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夏休み
対ノルトルン兵
しおりを挟む「いやー、本当に挑んで来るとは思わなかった」
体を伸ばして欠伸しながら感心して言う。
俺はパーティー会場から離れ、庭のようなひらけた場所に連れ出された。
連れ出したのは俺の正面にいるナタリアだけ。
耳打ちで頼まれたのでノコノコ付いて来たらここに連れて来られたというわけなのだが、一人やる気満々なところからさっきの俺の言葉を理解し意を汲んでくれたのだろう。
「「個人的になら」良いのでしょう?」
「ああ、そうだな。あとこの場に俺とお前だけにしてくれたって意味でもな」
「見学されるのを嫌っていたようなので」
「人見知りだからな、俺」
「ご冗談を」
お互いに軽口を叩きながらある程度距離を取って向かい合う。
ナタリアからは興味本位というよりも、何かに怒りを覚えているように見えた。
悪意は無くとも行き過ぎた敵意がヒシヒシと伝わってくる。
「義務じゃなく私情を挟んだ戦いなら大歓迎だ」
「・・・分かるのですね」
「まあな。さっきまでと違って隠す気もないみたいだし。ただどっちに腹を立ててんのかは知らんけど」
「「どっちに」と言うのがどれを指すのかは分かりませんが、何よりも自分の不甲斐無さに腹が立っているのです。王の危機を目の前に何もできなかった自分が・・・たった一人に成す術がなかったのが腹立たしくてなりません」
そう言って憎しみを込めた目で俺を睨み付け、槍を構える。
「八つ当たり?」
「実際、貴方は何されてもおかしくない事をしているのですが?」
「悪いな、貴族や王族に「死ね」って言われて大人しくしてられない性格でね。権力には暴力で対抗する事にしてんだ」
「貴方は・・・世界を敵に回しても構わないと言うのですか?」
「人間を敵に回すのを世界と同義とは・・・また大きく出たな?」
「茶化さないでください。あんなハッタリを言って・・・貴方は確かに強いようですが、一人で本当に我々に勝てると思っているのですか?」
「勝てるさ。超級やら神話級やら勝手に格付けしたあんな魔物に怯んでるようじゃ俺には勝てないさ」
「確かに超級は一筋縄では行きませんし、神話級など・・・ですが!」
「ですがも何もない・・・とまぁ、いつまでも議論してても意味無いわけだ。だからお前ら全員で掛かってくればいい」
「・・・「ら」?」
ナタリアが振り向くと複数人の兵たちがぞろぞろと出て来る。
その誰もが神妙な表情で武器を握っていた。
「お前たち・・・!!」
「観客が嫌なら参加者としていれば問題ないですよね?」
「いくら上司だからと言っても女性にだけ格好付けさせるわけにも・・・ねえ?」
「だよな!それに相手は国も相手にするなんて吹かしやがった勇者様なんだ。遠慮なんて要らねえだろ?」
そんなカッコイイ台詞を高々と叫びながらナタリアよりも前に出て武器を構える兵たち。
ドラマのように屈強な男たちが並ぶ壮観な光景を前にちょっと感動。
「おう、どんと来い。だけどユウキを相手して「アレよりちょっと強いだけなら大丈夫だろ?」なんて軽く考えてる奴、覚悟しとけよ?」
全属性魔術を全開にする。
ただのこけ脅しだが当たればタダじゃ済まない無数の魔術を空中に浮遊させる。
自分たち以上の数の魔術を見た兵とナタリアは唖然としていた。
「お前らがハッタリって言った力がどれだけのもんかその目で・・・ああいや、その体と心に刻んでやるよ」
合図はなし。
作った魔術をまるで流星群のように降り注がせる。
「ーーーーッ!!無詠、唱ッ!?これだけの数を!?」
驚愕過ぎて指示が出せないでいたナタリア。
前後左右どこに行こうとも逃げる事ができないであろう魔術を前にただただ腕を前に突き出すなど無意味な行動に出る兵たち。
そして呆気なくもほとんどの兵たちが宙を舞い飛ばされる。
残されたのは実力で防ぎ切ったナタリアと、運良く当たらずに済んだ腰を抜かした兵たち。
そして次の魔術を待機させ、ナタリアたちに語り掛ける。
「どうした?待ってるだけじゃ何も進展しねえぞ。俺の魔力も今のじゃ無くならねえし」
「なん、だと・・・!?アヤト殿の魔力は一体どれだけ・・・クッ!」
ナタリアは槍を突き出して突進して来た。
いつの間にか体に電気のようなものも纏い、通常よりも早い動きをして来る。
愚直に正面から、と思ったらフェイントを掛け、俺の後ろに回り込み槍を振り払った。
ソレを後ろに反って回避してナタリアと目を合わせた。
相手からしたら不気味と思われるだろう。
「ッ!・・・フッ!!」
怯みはしたものの、構わず槍が振るわれる。
ソレをドッヂボールの玉のように避ける。
たまにフェイントで片方の手の平が突き出され、「ファイヤボルト」という叫びと同時にその手の先から赤と白の色が混ざった光のようなものが放たれる。
火と雷を合わせた高速魔術だ。
しかし多少歪に走るだけで、直線上に飛ぶ早さだけが売りの中級魔術。
当たれば火傷くらいはするかもしれないが、当たらなければどうということはない。
それも避けると驚いた表情をするナタリア。
硬直し隙ができたその腹部へ熊手掌打を打ち込み、離れた反対の壁へと叩き付ける。
「・・・カハッ!!」
「・・・!!ま、まだだ・・・全員続けぇッ!!」
ナタリアがやられた姿を見て決起した一人の掛け声に反応して五人、十人、二十人と無事だった者だけでなく、先程吹き飛ばされた兵たちも立ち上がり向かって来る。
そしていつの間にか最初よりも確実に数が増えていた。
恐らくこの騒動に気付いて駆け付けた他の奴らも混ざって来たのだろう。
兵士の中に魔術師も魔法魔術を放つ。
ここからは俺も魔法魔術無しの縛りで行こうか。
向かって来る兵にこっちから向かって行くとまた驚いた顔をされる。
そんな驚いてる間に数十人単位で蹴散らし無双する。
殴り飛ばされ動けなくなった奴や気絶した奴もいたが、それ以上に途中参加してくる奴が増えてる気がした。
もうこの城中の兵が集まって来てしまったんじゃないかと思う。
しかも騒ぎを聞きつけた王と王妃、貴族たちも結局見学に来てしまっていた。
「これは一体・・・!?」
「うふふふふ、みんな楽しそうね♪」
王は驚愕し、王妃は呑気な感想を述べながら微笑む。
他の貴族はこの光景を見て同じく驚いていたり、楽しそうに応援する者、野次を飛ばす者もいた。
見世物は嫌だったが結局こうなっちまったか。
・・・ま、別にいいか。
そんな事もどうでもなるくらい今が楽しいんだ。
人の命を奪うとかじゃなく、試合で真っ向から挑んで来る奴らを叩き潰すのが。
「オラ、気合入れて立ち上がらねえとどんどん数が減ってってるぞ!手加減してやってんだから一太刀くらい偶然でもいいから当ててみろよ!」
「あ、ありえない・・・なんだあの化け物は!?」
「アレがアヤト殿の・・・魔王を倒した勇者の力・・・!」
別に勇者だからってのは理由になってないけど・・・。
「勇者を化け物呼ばわりとかお前ら・・・そんだけお前らが弱いってだけだろうが」
足元に転がってる一人の兵を踏み付ける。
下で喘ぎ声が聞こえたのは気のせいって事にしとく。
立っているのはナタリアと二十前後の兵。
倒れてる数は七十と少し。
途中参加の奴合わせて百近くが集まっていた。
見回りとか今どうしてんだ?
コイツら暇かよ・・・。
「ハァ・・・ハァ・・・」
息を切らしながら槍を構えるナタリア。
兵に紛れて他の兵より何度もぶっ飛ばされていたコイツは鎧も髪もボロボロになっていた。
「確かに手加減はしたけど・・・頑張るなぁ」
「・・・・・・・・・フッ!!」
俺の言葉に反応する事もなく真っ直ぐ突っ込んで来る。
「話す余裕もないか。お前は確かSランクだっけ?それだけの実力と根性があれば遠くないうちにSSランクになれるだろ。ミランダに近いものを感じるし」
性癖的な意味じゃなくてね?
しかし話し掛けても無造作に、そして一心不乱に槍を振り回し続ける。
哀れにも見えるその姿に、そろそろ終止符を打ってやろう。
デコピンの形にした手をナタリアの額に当てて放つ。
軽く当てたため吹き飛びはしないものの、ナタリアは膝を突いて動かなくなった。
「なっ・・・隊長に何をした!?」
「何をしたも何も・・・コイツももう限界だっただけだ。少し小突いただけでこの有り様。って言っても気絶しただけだから心配するなよ。って事で今回はここまでだ。誰かコイツ連れてって休ませてやれ」
俺がそう言うと兵たちの誰でもなく、イリアがやって来た。
「ナタリア・・・」
「お前が運んで行くか?」
「私にそんな力があるわけありません。先導するので貴方が連れて来てください」
俺がやらかした責任を取れとでも言いたいのだろう。
俺からしたらコイツが突っ掛かって来た上に合意の上での試合だったのだから、ただの自業自得なのだが。
しかし言われて拒否する程嫌ってるわけでもない。
「・・・へいへい」
ーーガシャン!!
「フーッ!!」
渋々といった感じに返事をしてナタリアを背負って運ぼうとしたところで、何かが壊れる音と猫の威嚇するような声が聞こえた。
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