最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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夏休み

褒美

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 ☆★カイト★☆


 なんだかんだ師匠が問題を起こしながらも結果的に罪に問われる事なく、それどころか王様に謝られて不問に、そのままパーティーが開かれる事となった。
 師匠だから心配ないだろうけど、それでも正直肝が冷える思いだった・・・。

 だって、師匠が言った「国丸ごと相手してやる」ってつまり戦争しようとしてたって事だろ?

 そう考えたら背筋がゾクリとする。
 師匠は権力を盾にするような偉い人たちが嫌いって言ってたけれども、本当に挑発しに行くとは思わなかった。
 師匠を知ってる俺たちからすれば、たとえ一国を相手にしたとしても師匠が負けるとは誰も思わないだろう。
 たけど俺が懸念してるのは勝ち負けの話じゃない。師匠が人間を殺した後の事だ。
 相手は魔物や魔族じゃない。そしてその「人間を殺した」という事実を知った周りがどう反応するか。
 師匠は化け物と罵られ迫害されるのではないだろうか?
 夢で見るアレはただの夢じゃない、師匠の記憶だ。
 その中で師匠は化け物と、悪魔と迫害されて命を狙われ続けていた。
 勿論それは師匠の特異体質のせいもあるかもしれないけど、その縁を全て断ち切ってこの世界に師匠はやって来た。
 なのに、さっきの行為はあまりにも軽率と言えるものだ。自分から敵を作りに行くなんて。

 ・・・それとも、もしそうなったとしても気にしないとか?

 向こうでは家族とユウキさん以外に味方はいなかったけど、こっちに来てからは仲間、師匠の言葉を借りるなら家族と呼べる多くの大切な人たちができた。
 その人たちが師匠を裏切らないと信じているからあんな行動を取ったとするなら・・・


 「少し・・・複雑な気分かな」

 「何が?」

 「うおっ、痛っ!?」


 考え事をして俯いていた俺をチユキさんが下から覗き込んで来た。
 驚きのあまり反り返り過ぎて、寄り掛かっていた後ろの壁に後頭部をぶつけてしまった。
 涙目になりながら前を見ると、前にも見た事のある白いドレスを着たチユキさんが驚いた表情をしていた。


 「あらら、ごめんなさい?そんなに驚くなんて思わなかった」

 「い、いえ・・・ボーッとしてた俺も悪いですし・・・」

 「カイト、君、何かあった、の・・・?なんだか、顔色、悪い、よ・・・?」


 紺色に近い青の綺麗なドレスを着たレナが心配してくれていた。


 「むしろあんな事があって平気でいられないだろ・・・。師匠が王様に喧嘩売ろうとしてたんだぞ?」

 「それを言うなら私、王様っちゃったけどね?」

 「・・・そういえばそうでしたね。もう手遅れでしたね」


 と言っても、チユキさんが人を殺しても何とも思わないのは相手が性格の悪い人だったからか、それともチユキさんが悪魔だからか・・・。
 どちらにしても、師匠とチユキさんとでは感覚が違く感じた。


 「でしょう?それに、もしも戦争なんて事になったら相手の方が可哀想じゃない?」

 「そりゃあまぁ・・・師匠に勝てる生物がこの地上にいるかどうかも怪しいですから・・・」

 「そうじゃなくて。アヤト君が前に出なくてもヘレナちゃんやあの二人がいるじゃない。まぁ、一人は気乗りしないだろうけど、それでも竜が二匹出て来ちゃえば・・・どうなると思う?」


 「あの二人」と言われてすぐにピンと来なかったが、竜になると言われて着物の女性と作務衣の男性の姿が思い浮かんだ。
 「確かに」と頷く。
 一体でも恐怖を覚える神話にしか出て来ないような竜が三体も出てくれば戦う気すらなくなって逃げてしまいたくなるだろう。
 それがたとえこちらに敵意がなかったとしても、相手にはそんな事が伝わらない。
 だから「可哀想」なのだ。


 「最初から駒の揃ってるアヤト君と敵対しようなんて事自体バカげてるのよ。自慢になっちゃうけど、この世界の最高戦力のほとんどがアヤト君一人の元に集まってる状態なのよ?向こうにアヤト君がもう一人でもいない限り負けるなんて想像もできないわ」


 そんな不吉な事を言ってクフフと笑うチユキさん。

 師匠が二人とか嫌なんだけど・・・いや、師匠が嫌とかじゃなくてね?
 って、なんで自分に言い訳しようとしてんだ、俺は。

 ・・・ただそれでも、師匠が二人にいるのは疲れそうでなんか嫌だ。


 ーーーー


 ☆★アヤト★☆


 「して、多大な貢献をしてくれたそなたたちに褒美を取らせようと思うのだが・・・」

 「要らん」


 宴の途中、それぞれが思い思いに過ごすと自然と再び集まる事となり、混ざって来たラサシスの言葉に即答しておく。


 「アヤト様、貰えるものは貰った方がいいのでは?」

 「無料タダより怖いものはない、ってな。まぁ、そうじゃなくても欲しいものなんてないし、あったとしても大抵自分で何とかできる。・・・俺の分を誰かにあげて見たらどうだ?」

 「誰かに・・・しかし貴殿の連れて来た者たち全員には均等に授けようと思っているが・・・」

 「ならあんた自身にやるといい。自分へのご褒美っつって王妃様と一緒に旅行にでも行ったらどうだ?見たところ愛が冷めてもいなさそうだし」

 「んなっ!?」

 「あら~それもいいわね!どうかしらアナタ?たまには二人きりでお出掛けでも・・・うふふ♪」


 嬉しそうにラサシスの腕に絡むロロナ。
 それに対しラサシスは矛先が突然に向かってオロオロとしていた。


 「い、いやしかし、そもそも我らが不在にしては・・・」

 「あら。でしたらお父様たちが不在中のお仕事は代わりに私が引き受けますわ」

 「イリア・・・いやだがしかし・・・」

 「心配には及びませんわ。事あるごとに仕事を押し付けられあちらこちらへと赴き、手が足りないとわざわざ娘の前で泣き言をほざいて手伝わされたのは伊達ではありませんわよ?」


 そう言ったイリアの顔は笑顔だった。
 ただ普通の笑顔と違っていたのは軽く血管が浮き出ていた事くらいだろう。
 代弁するなら、「ある程度仕事を覚えてるんだから、あとは娘に任せて二人でとっとと楽しんで来いや」と言ったところじゃないだろうか。

 コイツからは今までにない「圧」を感じるッ!・・・なんてそれっぽい事をユウキ辺りが考えていそうだ。

 そんなイリアの勢いに負けたラサシスは渋々といった様子で頷いた。


 「まぁでも、仮にも王が外出するんだ。言い出しっぺの俺にも責任があるからこっちからも護衛を出すぞ」

 「おお、それはありがたい!いくらこちらにナタリアがいるとは言え、他の国のように実力の持ち主を多く持ってはいないのだ。だからと言って軍を動かすわけにもいかず、悩んでおったが・・・貴殿がそう言ってくれると心強い。一緒に来てくれるか?」

 「いや、俺は行かねえよ」

 「・・・え?」

 「何を期待したのか知らんけど、俺は「こっちからも護衛を出す」と言っただけで俺が行くとは一言も言ってないからな?」

 「では誰が・・・?」

 「・・・誰にしよう?」


 うちには弟子であるカイトたちを抜けば実力を持った奴らが集まってる。
 変身できない奴を抜いて挙げるなら、ノワールとチユキ、ヘレナにランカ、恐らく他の竜二人も人の姿でも十分強いだろう。
 ・・・しかし、「実力は」と強調しなければいけないのもまた事実。

 ノワールは基本優秀だが特定の事に関しては短気。それにアイツにはガーストの事を相談して任せようと思っている。
 チユキは気まぐれで必ずカイトを同行させなければ文句を言うに決まってる。
 ヘレナは抜けてるとこが多いから護衛が成り立たなそう。
 ランカはお調子者で足をすくわれやすい。
 着物女は言わずもがな、誰にでも突っ掛かって要らないトラブルを呼び込むに決まってる。少なくとも険悪な雰囲気は確実だな。
 残りは作務衣の男になるが・・・どれだけ頼りになるか分からない。
 最近ここに来たエリだって多少腕が立つとは言えまだ弟子クラスで実力不足。
 ならあとは・・・?


 「・・・あっ」
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