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夏休み
竜も魔物です
しおりを挟む「重要な依頼があるとノワール様からお聞きし参上致しました」
「久しぶり兄さん!兄さんが頼み事なんて珍しいね?」
ノワールに連絡を取ってイリーナとノクトにノルトルンへ転移で連れて来てもらった。
この二人なら実力もあるし性格も問題ない。
特にイリーナなら達人だし、この手の問題などいくらか請け負った事があるだろう。
俺がノクトたちに声を掛けようとすると、ラサシスが先に口を開く。
「その者たちは・・・?先程の中にいなかったと記憶しているが・・・」
「まぁ、今呼んだしな」
「どうやって・・・貴殿らもここに来る時六日は掛かっただろう!?」
憤り、というよりも興奮して声が荒くなるラサシス。
「そこは企業秘密って事で。イリーナたちも来てくれてありがとな」
「いえ、旦那様がお呼びとあらばすぐに駆け付けますよ」
「そうだよ!兄さんが頼ってくれるなんてあまりないからね。それで何をすればいいの?」
「簡潔に言うと、この二人の護衛をしてくれ」
体をラサシス夫妻の方へ向けて言う。
そんな二人の顔は未だに驚いた表情をしたままだった。
「そんな少女たちが・・・?」
「二人とも実力はある方だし、コイツに関しては勇者だって言った方が理解しやすいか?」
ノクトの肩に腕を回して正体を告げる。
「この子が・・・?こんな幼い少女がか?」
「・・・んまぁ、俺だって初見はそう思ったけれども・・・ノクトは男だ」
「まぁ、こんな可愛らしい子が?」
ロロナがノクトに近付き、ぬいぐるみのように抱き付いた。
それを見た他の貴婦人たちもノクトを囲み、キャーキャーと姦しく騒ぎながら撫でくり回される。
「えっ、ちょ、ちょっと待っ・・・助けて兄さん!!」
「無理!」
そんな女の群れに飛び込む勇気など俺にはない。
むしろ良かったじゃないか?女にチヤホヤされて。モテモテじゃないか。
全く羨ましく感じないのは俺だけだと思うが。
少し離れたとこでアークが悔しそうにしててそう思う。
ラサシスの方へ向き直り話を戻す。
「二人共、特にイリーナの実力は俺のお墨付きだから心配要らない。その上あんな可愛い勇者がお供になるんだ。文句はないだろ?」
「ああ、文句などない。むしろーー」
「むしろ願ったり叶ったりですわ!」
ラサシスの言葉を遮って興奮したままのロロナが、ノクトをまるで人形のように抱き抱えて帰って来た。
その後ろで物欲しそうな視線を送ってくる貴婦人たちも見える。
その本人はぐったりとして虚ろな目をしていた。
「むさ苦しい男性や堅苦しいナタリアよりもずっと楽しい旅ができそうですもの!」
「かたっ・・・!?ロロナ様、私たちはあくまで護衛として付き従うだけで、一緒に気を抜いていては・・・」
「全く融通が利かないんだから・・・だから貴女は頭が堅いって言われるのよ?」
ナタリアが小さく「うっ・・・」と唸り俯く。どうやら前にも言われた事があるようだ。
しかしそもそも騎士なんて職業を進んでやる奴なんてクソ真面目な奴しかいないってイメージがあったが、大体合っているようだ。
「承りました。して期間はどうなさいます?」
「そうだな・・・いつまで旅行に行くつもりだ?」
「そうねえ・・・あまり家を空けるのも心配だし、五日・・・移動時間も合わせて八日間としましょう!」
「だそうだ」
「かしこまりました」
「家事はココアにでも任せるから、そう気負わずに行って来い。ちょっとした特別休暇みたいなもんだ」
「王の護衛を休暇扱いとは何事ですか・・・」
イリアはもう怒るのすら諦めて呆れた様子でそう言った。
しかし一日中忙しなく家事をやってるより護衛として付いて行った方がゆっくりできると思う。
ああいう仕事人間はどうせ暇を与えたって手持ち無沙汰になって、結局家事をやり出すに決まってんだから。
仕事の全くない暇な休日より、量を減らした仕事、楽な仕事を回した方が休暇になる。
「・・・ともかく話が纏まったようなので、こちらも報告させていただいてよろしいですか?」
報告・・・?何か頼んでたっけ?
記憶に無いイリーナの言葉に過去を掘り起こしながら次の言葉を待っていると、俺だけに聞こえるよう近付いて呟いてきた。
「旦那様方がお出掛けになり、留守にされた屋敷が先程襲撃されました」
「・・・そうか」
その一言だけを返す。
予想はしていたから驚く事は特になかった。
勿論、ソレをイリーナが対処してくれる事も視野に入れていた。
そして恐らく、というより絶対にグウェントの奴が送り込んだのだろう。
軽く溜息を吐いてイリーナに詳細を聞く。
「それで今ソイツらは?」
「作務衣を着た男性からの言伝でございます」
イリーナの脈略どころか話をぶった切っての違う話題変換につい「ん?」となってしまったが、次の言葉で理解する。
「『美味いごちそうだった』・・・と」
「・・・ああ、なるほど」
そう言われて髭面のおっさんを思い出す。
アイツ・・・人間食いやがったなぁ・・・。
ちょっと待て・・・まずアイツら人間食うの?
いや、竜って言ったら人間食ってもおかしくないイメージだけども・・・。
あまり聞きたくはないが、イリーナに本当かどうか聞いてみる。
「イリーナはその現場を見たのか?」
「えぇ、それはもう清々しい程に一口でぺろりと」
「ああ・・・そう・・・」
確定。
もう少し別の意味かな?って思ったがそのままの意味だった。
そっかー・・・アイツら人間食うのかー・・・。
って言うとやっぱヘレナも人間食うのか?
・・・ま、いっか。
これで味を占めてそこらの一般人やカイトたちに襲い掛かるとかなら問題だが、そうでなければただの証拠隠滅だ。
だから問題ない。そう思う事にする。
「しかしこの子も貴殿の弟君・・・なのか?ユウキ君といい、この世界に呼ばれる勇者は君と何かと縁がある者ばかりなのだな」
「いやまぁ・・・うん、そうだな・・・」
ラサシスの言葉に少し言葉を濁しつつも、ここで否定するのもまた説明が面倒なので本当の弟って事で通しておく事にした。
俺が肯定するとノクトが若干頬を染めながら恥ずかしそうにはにかんで笑う。
ああいう顔を見ていると本当に女の子らしく、誰か男にでも告白されるんじゃないかというレベルだ。
「なぁ、アヤト。これからお前を「お義兄さん」と呼ぶ事になるかもしれない」
もう手遅れな奴が一人いた。
「それはアイツに当たって砕けてから言え」
「砕けるの前提で言うなよ・・・まぁ、砕けるのは分かってはいるけど。男の娘だし」
「ナチュラルに違うニュアンスで言うな。アイツは男の娘だ」
「お前も変わらねえじゃねえか!」
などと冗談半分な話はそこまでで、ある意味俺がここに来た目的の本題を持ち出す。
「ユウキ、お前はこれからどうする?」
「これから?何かすんのか?」
「ここに残るか、俺たちのとこに戻って来るか、だ」
「そりゃ、アヤトんとこに戻るに決まってるだろ?」
「当たり前だろう?」とでも言いたげな眉をひそめた顔で即答された。
そういうのは正直言って嬉しい返答だ。
しかしソレをラサシスが聞いていたらしく。
「ここを離れるのか、ユウキ殿?」
そう言って困ったような顔をしながら近付いて来た。
「ええ、元々魔王を倒すため・・・じゃないな。この街を守るために呼ばれただけですしね。落ち着いた今となっては食い扶持が増えただけの邪魔者でしょう?」
「そんな事はありませんのに・・・」
話を聞いていたイリアも混じって来た。
ただ良い話のようにも聞こえるが、ユウキからは「何かから逃げたい」という感情がヒシヒシと伝わって来ていた。
「それに多少知った顔ができたとは言え、昔馴染みがいる方が安心するからな」
「心配しなくてもいい。必要になったら返すから」
「アレ、俺の自由意志は?」
「三割くらいは残しとく。嬉しいだろ?」
「わーい、ふざけんな」
いつものノリで言葉を交わす俺たちにクスクスと笑うイリア一家。
そんな話をしているうちに時間は過ぎ、楽しい時間は終わりを告げようとしていた。
ーーーー
今年も今日で最後となりました。
何だかんだ長い事投稿し始めてから1年半も経っていますが、作品の中が1ヶ月しか経ってないというのに少し驚いています。
来年も皆様が健康でありますよう祈っております。
あとついでに自分の虚弱体質が治るよう祈ります。
という事で明けましておめでとうございます!(※フライング
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