最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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 ☆★ユウキ★☆


 この城に帰って来てどれだけ経っただろう。
 この世界に来てどれだけ経っただろう。
 この世界には時計はあるのにカレンダーというものが存在しない。
 だったら毎年行う何かの行事などはどうやってやってるんだろうかと聞いたところ、で決めているのではなくがやって来たら「大体この時期にやろう」という事になるらしい。
 いや、そんな事はどうでもいいのだが、何が言いたいのかと言うと・・・


 「ゲームが・・・したい・・・」


 禁断症状の表れだった。
 ベッドの上で黒くなったスマホを片手にうつ伏せに寝ている。
 そのスマホは電源が切れて点かなくなっていた。
 この世界に来てからスマホを点けて電波が届かないただのガラクタだと確認してから机の中で放置していたのだが、ゲームをしなかったこの数日で恋しくなり、何となく手に収めていた。

 分かってるよ?こんな事をしてても意味の無いくらい。
 でもね、やらずにはいられない。言わずにはいられないのだよ。

 そんな俺の部屋の扉が小さくノックされる。


 「ユウキ様、いらっしゃいますか~?」


 開かれた扉の影からイリアがひょこっと顔を出す。
 俺の姿を確認すると酷く渋った顔をする。


 「大丈夫、ですか?その・・・随分やつれて見えますが」

 「あー・・・大丈夫大丈夫・・・大丈夫じゃないけど大丈夫・・・」


 そう言ってうつ伏せのまま手をヒラヒラとさせる。
 イリアは溜息を吐きながら部屋に入って来る。


 「何故突然そうなってしまったのかは分かりませんが、いつまでもダラダラしてるのは感心しませんね。たとえお客人で勇者と言えど」


 イリアは文句を言いながらベッドまで近付いて来ると下のシーツを引っ張られ、ゴンッと鈍い音を立てて転げ落ちてしまった。


 「いってぇ!」

 「あら、お目覚めになって?気分はどうです?」


 目を開けると逆さになったイリアが見えた。
 逆さになって見えるのはベッドから落ちた俺自身が逆さだからだけども。


 「美女に起こされるのはああ全く最高だね」

 「それはようございました」


 俺の軽口を受け流すイリア。
 軽く溜息を吐いて立ち上がる。
 首に手を置くとゴキリと音が鳴り、小さく「うっ」と声が出てしまう。


 「ところでご相談があるのですけれど」


 イリアが腰に手を当て凛とした雰囲気で言う。
 その顔を見ると少しだけ笑っているのが気になる。


 「だが断る!」

 「この城の兵士たちと模擬戦をしていただきたいのです」

 「その人の意見など無視して自分の意見を言うその姿勢、嫌いじゃないぜ・・・って模擬戦?」


 自分の勘違いでなければ、イリアは俺に兵士たちと戦えと言った気がした。


 「えぇ、いつもはナタリアが相手をしているのですが、ずっと同じ相手をして慣れてしまうというのも困るので。それにユウキ様の能力はそういう団体相手に適していると思いますの」

 「まぁ、確かに俺のは手数タイプだから多数相手には有効だけれども・・・え、本当にやる流れコレ?」

 「当たり前です。では行きますよ」


 俺の手を掴んで有無を言わさず引っ張ろうとするイリアだが、力があまりにも非力だったため「んー!んー!」と唸るだけで俺が一ミリも動く事はなかった。
 先程とは違う余裕のない表情をもう少し見ていたかったが、これ以上はイリアが泣きそうだったので意地悪はそこまでにして大人しく連行される事にした。
 兵士たちがいるであろう外の広い訓練所に着くと、三桁の人数を超える兵士の団体様とソレを纏めるナタリアの姿があった。


 「いらっしゃいましたかユウキ様。イリア様からお話があったとは思いますが、私と共に兵たちを鍛え上げてほしいのです」

 「だが断る!」

 「まずは私たちの訓練を見学してもらった後にユウキ様の出番となります。私自慢の精鋭たちですので、存分に力を振るうっていただいて構いませんので」

 「なるほど、今日の君たちはそういうスタイルで来るのね・・・。じゃあ、とりまそこに丁度良い椅子にでも座ってい見てるかね」


 そう言って入り口付近にある木材で作られた長椅子に座り、続けて横にイリアも座る。
 俺たちのソレを合図にナタリアさんは兵全員に聞こえるよう大声で伝える。


 「今日は王女様と勇者様も見ていらっしゃる!気合を入れるのは当たり前だが、無様な姿を見せるなよ!!」


 ナタリアさんのげきに兵たちも「応!!」と答える。
 見るからに屈強なおっさんたちが鎧を付けて木刀で打ち合いを始める。
 大声で牽制する姿にただ見てるだけのこっちまで気圧されそうになる。


 「この国の兵たちも凄いでしょう?純粋な身体能力ではユウキ様に劣るやもしれませんが、ソレを埋める事のできる経験が彼らにはありますの」

 「ああ、そうみたいだな。あの人たちを後で相手しなくちゃいけないと思うと逃げたくなるね」

 「ウフフ、逃がしません」

 「・・・逃げませんから。ただの比喩ですから今のは。だからその不気味な笑みをこっちに向けやがらないでください」

 「失礼な言い方ですわね・・・とにかく、魔王を倒して暇になっていただいたユウキ様には丁度良い暇潰しでしょう」

 「やだなーむさ苦しい男たちと時間を潰すなんて・・・」

 「あら?でしたら貴族のご令嬢方のお風呂上がりのマッサージでもして差し上げますか?勇者の肩書きを持つユウキ様なら皆よろこんでお体をお許しになると思いますわ」

 「ハッハー遠慮しておこう。童貞の身である俺には色々とキツそうだ」


 イリアの貫くような視線を軽口で流す。


 「潔い事で。では観念してむさ苦しい男たちと汗水を流して来て下さいませ」

 「両極端な選択肢だなぁ・・・まぁ、やるけど」


 あっちでもサッカーやらバスケやらの助っ人をしてたんだ、こっちでも似たようなもんだろ。
 それに俺には物を創り出す力がある。魔力がある限り剣や木刀などいくらでも創れるんだ、イージーモードだろ。

 なんて思っているうちにナタリアさんたちの訓練が終わっていた。
 しかし兵士の訓練というからどんな熾烈な内容になのかと思ったが、学生が部活でする走り込みや筋トレを少しキツくした程度だったというのが期待外れに感じる。
 ナタリアさんに手招きで呼ばれ、気怠さを感じながら立ち上がり歩いて行く。
 俺が近くまで寄るとナタリアさんは頷き兵たちに向き直る。


 「ではこれから特別訓練に切り替える!この度はイリア様の意向によりユウキ様と我らで実践式模擬戦を行う事となった!相手は魔族大陸で魔王を打ち倒した勇者だ!年下の子供などと驕らず全力で挑め!!」


 ・・・え?
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