最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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夏休み

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 「ふむ、これは・・・」


 俺たちが着替え終わり、女性陣よりも先にパーティー会場に足を運んで来たのだが・・・。


 「おぉ、コレが魔王討伐に貢献した勇者の一人・・・逞しいお身体をお持ちで!」

 「本当に。それに王にさえ頭を下げず、それどころか謀反に近い事さえ堂々と。決して褒められた行動ではないとは言え、やはり殿方ならこれくらいの気概をお見せにならなければ」

 「おいおい、その話は忘れるようにと先程言われたばかりではないか。・・・しかし先の言いよう、魔王を倒しただけはありますなぁ。男の私でも惚れ惚れしてしまいましたよ!」


 とまぁ、会話というより一方的に話し掛けられて褒め称えられるような言葉が目の前で交わされていた。
 正直戸惑う。
 恐れられたり敬遠されたりなどは予想していたが、そんな事はお構い無しに言い寄られる。
 しかもそこに悪意などなく、純粋に話し掛けて来る奴らがほとんどだった。
 どうしたものかとユウキの方を見ると、死んだ魚の目に愛想笑いを組み合わせたまま完全に意識を放り投げていた。
 アークは案の定女貴族を口説いていたりするし。だからここから出るまでは同類と思われないためにもアイツに関わらない。関わりたくない。
 俺もユウキと同じ技術を身に付けようかなと思った時、俺たちがこの会場に入った扉が再び開かれ、そこから華やかな衣装に身を包んだメアたちが王妃を先頭に入場して来た。
 心無しかロロナとセレスの肌がツルツルになっていて、他の女全員がげっそりしてるのは気にしない方がいいだろう。
 するとメアが真っ先に俺を見つけると一直線に歩き始めたので、周りの貴族に断りを入れて俺もメアに近付いて行った。
 メアの行動に気付いたミーナたちも駆け寄って来る。


 「アヤト~、着替えだけでスゲー疲れたー・・・」


 メアはそのまま止まる事なく俺の胸に飛び込んで来る。
 こんな大勢の前でよくやるなぁと思っているとミーナが俺の服を摘んで見上げて来た。


 「アヤト」


 ミーナは両手を広げて服装を見せ付けるようにゆっくりと回転していた。
 他のメンバーも少し遠目に見ながら何名かそわそわしてる奴も。

 ああなるほど、褒めろと。


 「メアもミーナも、みんな似合ってるよ。・・・ああ、ランカは似合い過ぎてるな。相変わらず黒しか着てねえんだからよ、お前は・・・」


 黒い喪服のようなドレスを着たブレないランカに感心する。


 「うるさいですよ。褒めてるんですか?貶してるんですか?」

 「褒めてるって事にしとけ、まっくろくろすけ」

 「なんだか今凄いバカにされた気がしましたが」


 してない。
 たとえそれがススワタリなどと呼ばれる妖怪やお化けの類いだったとしても決してバカになんかしてない。


 「ほら、メアも。仮とは言えお姫様なんだろうから背筋の一つでも伸ばしとけ」

 「仮にってなんだよ?」

 「名前負けっていうか、見た目負けしてるからな」

 「俺は別にアヤトの近くに居られれば姫じゃなくてもいいんだけどな?」


 あざとく首を傾げて随分可愛らしい事を言ってくれるメア。
 すると王妃もこっちの話に混ざって来た。


 「気になってたのだけれど、メアちゃんってもしかしてラライナのルーク様のお孫様かしら?」

 「え・・・アッ、ハイソウデス・・・」


 メアは話し掛けられた途端に怯えた子犬のように俺の背後に隠れて震えていた。
 この短い時間に一体何をされたらこうなるんだか。


 「やっぱり!懐かしいわね・・・貴女に会ったのは昔ルーク様の所へ行った時の事で凄く綺麗になっちゃってて分からなかったけど、まだ面影が残ってるわ」

 「そ、そうですか・・・」

 「そうよ、なんて言ったってこのキリッとした目がそのままですから。でも・・・フフッ、すぐに分からなかったのは体が成長したからじゃないのね・・・」


 ロロナは俺とメアを交互に見ながら近付いて来て、メアの紅潮した頬にスッと手を伸ばす。


 「今すっごく恋する女の顔になってるもの、メアちゃん♪」


 指摘されたメアの顔は更に赤くなり、どうしようもなくなったその顔を俺の背中へと埋めた。
 その頭を優しく撫でとく。


 「あまりコイツをイジメないでくれよ。また引きこもったらどうしてくれる」

 「アヤトも結構酷い事言ってないか・・・?」


 涙を溜めたジト目になってプクッと頬を膨らませるメア。
 そんな、俺たちを見てクスクスと笑うロロナ。


 「そう、貴方が・・・ちゃんと幸せにしてあげなきゃダメよ?」

 「ああ、勿論。俺の境遇が少し特殊だから「絶対にできる」とは言えないけど、絶対に幸せにしてやるって言ってやるよ。・・・ただの意地だけどな」

 「それは誰しもがそうなのですよ。確定した絶対の未来なんてないのだから。だけどそれでも、それだけの意気込みで私たちは挑むのです。たとえその先で何が待ち構えていようと、その全てを乗り越える気持ちで。でしょう、貴方?」


 そう言ってロロナが振り返った先にいたラサシスに腕を絡ませる。


 「あー・・・聞いていたのは途中だったから内容がいまいち掴めないのだが・・・」

 「もう、格好付かないわね・・・」


 いきなり話を振られて困った表情をするラサシスに呆れた笑いを浮かべるロロナ。
 しかし、さっきの言葉や今のやり取りを見てるととても幸せそうに見えた。
 それは金が地位があるからではなく、きっと心から愛する人がいるからだろう。

 愛、か・・・。

 体を寄せて来るメアとミーナを見て心の中で呟き、二人を抱き締める。


 「・・・アヤト?」

 「ど、どうしたんだ急に?」


 二人共驚いた表情で俺を見上げる。
 俺がこんな事をしたのは、気持ちが理解できないなら行動で示せば何か分かるかと思ったからだ。
 まずは形からなんて言うしな。
 それにいつもはメアたちからしてくるから、たまには俺からもしてやりたいと、そう思った。


 「いや、なんでもない。話もいいが飯も食わないか?そろそろ腹減ったんだが」

 「おお、そうだな。食事は腐る程用意した、存分に食うといい!」

 「腐らせちゃダメだから残さず食べてね♪」


 最後すら格好も付けさせてもらえないラサシス。
 少し、というかあからさまに落ち込んでいたので、せめてワインでも注いでやろうと思った。
 他の奴らもそれぞれ楽しむように言って別れる。
 メアはイリアとミーナ、フィーナとシャード、ランカとヘレナ、カイトとレナとチユキ、そしていつものセレスたち三人組のグループに分かれていた。
 フィーナとランカたちは意外なようでなんとなく納得の行く組み合わせだった。

 うん、フィーナとシャードは静かにワインを持って絵になってるし、ランカとヘレナは大食いコンビだ。
 ある意味お似合いだな。

 そして俺はというとラサシスに酒を注いだ後、散々貴族たちによく分からん自慢話をされ、テラスに逃げてユウキと二人きりになった。


 「・・・やっぱ俺、貴族嫌いだわ」

 「いきなりその話かい・・・あの貴族んたち中に悪い奴でもいたか?」

 「いんや。気味が悪い程普通だった」

 「普通が気味悪いって言われて納得する俺も中々だよな」


 そう言って大きく溜息を吐くユウキ。
 コイツも意地になって俺に付いて来たりしたから、何回か絡まれた事もしばしばあった。
 だから俺たちは権力者をあまり良い目で見れなくなっていたのだ。


 「それに怖がられたりもされてなかったよな?」

 「ああ、そうだな。恐怖っていうより怖いもの見たさの興味本位だった。ったく、俺はお化け屋敷か何かじゃねえぞ・・・」

 「まぁいいじゃねえか。普通ならここで「何か裏があったりするかも?」なんて考えも、お前の場合考えが分かるんだから心配要らねえだろ?」

 「考えとまではいかねえけどな。・・・はぁ、全員が全員ああいうのだったら楽だったのになぁ・・・」

 「うわぁ、その言い方・・・また厄介事に首突っ込んだな?」


 アレ、なんかバレた?

 俺の顔が相当分かりやすかったのか、ユウキは呆れた笑みを浮かべた。


 「お前自覚してないだろうけど、解決してない面倒事とかがあると必ず首の後ろを撫でる癖があるんだぜ?」


 言われてハッと気付く。
 たった今首の後ろを撫でている動作を取っている事に。
 怖いくらい無意識だった。まさか自分がこんな動作を取っているとは思わなかった。


 「長年お前を見てきた成果だな!」

 「男に言われてもあんま嬉しくねえよ・・・」

 「確かに!」


 ケラケラと笑うユウキにつられて笑ってしまう。
 そのまま「面倒事」については問い質される事もなく有耶無耶にさせ、自分がいなかった間にまた可愛い女の子増やしたんじゃないかとか、さっきのは流石にやり過ぎたんじゃないかとか、特に中身の無い雑談に花を咲かせお互いに笑って過ごした。
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