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第Li章:多くの美しい自然遺産を持つ異世界で何故観光産業が発展しないのか

剣と黒/1:君が空ゆく風ならば僕は氷で4倍弱点

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 シズクの姉にして人類最高の天才、綾崎シズカが科学賞を授賞することが内定している2024年度ノーベル賞授賞式は目前に迫っていた。しかし、シズクにしてはそれはある意味当然でありどうでもいいこと。それでも彼女が日増しにそのわくわくを高めている理由は、言うまでもなく人生初のヨーロッパ観光への期待である。

 これまで、ヨーロッパの広さを北海道の広さ以上に勘違いしていたシズクの観光計画は、小学生の修学旅行における自由観光日での京都観光プラン以下の代物だった。目的地であるスウェーデンのストックホルムとは、ヨーロッパにおいて上部にユの字型に突き出したスカンジナビア半島の先端にあたり、一般的にヨーロッパといえばで思いつくローマギリシャ時代の遺構や、複雑怪奇な欧州事情を形成していた産業革命以後の憧れの近代建築、イギリス、フランス、ドイツというヨーロッパの代表選手達の国へのアクセスは最悪である。もちろん、これらに日本から直接向かうことに比べれば飛行機代も安く抑えられるが、それは比較論でしかない。

 となれば、事実上この旅はヨーロッパへの旅ではなく、スカンジナビア半島の旅である。それをこの直前にしてようやく理解したシズクは、今更になってスウェーデンとノルウェー、そしてフィンランドの観光地を調べていた。

「ねぇリク君こっち向いて」
「俺は天然パーマではないから後ろに目はつけられんが、今お前の人差し指が俺の顔の横に構えられていることは見えてるんだよ」

 一歩前に出てから振り向くと、そこにはぷくーっと頬を膨らませた結果、地球を16時間で一周しそうな大器晩成顔があった。こだわりの神速が飛んでくる前のファストガードだ。

「で。どんな感じだよ、観光プラン」
「スカンジナビア、こんなにも地味だとは思わなかった。なによ、豊かな水源と緑の森の中でのカヌー遊びって。そんなの体験したいなら長野行くよ。飯田線とかけっこする方がまだ楽しそう」
「やめとけ、吸い込まれるぞ」
「飯能にできたばかりのテーマパークもちょっと期待外れだったし。そもそも私、東京映画版が好きなの」
「ヤンソンさんに存在否定さえちまえ」

 万歳するような形で手に持っていた観光パンフレットを投げ捨てるシズク。この拡散したエントロピーは誰が元に戻すのか、少なくともピンクの魔法少女でないことは確かである。

「もうこうなったら、貯金切り崩して飛行機取って、本物のヨーロッパ旅行をしようかなぁ」
「スカンジナビアを偽物みたいに言うなよ。まぁ仮にそうするつもりなら俺も付き合うが」
「ねぇ、リク君はスカンジナビアの穴場とか知らないの? リク君意外と北千住のあたりのグルメに詳しいじゃない。毎日一人で食べ歩いてるんでしょ? ボッチだし」
「スカンジナビアは足立区じゃねぇし、俺は本家ゴローちゃんでも非凡サラリーマンでもねぇ。でも……そうだな。もしもちょっと金を追加で出してもいいってなら、心当たりがないこともない」

 ダメ元で聞いたところでこの反応。興味を感じて上半身を起こし、顔を突き出す。

「どこ? どこ?」

 その幼馴染のアドリア海でマンマユートな様子を前に自慢げに鼻をならし、指を突き出した。

「見に行ってみようぜ、ノアの方舟」

 なんやかんや、ヨーロッパの地理はゲームで頭に叩き込んでいたシズクは改めてため息をついた。アララト山はジョージアの南でトルコの東。バルト海はおろか、さらにその向こうの黒海の反対側だ。前に自分をあれだけバカにしておいて、そっちもまるでヨーロッパを理解していないじゃないか。かくして、一度舞った後の確1逆鱗がリクに突き刺さった。
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