天空の魔女 リプルとペブル

やすいやくし

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27.秘密の保管庫

天空の魔女 リプルとペブル

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27.秘密の保管庫

 次の瞬間、先生はリプルをギュッと抱きしめた。
「リプル! ダメじゃない! 雨に濡れてこんなに冷たくなって! 風邪でもひいたらどうするんです! 週末は魔力を回復させるのも魔女の大切な義務。義務をおこたるとは、魔女失格ですよ」
 
 先生は口ではそう厳しくいいながら、リプルを連れて、ふたたびケヤキの中へと戻っていく。
 リプルは寒さに歯をカチカチと震わせながら
「す、すみません」
 とわびた。
 しかし、すぐにその目は、好奇心に輝いた。
 
 ケヤキの中は、温かく心地よい空間だった。でも、それ以上にリプルの目を輝かせたのは、そこにびっしりと本が並んでいたからである。
 
 リプルたちが立っている場所は、教室くらいの広さ。正面に火が燃えている暖炉があって、一人用のテーブルとイスが置いてある。テーブルとイス以外は、すべて本だった。
 
 はるか上のほうまで、らせん状に本棚が続いている。その棚にびっしりと本が並んでいる。らせん状の本棚からさらに水平方向に枝のように棚が伸びていて、そこにも無数の本が置かれている。



「先生……ここは?」
 先生は「ハイル―ラ、ホル、フツ」と呪文を唱えた。
「まずは体を乾かしなさい」

 リプルの頭の上にふわっと白いタオルが落ちてきた。
 リプルが三角帽子と魔女服をぬいで暖炉のそばに置くと、暖炉から小さな炎たちが飛び出してきて、帽子と魔女服の上でダンスを踊りだした。
 どうやら洋服を乾かしてくれるらしい。タオルもひとりでにリプルの頭をふきはじめた。
 
 先生はさらに
「ココルーラ、ア、テン」と呪文を唱えた。
 すると、ふたり分のあたたかいココアがテーブルの上にあらわれた。

「中からもね、温めましょう。風邪をひかないように」
「はい」
 ホキントン先生に渡されたココアを素直にうけとり、口にするリプル。
 
 あまく温かいココアが雨で冷え切ったリプルをほっこり温めてくれた。
 リプルがココアを飲み終わる頃には、炎のおかげで魔女服もすっかり乾いていた。
 魔女服を着たリプルの目を先生はまじまじと見た。

「聞きたいことがいっぱいあるって目をしているわね?」
「はい! どうして図書室じゃないところに本がこんなに? どうして先生は内緒でここに本を運んでるんですか? どうして……」

 ホキントン先生が、リプルにむかってストップというように手のひらを見せたので、リプルは黙った。

「リプル、いろんなことに興味を持つことはすごくいいことです。あなたの場合、それが勉強をがんばる原動力なのは、私も認めています。ですが、魔法の世界には、触れてはいけないもの、知ってはいけないものがあることもまた覚えて欲しいのです。好奇心はあなたを成長させもしますが、ときにあなたの身をほろぼすこともあるのですから」

 リプルはドキッとした。好奇心が身をほろぼす!? そんなことを考えたことがなかったのだ。
「先生……ですが、まず知らないことには、それが私を成長させるものなのか、それとも身をほろぼすものなのか判断できないと思います」

 ホキントン先生は、それを聞いてにっこりと笑った。
「そうね、あなたの言うとおりかも」
「先生、魔法界のふれてはいけないもの、知ってはいけないことって、なんですか?」

「時が来たら教えましょう。そうね、いま、あなたに教えてあげられるのは、私がここに本を運んでいる理由くらいかしら。ここに運んでいる本は、魔法使いにとって大切な本ばかり。必ず守り抜かねばならない本なのです。ですから、ここ秘密の保管庫にこっそり運んでいるのよ」

「守る……何者かが攻めてくるのですか?」
 リプルの反応に先生は目を細めた。

「リプル、あなたは本当にさとい子ね。いますぐに、というわけではないの。いつか来るかもしれないその日に備えて、準備しているのよ」
「いつか来るかもしれないその日」

 リプルの目がくもった。
「私たちが魔法を勉強している目的って……いったい」
 先生は、何も言わなかった。
 
 リプルが自分のことばを受けて何を感じたのか、それがたとえば、不安や戸惑いだったとしても、この子ならきっとそれを乗り越える方法を自分で見つけ出すに違いない。そう信じるからだった。


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