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47、どんどんヤバくなる
しおりを挟む片手が塞がっていながら複数人を相手に戦うというのは、うざったくて仕方がなかった。
竜を抑えているのだか、自分が捕まっているのだかわからない。
ほとんど動きが制限されている中、次々と敵が斬りかかってくるのをレーヴェは躱し続ける。
何人かは隙をついて刺し、蹴り飛ばしてやったがそれでもまだたくさんいる。二十人はいるのだから数がなかなか減らない。
――取り巻いてないでさっさといっぺんにかかってこいよ、腰抜け共。
時間をかけるのも作戦の一つなのだろう。
鎖に力をそそいでいなければ魔法でそれなりの遠距離攻撃もしかけられるが、こじんまりとした術を放つしかなかった。
「でやあっ」
向かってきた男を、鎖にぶらさがって回避する。すると竜が浮かび上がりそうになるので慌てて下りた。
地上に結びつける術なので、術者が大地から離れては効果がなくなってしまうのだ。術をかけたのはフィアリスだが、一時的に引き継いだのはレーヴェなので今の術者は自分になる。神経と魔力のほとんどを上に使っていた。
竜ほどの魔物を捕縛しておくとなると、力の消費量も尋常ではなかった。
(鎖がなければ何人いようがすぐに始末出来るんだがな……あんまり手こずるとフィアリスがヤバい)
一番面倒な敵が下にいる。加勢してやりたいが、竜をどうにかしなければそうもいかない。そして竜を倒すなら、この邪魔者を排除しなければならないのだ。
男が三人ほど同時に踏みこんでくる。そのうち一人は卑怯にも足を狙って動きを封じようと試みてきた。
容赦なく首を切りつけて、邪魔なので蹴りつけて排除する。
その間に遠くから魔法で攻撃をしかけてくる奴もいる。光の弾を防ぎつつ、レーヴェも魔法で応戦する。
レーヴェは見上げて舌打ちをした。フィアリスの鎖が薄れてきている。いくらフィアリスでも、多方向に魔力を消費するのは限界があるのだ。
もう鎖はもたないが、改めて捕縛の鎖を生み出す余裕がレーヴェにはない。それにどの道、敵はとにかくぶっ潰す、を信条に生きてきたレーヴェはフィアリスほどの丈夫な鎖を生み出す能力がなかった。
「あの男を捕縛しろ!」
レーヴェの足下に赤い陣が浮かび出した。大きな陣で、抜け出すには移動しなければならないが、そうすると鎖から手を離すことになる。
さてどうするか、と思案していると。
「避けなさい、レーヴェ」
その一言で、レーヴェは跳んだ。
術は捕縛対象を失って空振りに終わる。手を離された鎖は霞むように消えていき、竜は自由になって放たれた。
しかし。
新たな陣が宙に描かれれ、またも竜は鎖によって地面に縛りつけられてしまった。光の鎖は三本、大地としっかり結びつけられている。
「あれは私が抑えておきますから、あなたは小物を片づけて下さい」
冷たい声で言い放ったのは、リトスロード家の若き家令、ノア・アンリーシャだった。
「ノア、いいところで来たな」
レーヴェは声を弾ませた。
アンリーシャ家の血筋の者も、守りの術は一流だ。主人が留守にする時に家を任される使用人は、それくらいの力がないとリトスロード侯爵家での仕事は務まらない。
館を出る時、フィアリスの態度がどうにも不穏なので、もしものことがあってはならないと、ノアに離れたところで待機していてもらったのだ。
その時点ではフィアリスが何を企んでいるのかは読めない。けれど魔法絡みならレーヴェはフィアリスの暴走を止められる自信がなかった。
となるとあてに出来るのは、腕の確かな魔術師であるノアしかいない。
音が吸収されてしまう土地だが、笛には魔術が込められているから無事に届いたらしい。互いに一つずつ首からさげている笛だ。
「この程度で難儀するなんて、あなたらしくないですよ」
「お前にかっこいいとこ見せたくて、もったいぶってたんだよ……」
「いいから早くして下さい」
不愉快そうにノアはレーヴェを睨みつける。緊急事態の軽口をノアは嫌っているのだ。レーヴェとしては、場を和ませようとの配慮なのだが。
「わかったわかった」
身軽になったレーヴェは、装着した二級石を光らせながら、地面を蹴った。
目にも止まらぬ早さで相手の懐に飛び込み、反撃する隙も与えず、一人、二人と斬り伏せていく。鬱憤が溜まっていたからいつもより派手に斬る。
こんな小物に時間を取られたのはまあまあの屈辱だ。
うろたえる敵は連携もとれずに各々散っていった。放たれる魔法弾をくぐり抜け、衝撃波をお見舞いして一斉に沈黙させた。
ひとまずこちらは片づいた。
お次は竜だ。はっきり言って倒せるかどうか自信も目算もないが、泣き言を口にしている暇はない。倒さなければならないものは、倒すしかないのである。
「ノア、抑えてろよ!」
魔法で岩壁を駆け上がり、勢いをつけて空中に身を踊らせる。攻撃を察知した竜が首を振り回して抵抗したので、狙いは外れた。
ガギィッ、と剣は尻尾に当たって火花を散らす。その感触にレーヴェは目を細めた。
「かってぇな……」
もう一度、今度は術で刀身をかなり強化して体を狙うが、表面をひっかいたような傷しかつかない。
(こうなるとわかっていたら、こんなナマクラで挑まなかったんだが)
魔物退治は専門ではなかったが、ここ数年はかなりの数をこなしてきた。それなりに硬いものも相手にしてきたが、竜の鱗は桁違いだ。
「レーヴェ、後ろに!」
ノアの声で振り向くと、ぽっかり開いた地面から、次々に魔物が現れて好き勝手どこかへ飛び出していくところだった。
唖然としながらレーヴェは自分に向かってくるものを斬り伏せる。ノアも防ぎながら、魔物の群れを見送るしかなかった。
「どんどんヤバくなるな……」
「まずは竜です。あれを倒せば湧いてくるのは止められます。応援は呼んでありますから」
「竜ねぇ」
その竜はといえば、機嫌が悪いのかどんどん暴れて身じろぎする。時折黒い炎を噴いて威嚇もしてくる。
肌に熱は感じないが、博識のノアがそれに触れるなと下から声をかけてくるのだから危険なものなのだろう。
厳めしくて、見るからに獰猛そうな魔物である。大体魔物というやつは、形がはっきりしていればしているだけ強いと決まっていた。
魔物を倒し、炎を避けて、更に高いところまでのぼって攻撃しなければならない。より手がかかるようになってくる。
その上、魔物が溢れているのはフィアリスが弱って手が回らなくなっていることを示していた。
すでにレーヴェも二級石の力を限界まで引き出している。これ以上強化が見込めないのだから、竜の首を切り落とすのは至難の業だ。
ノアは無傷だが一人で長時間竜を抑えておくのは難しい。
しゃーねえな、とレーヴェは再び壁を駆け上がっていった。
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