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夏休み
あーしさん
しおりを挟む試してるのかは知らないが、飛んできた回し蹴りを受け止める。
「・・・へぇ、見掛け倒しじゃないんだ」
「そういうお前は傍目からじゃ分かり難いが、そこら辺の男より力があるな」
「もち。これでも鍛えてっから、ねっ!」
素早く足を下ろし、もう片方の足で足払いをしてきた。
やんちゃ娘だなぁ・・・まるでどこかのお姫様みたい。
気付かれない程度にメアを一瞥する。
ゴスッと音を立てて当てられたが、俺の足はその程度では微動だにしない。
「いった!?マジなんだし、この筋肉ダルマ!!」
「ちょこまか動く猿に言われてもな・・・」
「ちょっ、誰が猿だし!?」
「お前だし」
「真似すんなし!!」
蹴り技を連発する恵理。
足技主体の技からテコンドーか・・・とも思ったが、打撃が効かないと分かると次は器用に足で俺の腕に絡み付いて来た。
「ふむ、なんだったかこの組み技・・・サンボだったか?」
「よく分かったね。しかも結構余裕そうだし」
「うん、余裕」
「・・・何ソレ、超ムカつく」
「じゃあ例え話をするが・・・象が毒も持たない蟻に噛まれた程度でどうにかなると思うか?」
「・・・あーしがその「蟻」って言いたいわけ?もー怒った。このままあんたの腕へし折ってやる!」
そう言って足に力を入れて来るが、特に変化はない。
「ッ!?ホント、この体どうなってんだし!?あーし、一応分厚い鉄板とか凹ませられるくらいには足の力あんだけど?」
「なら俺はそれ以上って事だろ。少し鍛えた程度じゃ達人には勝ち目なんざないぞ」
「あんたみたいな子供が達人?冗談っしょ?」
「子供って・・・少なくともあーしさんよりかは年上だとは思うんだが?」
「誰があーしさんだし。勝手に変なアダ名付けんな」
「それはまぁ一回置いといて。実践してみるか?そうすればさっきの例え話が身に染みて分かる事になるけど」
「・・・面白えじゃん。んじゃ、負けた方が勝った奴のパシリな!」
・・・アレ?この話の流れ、どっかで見た事あるぞ?
相変わらず俺の腕に掴まったままのメアをチラ見する。
「・・・何見てんだよ?」
「いやぁ、デジャヴ感がな?メアも最初こんな感じだったなーと」
「・・・うっせ」
「・・・いや、目の前でイチャついてんじゃねえし。余所見してっと足元すくわれるかもよ?」
「それは足払いを成功させてから言ってほしいもんだな。メア、ちょい離れてくれ」
メアは軽く頷いてルビアたちの下へ行く。
すると恵理が何の合図も無しに背中に回り首を絞めに来た。
「ズルとかセコいとか言わないでよ?勝負の世界って非情だからさ。それに達人って嘯くならこれくらい余裕っしょ?」
「・・・・・・」
「どうしたよ?もうギブアッーー」
「へい」
「・・・は?」
頭を思いっ切り縦に振り、背中の筋肉を膨張させてトランポリンのように恵理を弾き飛ばす。
「はあぁぁぁぁ!?ぐっ!!」
そのまま氷の張った壁に叩き付けられ軽く埋まる。
「~~~~ッ!!」
「とりあえず手加減しといてコレだけど・・・まだやる?」
「・・・絶対ぇ泣かせる!!」
恵理は埋まってた壁の中から脱出し、俺に向かって走って来た。
蹴る殴る掴む。あらゆる手を使って襲い掛かって来るが、全て躱す。
「ふむ、この実践経験のある感じ・・・喧嘩慣れしてるな」
「このっ、くそっ、死ねゴリラっ!!」
イラついてきてるのかさっきよりも攻撃が雑になり、ただ殴ったり蹴ったりしているだけになっている。
何気に悪口を含めないでくれますかね?
「全ッ然当たんねえんだけど!?なんでそんな筋肉しといて俊敏なんだよ!チート野郎かてめえは!?」
チートって言葉知ってるなら、少しは漫画やゲームを知ってるという事だろうか?
「確かにチート的なものは貰ったけど、肉体的な実力は自分で鍛えたものなんだからケチ付けんな」
どいつもこいつも化け物だのチートだの・・・人を何だと思ってんだ。
とりあえずデコピンで反撃しておく。
ソレを受けた恵理は呻きうずくまる。
「イッグッ!?なんだよ、このコレ・・・ただのデコピンが超痛えし・・・」
「さて、まだ続ける気かね?」
ヴォンヴォンと音を立てさせたデコピンを空振りを見せ付ける。
「な、舐めんなし!デコピンで負けるとかありえねえから!!」
めげずに殴り掛かって来る。
スカッ、ペチン。
スカッ、ベチン。
スカッ、バチン。
スカッ、バチンッ!
スカッ、バッチン!!
恵理が攻撃を外す度にデコピンを徐々に強くしながら眉間に放つ。
受け続けた恵理はもう涙目になっていた。
「クッッッソ痛え!やめろソレ!!」
「お前がやめればいいだけの話だろ」
「バカにされて引き下がれるかよ」
「・・・それこそバカのする事じゃね?」
「うっせーし、バーカバーカ!」
「師匠、そろそろやめとかないとイジめてるようにしか見えませんよ」
流石に哀れんだのか、少し離れた場所からカイトが口を挟んで来る。
確かに今にも泣き出しそうなコイツにそうしたいのは山々なんだが、相変わらず蹴って殴ってをやめないからどうしたもんかと。
「・・・いっそ気絶するくらい殴るか?」
「今凄い物騒な事言いませんでした?」
やべっ、口に出てたか。
「言ってない。至極真っ当な事を言っただけだ」
「女の子を気絶させるまで殴るのは真っ当と言うより外道って感じしかしませんよ・・・」
聞こえてんじゃねえか。
ま、それはこのあーしさん次第って事で。
顔に飛んで来たあーしさんの足をガシッと掴んでとりあえず動きを止める。
「さて、君がこれから落とすものはなんでしょう?一、テンション。二、意識。三、命」
「師匠!三は入れちゃダメなやつです!!」
「ちなみに正直に答えた人には全て差し上げます」
「だからダメですって!?」
飽きもせずツッコんで来るが、三はただのネタで冗談だから気にしなくていいのに。
っていうか、カイトはその辺り真面目に捉え過ぎだからな?
ーーーー
とりあえず落ち着かせた。
実力行使じゃない。
足を掴んだまま動けなくさせ、無駄だと分からせて現状を説明する事にした。
「んで、仮にあんたの言ってる事が事実だとして、どうやってあーしに説明するつもりよ?言っとくけど、さっきの火ぃ出すやつとかじゃ手品で説明が付くから無しね」
「それじゃ「らしいもの」を見せるとするか。・・・っとその前に、この状況をどうするか」
「この状況」とは氷漬けにされた王とその臣下たち。
臣下はいいとして、問題は王が生きてるかどうかだ。
・・・いや、普通だったらこんな状態になったら生きてる筈もないんだが・・・そこは魔法の力やら原理やらで「実は」みたいに、ね?
「死んでるわよ?」
「だよなー」
まぁ、淡い期待だった。
別に生きててほしいとも思わないけど、死んだら死んだでこの国どうすんのって話になる。
臣下だった奴らの誰かに任せる?それともガーランドや屋敷にいるアークたちの誰か?
それともコイツに子供とかがいたらソイツに?
・・・いや、どれもいい結果が見えてこない。
最後のなんて絶対復讐だとか言い出すに決まってる。無しだ。
あっ、いっそノワールに任せるなんてどうだ?なんか恐怖政治とか始まりそうな気がするけど・・・ノワールなら少なくとも悪い方へは行かない気がする。
・・・うん、一回保留だ。
ノワールに任せるのは最後の手段って事で、他に何かないか考えておこう。
「・・・ちょっと待って。その氷の中にいる人って本物・・・?」
「ん?ああ、正真正銘、さっき凍らされて死にたてほやほやの人間だ」
「・・・・・・」
顔を青くして無言になったあーしさんを横目に、いろんな意味で震え上がってる臣下たちを温かい場所に移す。
その後、空間を裂くという如何にもファンタジーらしい空間魔術をあーしさんに見せ付け、ガーランドたちの下に戻った。
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