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第Li章:多くの美しい自然遺産を持つ異世界で何故観光産業が発展しないのか
meat or fish/3:急に力が強くなった主人公が握手を恐れるというダークヒーローあるある
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隣町、ムーンシスコを目指す二人の旅は4日目であり、地図で見た時のここまでの進捗は極めて順調である。しかし、その間のぎくしゃくした空気感は未だ拭えておらず、二人が会話を行うのは戦闘中の連携確認のみであった。こういった状況にあっては、逆に魔物からの襲撃を待ち望んでしまうようになっているのだから、隣町が魔王の計画により絶望的な地獄になっていることを望んでいるイルマを咎める言葉を持たないリクである。
「イルマ! そっち行った!」
「っ……!」
リクの剣戟を何度も受け満身創痍となった犬型の魔物が、最後の力を振り絞って跳躍する。しかし、その放物線は視力20.0の戦闘強化状態にあるイルマの目に捉えられており、着地と同時に光の柱が体に突き刺さった。通常ならばここで戦闘終了、一息がつけるはずなのだが、今回は様子が異なる。最後のイルマの攻撃火力が少々高すぎたのだ。
「まずい……」
木が火の手をあげた。このままでは、付近一帯の緑が灰になってしまう。それはこの周辺の一般生物の生育環境を破壊することであり、二酸化炭素の排出に伴う地球環境への影響とかいう以前に、まともな人間の精神的に容認できることではなかった。
光の魔法は万能に近いが、消火という目的に対しては有効的な対策に乏しい。となると出来ることはもはや、原始的消火活動のみとなる。ヨセタム湖から流れる川から大急ぎで水を汲み、それを火元にかける。だが、たった二人での消火活動ともなれば効果はまさに焼け石に水であり、鎮火は難しいかもしれないとリクは半ば諦めていた。
しかしそれでも、イルマが全力で走り水をかける様子を間近で見てはその無駄な足掻きとも言える行動を止めることができず、神に祈る思いを重ねつつ水を運んだ。そしてこれは、奇跡的に小規模範囲のみの延焼に止め、どうにか鎮火に成功するに至ったのだった。
「申し訳、ありません、でした」
「いや、人間みんな、ミスくらい、する、さ」
走り回った直後の息を整えつつ、イルマの謝罪を受け流す。どうにか脈拍が戻ってきたあたりで立ち上がり、魔物の亡骸を消して小銭を回収。ホテル王を目指すシズクの願いは聞き届けなければならない。そうして戻ってきてみれば、イルマが両手でろくろを回すようなポーズを取りつつ首を傾げていた。
「どうした? インタビュー中の実業家みたいなポーズして」
「……魔力が、強くなっています」
「そうなのか? いいことに思うけど」
「はい。しかし、どうにもコントロールに慣れず、先程のような火災を招いたり、出かける直前はシズクさんを殺す際に少し苦しめてしまいました」
「えっ!? あれ、意図的じゃなかったのか!? あのくらいしてもいいと思っ……」
「そんなわけないでしょう。リクさんは最低です」
「あっ、はい。ごめんなさい……」
素直に謝り、少ししゅんとしたところで、再度イルマが口を開く。しかしこれはリクに声をかけるというよりも、自身の思考整理目的の独り言のようだ。
「本来、魔法使いの魔力上限は生まれついての才能がほとんど。修練によってその運用効率は高まっても、上限はほぼ伸びない。伸ばす方法は、魔力によって生み出された物を口にすることのみ」
「あぁ、ならそれ、シズクのラーメンを食べてるせいじゃないか?」
「シズクさんのあれは魔法ではなく奇跡です。あのラーメンに魔力は含まれていません。それに、たとえ含まれていたとしても、ここまでの強化はありえません。自然環境において魔力は熱によって減衰するのです。故に、ほぼ生の状態で魔力が含まれた食品を大量に接種するようなことがなければ、こんなことは起こらないはず」
「うーん……」
シズクもよく、このように独り言で思考を整理する癖がある。しかし、リクは知っている。シズクは、本当にひとりっきりで居る時には独り言を使わない。つまりこれは、独り言に見えて実は他人からの反応を期待しているということだ。おそらくイルマも同じであり、自分の思考を整理するように見せかけて、自分に見落としがないかをリクに問うているのだ。
だが、リクにはその言葉に隙を見つけることができず、合理的回答を述べることができない。彼はシズクほど広い知識があるわけでもなく、もちろんこの世界の魔法事情なんかはほぼ無知。そして、シズクのような天才的ひらめきによる知識の連結が起きることもないのだ。
「とりあえず、隣町を目指そう。夜までにはつくはずだ。だいぶ疲れたが、少し休憩したら……」
「いえ、大丈夫です。もう歩けます」
そういってイルマは、竹で作られた水筒から軽く水分補給を行いつつ立ち上がった。果たして目的地となる隣町、ムーンシスコにはどのような地獄が待ち構えているのか、それとも。
「イルマ! そっち行った!」
「っ……!」
リクの剣戟を何度も受け満身創痍となった犬型の魔物が、最後の力を振り絞って跳躍する。しかし、その放物線は視力20.0の戦闘強化状態にあるイルマの目に捉えられており、着地と同時に光の柱が体に突き刺さった。通常ならばここで戦闘終了、一息がつけるはずなのだが、今回は様子が異なる。最後のイルマの攻撃火力が少々高すぎたのだ。
「まずい……」
木が火の手をあげた。このままでは、付近一帯の緑が灰になってしまう。それはこの周辺の一般生物の生育環境を破壊することであり、二酸化炭素の排出に伴う地球環境への影響とかいう以前に、まともな人間の精神的に容認できることではなかった。
光の魔法は万能に近いが、消火という目的に対しては有効的な対策に乏しい。となると出来ることはもはや、原始的消火活動のみとなる。ヨセタム湖から流れる川から大急ぎで水を汲み、それを火元にかける。だが、たった二人での消火活動ともなれば効果はまさに焼け石に水であり、鎮火は難しいかもしれないとリクは半ば諦めていた。
しかしそれでも、イルマが全力で走り水をかける様子を間近で見てはその無駄な足掻きとも言える行動を止めることができず、神に祈る思いを重ねつつ水を運んだ。そしてこれは、奇跡的に小規模範囲のみの延焼に止め、どうにか鎮火に成功するに至ったのだった。
「申し訳、ありません、でした」
「いや、人間みんな、ミスくらい、する、さ」
走り回った直後の息を整えつつ、イルマの謝罪を受け流す。どうにか脈拍が戻ってきたあたりで立ち上がり、魔物の亡骸を消して小銭を回収。ホテル王を目指すシズクの願いは聞き届けなければならない。そうして戻ってきてみれば、イルマが両手でろくろを回すようなポーズを取りつつ首を傾げていた。
「どうした? インタビュー中の実業家みたいなポーズして」
「……魔力が、強くなっています」
「そうなのか? いいことに思うけど」
「はい。しかし、どうにもコントロールに慣れず、先程のような火災を招いたり、出かける直前はシズクさんを殺す際に少し苦しめてしまいました」
「えっ!? あれ、意図的じゃなかったのか!? あのくらいしてもいいと思っ……」
「そんなわけないでしょう。リクさんは最低です」
「あっ、はい。ごめんなさい……」
素直に謝り、少ししゅんとしたところで、再度イルマが口を開く。しかしこれはリクに声をかけるというよりも、自身の思考整理目的の独り言のようだ。
「本来、魔法使いの魔力上限は生まれついての才能がほとんど。修練によってその運用効率は高まっても、上限はほぼ伸びない。伸ばす方法は、魔力によって生み出された物を口にすることのみ」
「あぁ、ならそれ、シズクのラーメンを食べてるせいじゃないか?」
「シズクさんのあれは魔法ではなく奇跡です。あのラーメンに魔力は含まれていません。それに、たとえ含まれていたとしても、ここまでの強化はありえません。自然環境において魔力は熱によって減衰するのです。故に、ほぼ生の状態で魔力が含まれた食品を大量に接種するようなことがなければ、こんなことは起こらないはず」
「うーん……」
シズクもよく、このように独り言で思考を整理する癖がある。しかし、リクは知っている。シズクは、本当にひとりっきりで居る時には独り言を使わない。つまりこれは、独り言に見えて実は他人からの反応を期待しているということだ。おそらくイルマも同じであり、自分の思考を整理するように見せかけて、自分に見落としがないかをリクに問うているのだ。
だが、リクにはその言葉に隙を見つけることができず、合理的回答を述べることができない。彼はシズクほど広い知識があるわけでもなく、もちろんこの世界の魔法事情なんかはほぼ無知。そして、シズクのような天才的ひらめきによる知識の連結が起きることもないのだ。
「とりあえず、隣町を目指そう。夜までにはつくはずだ。だいぶ疲れたが、少し休憩したら……」
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