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夏休み
魔王候補
しおりを挟む開始から十分経過。
初撃は耐えるくれる奴がいたが、続け様に撃ち続けると数がグンッと減り、五分経つ頃には半分が、十分経った今ではほぼ全滅となって倒れている。
それでも生き残ってくれた勇者たちには魔王から直々に賞賛を与えるとしよう。
「上手にできました。ハナマル」
適当にそう言って、お茶のお代わりとしてアイラートが入れてくれた紅茶を飲んでいた。
そんな俺に魔族たちは、生き残った数人を除き先程からの戦意が薄れ、代わりに恐怖に支配されていた。
「ば、化け物ッ・・・!!」
「よく言われるよ・・・そんな事より生き残った諸君、第一次審査通過おめでとう。すぐに次の審査に移ろうと思うんだが、何か聞きたい事があるならどうぞ?聞くだけなら今倒れてる奴の中からでも構わない」
わざわざこんな事を聞いたのは、今のうちに「なんで人間が魔王を?」や「審査とはどういう事だ?」などと言った疑問を解消して、事をスムーズに進めるためだ。
するとすぐに生き残った奴の一人が手を挙げる。
「ほい、そこの・・・あー、フード付きローブを着た人?」
ローブで体を隠し、フードを深く被って片腕に包帯を巻いた中二病みたいな人。
一応青い肌が見えるから魔族というのは分かるが、遠目だと性別までは分からない。
「あんたは人間なんだよな?人間が魔王なんぞになって何がしたいんだ?」
予想外のごもっともな意見。
確かに人間が魔王になって何がしたいんだと思うのは当たり前か。
「まぁ、事の成り行きは端折るが、魔王になったのはたまたま偶然ってやつだ。特に何がしたいからってわけじゃない」
「では質問を少し変えよう。魔王になったあんたは何がしたい?」
「んー、次の魔王候補探し?あとはゆったりとした日常を送りたい」
「・・・そうか」
フードはそれだけ言って踵を返す。
「ん?どこ行くんだ?」
「私が来たのは魔王がどんな奴か調べるためだ。もし前魔王グランデウスのように私利私欲に魔王になろうというのなら・・・と思っていたのだが、力を持ちつつも野心も野望もない奴ならどうなろうとも関係ない。なので私は帰らせてもらう」
「そうか・・・ちなみにお前の使える属性に闇はあるか?」
「それを聞いて何になる?確かに闇は使えるが・・・」
「なら逃すわけにはいかないよな?」
「ッ!?」
意識が俺から離れた瞬間に、フードとの離れた間合いを一瞬で詰め、目の前に立ちはだかる。
「・・・どういうつもりだ?これ以上の戦闘は無意味だと思うのだが」
「戦うかどうかはお前次第さ。言ったろ?俺の目的は次の魔王候補探しだと。さっきの俺の魔術に耐えて、しかも闇属性を使えるなんて・・・ピッタリだと思わないかアイラート?」
スッと俺の後ろに付いて来たアイラートが「そうでございますね」と答える。
「あとは盃がこの者を認めれば、晴れて魔王様はただの人間にお戻りになります」
「盃がかぁ・・・なんかお茶菓子でも献上すれば機嫌良くしてくれないかな?」
「どうでしょう、試してみますか?」
「うま〇棒ある?」
「おい、勝手に話を進めるんじゃない!」
フードが我慢できずに、ズカズカと話に割って入る。
「まさか私を魔王にしようとでも言うのか!?」
「そのまさかじゃん?」
「資質を持っていそうな者がいるなら、そう易々と逃がすわけには参りませんね」
「私はそんな事のためにここに来たのでは・・・!」
そんな感じの話をしていると、一人の大男がドスドスと足音を立ててやって来た。
「おい、生き残ったのは何もソイツだけじゃねえんだぜ?」
「ああ、悪い。まだ二次審査の途中だったな」
「審査なんざもう要らないだろう?俺を魔王にすればいいだけの話だからなぁ!!」
・・・どうやら、コイツは自分がそうであるに違いないという自信と過信を間違えた男のようだ。
「じゃあ聞くが、闇の魔法は使えるのか?」
「そんなものなくとも何者をもぶちのめす力があれば問題ないだろ!」
男の発言にアイラートと一緒に大きく溜息を吐いてしまう。
「問題外、そして期待外れでございますね。ここまで知能が低い同族がいたとは・・・」
「気にするな、所詮魔族も亜人も人間も変わらん。こういうバカはどこにでもいる」
「なっ!?こ、の・・・言わせておけば・・・!!」
大男が踏み出そうとするとフードが前に立ち塞がり、袖の中から武器が飛び出す。
それは刀に似た形をしたものだった。
「今は取り込み中だ。言いたい事があるなら私の後にしてもらおうか」
「ケッ、やっぱてめえも魔王を狙ってたんじゃねえか!?何が「そんな事をしにここに来たのではない」だ!吹かしやがって!!」
「いや、私は本当にーー」
「なぁ、その武器ってどこで手に入れたんだ?刀によく似てるんだけど・・・」
俺が取り出された武器を見ると、フードはギョッとする。
「珍しい剣ですね・・・刀というのですか?刃が片方にしか付いていないとは、使い勝手が悪そうですね」
「まぁ、確かに剣を使ってた奴がいきなり刀を使い始めると、そういう感想になりそうだが・・・そこは慣れだな」
「あ、おい!下手に触ると切れるぞ!コレはそこら辺の武器よりも斬れ味が鋭いのだから・・・」
「大丈夫だ、これでも一応武器の扱いは心得てる。それにこんなナマクラ刀じゃ怪我をする事もできねえよ」
俺の言葉にムッとした様子のフード。
そしてもう一人の大男が我慢の限界だと言った感じに肩を震わせ始める。
「お、俺を・・・無視すんじゃねえよぉぉぉぉっ!!」
「ッ!?」
大男の拳がフードに向かって放たれる。
俺が気を逸らしていたせいで反応が遅れたフードは武器を裾に戻し、回避しようと後ろに飛ぼうとするが、既に拳は目の前にある。
「魔王諸共死ねえぇぇぇぇ!!」
しかしそう、ソイツの何よりの誤算は何気に俺ごと殴ろうとした事と、俺の実力を見誤った事だ。
その拳を払い、体勢を崩したところにカカト落としを食らわせ沈ませる。
「ぐおぉぉぉぉ!?」
「はい、残念賞の君にはこの「すぐに眠りに落ちる程素敵なカカト落とし」を贈呈しまーす」
ズンッと地面が揺れる程の衝撃を与えられた大男は白目になり、泡を吹いて気絶してしまっていた。
「・・・ッ!さっきもそうだったが、お前のその身体能力はどうなってるんだ?」
そう言ったフードの方を見ると、今の勢いで発生した風で被っていたフードが脱げ、中の素顔が現れていた。
銀色の髪に黒のメッシュが入った整った女の顔をしていたが、左上が焼けただれており、その怪我を少しでも隠そうと眼帯をしていた。
ランカと違って正しい眼帯の使い方をしてるなーと思いつつ。
だが本人も気付いていないようだったし、特に俺たちはリアクションをせずに話を進める。
「いやいや、仮にも魔王なんだからこれくらいは・・・なぁ?」
「然り。そうでなければ魔王など一日毎に変わってしまいます」
「ならば・・・そのままお前が魔王を続ければいいだろ」
「お前はいいのか?俺が魔王をやっても」
「それはさっきも言ったぞ。別に構わないと」
「でもなー・・・俺、ほとんどここにいないんだけど・・・」
「王の不在、か・・・」
フードがふむと顎に手を当てて考える。
「王なのにほとんどいないって問題だろ?」
「そんな事ありませんよ?必要な時にだけいてくれる都合の良い方というのは、それもそれで中々・・・」
「「・・・・・・」」
あまりの面倒臭がりな性格のアイラートにフードと二人で呆れた眼差しを向けた。
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