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夏休み
二代目不良娘
しおりを挟む銀世界、まさにその名に相応しい光景だった。
チユキの詠唱が終わる前に転移で全員を城の外に逃したのだが、その数秒後に巨大な氷塊が城を包み込んだ。
おかげで適当な場所に転移しても、誰もこっちに気付く事はなかった。
ただ問題は一緒に転移して来た奴らだ。
「え?ここ・・・お城の外・・・?」
「どゆこと!?さっきまでお城の中に・・・ッ!?見て!お城が・・・!?」
騎士たちは訳が分からないと混乱して騒いでいた。
そしてもう一人、最大の問題人物がーー
「アヤト君、そろそろ♪」
ーー学園長が屋敷で俺を捕まえた時と同じ笑みを浮かべ、俺の肩を掴む。
ああ、どこから説明したもんか・・・。
ーーーー
軽い事情説明と短い(?)お説教を食った後、城の元の部屋に転移で戻り、魔空間に置いていたメアを連れ出した。
「これはまたなんつうか・・・面白い事になってんな」
「メアさん、そういう不謹慎な言葉はこの場ではどうかと思うよ?」
「ゲッ!が、学園長先生・・・」
「メアさん、なんだか僕に対する態度がアヤト君に似てきたね・・・」
「え、アヤトと?え、えへへ・・・」
「褒めてないよ?」
そんな漫才を見ながらもう一度空間を割く。
「城に戻るのか?」
そんな俺の行動に気付いたガーランドが声を掛けて来て、その言葉で他の奴らも気が付く。
「ちょっと待とうか。何故逃げようとしてるんだい?」
「逃げるも何も、説教はもう終わっただろ?城の中にも色々置いて来たんだから」
「アレ、師匠って学園長先生以外何か持ってましたっけ?」
「カイト君、僕を荷物みたいに言わないでくれるかな・・・」
どうしても突っ掛かって来る学園長は放っておいて、とりあえず話を進める。
「チユキとあの男がどうなったかも気になるし、何より召喚陣がそのままだろ」
俺の言葉に学園長以外の全員が「あっ」と声を漏らす。
ただ一人状況を完全に飲み込めてない学園長だけは首を傾げていた。
「正直そのまま放置して帰ろうかとも思ったけど、あの状態だと出入り口全部塞がってるだろうし、アレが自然解凍されるとも思えない。そんな状態で右も左も分からない奴が召喚されたら可哀想だろ?」
「ああ、まあ確かに・・・」
「ねえ、アヤト君。召喚って何の事?」
「あー・・・まぁ、その辺りは説明は後にした方が分かりやすいから後回しだ。とりあえず付いて来てくれ。・・・ガーランドはどうする?」
「俺は・・・いや、待っていよう。傷が治ったとは言え、まだ少しキツいからな。こんな状態でもしもの事があれば足手まといになるだろう」
「カイトたちを連れて行く時点で気にする必要もないと思うが・・・まぁいい、そこの奴らと留守番なり何なりしててくれ」
軽く手を振りながら割いた亀裂の中に入る。
ーーーー
「あら、戻って来てくれたの?」
元の部屋に戻ると、そこも外と同様ほとんど全てが凍っていた。
反射でキラキラキラキラと輝き、その中心に佇むチユキも相まって、まるで御伽噺の世界にでも入り込んだような幻想的な風景に感じた。
まさに氷の女王か。
って、何気に魔物っぽい黒い奴も凍ってるし・・・アレ、ノワールのやつか?面倒臭くて放置したな、アイツ・・・。
あ、宰相っぽい人たちが生きてる。凍え死にそうになってるけど。
辺りを見渡すと、チユキの近くには少し大きめの氷結晶が作られ、中には王であった男が時を止められたかのような姿で閉じ込めららていた。
「随分派手に散らかしたな」
「そう?むしろ綺麗に片付けたつもりなんだけど」
「んじゃ、間を取って綺麗に散らかしたという事で」
「どういう間の取り方ですか・・・」
俺とチユキの会話に入って来たカイト。
その呆れた様子のカイトを見たチユキはパッと表情を輝かせて抱き付きに行く。
後から学園長も来る。
「・・・あーあ、王様を凍らせちゃうなんて・・・きっとまた面倒事が起きるよ?」
「そん時はそん時だ・・・」
「あぁ、師匠が諦めつつやるせない顔に・・・」
そりゃあ、やるせなくなるって・・・。
わざわざこういう面倒事をチユキに押し付けたってのに、結局こうなっちゃうんだから。
しかもまだ面倒事がそこにある。
召喚陣の周りだけ凍らされずに、さっき見た時よりも更に光り輝いていた。
「・・・来るか」
目が潰れる程の光が辺りに充満する。
薄く目を開けて見ると、召喚陣の中心に細かい粒子のようなものが集まっていき、人の形へと徐々に形成されていく。
小さいサイドポニーテールが付いた茶髪の長い髪に、綺麗に整った顔、高校生辺りが着るであろう学生服、ニーソを履かせたスラッと長い足。
パッと見たところギャルのような少女だった。
・・・しかし、俺もだがこの召喚陣は歳の若い奴しか呼ばないのか?・・・一応イリーナの例もあるが。
段々と召喚陣の光が収まっていき、少女がゆっくりと目を開ける。
「・・・あぁ?ここ何処?つうかあんたら誰?ってか寒っ!?」
なんだか忙しかった。
「・・・で?誰も答えてくんないわけ?あーし、さっきまで沙知と飯食いながらダベってたんだけど。何、あんたら?コレ誘拐?だとしたら沙知もいんの?アイツに手ぇ出したら許さないかんね」
そう言ってキッと睨んでくる。
なんだろう、会話をしていない筈なのに次々と話題が変わってく。っていうか、後半誤解というか勘違い生まれ過ぎてない?
「おい、ちょっと喋るのやめれ。このままだとそんな勘違いしたまま会話が進みそうだから」
「あん?何あんた・・・って、デッカ!」
少女の俺を見る目がおもちゃでも見つけたかのような反応だった。
トテトテと近付いて俺の周りをクルクルと回ったり、ペタペタと触ったり叩いて来たりした。
「うわー、近くで見るともっとでけえ!身長いくつ?・・・おぉ、体もガッチガチ!え、何、鍛えてるの?全部筋肉でできてるん?マジゴリラwww」
「おい、俺の精神どころかSAN値削りに来るのやめろ」
そんな事をしてるとメアに片腕をグイッと引っ張られる。
その顔を見ると頬をプクッと膨らませて少女を睨んでいた。
「・・・何、あんた?あーしになんか文句あんの?」
少女の鋭い目付きに少しだけたじろぐメア。
これはもうギャルじゃなくてただの不良だ。メアの初期状態時と同じ不良娘だ。
「あるに決まってんだろ!コイツは俺の・・・彼氏・・・なんだから・・・」
「彼氏」の部分だけ恥ずかしくなって小声になってしまっていた。
そこら辺、初々しくて可愛いなと密かに思う。
「え、嘘、マジで?顔もあーし好みだったしちょっと狙おうかなって思ってたけど・・・そっかーもう買い取り済みか。なんだざーんねん♪」
どこまで本気なのか分からないような事を言ってケラケラと笑う少女。
横でメアは獣みたいに唸って警戒している。
うん、俺コイツ苦手だわ。
少女は一通り笑うとキリッとした笑みで背筋を伸ばす。
「あーし赤司 恵理って言うんだ。話してる限りあんたらは悪い事するようには思えないんだけど、そこんとこどーよ?」
勝手に勘違いしたと思ったら、勝手に自己解決していた。
いいんだけどね?一周回って話しやすくなった感じだから。
「とりあえず現状の説明も兼ねて自己紹介しとく。俺は小鳥遊 綾人。ここは・・・まぁ、ある意味誘拐されたようなもんだが」
「歯切れ悪いね。優柔不断な男は嫌われるよ?」
「優柔不断じゃねえよ。なんて説明していいか困るだけだ・・・って言っても、簡単に言えば魔法とかが存在するファンタジーな世界なんだけど、理解できるか?」
「・・・あんた頭大丈夫?」
「うるせえよ。お前この出口のない氷の城に置いてって冷凍保存してやろうか?」
「冗談だし。・・・でもあんたの言ってる事も冗談だよね?ここアレでしょ?新しい遊園地とかにあるアトラクションとか・・・」
こんな凍えそうなアトラクションで客に毛布一枚すら渡さないようなとこは、きっとすぐに廃れるだろうな・・・。
「んじゃあ、こういうのはどうだ?」
手の平に顔と同じ大きさの炎を出す。
それを見た恵理は目を輝かした。
「・・・Mr.マ◯ク?」
「名前の方を出すな。せめてマジックと言え、マジックと。いや、マジックじゃねえけど」
「意外とあんた面白いな!・・・んで沙知どこ?」
会話の移り変わりが半端ない。
あと現状を理解できないのは分かるが、せめて言葉のキャッチボールを成立させてほしい。
「いない。ここに来たのはお前だけだ」
「はぁ?何それ、意味分かんないし」
「・・・まぁ、普通そうなるよな」
「んでここどこよ?流石に日本っしょ?ディ◯ニー?」
「さっきからちょくちょく怖いネタ挟んでくるなよ・・・もう一回言うけど、ここはお前がいた世界とは別の世界だよ」
「・・・あんまおちょくんのもいい加減にしなよ?」
恵理の声のトーンが低くなり、突然顔面に向かって回転して回し蹴りをしてきた。
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