仮想空間に探偵は何人必要か?

崎田毅駿

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5.最後に思い付くものを今すぐ思い付け

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 この返答に、桐生は一つの可能性を思い付いた。高田鈴子が最終決定した偉人で、他の面々にはほとんど知られていない、しかし聞けば納得する人物となると――。
<8番目の質問は、解答。その人物は長谷川五郎はせがわごろう氏ですか?>
 桐生の思い描いていた人物名が、司会者の声でアナウンスされた。しまったと後悔した桐生だったが、もう遅い。ひとまず、外れであることを願うばかりになったが……正解のチャイムが会場内に鳴り響いた。
 長谷川五郎、オセロを発明した人物だ。オセロチャンピオンの高田鈴子なら、知っていて当然であるし、カテゴリーテーマにもふさわしい。しかし正解したのは一体誰なんだ? オセロに興味があるか、クイズマニアでもない限り、普通の高校生は知らないだろう。あ、シェークスピア好きの人も知っている可能性はあるか。
 などと愚にも付かぬことを考えていた桐生は、得点状況を表す電光掲示板を見て、「おっ」と声を漏らした。
 自分達のチームに十三点入っている。
(ということはつまり、四番目の質問者は、片薙さんだったのか)
 アイドルがどうしてこんな知識を持っていたんだろうという疑問は残っていたが、とりあえず嬉しい。
 二回戦では解答者達の順番はシャッフルされるし、出題チームも入れ替わるので、一旦カプセル席の外に出る。
「お見それしました、片薙さん」
 心から感嘆しつつ、形だけ拍手の動作をした桐生。
「三番目だったんだね。ナイスアシストだった」
 親指を立ててグッドのポーズを決める片薙。かわいいと何をやっても様になる。
「どうして知ってたんだろ。失礼だけど、正直、答えたのが片薙さんと知ってびっくりした」
「えへへ。たまたまよ。クイズ番組に出演したとき、オセロにまつわる問題がどさっといっぺんに出たことがあって。そのときのことをぼんやりとだけど覚えていたってわけ」
「すごい記憶力」
 別の意味でも感心させられた。
<先制したそこのお二人さん。そろそろいいかな? 二回戦は今勝った君らが出題する立場になってもらうとしよう>
 視界の声に、居住まいを正す。
<カテゴリーテーマは、二〇二〇年七月の時点でオリンピックで正式に行われたことのある競技種目。分かるね? 五輪だよ。五輪開催期間中に催されてきた競技の中から一つを選んで、指定してもらいたい。予選とか決勝の区別、あるいは男子女子の区別は関係なし。ずばり、競技名で問題を作ってちょうだい。あと、念のために言っておくと、パラリンピックは含まないから>
 桐生と片薙すみれはテーマの決定から、すぐさまセレクトに掛かった。どの競技にするのがいいかを協議する……駄洒落になってるなと思った桐生だった。
 ちなみにだが、出題チームになった二人の相談は、当然ながら他者には聞こえないようになっている。検討するための機密スペースにチームで入り、閉め切った状態で話し合うのだ。制限時間は七分が与えられている。
「どうしよっか、桐生君?」
 まだご機嫌な感じが残っている片薙が、弾んだ声で聞いてきた。
「何を書いても、質問によって絞り込まれ、正解される可能性はある。対抗するには、なるべく知られていなさそうなマイナー競技を選ぶのが、一番に思い付く策だけど」
「だけど?」
「僕の知る限り、石倉も螢川も、オリンピックの競技名程度なら、きっちり全部覚えていると思う」
「マイナーな競技を選んでも、意味がないってことね。じゃあ、いっそ逆に、超メジャーな競技名を書いてみるとか。マラソンや百メートル走」
「いやー、それも危険だと思うよ、今言った二つだと、走る競技ですか?でイエス、走る距離は○○メートル以下ですか?でおおよその見当を付けられてしまう。二問でここまで絞り込まれるのは、よくないよ」
「なるほどね。ていうことは、回り回ってやっぱりマイナー競技。その中でも、ぱっと浮かばないのを持って来るしか。ぱっと浮かばないのを思い浮かべるのって、難しいわ」
 彼女の言い種が面白くて、吹き出した。
「ねえ、笑ってないで、真剣に考えてよ」
「へいへい、考えています。うーん、馬術や飛び込み、かなあ?」
「トランポリンなんか、意外と狙い目じゃない?」
 過去の世界的な大会で日本人が好成績を収めたことのある競技ほど、思い浮かべる可能性は高いだろう。
「あ、こういうのはどうかしら? バイアスロン」
「うん? あ、冬季オリンピックの競技だね。そうか……)
 二〇二〇年七月の時点でという“前置き”につられて、選ぶ種目は何となく夏のオリンピックからでなければならないと限定して考えていた。
 だが、カテゴリーテーマを指定した言い回しを思い起こすと、季節の言及はなかったと断定できる。
(冬の種目か……行けるかもしれないぞ)
 桐生は右手で拳をぎゅっと握った。

 つづく
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