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夏休み
丸呑み
しおりを挟む「■■ーーフリーズ」
どこからか聞こえたその呪文と共に目の前の男の足元の地面が凍った。
見るとあーしやクロとベルの足元だけ凍らず、男以外も辺り一帯が纏めて凍らされていた。
まるで時そのものを凍らされたかのように。
「これは何事だ、と問いただすまでもなさそうだな」
後ろから低く、そして高圧的な女性の声が聞こえた。
目の前の男や他の奴らも気になってその方向を見る。
しかし段々とその表情に緊張と汗が見えてくる。
「ま、魔族・・・!?」
震えた声で呟く目の前の男。
「なんでこんなところに?」という明らかに焦りと恐怖がそこにあった。
「「どうして」などという問いには一切答えない。答えない理由はここに攻め、こうやって捕まった時点で自分がこれからどうなるか・・・理解できるだろう?」
遠回しに「生きて返す気はない」と言い放った。
奴らの息が荒くなっていく。
というかあーしも寒さで凍えて息が荒くなってる。
「・・・ああ、すまない。人間にこの寒さは堪えるか」
後ろの人が近付いて来てあーしの体が抱き抱えられる。
その腕は青く、女性の腕にしては逞しく温かかった。
そして今声と腕で本人の名前を思い出した。
「えっと・・・ペルディアさん?」
名前を呼んで顔を上げると、予想通り白い長髪で黄い目の本人だった。
ヘレナっちほどじゃないけどこの人もスタイルが良く、妙に艶めかしかったから覚えてた。
「覚えてくれていたか。助太刀に来たぞ」
助太刀というより一掃してしまっている。
こんなに強いんだったら最初からこの人に任せてしまえば・・・って、そういえばあーしが自分でやるって言ったんでしたそうでした。
思わず白くなった溜息を吐いてしまう。
正直魔法を舐めていた。
そんなのオタクの妄想の産物だとバカにしてた。
そしてそのバカにしたものにしてやられたわけだ。
アヤトの時もそうだったけど、自分の力を過信して負けたんだ。
「・・・あーし超ダッセェ・・・」
「そんな事はない。仲間を守ろうとしただけでも格好良かったぞ」
そう言ってフォローして微笑んでくれた。
「■■■ーー」
すると少し離れていた魔法使いローブを着た奴が呪文を唱え始める。
あーしと同時にソイツに気付いたペルディアさんはすかさず無言で大きな氷結晶を作り放ち、そのローブ野郎に直撃させた。
ペルディアさんマジかっけぇ・・・惚れちまいそう。
だけど直撃させた相手が肉塊になって死なせてるのが少し怖い・・・。
それから抵抗できなくなった奴らを集めて持って行くと、ノワールや他の奴らがすでに屋敷の前に集めていた。
余裕の表情をしていたり「やっとか」と呆れた表情をしていたりとムカついたりもしたけど、あーしたちよりも多くを捕らえてるから何も言えないのがまたムカつくし。
「さて、あまりこういう輩に時間を費やしたくはありませんのでさっさと済ませましょう」
そう言ってイリーナさんが懐から何かの液体が入った瓶を取り出した。
「・・・ソレ、何なのか聞いていい物?」
「シャード医師特性自白剤です。使われた者は聞かれた事に対し強制的に答え、使用後は脳が破壊され廃人となる・・・との事です」
問答無用で答えた上に聞きたくない内容だったし。
更に言えばそんな物をこれから使うであろう光景など見たくないのだけど。
と思っているうちにすでにソイツらの中の一人に近付き液体を飲ませていた。
「早ッ!」
「ーーーーッ!?」
ゴクリと液体を飲み込む音が聞こえ、咳き込む男の目が段々と虚ろになっていくのが分かった。
そして男の口からは「あー・・・」とゾンビのような呻き声が発せられるようになった。
「では洗いざらい吐いてもらいましょうーー」
そう言ったイリーナさんの顔は酷く歪んでいた。
イリーナさんの宣言通り、十分も満たないうちに男は全て喋ってくれた。
「レギナン」という国のヴェッフェル・グウェントという王からの暗殺依頼。
内容はメアの周りにいる奴らを葬れ、だそうだ。
アヤトが何かやらかしたみたいな事を言ってたけど、こういう事だったか・・・マジで迷惑だし!
そして聞くべき事を聞き出したらコイツらをどうしようかという話になった。
「全部話したんだ、俺たちを解放してくれてもいいだろ!?」
「いや、ダメに決まってんしょ・・・あんたら野放しにしたら何されるか・・・」
「別にまた来られても構いませんが・・・まぁ、どうせなら後腐れ無いように処分するのが一番ですね」
「全員処分でいいんだな?なら儂がやるぞ」
作務衣の男はそう言って誰かの許可を得る前に行動した。いや、変身した。
人だった男の肌が段々と黒く変色し鱗のようなものが生え始め、巨大化していく。
そして完全に変身し終えたであろう姿は漫画などに出て来る「竜」そのものだった。
「グルルルルルルルルゥ・・・」
「ヒッ!?り、竜・・・成竜だと!?何故神話の生物が・・・」
奴らは全員揃って目を丸くしてその竜を見つめた。
竜になったおっさんは、ベルとは比較にできない程の大きさだった。
例えるなら富士山くらいの山がそのまま動いてるようなもんだった。
「なんなんだ・・・なんなんだよこの屋敷はッーー」
奴らの一人が、恐らくあーしを含めた誰もが思う事を代弁し叫んでくれた。
そりゃあ、竜とか悪魔とか、この世界には滅多にいないと言われてるもんが集まってりゃ誰でも思うだろう。
そしてあーしたちの目の前にいた暗殺者軍団がその竜に地面ごと抉り食われて消えた。
本物のありえないくらいの大きさの竜とその口の中でグチャグチャとグロい音を立てて食われる人間たちを前にあーしはーー
「ヤベ・・・ちょっとチビッたかも・・・」
ーーーー
半泣き状態になったあーしは屋敷に戻り慰められていた。
「大丈夫なの、誰でも怖いものはあるの」
「です。怖いものを怖いって言っても恥ずかしくないです。だから泣き止むですよ」
何故かウルちゃんとルウちゃんに頭を撫でられて。
明らかにこっちの方が恥ずかしい気がするし・・・。
そんなあーしの姿を見たノワールが溜息を吐いた。
「先が思いやられますねぇ・・・」
「うっせえし!あんなん誰でも驚くのが普通だし!!」
「そうですよねぇ、よしよし♪」
「グッ・・・」
ココアさんが微笑みながらあーしの頭を子供をあやすように撫でて来て、顔が熱くなり俯いてしまう。
すると何故かその様子を見たココアさんの頬が紅潮し、口角が更に釣り上がる。
・・・え、なんで?
「素が出てますよ、ココア」
「あら、お恥ずかしい・・・失礼致しました」
ノワールに指摘され、自分の口を隠すココアさん。
それでも撫でるのはやめない。
一瞬母性本能的な行動かと思っていたけど、どうやらそんな優しいものでもないらしい。
それでも少し心地良く、相手がココアさんなのもあって大人しく撫でられているとノワールが急に窓の外を見つめる。
そして辺りをキョロキョロと何かを探すように見渡し始める。
他人から見たら完全に不審者だし・・・。
その何かを見つけたのか、ノワールは目を瞑り微笑んだ。
「え、何?何なの?ちょっと怖いんだけど・・・」
「何の話です?」
「いや、あんたの怪しい行動が・・・」
「怪しい行動・・・?・・・ああ、念話の事ですか」
「念話?」
「ええ、離れていても意思疎通ができる・・・そうですね、貴女の世界で使用していた電話、というものと同じようなものです。違うところと言ったら声を出さないところでしょうか」
「へえ、そんなもんが・・・って事は誰かと話してたの?」
「はい、アヤト様から。なので、イリーナ」
「ここに」
「ノクトを連れてアヤト様の元へと向かってもらえますか?後の事は私がやっておきます」
「かしこまりました」
そう言って数分も経たない内にノクトンを連れてイリーナさんが戻って来た。
「兄さんに何かあったの!?」
急いだ様子で部屋に来たノクトンの第一声がソレだった。
どうやらアイツの事が相当好きらしい。分からない。
「安心してください、マイナス要素はありません。ただ何やら貴方たち二人に頼み事があるとの事です」
「アヤト様が、ですか」
「・・・身構えずとも、切羽詰まった様子ではなかったので肩の力を抜いて良いと思いますよ。では送ります」
その言葉を合図にノワールの横の空間が裂ける。
中は暗く淀んでいて向こう側が見えなく、いつ見ても不安で慣れない。
そんな中にイリーナさんとノクトンが躊躇なく入って行ってしまった。
「ねえ、ソレの向こうって地獄とかないよね?」
「あるわけないじゃないですか。妄想も程々にしておきませんとどこかの見た目と年齢が比例してない痛い子のような扱いされますよ」
ーーーー
~ ノルトルンの城内 ~
「ハクチュッ!」
食事の最中、ランカが小さくクシャミをする。
クシャミは可愛いが、鼻水が出てしまい垂らしていたので汚かった。
「うへぇ・・・アヤト~・・・」
「ほいよ」
ランカが鼻を隠しながらアヤトに駆け寄ると、あたかもポケットから取り出したような仕草で空間から鼻紙を取り出し渡した。
その鼻紙でランカが豪快に鼻をかむ。
「う~・・・誰か私の噂でも流してるのでしょうか?」
「お前の事だからきっとロクでもない噂だろうな」
「おっとどうやら貴方には私の本当の力を見せる時が来たようですねぇ・・・」
「無駄だ、お前は俺には勝てんよ」
「フッ、戦う前から決め付けるなどーー」
「明日からお前三食食パンだけな」
「ごめんなさい!」
ランカのソレは、中々お目に掛かる事がないそれはそれは綺麗な土下座だったと言う。
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