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36、奪われる日々
しおりを挟む「なるほど、成功だ」
満足げに魔術師の男が頷いて、村長に報告する。
「問題ない。あれはホンモノだ。あいつの力を毎日一度注げば、陣は崩れない。魔物が出てくることもないだろう」
「本当か! 僥倖だ、助かった!」
「後はあいつが逃げ出さないよう、気をつけるんだな」
魔術師にそう言われた後、洞の中にいる少年を見やる村長の目つきは、恐ろしいほどに酷薄だった。
とんでもないことに巻き込まれているらしいと気づいた少年は、慌てて外に走り出ようとする。が、入り口まで来たところで、見えない壁にぶつかって内部へ弾き飛ばされてしまった。
「これは……?」
魔術師がゆったりとした足取りで歩いてきて、転んだ少年を見下ろしている。
「可哀想な坊や、気の毒だがここの生活に慣れるまでは閉じこめさせてもらおう。ずっと歩かないわけにもいかないからそのうち出してやろうとは思うが、お前が納得しておとなしくなったらだな。その防壁はお前以外は通れるが、お前は決して通れない。諦めろ、これも運命だ。命の保証はあるから、そう気を落とすなよ」
こうして、少年は縁もゆかりもない村の奥に閉じこめられることになってしまったのだった。
「……ごめんなさい……」
一人洞の中に残されて立ち尽くす少年は、そう呟いた。震える手を握りしめ、頬を涙で濡らしながら嗚咽した。
「ごめんなさい、お願いだから、どうかもう許して……!」
誰に謝罪したところで解放されないのはわかり切っていた。それでもきっと、自分が何かしら悪いのだろうとしか思えず、うずくまったまま少年は謝り、泣き続けた。
水も食事も届けられる。雨もしのげて、さほど寒くはない。だが自由は一切なかった。
膝を抱えて、穴から周囲の空を見上げたり、洞の中で横たわっているしかない。日中、村人は誰も寄りつかなくて、少年はひとりぼっちで過ごしていた。
だがその一人の時間の方がまだよかった。
夜になると、村の男がこっそりとやってくるのだ。少年の身体を求めて。
「確かにこいつはとんでもなく別嬪だな。女みてぇだ」
「なに、女じゃなくたって構いやしねぇ」
泣いて騒ぐと、口を塞がれる。逃げたくても、入り口は魔法で閉じられているから出ることもできない。毎日魔法陣に力を注いでいるから、暴走させるだけの力もなかった。
「そう喚くな! お前なんて、結局ここにいなくたって、どこかでこうして男と共寝をする運命なんだ。身寄りのない奴なんて、大体そうやって生きていくしかねぇんだからな!」
それは少年も知っていた。自分と同じ歳くらいの少女や、もっと幼い少女も身体を売って生きている。弱い者の宿命だ。
いつしか少年は、石(フィアリス)と呼ばれるようになった。魔石の代わりにとどめ置かれた少年、フィアリス。
代わる代わるフィアリスに乱暴をする男達は、様々な言葉をフィアリスにかけていった。
「なあ、お前はこうして奉仕するくらいしか役に立たないじゃねぇか。お前は腕も細くて力が弱い。他に仕事なんてできやしねぇ。役立たずなんだよ、なあ、この役立たず。お前にできることはこうして慰み者になるくらいだ」
何度も罵られ、役立たずであることをすりこまれた。
そうかもしれないな、とフィアリスは思った。そのうち涙も出なくなる。
自分もいつかどこかでものを教わって、誰かの役に立てるようになれればいいが、お金もないしそんな夢が叶うはずもない。
いっそ身体か心が壊れてしまえば楽にもなるかもしれないものの、自分でも驚くほどに頑丈で、正気はいつまでも保たれていたし、病気もしない。
「飯を食え、痩せ細っちゃ触り心地が悪いからな」
と男達には無理矢理たくさん食べさせられた。最初の頃は喉を通らなかったが、生活に慣れてくれば食事も普通にとれるようになった。
逞しいのだか浅ましいのだかわからない、とフィアリスは自分に呆れた。昔からそうだった。丈夫なのが唯一の取り柄だ。
「フィアリス、お前は実に美しいなぁ。お前の身体が好きだ。ここにいてくれて嬉しいよ」
そうやって喜んでくれる男もいた。少なくとも身体を許すことで、厄介者扱いはされなくなるのだ。乱暴されても回復は不思議なくらい早くて重宝された。
いつしかフィアリスは犯されても抵抗しなくなり、もっと喜んでもらうようによがるようになった。自分から求めたり、拙いながらも頑張って奉仕をした。想像通り、男達の反応は良くなった。
「いいぞ、いいぞ。なんて奴だ、淫乱め」
フィアリス自身、気持ち良さを感じるようになってきた。愉悦を覚えて、身を委ねるようになった。
――どれだけ求められたって応えられる。感じてしまう。私は酷くいやらしい、汚らわしい生き物だ。
逃げようという気もなくなった。逃げたところで行く先は似たようなところだ。こうやって、生きていく他はない。
魔術師が来て、魔法の壁も取り払われた。逃亡の意思がなくなったのを確認し、時々は散歩するのも許される。
その魔術師とも、当然交わった。
「すっかり上手くなったな、逞しい奴だ」
行為が終わって誉められると、フィアリスは苦笑いをするしかなかった。
「これくらいのことでしか、私は誰かのお役に立てないので……」
フィアリスにしては珍しくねだって、魔術師には読み書きを教わった。飲み込みが早いので、すぐに書物も読めるようになった。といっても、手元にある本は三冊しかなかったが。
魔術師の手引きなのか、明らかに村の人間ではない高貴そうな身分の者も連れてこられて相手をさせられたこともある。
フィアリスにとって誰かと性交をするのは、「しなくてはならない仕事」のようなものだった。相手が上手ければそれなりに気持ち良さも感じるし、最初と比べれば暴力的な行為も減ってきた。好きとか嫌いといった感覚はない。一般的とは言えないが、男娼みたいなものなのだ。
使えるものは使う、それが生きるというものだ、と村の者には教えられた。
ただ時折、自分の存在が、やっていることが、汚らわしくて仕方なく思えて、苦しくなることもあった。
――これは、罰だ。罰だ、罰なんだ。役立たずの、汚い私への罰。だからもっと、受け入れて自分を罰しないと……。
男達の罵倒が、フィアリスの潜在意識の中にすりこまれていたことに、本人も気づいていなかった。
そして、あの村には「癒す力」を持った人間がいるらしい、と噂が立った。フィアリスの元には純粋に快楽を求めている以外の目的でやってくる者が出始めた。主に、魔術師の職に就く者が。
己の将来のことなんて空想すらしてみることすらフィアリスはしなかった。過ぎていく一日一日をこなして、数えもせず、一年が過ぎた。
寝て、食べて、奪われる。その繰り返しだ。
そんなフィアリスの生活は、何の前触れもなくある日突然、終わりを迎えた。
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