最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

文字の大きさ
154 / 303
夏休み

着替え

しおりを挟む


 「さ、お腹の探り合いはここまでにして!せっかく娘の恩人が来てくれたのよ?いつまでも暗い雰囲気なのは良くないわ♪」


 パンッと突然手を合わせ、ニコニコと笑いながらそう言うロロナ。
 確かに威圧もしてなければ刃物を手に持ってるわけでもないけども・・・母は強しとよく言うがこれは強過ぎるだろ。
 その王妃の言葉で部屋全体の空気が少しだけ和らいだ気がした。


 「・・・ま、こっちも招待してもらってる身だ。ここで大人しく引き下がるとするかね」


 回していた腕をパッと離してさっきと同じようにメアたちの元へスッと戻る。


 「また・・・!!」

 「そうそう、俺この世界に来る前も一国まるごと相手にした事もあるから、もしそういう関係がお望みなら相応の覚悟と準備をした方がいい」


 作った笑みを貼り付けて振り向き、ラサシスに忠告する。


 「・・・あぁ、肝に命じておこう。私たちとしても貴殿とは好意的な関係でありたい」

 「そっか。・・・ああでも、もし「個人的に」って言うのであれば話は別だけどな」

 「え?」

 「・・・いや、なんでもない」


 気付く奴は気付くだろう言い方だけして話を戻す。


 「変な空気になっちまったが、こんな俺たちを歓迎するか?」

 「いや、「たち」って・・・こんな空気にしたのあんた一人なんだから巻き込もうとしないでよ」


 フィーナに冷静にツッコまれて少し心が痛い。

 事実だけどさ・・・そこは敢えて言わないでほしかったよ。


 「勿論歓迎する!今のは私の不適切な発言が原因で貴殿を不快な気分にさせてしまった。その事に関して謝罪させてほしい」


 そう言ってラサシスは椅子から立ち上がって歩み始め、ナタリアたちを通り過ぎて俺たちの前に立ち、片膝を突いた。
 その行動に貴族たちが騒めき、イリアが憤慨する。


 「お父様!王がそんなホイホイ頭を下げないでください!」

 「いいえイリア、たとえ王であってもいけない事をしたらごめんなさいをするのよ?」


 王妃もまた王の横に立っていた。


 「お母様・・・そういう問題じゃないです。それに、今のアヤト様の行動は明らかに不敬で・・・」

 「それも無しです!ここにいる他の者たちにも王命として伝えますが、今起こった事は他言無用、見なかった事に、ね?」


 そう言ってニッコリと微笑んで可愛らしく首を傾げた。
 若々しいその見た目と相俟あいまって可愛らしい少女のような動作に、周りで困惑していた貴族たちも個々に「しょうがないな」と溜息混じりに言う。

 イリア母の和むオーラハンパねえ。

 妻であるロロナの言葉を聞いたラサシスも「全く敵わんなぁ・・・」と呟き、苦笑いを浮かべながらようやく立ち上がる。


 「というわけで、早速アヤト様方に着替えてもらいましょう!服はこちらでも用意させていただいていますので、更衣室へ案内致しますよ♪」


 するとロロナがスッと立ち上がる。
 その言動に周囲が騒めき始める。


 「お母様!?案内なら私が・・・!」

 「ダメよ?こんなに可愛い子たちの着せ替えを独り占めするなんて。私も混ぜなさい♪」


 その言葉に今度は周囲とイリアから「あぁ・・・」という声が上がる。
 俺も今のでなんとなく察した。

 この人はアレだ。可愛い物と人を着せ替え人形にするのが好きなんだな。

 それからメアたち女性陣はロロナに連れられ、俺たち男性陣は案内役の男に連れて行かれた。
 案内された部屋にはよく分からんデザインの貴族向けのような華やかな衣装が大量に用意されていた。
 そんな光景を見て「持って来て良かった」と心から思った。
 俺にこんなのは似合うわけない。っていうか着たくない。
 という事で自前(空間収納庫)で持って来た黒のタキシードを取り出して着る。
 付いて来たユウキにも同じ白い物を渡し、カイトとアークには白いタキシードを渡す。
 とはいえ、貴族服よりはマシというだけで、タキシードも俺に似合うかというとそうでもなくて。
 ユウキとアークは散々俺を笑ってくれていた。
 俺も言い返してやりたがったが、三人共似合っていて何も言えなかったのが凄く悔しい。

 全くこれだからイケメンは・・・細胞一つ一つが飛び散ればいいのに。

 中身がどんなでも絵になるのが腹立つ。
 ともあれ、いつもの格好で出るわけにもいかなそうだから俺もコレを着るしかないんだが。


 「なんでテメーらは着こなしてんだよ。特にユウキ、お前そういう催しとか出た事ないだろ」

 「ま、着こなしちまうってやつだな・・・悲しい性だ」


 顔に手を当てフッと笑い格好付けた。


 「言ってて恥ずかしくない?」

 「恥ずかしい。めっちゃ」


 だったら言うなよ、というのも無理な話か。だってコイツそういう奴だもん。

 アークもアークで鏡の前で格好付けてるナルシスト具合がまた腹立つ。しばき回してやろうかとも思った。
 ただ俺も人を妬んでばかりじゃ意味がないので、髪を整えたりなどユウキにアドバイスを貰いながらしてみる事にした。


 「だけど別にアヤトだって悪いわけじゃないんだから、少し整えれば様になるって。・・・髪固めるのにワックスとかないけどどうしよう?」

 「・・・魔法でなんとかならんかな」

 「魔法か・・・できたら便利だな」

 「よし、やってみよう」


 試しに髪の片側をバックにして水魔法で濡らし、火と風でドライヤーのように髪を一瞬で乾かす。
 最後は空間魔術でセッツ!


 「・・・有言実行する辺り、流石兄貴ッス」

 「結局色々魔術使ってやっとだがな。コレでどうだ?」

 「ああ、大分男前になった。・・・ついでにランカちゃんみたいにモミアゲんとこ三つ編みにしてみるか?」

 「やめい。イケメン然り、美少女然り、ソイツらに限るという言葉があるだろ。俺がやったらただのネタだ」

 「そうは思わねえけどなぁ・・・」

 「じゃあ代わりにお前がやって俺の仇でも討っとけ」

 「この投げやりよ。いやまぁ、ならやってみるけどさ・・・アレ、やり方どうやったっけ?」

 「知らん。っつうかその言い方、やった事あるのかよ」

 「フッ、舐めるなよ。どれだけ等身大の美少女フュギュアの髪型をイジッた事か・・・!」


 一般人が聞いたらかなり引くセリフを堂々と吐くユウキ。

 アークとは違った意味で残念なイケメンだよな、本当に。

 心の底からそう思った。


 ーーーー


 ☆★ランカ★☆


 「ぬあぁぁぁぁ!?!?」


 ただ、ひたすらに叫ぶ事しかできなかった。
 助けを求めても誰も助けてくれない。いや、
 誰もが綺麗なドレスを着たままぐったりとして壁に寄り掛かったり、窓で憂鬱そうにタバコを咥えて空を見つめて呆然としていたりする。
 みんなロロナさんに着せ替えられて心身共に疲労していた。
 セレスさんに関してはむしろロロナさんと一緒に私を着せ替え人形にしている。
 「アレはどうだろう?」「コレとコレを組み合わせれば可愛いんじゃないか?」「あらあらあらうふふふふ」とそんな会話をしながら脱がして着せて脱がして着せて・・・ect...
 かなり時間が経過したような気がする程イジられ、辺りに足の踏み場がないくらいに服が散乱した頃、ようやく終わりを告げた。


 「いいわよ~、可愛いわみんな!」

 「「・・・・・・」」


 華やかな見た目とは裏腹に、みんな死んだ魚の目をしていたのがなんとも酷い光景だった。
 かく言う私も黒いドレスを着てるせいかお通夜のような雰囲気を醸し出していた。


 「なんでしょう、もう帰りたくなってきました・・・」

 「私もだよ・・・まさかこの歳で着せ替えられるとは思わなかった・・・」

 「クフ、フフフ・・・アヤト君に負けず劣らずの精神攻撃だったわ・・・」


 シャードさんやあのチユキさんでさえこの有り様だった。

 史上最悪とまで言われてるであろう悪魔にここまで言わせるとは・・・イリアママ怖い。


 「では参りましょう。殿方もきっとお待ちしているでしょうし♪」


 その言葉を聞いて気を取り直す。

 さて、あの朴念仁は何か気の利いた事を言ってくれるでしょうか?
 最低でもメアさんやミーナさんを褒めなければ頭に一発でも入れてやりますかね。
しおりを挟む
感想 254

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。