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第四章 いよいよ、あの問題と向き合うときが来た
68. いそいそと帰り支度をしていたら……
しおりを挟む父親の愛情を数百年後に知ったアンディは、少々子供っぽく……いや、年相応の男の子になったような気がする。
トーラと一緒に悪さをして俺に叱られる回数が増えたり、≪父上!≫と以前よりべったり甘えてくることも。
これが、アンディの本来の姿なんだろうな。
最近アンディがハマっているは、夜な夜な皇宮書庫へ忍び込み、シトロエンデ帝国時代の歴史書を読むこと。
たまに、禁書庫にも侵入しているようだが……うん、俺は何も知らなかったことにしようっと。
先の勇者の時代は魔物や他国の脅威があり、それに対抗するため『勇者召喚魔法』が編み出されたそうだ。
アンディの父親リョウ・ソネザキさんは剣の使い手で、それはそれは強かったとか。
もし、俺もそんな時代に召喚されていたら、どうなっていたのだろうと考えてしまった。
間違っても、こんな風にのんびり過ごすことはできなかっただろうな。
あっちの世界でもこっちの世界でも、平和な時代に生きられることに改めて感謝しなければいけないね。
勇者と側近たちの活躍で、ようやくシトロエンデ帝国にも平和な時代が訪れる。
その後、周辺諸国を併呑し、現在のシトローム帝国ができあがったとのことだった。
◇
≪父上、私たちはいつになったら帰れるのだ?≫
知りたかったことを知り、アンディももうこの国に用事はないらしい。
早くも、トーラと村に戻ってからのことを二人でひそひそ話をしている。
「明日、皇帝へ謁見したときに、正式に帰国の許可を得ようと思っているよ」
ここに至るまでに、ひと月半。
長かったと言うべきか、短かったと言うべきなのか。
とにかく、早ければ二,三日中には村へ帰ることができるはず。
ライデン王国の王都と同じように、帝都を出なければ転移魔法は行使できないから、土産を買いがてらのんびり街を散策しつつ移動するつもりだ。
お菓子はたくさん渡したから、それ以外のもので、ルビーへの何か良い土産物はないかな……
⦅あの侍女に、尋ねてみればよいのではないか?⦆
そうだな。
地元のことは地元民に聞くのが一番だ。
「ケイトさん。帝都の街で女性向けの物が買える、良さげな店はありますか?」
「婚約者の方への贈り物でしたら、指輪はいかがですか? この国は装飾品の中でも指輪の工芸品が有名ですので、良い店がたくさんございます」
指輪か……。
ルビーは普段はアクセサリーを身に着けていないけど、かさばる物でもないし、いいかも。
オシャレでする人もいるって、アニーさんも言っていたし。
今度は、間違っても周囲に誤解されるような物は贈らないよう十分注意したい。
指輪の色石は、やっぱり赤だよな。
ルビー用の、ルビーの指輪……なんてね。
そういえば、あっちの世界にあるばあちゃんの形見の指輪は、ルビーの細い指によく似合いそう。
生前ばあちゃんは、「和樹のお嫁さんになる人へ、これを受け継ぎたい」と言っていたけど、それを叶えることはできなかったな……
ケイトさんお薦めの店の名と住所をしっかりメモすると、俺はいそいそと帰り支度を始める。
お披露目パーティーでもらった品々を、全部アイテムボックスへ収納しなければならない。
中身はお菓子以外見ていないから、トーアル村へ戻ってから確認をするつもり。
せっせと荷物を入れていたら、護衛さんたちに「アイテムボックスに、すべて収まりますか?」と心配されたけど……どういうこと?
「アイテムボックスって、無限に入るんじゃないんですか?」
「えっと……サカイ殿は問題ないかもしれませんが、物をたくさん収納するほど魔力を消費するそうですよ」
「……えっ?」
なんと、ここに来て初めて知る事実!
魔法使いなのに、そんなことも知らなかったのか…という、皆さんの呆れた視線が痛いです。
マホー、どうして俺に説明してくれなかったんだ?
⦅おぬしに言っておったと思っておったが、儂の勘違いじゃったようじゃ。すまん、すまん……⦆
かる~く謝られて、終わりかよ!
まあ、村への移住が認められたし、帰ったらアイテムボックスの荷物を必要な物以外は家に置くことにしよう。
◇
昼食のあとは、明日の謁見時に着る衣装の最終確認だ。
離宮を出て、衣装担当さんたちが待つ部屋へ向かう。
勇者と周知されたあと、なにか行事がある度に繰り返されたこの衣装合わせも、今日でようやく最後。
貴族でもないのに毎度煌びやかな恰好をさせられて、七五三みたいでかなり恥ずかしかったんだよね……
毎回衣装を変えなくても、同じ服でいいじゃん…って思うけど、「勇者様の威厳を損なうわけには、参りません!」なんて言われてしまったら、おとなしく言うことを聞くしかないわけで。
部屋にいるときは、わがままを言って村にいる時のような楽な服装をしているから、部屋の外へ出るとき用の(華美な装飾は多少控えめの普段用)服に着替えなければならない。
どうせまた着替えるのに…と心の中でつぶやきつつ、先頭に立つヤンソンさん、ケイトさんのあとに続く。
俺の後ろには、トーラを抱っこしたアンディがいる。
隣にいないのは、後ろを護衛するためなのだとか。
毒草の駆除作業があった日から、アンディが外出する俺の周囲を警戒するようになった。
「何かあったのか?」と尋ねても、≪父上は、私たちが守る≫と言うだけで何も教えてくれない。
マホーは、何か気付いたか?
⦅儂は、おぬしが見聞きしたものしかわからぬでのう……⦆
まあ、そうだよな。
⦅しかし、おぬしの身に何かあっては一大事。やはり、あの作戦を早々に実行せねばなるまい⦆
あの作戦って、まさか……『アレ』のことじゃないだろうな?
⦅アレ以外に、何があると言うのじゃ?⦆
やっぱり!
俺に血を飛ばしてもらって他人に乗り移れるか試すという、マホーの乗っ取り大作戦。
そもそも俺が、「だったら、マホーがどうにか俺の脳内から抜け出て、魔剣士さんを弟子にしてあげれば?」なんて言ってしまったからだけど……
⦅この国で、目を付けておるやつが何人かおるでのう。おぬしさえよければ、いつでも実行可能じゃ⦆
いやいや、絶対に実行なんかしないし!
マホーが誰を狙っているかわからないから、流血するようなケガも鼻血も出さないように気を付けないと。
◇
部屋の前に着いたけど、いつもなら扉の前で待っているはずの侍女さんの姿が見えない。
予定の時間を過ぎちゃったから、一旦部屋に戻ったのかもしれないな。
ここに来る途中、誰かが通路に水をぶちまけたらしく、絨毯がびちゃびちゃで迂回をさせられた。
侍女や従僕さんたちが一生懸命に掃除をしていたから、「俺が熱風で乾かしましょうか?」と申し出たら「とんでもございません!」と言われてしまったんだよね。
さすがに「清掃業をしていますから、そういう作業には慣れています!」とは、言えなかった。
ケイトさんも「予定時間より少々到着が遅れましたので、入れ違いになったかもしれませんね」と言っている。
まず、ヤンソンさんとケイトさんが中へ入り、俺たちも後ろに続く……と、突然バタンと音がした。
気付くと、ヤンソンさんとケイトさんが倒れている。
≪父上! 後ろに下がるのだ!!≫
次の瞬間、部屋に強風が吹き荒れ、弾みでドアが勢いよく閉まる。
アンディが俺の前に出て、トーラも大型サイズになり俺を庇うように傍に付く。
どうした? 何が起きているんだ?
部屋の中を見ると、人が数名が倒れている。
皆、衣装担当の方々だ。
⦅奥に、あやつが居るようじゃぞ?⦆
ん? この気配は、あの人……
「サカイ殿! ちょうど良い所に来てくださいました!!」
奥の扉から半分姿を現したのは、副師団長のワッツさんだった。
でも、あなたがなぜここにいるんですか?
「先ほど、大きな魔力を感じたのです。様子を見にやって来たら、このような有り様で……」
「『大きな魔力』……ですか?」
そんなもの、俺は何も感じなかったけど……
⦅儂もじゃ。こやつ、何か怪しいのう⦆
≪嘘を吐くな。おまえが薬を撒き、皆を眠らせたのであろう? 私が風で拡散させなければ、父上も眠らされていたぞ≫
そ、そうなの?
どうやら、トーラが微かな異臭に気付き、アンディへ知らせたらしい。
「ワッツさん、そうなんですか? どうして、こんなことを……」
「フフッ……召喚勇者であるサカイ殿には、おわかりにならないでしょうね?」
これは、事実上の自白……なのか?
「とにかく、まずはあなたを拘束します」
「あいにく時間がないので、お断りいたします」
ワッツさんが奥の部屋へ逃げ込んだから、俺たちは慌てて後を追う。
部屋の中央にいた彼女は後ろを振り返ると、にこりと笑った。
「サカイ殿、どうぞ元の世界にお帰りください。『勇者送還!!』」
ワッツさんがそう言い放った瞬間、俺は目も暗むような光に包まれた。
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