最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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夏休み

侵入者

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 「あー暇!!」


 アヤトたちが去ってから六日後。
 屋敷の中で広い一室のソファーを一つ丸々使って横になっていたエリが足をバタつかせ騒ぎ始める。


 「ここなーんにもなくてひーまー!家にかーえーりーたーいー!!」

 「無理ですね」


 駄々をこねるエリに洗濯物をたたみながらキッパリと断言するノワール。
 エリは頭を上げて睨み付けるが、ノワールは気にする事もなくテキパキと終わらせる。


 「現在この世界に元の世界への帰還方法、及び他の世界への移動方法などは存在しません。あったとしても何の確約の無いものになるでしょう」

 「夢も希望も無いわけね。まぁ、帰れる事に関しちゃ諦めてるし。でも何か面白い事とかないわけ?このままじゃ暇死するし・・・」

 「なら魔法を試してみては?アヤト様のいる世界は魔法という概念は存在するのに魔法自体が使えないと聞いていますが」

 「あー、そういうのはいいし。別にオタクじゃあるまいし、使えるようになってみたいなんて思った事もないし」

 「・・・まぁ、憧れ云々は抜きにしたとしても、この世界は魔法が無ければ不便ですよ」


 ノワールはそう言って離れたところに置いてあるコンロのような形をしたものに指を差すと勝手に火が点き、上に置いてある鍋を温める。


 「へー・・・それってマホーじゃないとできないの?」

 「魔法で、もしくは直接手で行うとしても魔力を流さなければ使用できないですよ。勿論、魔力の流し方を知らなければ・・・ボンッ♪」


 右手で分かりやすくジェスチャーで例えて笑うノワール。
 その笑いはどこかバカにした嘲笑にも見えた。


 「・・・メンド」


 エリはそう呟きながらノワールの点けたコンロに近付き、ボタンを押して火を消す。
 そしてもう一度同じボタンを押すが変化はない。


 「チッ、本当に点かないし・・・。なら教えてよ、魔力?魔法?ソレをさ」

 「いいでしょう。ですがその前に・・・」


 スッと違う方向へ向くノワール。
 するとまるで呼ばれたかのように作務衣の男と着物の女が扉から入って来る。


 「なんじゃ、?」

 「あの鬱陶しい人間共の事か?全くぞろぞろと・・・もういっそ焼き払うか?」

 「ここは学園の敷地内だぞ?我らが火を吐けばここら一帯灰になってしまうわ」


 そう言いながら笑う男と溜息を吐く女。
 そんな会話を聞いて首を傾げるエリ。
 後から更にイリーナが入って来る。


 「でしたら私めにお任せいただけないでしょうか?一昨日もそうでしたが、これまでも似た事態を対処して来ていますので」

 「あー・・・それだと儂らが暇になってしまうのう・・・」


 つまりは暇潰しをしたいと言っているのである。


 「でしたら東西南北に分担しましょう。私は北へ行きます」

 「じゃあ儂は東」

 「西か」

 「では残りの南はメア様の配下のクロを・・・」

 「いや、そっちはあーしが担当するし」


 エリがソファーから立ち上がって背伸びをしてそう言う。
 そんなエリの言葉に意外そうに、というより少し困った表情をする三人。
 まるで無理難題を言葉にした孫を見るかのように。


 「あんたらの話だと変な奴らが来てるって事っしょ?なら暇潰しついでにあーしもソイツらボコすし」

 「ああ、まぁ・・・じゃあクロと一緒に・・・」

 「あーし一人で十分だし!何?頼りないとでも言いたいの?」

 「「正直」」


 三人に同時に声をハモらせて答えられ、顔に血管が浮き出る。


 「アヤト様に勝てないのは当然として、手こずらせる事もできないとなると何があるか分かりませんから。なので保険としてクロと・・・ベルも付けます」

 「おい待て、私の可愛い子を戦わせるというのか?」

 「あちらの世界には「可愛い子には旅をさせよ」という言葉があるらしいです。過保護にばかりするのではなく冒険させるのもまた親の役目では?」

 「それらしい事ばかり言いやがって・・・まぁいい!いくら幼竜とはいえ我が子が人間なんぞに遅れを取るとは思えんからな、貴様の言葉に乗ってやる!」


 女はイライラしているからか足音を大きく立てながらその場を去って行った。


 「あーしの意見は無視かよ」

 「ええ、無視です」


 にっこりと満面の笑みで返すノワール。
 いくら睨んでも物怖じしないその態度に口角をヒクつかせるエリだった。


 ーーーー


 ☆★エリ★☆


 そんな感じで屋敷から出て南の奴らを相手する事になったあーし。
 横には黒い鎧を着た変なガイコツと小さい?竜を連れている。
 他から見たら「愉快な」とかが付きそうなヘンテコな組み合わせ。

 ガイコツ・・・はまぁいいとする。カタカタうるさいけど鎧着ててちょっとカッコ良くて強そうだし。
 でも竜は大丈夫かな?って思う。
 体の大きさはあーしより一回り二回り大きくて「これで子供?」って思うけど、無邪気に飛び回っているところを見ると子供らしいと思えた。
 だからこんなのがちゃんと戦えるのか心配になってくる。


 「っと、早速来たし」


 足音を立てて黒装束に身を包んだ奴らが数人、目の前に現れる。
 なんだか暗殺者って感じだけど、正面から馬鹿正直に来るなんてーー


 「ウキャウ♪」


 すると急にベルが鳴き、ゴスッという音とガキンッて音が聞こえた。
 前者は分からないけど後者は刃物同士がぶつかった時に鳴る音だった。
 振り返ると恐らく奇襲を仕掛けたであろう黒服の奴とクロが鍔迫り合いをしていて、もう一人をベルが体当たりで吹き飛ばしていた。
 危なかったかもしれない・・・今コイツらが正面に現れたので全部だと思い込んでいた。
 そんな筈はないのに。

 なんだかんだ言いながらも、別の世界に来たなんてのであーしも浮かれてたのかも?

 もう一人、遅れてあーしの上から降って来た奴がいた。
 すぐに反応する。


 「ッ!?消えっ・・・」


 相手の死角、背後に回って腕を拘束して受け身を取れない状態にして、そのまま地面へ落下させる。
 ベキッと嫌な音を立てて、しまったと思った頃にはもう遅く、ソイツはそのまま動かなくなった。
 死んではいないと思うけど結構ギリギリだと思う。

 でも失礼じゃない?こんな小さい女の子に乗られただけで折れちゃうとか。
 そうだし、コイツが弱いのが悪いんだし!
 コイツが女だとしてもコイツが悪い!

 そう責任転嫁して立ち直る事にした。
 三人がやられたのを見た他の奴も纏めてこっちにやって来た。
 っていうか・・・

 多ッ!?多いって!!
 何これ?なんでこんなにたくさんいんの!?
 っていうかなんかノリでここに来ちゃったけど、そもそもなんで襲われてんのか聞いてない!
 コイツらすっごい殺気放ってて怖いし!?


 「死ねッ」


 低い声からして男であろう先頭の奴がボソッと呟いてナイフで斬り付けて来る。
 気圧されて思わず小さな悲鳴を上げて数歩後退してしまう。
 そんなあーしの前にベルが出て再び体当たりした。


 「キューイ♪」


 ベルが可愛い鳴き声が聞こえたかと思うと頬を膨らませて火の玉を吐き出し、ソレが一人に直撃した。
 ソイツはあまりの熱さに悶え苦しむが誰も助けようとせず、何人かがベルに刃を突き立てた。
 しかしそのナイフが刺さる事はなく、薙ぎ払われた尻尾で二人が弾き飛ばされた。


 「・・・やはりコイツはただのトカゲじゃない、恐らく竜の子供だ!」


 一人がそう叫ぶと嫌な空気が流れる。

 前にも感じた事がある・・・コレなんだっけ?
 ・・・そう、金に汚い大人が発するゲスいあの感じだ。

 女は普通男が自分の体を見てるってのが分かるけど、あーしはそういうのにはそこそこ敏感で、特にゲスの目なんかがどこを見てるかよく分かるようになってた。
 自分の事に限らず、ソイツが何を見てどう思ってるかくらいには。
 だからコイツらがベルを物欲しそうな目で見るから一発で分かった。

 コイツら・・・ベルを売る気だッ!


 「させねえ、しっ!」


 向かって来る奴を蹴り飛ばし、他もクロが斬り捨ててくれる。
 だけどやっぱり数がーー


 「■■■■ーーバインド」


 意味の分からない呪文のような言葉が聞こえたと思ったら、突然体が紐で縛られて動けなくなってしまう。


 「ッ!?ざけんなし!なんだコレ!?」


 奥の方を見ると変なローブを着た奴がいた。
 なんかこう・・・魔法使いって感じの厨二病っぽい姿の。
 だからコレも魔法なんだと理解した。
 何人かが通り過ぎる中、もがいても紐が食い込むだけで何も好転しようとしない。
 ベルも同じく体中と口を縛られて身動きが取れなくなり、クロだけが剣に炎を纏わせて紐を焼き切り応戦していた。


 (あーしも早く・・・コレ取れねえし!!)


 何重にも重なって縛られた紐は緩む事なく更に食い込む。
 そして自分の目の前にも黒装束の男がナイフを振りかざし、そのまま下ろされたーー
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