最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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夏休み

密かな両想い

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 「「ハァァァァァッ!!」」

 「あわわわわわ・・・」


 旅の途中、休憩を挟んだ時にいつもより軽めな修行をしているとクリララが心配そうにあわあわして、カイトたちが投げ飛ばされる度に「ヒッ!?」と飛び上がって驚いていた。


 「だ、大丈夫だかアレ!?骨とかポッキリいってるんでねえか!?」

 「大丈夫だ」


 カイトたちの攻撃を躱したり防いだり反撃したりしながらクリララに答える。


 「自分に回復の属性付与してあるから、たとえ骨が折れててもすぐに治るぞ」

 「あ、そうだか?なら安心だな」

 「あ、安心じゃないです・・・」


 カイトがヨロヨロと剣を杖代わりに突いて立っていた。


 「殴られて治って殴られて治って・・・正直体より精神の方がキツいです・・・」

 「いいじゃねえか、そっちも鍛えられて」

 「とんだ副産物だ・・・」


 文句を言いながら突き刺した剣を引き抜き、他に吹き飛ばされた奴らもゾンビのようにフラフラしながら立ち上がって向かって来た。
 ついでに安全圏にいるレナにも声を掛ける。


 「レナ、そろそろお前もこっちに参加してみたらどうだ?」

 「・・・へっ?ああああのっ、それはちょっと・・・」

 「・・・怖いか?」

 「あ・・・うぅ、はい・・・。私、目の前で剣とか、振りかざされると、頭が真っ白になって、目の前が真っ暗になっちゃうんです・・・」


 恥ずかしがる、のではなく表情が一気に暗くなった。
 それはどうも訳ありな顔だった。


 「なるほど・・・過去に何かあったか?」

 「・・・・・・はい」


 長い沈黙の後頷いた。


 「そうか。もしその重みを誰かと分かち合いたいと思える奴ができたら話せばいい。多少楽になる。・・・まぁ、それが俺たちでもいいがな」

 「はい・・・頑張ります。それで、その・・・戦いの方なんですけれども・・・」

 「ああ、対処法の一つを試す。恐怖には恐怖だ。今まで散々味わったと思うが、訓練の一環としてお前一人に敵意を向ける」

 「えっと、それって・・・」

 「安心しろ。向けるのは「まだ」敵意だけだ。とりあえず様子を見て、それからだな」

 「分かり、ました」


 それからもう少しだけ修行(という名の一方的な蹂躙)をし、カイトたちを休ませてる間にレナと対面する。


 「あー、武器は持ってろ?再現するのに必要だからな」

 「はい・・・」


 ギュッと弓矢を握り締め、肩を震わせながら顔を上げるレナ。
 決意と恐怖が入り交じった感情がヒシヒシと伝わってくる。
 レナは他の奴よりも肝が座っている。たとえ強制的にやらされてもすぐに覚悟を決める度量が備わっている。
 だから恐怖もすぐに克服できると思って目の前に立ち威圧してみた。
 だがーー


 「・・・ッ!」


 突然レナの様子が変わり全身が震え出していた。


 「あ・・・あぁ・・・とう・・・さ・・・」


 ソレは徐々に、そして尋常ではない程の震えに変わる。
 早々に威圧するのをやめるとレナの意識がフッ消え、足から崩れ落ちた。


 「レナッ!」


 俺が受け止めようとしたが、その前にカイトが前に出て受け止めてくれていた。
 後ろでチユキがプーと頬を膨らませていたが、すぐにニヤニヤとした表情に変わる。嫉妬しようとしてるのかよく分からん。
 ただ一つ分かった事がある。


 「予想以上にこじれてるな・・・」


 恐怖を恐怖で上塗りしたかったが、コレはむしろコイツの嫌な過去を思い出させてしまったように思えた。


 「レナ・・・何かあったんでしょうか・・・?」

 「さぁな。俺は感情を読み取るのは得意だが記憶を読み取る力があるわけじゃない。・・・何かあったか知りたきゃ恋人にでもななれば?」

 「ちょっ!?何言ってるんですかいきなり!?」

 「だってお前・・・何気にレナの事好きだろ」

 「ちょっ、なんでそうなるんですか!?」

 「今言っただろ、感情を読むのが得意って。まぁ?俺じゃなくても気付いてる奴は気付いてるだろうけど」


 指摘されたカイトの顔がすぐに茹でられたように赤くなる。
 分かりやすい、と全員が思った事だろう。


 「え~、カイト君私じゃなくてその子選んじゃうの~?」

 「だ、だから違っ・・・!」

 「でもチユキ放っておくと面倒だから、告って成功したら二人共貰っとけ」

 「そんな無理ですよ!師匠じゃあるまいし・・・」

 「うん、お前喧嘩売ってるな?よし、カイトだけ修行再開だ」


 ヘレナを呼んでレナを任せ、合図もなくカイトを回復付きの拳でぶっ飛ばす。


 ーーーー


 ☆★レナ★☆


 「・・・・・・ッ!」


 ハッと意識が覚醒する。まるで嫌な夢から覚めたように。
 どうやら気絶してしまったみたいだった。
 ズキリと頭に鈍い痛みが走り、頭を抱える。
 まるで鈍器で殴られた時のような痛みが襲う。
 気絶した間に昔の嫌な記憶を少しだけ・・・思い出してしまった。
 本当に嫌な記憶。忘れる事など出できる筈もない忌むべき過去。
 しかもそれを師匠・・・アヤト先輩から向けられた敵意などで思い出してしまった。

 なんて恥ずかしいのだろう・・・。

 顔を上げるとクリララさんが心配そうな顔で私を見ていた。


 「大丈夫だかぁ~?アヤト様と向かい合ったと思ったら急に倒れちまって・・・すんげー心配ししただよ?

 「大丈夫、です。ありがとう、ございます・・・」


 お礼を言ってグッと体を動かそうとしたけど、何かに拘束されて動けなかった。


 「あ、れ・・・?」


 少し視線を落とすと見覚えのある腕が首から回されて胴体を固定されていた。
 上を見上げると予想通りヘレナさんの顔が見える。


 「ヘレナ、さん・・・?」

 「告。おはようございます、レナ」


 気絶したせいで明らかに日が落ちて暗くなっている時にその挨拶は違うんじゃないかなと思いながら同じ挨拶を返す。


 「おはよう・・・ございます?あの、コレって・・・」

 「解。アヤトのにやられて倒れたのです。ヘレナは抱擁係となりました」


 看病の間違いではないかと思ったが口には出せなかった。
 視線を前方に戻すとカイト君と師匠が戦っていた。
 戦い?いや、一方的に殴られているだけに見える。
 しかし驚いた事にカイト君はただやられているのではなく、防いだり弾いたり、あまつさえ反撃に出ようとまでしていた。
 ただその反撃を良しとせず、殴り飛ばされてしまったが。


 「な、なんでカイト君、だけ?」

 「告。カイトが挑発しただけです」

 「はぁ、カイト君が・・・」


 あのカイト君が挑発・・・人を馬鹿にするような事を?
 だとしたら、カイト君は師匠に似てきたのだと思う。


 「問。時にレナーー」


 視線はカイト君と師匠を見たまま、ヘレナさんは私に予想外の質問を投げ掛けて来た。


 「ーー貴女はカイトの事が好きですか?」

 「・・・へ?」


 何て・・・?ヘレナさん、は今何て、言ったんだろう?
 ・・・ううん、ちゃんと、聞こえてた。
 私がカイト君の事を・・・?ソレって、人柄がって意味で・・・?


 「・・・告。言い方を変えます。女性としてカイトをどう見ますか?」


 あぁ、はっきり言われてしまった。
 友達やクラスメイトじゃなくて、想い人かどうかと。
 なんて答えようか迷う質問だった。


 「あ、の・・・でも、カイト君にはチユキさんが・・・」

 「告。チユキは一方的な好意を向けているだけで、両想いでも恋仲でもありません。だからもしレナがカイトの事を好いているのであれば、付け入る隙はあります」

 「へぇ、そんな事言っちゃうんだ~♪」


 その声に肩をビクッと震わせる。
 恐る恐る振り返ると、チユキさんがニコニコとをこちらに向けていた。


 「あ、いや、今のは・・・!」


 カイト君の事が好きだと言っているチユキさん本人に聞かれてしまい、背筋が凍るように寒く感じる。
 今の会話を聞いたのなら怒ってしまっているのだろうと。
 だけど、なんとか言い訳を考えようとしたけれども、その前にチユキさんが「大丈夫大丈夫♪」と言ってくれた。


 「別に貴女が私と同じでカイト君の事が好きだったとしても何もしないから安心していいわよ。・・・ま、もし独占したくて私から奪いたいって言うのなら話は別だけど?」

 「そ、そんな事、コレっぽっちも思って、ませんから・・・!」


 目を細めてそう言うチユキさんにコレを言うだけでも心臓がバグバクとはち切れそう胸が痛い。吐きそう。
 もし機嫌を損ねたら私なんて簡単にミンチにされてしまうから。
 すると私の恐怖が伝わってしまったのか、チユキさんは少し困った顔をした後、私に抱き付いて耳元で囁き掛けて来る。


 「分かってはいるけど、そんな怖がらないで?アヤト君にも言ったけど、もう貴女たちを怖がらせるような事はしないから。今言った「話は別」というのも言葉のあやよ?暴力はしないから安心してね♪」

 「は、はい・・・?」


 じゃあ何をするんだろうという問いは怖くてできなかった。


 「それで?レナちゃんはカイト君の事どう思ってるのかなぁ~?」


 ムフフと頬を擦り付けられながら脱線しそうになってた話題を戻された。
 どうやら逃げる事はできないみたい。
 そしてカイトという一人の人間について考える

 ・・・そういえばカイト君の事、私はどう思っていたんだろうか?

 逆に疑問が増えてしまっていた。
 確かにカイト君を「男の子」としては見ていたけど、「異性」としては・・・?
 師匠と修行中のカイト君を見やる。

 カイト君は・・・男の子で、同じ学年で、クラスメイトで、女の子みたいに綺麗な髪をしてて、綺麗な顔をしてて、泣き言は言うけど諦める事はしなくて、頑張り屋さんで、自分も大変なのに人を気遣ったりする優しさを持ってて・・・そんな姿がまるで理想の男性みたいに格好良くて・・・。
 アレ・・・?格好良くて?・・・アレ?

 次の瞬間、カイト君が優しく手を差し伸べてくれた時の記憶を思い出してしまう。

 ーー大丈夫か、レナ?ーー


 「理想の・・・男性・・・?」


 ソレを言葉にすると顔が徐々に熱くなった。
 ヘレナさんは微笑み、チユキさんは意地悪な笑みを浮かべていた。
 そう、指摘された事でカイト君は「頑張り屋な男の子」からすでに「好きな異性」へと変わっていたのだ。


 「あ・・・あぁ・・・あぅ・・・」


 一度自覚したらもう止まらない。
 恥ずかしくて、恥ずかし過ぎて、穴があったら入って埋まりたい気分だった。
 そんな私を見てチユキさんは「そっかそっか!」と嬉しそうに言った。


 「やっぱり貴女もカイト君の事が好きになっちゃったのね。でも嫉妬というより私が好きな人を他にも好きになってくれる人がいるって・・・なんだか嬉しくなって不思議だわ♪」


 先程よりも離れていたチユキさんが再びギュッと抱き締めて来た。
 どういう事なのかと頭が追い付いてない私に追い打ちを掛けるようにチユキさんは続けて驚きの言葉を耳元で言い放った。


 「じゃ・・・一緒にカイト君襲って篭絡しちゃおっか♪」


 そしてついに、許容範囲を超えた私の頭は現実逃避を開始し、本日二度目の気絶をした。
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