意味かを知っててやったのかは分からないが、そこにする意味は「親愛と厚情」。
愛する気持ちと親しみが込められたもの。
俺たちはあって間もない間柄だが、火傷を治したせめてもの気持ちというやつだろう。
「・・・しょうがねえ、受け取っておく」
「ありがとう」
キリアのその笑顔に一筋の涙が流れた。
ーーーー
いくらか時間が流れた頃、ようやく魔力が回復して動けるようになり、立ち上がった。
長い時間膝枕をしてくれていたキリアは足が痺れて動けなくなってしまい、それを横目に見ながら現状を把握する。
さっきまで生き残っていた奴らがいない。というより倒れてる。
「アイツらは?」
「魔王様が倒れた直後襲って来た輩だったので、片付けておきました。それも仕事の一つですので」
恐らく「寝込みを襲おうとしたから」だろう。
正面からも挑めない奴に魔王の資格はないという事か。
「じゃあ、もう一人しかいないな」
「ですね」
二人で足が痺れてピクピクと痙攣して倒れてるキリアを見る。
魔術を使うとまた倒れてしまいそうなので、これくらいはマッサージをしてほぐす事にした。
「イッ!?んぐっ・・・アイタタタタタタ・・・!?」
「まぁ、少し我慢してくれ。そんでそのまま聞いてくれ。今現状キリア一人しかここで無事な奴はいない。他の奴は全滅。ということは、だ。お前が魔王になるか、魔王の代役をするしかないという事になるんだが・・・」
「んっ、あぁ、もちろ・・・ッ!だ、だいじょ・・・イグア!?」
痛みに耐えながらも返事をしようとするが、それどころではない様子。
マッサージ終わってからでいっか。
キリアの悲痛の叫びを聞きながらそう思った。
ーーーー
「足が軽い・・・!」
マッサージを終えたキリアは立ち上がると驚いて自分の足を眺めていた。
プラプラとさせたり、ジャンプをしたり、軽く走ったり。
新しい靴を買って確かめるようにしていた。
「ずっと歩きっぱなしだったろ?凝りをほぐせばそうなるさ」
「古傷だけでなくここまでしてくれるとは・・・うん、決めたぞ!」
嬉しさからか、肩を震わせていたキリアが何かを決意したようだった。
「私もお前を・・・いや、貴方を主人とさせてもらう!!」
「え?いや、別に従者募集はしてないんだが・・・」
「いえ、これはある意味好都合かもしれません」
「なんで?」とキリアの横に行ったアイラートに目を向けると、キリアの方が胸を張っていた。
「そうさ、私が仕えるという事は、私を影武者として置く事ができる。丁度話し方も似てるしな」
俺の話し方が何の関係があるんだろうと首を傾げていると、キリアが説明、もとい「実践」をしてくれる。
「今更だが、改めて詳しい自己紹介をさせてもらおう。私の名はキリア。特技は暗殺と偽装だ。正面からでもスピード勝負で今まで右に出た者はいないと自負している。・・・貴方に出会うまでは」
キリアはその台詞を俺の声で発していた。
「なるほど。完璧とまでは言わないが、似てるな」
「て、手厳しいな・・・」
「「俺たち」は副職でもかなりの完成率で仕上げようと努力するからな。そう、例えばこんな風に」
「ッ!?私の・・・声・・・!?」
お返しと言わんばかりに、今度は俺がキリアの声真似をする。
俺も俺で相手を騙すために男女の声関係なく、ほぼ本人の声を真似をできるようになっている。
「貴方は随分と多芸なのだな。勝てる筈もない・・・」
声真似が判断基準というのも納得いかないが・・・まぁ、これで代わりを置く事ができるわけだ。
そうしてキリアをアイラートに任せる事にした。
「ご安心下さいませ。次に魔王様がやって来るまでには、立派な準魔王に育ててみせます」
「なんスか、準魔王て・・・」
アイラートの不安な言葉を胸に、空間魔術で我が家へと戻った。
ーーーー
「ア゛ヤトぉ~ッ!!」
玄関に作った裂け目から顔を出した瞬間、廊下の向こうからメアが泣きながら猛ダッシュして来た。そしてダイブ。
「どこ行ってたんだよこのバカぁ!物凄い不安になったんだからな!!」
泣きじゃくり鼻水だらけになった顔を俺の服に擦り付けるメア。
心配させたのは悪かったが、鼻水を付けるのはやめてほしい。
「一応置き手紙はしたんだがなぁ・・・」
「それでも、起きたらいなくなってるのは嫌なんだよ・・・。寝る時しっかり掴んでたのに」
確かにガッチリ掴まれていたが抜け出す方法などいくらでもあるのだよ、と茶化したかったけども、そんな空気でもないのでやめておいた。
「全く・・・悪かったって。今度からは強引に起こしてでも、メアと一緒に行くから」
「ズズッ・・・できれば寝かせたまま連れてってほしい・・・」
我が儘だなぁ・・・。
なんて思いつつ、身近に自分の身を心配してくれる人がいる事に胸の奥が温かくなり、安堵する。
すると後続にウルとルウが走って来て、ダイブと言う名の頭突きを繰り出した。
その顔はやはりメアと同様、涙と鼻水だらけ。
「「に゛いざま、に゛いざまぁぁぁ!!」」
更に後ろからは、ノクトが安心した顔でゆっくりと歩いて来る。
「お帰り、兄さん」
「ああ、ただいまノクト。書き置き、見てくれただろ?」
「うん、見たけど・・・「出掛けてくる、心配するな」しか書いてないんだもん。アレじゃ逆に心配しちゃうよ」
なんと、そうだったか。
アイラートと会話した後、パパッと適当に書いただけだったからなぁ・・・せめてどこに行くとかは書いた方が良かったか。
配慮が足りなかった事を反省する。
「それで、兄さんはどこ行ってたの?」
「ああ、それはなーー」
さっきまでの出来事を掻い摘んで話した。
嫉妬されて話をややこしくしないためにも、膝枕の事は伏せて。
勿論、ほぼ全員に黙って行ったので、再度みんなを集めて話したのだが、その間メアとウルとルウはずっとしがみ付いたまま離してくれなかった。
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