150 / 303
夏休み
鍛治
しおりを挟む「「・・・・・・」」
薄暗い石で作られた部屋の中、カンッカンッと鉄を叩く音が鳴り響き火花が散り、瞬間ほのかに部屋が明るくなる。
部屋の中央には火炉と金床などがあり、そこでアヤトは作業をしていた。
周囲にはメアとミーナ、カイトにレナも真剣な表情で正座をし、アヤトを見ていた。
正確にはアヤトのしている作業を。
熱して形の変わったソレを専用のハサミで掴み、金床に置いて叩く。
そして水に浸けて温度を下げ、火に入れて再び金床で槌で叩く。
アヤトの頭にはなるべく汗が垂れ落ちないようタオルを頭に巻かれているが、吸収され切れずに垂れる。
燃え上がる火の中に入れ、叩き、火に入れ、叩き、火に入れて叩く。
そんな同じような作業を神妙な顔付きでひたすら続けるアヤト。
本来二人以上必要な作業である切れ目のところは足の指で摘むと器用に押さえ付けて槌で打ち付ける。
メアたちは興味がなければつまらないであろう繰り返す地味なその作業を欠伸一つせずに見つめている。
するとアヤトが一息吐くとメアたちに声を掛けた。
「・・・もう二時間か三時間くらい経ってると思うから聞くが、別に何がなんでも見てなくていいからな?辛いとか眠いんなら馬車に戻すぞ」
「俺は平気です」
カイトの言葉にメアたちも頷く。
「・・・そうか」
アヤトは短くそう答えると作業に戻った。
すると流石に暑くなったのか、上をはだけさせて上裸になるアヤト。
「「ッ!?」」
女性三人が無数の傷が付けられたアヤトのその姿に目を見開き息を飲む。
唯一ソレを知っていたカイトだけが動揺せずに見守っていた。
メアたちもまた、その状態を聞き出せるような雰囲気ではない事を悟り沈黙を続ける。
打ち付ける作業がまた始まる。
鉄を打つような音とパチパチと火から出る音だけが部屋の中に反響する。
最初はそこら辺に転がっているような歪な形をしていたソレは、長い時間を掛けて槌を打ち付け、段々と形状が定まった形へと変化していく。
細く、薄く、下手をすれば折れてしまいそうな刃の形に。
そしてソレは同時にメアが使用していた「刀」の形に酷似していた。
しかし刀と呼ぶには不格好な状態で。
「・・・今日はここまでだ」
そう言って出来上がった物を置いて大きく息を吐くアヤト。
すると他の者たちも同じように息を吐いて気を緩めていた。
「・・・なんでお前らまで疲れたみたいになってんだよ?」
「だってよぉ・・・アヤトが切羽詰まったような感じでやるからこっちまで緊張しちまうんだよ」
「ですよね・・・師匠って物作ってる時ってあんな顔をしてるんですね」
「何見てんだよ。俺の作業見てたんじゃないのかよ・・・」
「俺はちゃんと見てたぜ!」
フンスッと鼻を鳴らして胸を張るメア。
「ああそうだな。いくつかの視線の中に完全に俺をガン見してるのもあったもんな」
アヤトがジト目で見るとメアは「ナンノコトダカナー」と呟いて顔を逸らした。
「・・・ふぅ、まあいい。カイト、そこにあるタオル投げてくれ」
「あ、はい」
頭に巻いた物とは別のタオルをカイトから受け取り体の汗を拭く。
その姿を頬を染めてジッと見るメアとミーナ。
アヤトは熱い視線を感じて眉をひそめる。
「あんま見せられるもんじゃないんだが・・・凄いだろ?」
「ああ、凄い筋肉だな・・・」
「・・・ん?あり、がとう?・・・いや、聞いたのは傷の方なんだけどな」
「・・・え?あ、ああ!傷な!傷・・・どうしたんだよその傷!?」
正直、ツッコまれるのが遅すぎて俺の方がびっくりした。
まさかこんなに目立つ傷より肉体の方を見ていたとは。
・・・なんか恥ずかしいんですけど。
ササッと体をタオルで拭いて服を着る。
大量の汗を掻いたから早く風呂に入りたい。
・・・そういえば、俺たちはこっそり魔空間の露天風呂入ってるけどクリララはどうしてるんだ・・・?
それを聞こうと馬車を停めたキャンプ地の近くの森に転移すると、クリララたちがいるであろう場所が少し騒がしくなっていた。
近付いて見てみるとそこで数種類混じった大量の魔物に襲われていた。
すでにいくらか時間が経過していたようで、魔物の死体が転がっていた。
「アーク、そっちに沢山魔物行くからねー!」
「なんでだよ・・・って本当に来やがった!?なんで!?」
「私が「ヘイトポイント」の対象を貴方にしたからですよぉ」
「おい、ふざけんなっ!」
あの三人は相変わらず緊張感のない戦いをしているようだった。
その中にランカが加わる。
「あ、そのまま引き付けてて下さい。魔術でまとめて吹っ飛ばしますので!!」
「待て、ちょっと待て!その「まとめて」って俺も含まれてないよな?なぁ!?」
「烈火の如き炎で千を焼き尽くし、万を葬り、万物全てを虚無へと還元せよ!穿て!エクスプロージョンッ!!」
ランカが言い終わるとアークの上に巨大な魔法陣が展開され、そこから小さな火の玉が急降下してきた。
そしてその玉が地面に着地するのと同時にドーム状の爆発が広がる。
「アァァァァァ!?火がッ!?ヒガァァァァッ!!」
なりふり構わず走るアーク。
しかし爆炎の広がりが早く、すでにアークの真後ろまでに迫っていた。
なのでアークの前方に裂け目を作り、俺たちの横へと転移させた。
「あっ、あひっ、ひぃ・・・あれ?たす、たすかっ・・・うぇっ・・・」
膝に手を突いて辺りの安全を確認しながら切れた息を整えようとして嗚咽する。
仲間に囮に使われた挙句頭のおかしい中二病患者の魔術で巻き添えを食らいそうになったとか・・・ただ相手がアークだからなのか、別に同情しなくてもいいかな?なんていう気分になる。
改めて見るとランカの魔術でほとんどの魔物が消え、パラパラと散らばってるのみとなった。
「ランカさん凄えだよ!オラも頑張るだ!!」
そう言ったクリララは襲って来た狼の魔物をスパーンッ!という音を立てて殴り飛ばしていた。
狼だけではない、自分の体よりも大きな猪や蛇も難無く飛んでいく。
なんという怪力系女子。
そして他はというと、ヘレナの周囲には魔物が一切近付こうとしておらず、フィーナとシャードは近くでゆったりと座っていた。
魔物はヘレナが竜だと本能で感じ取っているのだろうか?ビクビクとして近付くどころか後退して行っている。
「・・・楽だな」
「そうね、楽で助かるわー」
「・・・告。ヘレナが魔物避けに使われてるようで少々不快です」
「実際魔物に避けられてるんだからしょうがないじゃない」
「一応ここに魔物寄せの液体薬があるが・・・」
「余計な事はしないでよ!?」
魔物の軍勢に襲われてるとは思えない、なんとも和やかな雰囲気を出していた。
「クリララ、コレってどういう事だ?」
クリララに近付きながら聞く。
途中カイトたち共々襲って来た魔物を殴り飛ばす。
間に守ってもらうようにアークがブルブルと肩を震わせて使い物にならなくなっているのは気にしないでおく。
むしろこれで女性不信にでもなって落ち着いてくれればいいんだが。
「いやー、オラもこんな事初めてでびっくりししてるだよ!魔物の一匹二匹ならよくある話だが、こんな異常な量・・・しかも複数種類が混じった魔物が襲って来るなんて聞いた事もねえでなぁ・・・」
しみじみと話しながら狼の魔物の尻尾を掴んでブンブン振り回し、勢いに耐えられなかった魔物がキャインキャインと鳴いていた。・・・いや、泣いてる?
俺が言うのもなんだけど、やめたげて!と叫びたくなる光景だった。
「あっ、逃げてくだ」
自分たちの同族をほとんど倒されたのを見て怖気付いたのか、クリララの言う通り魔物は森の奥へと消えて行った。
「まぁ、これだけやられたら逃げたくなるわな」
「臆病な腰抜けどもめ!我らが戦力を眼前に尻尾を巻いて逃げ出しおったわ!!フッハハハハハハゲホッケホッ・・・!」
「お前はどこの軍曹だ」
調子に乗って咳き込んだランカの頭をペシンと軽く叩く。
辺りの魔物の大量の残骸を集めて邪魔にならない所に寄せ、飯の準備を始めた。
20
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。