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夏休み
様子見と暇潰し
しおりを挟む~ 魔城 ~
「ただいまぁ~・・・」
「ああ、おかえりアヤト殿!」
「おや、おかえりなさいませ穀潰・・・魔王様」
「おぉ、帰った奴に早々毒吐くとか流石だわ」
メアたちが寝た後、俺は転移で抜け出して来た。
魔城に着いて書斎らしい部屋に直接行くと、机に座って書類を整理していたキリアと横にお盆を持ったアイラートがいた。
二人共俺の顔を見るなり笑顔になったが、キリアの純粋な笑顔とアイラートのバカにするような笑み、その性質がまるで別々だった。
「どうなさったので?」
「暇だった」
「穀つ・・・暇潰しですか」
「ねえ、何なの?怒ってるの?どんだけ人を穀潰し扱いしようとしてんだよ・・・」
俺が冷静にツッコむとキリアがクスリと笑う。
「貴方が来るとアイラートさんはよく話すんだな」
「そうなのか?」
「私はそんな事ないと思うのですが」
「はて?」と首を傾げる。
「アヤト殿のいない間、アイラートさんが話したのを見たところなど片手で数える程度だったし、必要最低限の事しか話さなかったから・・・」
「え、お前の毒舌って俺限定なの?そんなに俺の事嫌いか」
「前にも言いましたが、好きですよ?」
アイラートの乾いた笑いのせいで渋々言ってるようにしか見えない。
(アイラートさんの表情が読み取りにくいが、多分毒舌は本当に愛情の裏返しなのでは・・・?)
キリアが微妙に苦笑いしてるのがなんとなく気になったが、気にしないでおく。
「んで、この書類の山はなんだ?」
「良いところに目を付けましたね」
アイラートが両手を合わせて本当に、本当に良い笑顔でそう言い放った。
嫌な予感しかしない。
「ここにあるのは魔族大陸全土に点在する村や街から集めた要望や不満などです」
「ふうん」
「はい。魔王様が魔王様になられる以前に暴れた痕跡の修繕や人間の魔王など納得しない、「そんな女より代理は私が」など様々な意見が寄せられました」
「様々にしては俺に対しての意見が偏ってる気がするんだけど・・・」
「分かりやすいよう言い直しますか?」
「分かった。分かったから言わなくていい。どうせ「俺に向けられた様々な不満の意見」なんだろ・・・」
「よくお分かりで♪」
殴りたいこの笑顔。
終いにゃ泣くぞ。
「ある程度は承認しましたが、やはり魔王様本人の確認が欲しい書類がいくつかありまして。丁度お呼びしようとしていたのでタイミングが良かったです」
「ああそう、なるほど。見せてみ?」
キリアが座ってる椅子の後ろに回って肘を掛けながら覗き見る。
「これだ」
「どれどれ・・・」
「グランデウス派の奴らが未だに我が物顔で街中を荒らしている。懲らしめてほしい」
「この前の大規模な戦闘の影響で魔物が活発になった。助けめくれ」
「主人が自分探しの旅に出て行ったきり帰って来ない。連れ戻して」
「家事が忙しいのに夫が手伝ってくれない。子守りしてほしい」
「人間の魔王とか勘弁」
「夜暗い道、背中に気をつけろよ」
「死ね」
・・・・・・・・・。
「ねえ、ちょっとコレ・・・凄いどうでもいいのとかただの悪口が混ざってんだけど・・・」
「褒め言葉でしょう」
「お前の褒め言葉って相手を貶す事なの?」
しかもこの最後の二つ、物理的に殺しに来てるだろ・・・。
「まぁ、二つ目までは分かる。場所さえ分かれば解決できる問題だしな。三つ目は・・・自分探しの旅に出た男なんて忘れて他の男でも作っとけ。四つ目はベビーシッターでも雇えや」
なんで個人的な依頼を提出するんだよ・・・魔王をなんだと思ってるの?何でも屋じゃないぞ。
「アヤト殿、他に男を作るというのは流石に・・・一途な女性なのだろう、この人も」
「それよりもベビーシッターというのは?」
「ベビーシッターって・・・アレ、知らない?赤ん坊を世話する仕事の人の事なんだけど」
「なるほど・・・メイドとは別の幼児専用お世話係という事ですか」
「まぁ、そんな感じ」
「魔王様が子守り・・・プッ!」
「おい、露骨にバカにするように笑うな」
アイラートが吹き出したのを見て少し腹が立つ。
どうせ世話の一つもできないんだろうとか似合ってないとか言いたいんだろうけども!
「という事で子守役でも金で雇えと返しとけ。自分探し野郎も同様に。どうせそっちも自分の女に愛想尽かして逃げたんだろ」
「本人がいないからといっても少し辛辣じゃないか?」
「残念だが本人がいても言うぞ」
「魔王様も中々見所がありますね」
「俺は本当の事を言っただけで、お前みたいに荒唐無稽な毒舌は吐いてないからな?」
溜息を吐きながら他の書類も確認してみる。
大半が悪口だった。
恐らく俺の後ろのゴミ箱に入っている破り捨てられた紙屑のほとんどもそんな感じだろう。
あとは「壊された家を直してほしい」とか「なんだか魔法や魔術使えなくなって不便になった」という依頼らしい内容のものがいくつもあった。
それは心当たりのあるものばかりで、無視するには少々心苦しかった。
魔術が使えなくなるのとかはやっぱあの結界の影響だよな・・・グランデウスと戦う前のとこで少し(?)暴れもしたし。
結局他の書類内容も見て、罵りのあまりの多さに俺のSAN値が若干削られ続けながらも仕分けを手伝った。
「ふぅ・・・意外と多かったな」
「そうでございますか?魔王様が人間という事を知った者たちからの罵詈雑言・・・私からすれば少ない方なのですが?」
「確かにな。敵の種族だった筈の人間が魔王をやるなど前代未聞だからな」
「いや、そっちじゃなくて正式な依頼の方だ」
アイラートとキリアが「ああ」と同時に呟く。
「だが「住民の不安不満を聞いてみてくれ」と言ったのはアヤト殿ではないか」
「まあな。ただそんなに多くないと思ってたんだよ」
「そうですか。ですが別の言い方をすれば、派手に暴れたツケを払えという事ですが」
「確かに俺たちが暴れた被害や魔法の使えない結界については俺がなんとかするが、人探しとか子守りは違うだろ・・・」
「面倒なのでお手本という名目で魔王様がちゃっちゃと全部やっちゃってください」
もはや面倒臭さが限界突破して本音を隠そうともしない。
え、本当に子守りする流れコレ?
俺アレだよ?ウルとルウ以外の子供の面倒なんて見た事ないよ?ましてや赤ん坊の哺乳瓶作りとかオムツ替えとか難易度高いんだけど・・・あっ。
ふとある事が頭を過ぎり、その案に乗る事にした。
「分かった。子守り。やってやるよ」
「おや、もう少し駄々をこねるかと思いましたが」
「どう足掻いてもやる流れなんだろ?これ以上お前に毒はかれて心が折れる前に頷いた方がいいと思っただけだ」
「肉体面はともかく精神面が弱いですね。これでは魔王様(笑)と呼ぶしか・・・」
「やめろ。マジで」
それ以上はイジメの領域だからな?
「ところでちょっと話が変わるんだが」
「逃げるんですか?」
「やかましい。・・・魔族に戦争に積極的な奴ってどれだけいる?」
「さあ?」
曖昧な即答が返ってきた。
「人間の魔王様が魔族をどう思っているか分かりませんが、どう思うかなどそれぞれの思想でございます。ただ、私は魔王様が戦うと言うのであれば率先して前に立ちますが?」
「・・・意外と献身的なんだな」
「魔王様がいなくなったらまた探さねばならないじゃないですか」
「結局そうなるのかよ。もうちょっとデレてくれない?」
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「・・・なんか、アイツを放置しちゃいけないんじゃないかって最近思えてきたわ」
アイツの一言でこの世界がロクでもないものになったらどうしてくれようか・・・。
「いや、まぁいい。気にするな」
「かしこまりました。では夜道背中にお気を付けくださいませ」
「その返しはおかしくね?」
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